日本作物学会紀事
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58 巻, 1 号
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  • 浜地 勇次, 吉田 智彦
    1989 年 58 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    暖地のビール大麦の収量と気象条件の関係を知るために, 生産力検定試験の品種ごとの収量および収量関係形質(穂長, 穂数および千粒重)と気象要因(平均気温, 降水量および日照時間)との関係を変数増減法による重回帰分析法で分析し, 個々の気象要因との表現型相関および気象要因相互間の影響を取り除いて解析を行った. 1966~1980年のビール大麦の全生育期間の気象要因とビール大麦の6品種の収量との関係では, 表現型相関はおおむねどの品種ともに気温と降水量が収量と負の, 日照時間が収量と正の関係にあり, また降水量が穂数と負の関係にあった. しかし, 重回帰分析によると, 収量に対して有意な関係がある気象要因は降水量のみ(あまぎ二条を除く全品種)であった. 回帰係数からみると, 総降水量で1mm増えると収量が0.04~0.06kg/a減少することになった. 高温が減収に寄与しているようにみえるが, これは温度と降水量に正の相関があるためであり, 減収は主に多降水の影響によってもたらされた. 日照時間の影響は比較的小さかった. 収量関係形質では穂数が多降水で減少した. さらに, 出穂期を境にして気象要因を前期と後期に分けても, 減収は主に両時期の多降水によってもたらされた. したがって暖冬年には, 踏圧等によって生育を抑えることのみより, 暖冬にともなう多降水が真の減収要因であるので, 排水対策を中心とした栽培管理を行うことが極めて重要である.
  • 一井 眞比古, 津村 英男
    1989 年 58 巻 1 号 p. 7-12
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲32品種および陸稲19品種からなる日本型51品種ならびにインド型水稲25品種の計76品種のイネ(Oryza sativa L.)を水耕培養し, それらの25日苗における無機養分吸収能力, とりわけNH4-N, NO3-N, PおよびKの吸収速度(mg・dry wt g-1・h-1)における日本型(日本型水稲)とインド型(インド型水稲)との差および水稲(日本型)と陸稲(日本型)との差, ならびに養分要素間の関係について検討した. 結果の概要は以下のとおりである. 1) 日本型よりインド型のNH4-NおよびP吸収速度が有意に速く, Kでは逆に日本型がインド型より有意に速く, NO3-Nでは両生態種の吸収速度はほぼ同じであった. 2) 陸稲は水稲よりいずれの要素における吸収速度も遅く, 特にNO3-NおよびKにおいて両生態型間の差は顕著であった. また吸収したN量(NH4-NとNO3-Nの和)に占めるNH4-N量の割合であるNH4-N依存率(%)が水稲より陸稲において大きかった. なお供試品種のすべてを込みにしたNH4-N依存率は約70%であった. 3) 吸収速度はN>K>Pの順であり, この関係は生態種, 生態型に拘らず同じであった. 4) 生態種や生態型の相違によって形質間相関の様相が異なった. インド型では乾物重とK吸収速度との相関, ならびにNH4-NおよびNO3-N吸収速度とP吸収速度との相関がそれぞれ有意でかつ正であったが, 日本型ではそれらの相関は有意でなかった. 一方水稲では根数とNK4-N吸収速度の相関が有意でかつ負であったが, 陸稲では有意でなかった. 5) 生態種や生態型に拘らず, NO3-N吸収速度はKのそれと有意でかつ正の相関を示した. 6)以上の結果は, イネにおける無機代謝機能が生態種や生態型によって分化していることを示唆している.
  • 平井 源一, 中山 登, 稲野 藤一郎, 中條 博良, 高市 益行, 田中 修
    1989 年 58 巻 1 号 p. 13-23
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    並木植にした供試水田(40×100 m)の短辺の中央部で, 植列の方向に周縁より内側50 mの間の気温, 水蒸気圧およびCO2濃度を栽培期間中に6回, 9時から17時まで1時間毎に観測した. 1. 気温, 水蒸気圧, CO2濃度の水平分布 周縁部の観測点が風上側になる風向(西風)と風下側になる風向(東風), およびその中間の風向(北風)とに分けて水平分布をみると, 西風, 北風の場合, 周縁部より内側へ, 気温は10m付近まで低下し, 水蒸気圧は5mないし25mまで上昇し, なお内側では差異は少なかった. これらの傾向は風速, 外気温, 外気の水蒸気圧によってやや異なった. 東風の場合, 観測点間の差異は少なかった. CO2濃度は, 風向にかかわらず内側25mないし50mまで低下した. 2. 気温, 水蒸気圧の垂直分布 気温は個体群の上層部ほど, 水蒸気圧は下層部ほど, それぞれ上昇した. 上層部と下層部との差は, 風向にかかわらず, 気温は周縁部で, 水蒸気圧は内側で大きくなる傾向が認められた.
