日本作物学会紀事
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87 巻, 4 号
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研究論文
栽培
  • 稲葉 俊二, 高橋 肇, 鎌田 英一郎, 村田 資治, 池尻 明彦, 内山 亜希, 金子 和彦, 荒木 英樹, 丹野 研一
    2018 年 87 巻 4 号 p. 291-297
    発行日: 2018/10/05
    公開日: 2019/02/13
    ジャーナル フリー

    「せときらら」はパン用のコムギ品種であるが,多収を示すものの子実タンパク質含有率が低くなり易いことが問題となっている.本研究では,開花後に窒素を追肥し,子実タンパク質含有率に及ぼす影響を明らかにするとともに,その時の植物体内での窒素蓄積動向を明らかにした.窒素追肥処理では開花期に硫安を土壌表面に散布する区とともに,同じく尿素を葉面に散布する区を設けた.さらに,尿素を葉面に散布する処理では,硫安と同量を開花期に散布する区,同量を開花後1週目に散布する区,さらには開花期と開花後1週目に半量ずつ散布する区を設けた.子実収量は,開花後にどの肥料をいつ追肥しても増加しなかった.子実タンパク質含有率は,硫安と尿素の違いに関わらず追肥すると同様に増加し,また尿素を開花期に全量与えても,開花後1週目に全量与えても,開花期と開花後1週目に半量ずつ与えても同様に増加した.いずれの窒素追肥区も無追肥区に比べて子実中に多く窒素を蓄積した.尿素を葉面に散布する区は,窒素を栄養器官 (稃+葉身+茎) に蓄積した後,その低下に伴って子実に窒素を蓄積していたが,硫安を土壌表面に散布する区では,年次によって稃および茎葉に蓄積せずに直接子実に蓄積することがあった.窒素追肥処理により,葉身の窒素含有率, SPAD値が増加したとしても,乾物重は増加しなかった.窒素追肥処理は,葉身のクロロフィルタンパク蓄積を増加するものの,必要以上に蓄積しても乾物生産は高まらないと考えられた.

品質・加工
  • 黒田 幸浩, 飯嶋 直人, 鈴木 健司
    2018 年 87 巻 4 号 p. 298-303
    発行日: 2018/10/05
    公開日: 2019/02/13
    ジャーナル フリー

    千葉県において,ラッカセイ収穫後における莢実の乾燥方法は地干し・ボッチ乾燥が一般的である.しかし近年,乾燥中の降雨による品質低下や生産者の高齢化等により,従来の地干し・ボッチ乾燥体系に代わって食味が劣らず,天候に左右されにくい省力的な莢実乾燥技術が求められている.しかし,ラッカセイ莢実の乾燥方法の違いが子実の食味に及ぼす影響は明らかになっていない.そこで良食味のラッカセイを得るために必要な莢実の乾燥条件を明らかにすることを目的として,ラッカセイ収穫後の莢実の乾燥時における茎葉部の有無並びに乾燥温度および湿度の違いが子実成分に及ぼす影響を調査した.その結果,茎葉部の有無によるショ糖含量の有意な差は確認されなかった.また乾燥時におけるショ糖含量の上昇およびデンプン含量の低下は,水分の減少に伴って徐々に緩やかとなり,子実水分が20%以下になった時点で,ショ糖含量およびデンプン含量はほぼ一定となった.このことから良食味のラッカセイを得るための莢実の乾燥方法として,収穫後子実水分が20%以下になるまでは,時間をかけて乾燥させることが重要であることがわかった.また乾燥時における,茎葉部の有無については食味への影響が少ないことが明らかとなった.

品種・遺伝資源
  • 黒崎 英樹, 大西 志全, 湯本 節三, 白井 滋久, 松川 勲
    2018 年 87 巻 4 号 p. 304-311
    発行日: 2018/10/05
    公開日: 2019/02/13
    ジャーナル フリー

    ダイズには節の葉腋の中心に開花する中心花房と,その側部から二次的に発達してくる側状花房があり,後者の発達が大きく両花房間の開花時期のずれが大きいダイズ (以降,側状型) は,低温に遭遇するリスクを低下できる可能性が高いため障害型冷害に対する耐冷性が強いと考えられる.そこで本研究では,無限伸育型で側状型であるカナダの耐冷性品種Labradorと有限伸育型で側状型でない北海道の在来種と育成系統との2組の交配組合せの後代から有限伸育型で側状花房の発達の有無により選抜を行い,障害型耐冷性を評価した.開花始から昼18℃/夜13℃の4週間の低温処理で,側状型は莢数と子実重の耐冷性指数が有意に高かった.また,この組合せから選抜した側状型2系統の耐冷性検定現地圃場における検定結果においても,莢数と子実重の耐冷性指数は,耐冷性中品種のトヨムスメより有意に高く,耐冷性強品種のハヤヒカリと同等またはやや上回った.開花パターンの調査では,耐冷性中のトヨムスメは側状花房を持つ節が少なく,ハヤヒカリには側状花房はみられたが,側状花房の開花期間は約10日であったのに対し,側状型の上記2系統は,側状花房の開花期間がおよそ15日であり,個体当たりの開花期間がトヨムスメやハヤヒカリより長かった.これらの結果から,側状花房発達の形質の導入により北海道品種の耐冷性が向上すると考えられた.

研究・技術ノート
  • 片山 勝之, 川崎 洋平, 山崎 諒, 亀井 雅浩
    2018 年 87 巻 4 号 p. 312-318
    発行日: 2018/10/05
    公開日: 2019/02/13
    ジャーナル フリー

    排水の不良な山間地域の水田転換畑の2年3作体系において,コムギ収穫後のダイズで高位安定収量を得ることは重要である.本研究では,2016年と2017年に農家と所内の圃場で排水性を高める効果のあるチゼルプラウ耕が土壌の物理性並びにダイズの生育および収量に及ぼす影響について検討した.チゼルプラウ耕有区の深度13 cmから20 cm付近の土壌貫入抵抗値は無区と比べて小さく,下層土は柔らかかった.湿潤時ではチゼルプラウ耕有区の深度15 cmの土壌マトリックポテンシャルの値の減少は無区に比べて大きかった.前作コムギの播種前にチゼルプラウ耕を導入すると後作ダイズにも深耕の影響が残り,良好な排水性は持続していた.播種前のチゼルプラウ耕によりダイズの苗立率が高くなり,稔実莢数が多くなり,収量が増大した.これらの結果は,山間地に多くみられる排水不良圃場においてチゼルプラウ耕が排水性を改善し,苗立率向上と収量増大をもたらすことを示唆している.

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