  • 平 春枝, 田中 弘美, 斎藤 昌義
    1989 年 58 巻 1 号 p. 24-34
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    国産小麦(17品種: 46試料, 1983年産)の品質について, 小麦粉およびデンプンの性質と品種・生産地・等級との関係を, めん(うどん)の加工を考慮して検討した. 国産小麦は対照の輸入小麦(銘柄)に比べて, 粉のタンパク質含量が中程度で, アミロース含量が高く, 大粒デンプン比率に低い傾向がみられた. そのため, デンプン・脱脂デンプンの粘度特性において, 糊化開始温度・最高粘度時温度が低く, 最高粘度・ブレークダウン(デンプン)が高いなど, 特徴的なパターンを示した. 品種では, チホクコムギの諸性質は他品種と著しく異なり, ASW(めん適性が高い)と比較して, 小麦粉のタンパク質・アミロースの低含量, 大粒デンプンの高比率, それに伴う諸粘度特性において類似することを認めた. 産地間差異は, 千粒重・アミロース含量の東高西低の傾向と, それに伴う粘度変化として認められた. また, 低位等級小麦において, 千粒重の低下, タンパク質の高含量, 大粒デンプンの高比率が認められた. 測定項目間の相関関係から, 千粒重と小麦粉の最高粘度, アミロース含量とデンプン・脱脂デンプンの最高粘度の各負相関, 大粒デンプン比率と脱脂デンプンの最高粘度の正相関などを明らかにした. これらの諸結果から, 国産小麦の特徴およびめん適性にかかわる形質として, タンパク質含量と共に, アミロース含量・大粒デンプン比率とそれに伴う粘度特性をあげた.
  • 中谷 誠, 小柳 敦史, 渡辺 泰, 古明地 通孝
    1989 年 58 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    サツマイモ苗の発根最適地温並びに低温での発根能力の品種間差異をわが国の主要な12品種・系統について制御環境下で調査し, 次のような結果を得た. 苗の発根最適地温を活着と関連の深い挿苗1週間後の総根長でみるとコガネセンガン, 沖縄100号等8品種では30℃付近が適温であったが, 高系14号, 農林2号, タマユタカ, ベニコマチではそれらより高い35℃付近が適温であった. 一方, 最適地温が29℃以下の品種は認められなかった. 不定根当たりの平均根長についてはベニコマチを除くと, 30℃付近で最大値を示し, 根の伸長に関しては多くの品種で30℃付近が適温と思われた. 不定根数については明らかな最適地温は認められず, 30℃付近で若干減少する傾向が認められた. 総根長に対する適温が高い品種・系統は高温での根の伸長阻害が少なく, 根数の増加が大きかった. 18℃と28℃の地温条件下での挿苗1週間後の発根量の比率等から低温による発根の阻害程度の品種間差異をみたところ, 農林1号, ミナミユタカでは低温による発根の阻害程度が少なく, タマユタカ, 農林2号, シロユタカ, シロサツマでは発根の阻害程度が大きかった. さらに, 生育の限界温度に近い15℃の地温条件下での挿苗5週間後の発根量を調査したところ, 農林1号やミナミユタカでは単位苗重当たりの発根量が多く, 低地温下での発根・活着能力が高いと思われた.
  • 村上 高
    1989 年 58 巻 1 号 p. 42-47
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    テンサイ(Beta vulgaris L. var, saccharifera Alef.)は, その菜根部に特異的にシュクロースを蓄積するが, その葉柄部は光合成産物の通導組織であると共に, グルコースの一時貯蔵庫である. この葉柄を用いて, その縦方向および横方向における糖の分配を, 一日の光合成の終わる晴天日の夕方(E)と, 翌朝(M)の2回採取して検索した. 糖の定量は, 80%エタノールで常法に従い抽出後, べーリンガー・マンハイム・山之内からのF-キットを用いて, 酵素法(ヘキソキナーゼ・G6P脱水素酵素法)に依って行った. 葉柄を持った若い葉では, グルコースとシュクロースの含有量は上部より下部に高く, フルクトースはこれと反対に上部で高く下部で低かった. これらの3種類の糖は, 若い葉柄の基部では夜間に乾物当り2~4%増加した. つぎに, 成熟葉の葉柄基部を背軸側(主として並立維管束, 皮層柔組織等を含む, 緑色部と呼称する)と向軸側(主として髄部柔組織からなる, 白色部と呼称する)に分けて, 通導系に対して横方向の糖の分布を調べた. その結果, グルコースは白色部で夜間にE13%からM20%に増加したが, 緑色部では5~6%のレベルを保って夕・朝で変化は見られなかった. 一方, シュクロース含量は緑色部に高く, その値は夜間にE5%からM12%へと増加した. これらの結果は, 光合成産物が転流していく過程において, 葉柄では, 通導組織と髄柔細胞の間で横方向(放射方向)の変換と転流が日夜活発に行われていることを示唆するものである.
  • 田村 良文, 竹澤 邦夫, 金野 隆光, 小野 祐幸, 清野 豁, 門馬 栄秀
    1989 年 58 巻 1 号 p. 48-54
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    サイレージ用トウモロコシの3品種について, 道立十勝農業試験場で1979年から1985年の7年間に各年5回の播種期試験を行って得たデータを用い, 絹糸抽出期を, 堀江らのDVI(Developmental Index)の概念に従い, 最近提案されたノンパラメトリック法を用いて推定した. また, 積算温度法との比較を行った. その結果, (1) 温度と生育速度との関係(DVR-温度曲線)はシグモイド曲線に類似していた. そしてこのDVR-温度曲線の形状には品種間差があり, ワセホマレでは他の2品種に比較して生育の低温域で直線的であった. 一方, 高温域におけるDVRの頭打ち現象はワセホマレ<ホクユウ<P3715であった. 特にP3715では日平均気温が23℃程度以上に達すると次第に低下した。(2)試験年次・処理間の絹糸抽出期の観測日の幅は33~40日であったが, 推定誤差はワセホマレおよびホクユウでは大部分の場合に3日以内であり, 推定の精度は高かった. P3715ではこの両品種に比較して推定誤差が大きかった. (3) ノンパラメトリック法では有効積算温度法に比較して推定精度が高かった. これはノンパラメトリック法では生育速度と温度との関係をより適切に評価できることによると考えられた.
  • 根本 圭介, 山崎 耕宇
    1989 年 58 巻 1 号 p. 55-59
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲の茎の伸長生長と肥大生長の間の関係を検討した. すなわち, 経時的に採取した材料(品種: 日本晴, むさしこがね, 土橋1号)を対象とし, 主茎を構成する個々の要素の茎部分の長さと直径を比較した. 茎部分の伸長と肥大の相対生長に着目した場合, 個体の発育相の転換期をほぼ境として, 異なる2つの茎の生長様式を認めることができた. すなわち, 栄養生長期には, 発育中の茎部分の長さと直径との間に一定の直線的な関係(アロメトリー)が認められた. 一方, 個体の発育相が生殖相に転換し, 著しい節間伸長が始まるのに伴い, このような関係は認められなくなり, 両者の関係は, 伸長の側に偏るようになった. この, 生殖相における伸長の優先傾向は, 盛んに介在生長を行う茎部分だけではなく, より茎頂に近い若い茎部分においても認められた. このことから, 相転換に伴う茎の特異な生長は, 従来指摘されてきたように介在生長のみによって特徴づけられるものではなく, むしろ介在生長をも含むより包括的な生長経過とみるべきものと考えられる.
  • 後藤 雄佐, 星川 清親
    1989 年 58 巻 1 号 p. 60-67
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    孤立状態で育てた水稲の茎数増加について検討した. 茎数増加曲線は, 止葉より2葉下位の葉が抽出する頃までは, ロジスチック曲線で近似できた. 一方, タイムスケールを主茎葉齢でとると指数曲線で近似できた. このことから, 主茎葉齢を基準とした相対分げつ増加率(Rt)を求めた. まず, 茎数増加曲線を指数曲線で近似し, その係数から「平均的Rt」を求め, さらに, 具体的に一定期間ごとのRtを算出して検討した. その結果, 同周期生長を仮定した場合, 葉齢1ごとに計算したRtは変動が少なく, 平均的Rtとよく一致した. しかし, 約1葉齢間隔での実測値から直接算出したRtは, 葉齢10前後にピークを持っていた. ピークのできることは相対葉齢差の影響と考えられ, ピークのパターンには品種による差が認められた. さらに, 全ての分げつが出現すると仮定した場合の茎数増加曲線について, 同周期生長でのRtと, 相対葉齢差を加味した場合のRtとを求め検討した. そこから, 同周期生長でのRtの理論的最大値を出した. 同周期生長を仮定した場合のRtは, 比較的安定し, その値の大きさには品種間差が認められた. 従って, 分げつ性に対して好環境で育てた場合の, 同周期生長での平均的Rtを用いて, それぞれの品種の分げつ生産能力を表す指標をつくれる可能性があると考えた. さらにこの指標を用いれば, 品種を多げつ型と少げつ型に, あるいはさらにいくつかの分げつ型に分けることができると推察した.
  • 後藤 雄佐, 星川 清親
    1989 年 58 巻 1 号 p. 68-73
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲の分げつ性に及ぼす温度の影響を, 前3報の知見を基に解析した. 品種ササニシキを1/5000aワグネルポットで育て(1個体/ポット), 葉齢5.8の時から自然光下のファイトトロンで温度処理を行った. 昼(6:00-18:00)一夜を30-25℃ (H区), 24-19℃ (M区), 17-12℃ (L区)とした. 個体当り茎数の推移を, 播種後日数でみると茎数増加は高温ほど速かったが, 主茎葉齢でみると逆に低温ほど速かった. ほぼ同葉齢の時にL区(茎数20.0)とM区(茎数15.7)について, 個体を構成する分げつ位ごとの出現率を比較すると, 遅く出現した2次分げつと3次分げつで大差がみられた. 次に, 茎数増加を, 主茎と分げつとの生長速度の差を表す相対葉齢差(D)と, 分げつ構成的な面からの分げつ体系とに分けて考えた. 2次分げつのDはL>M>H区で, 3次分げつでもDはM>H区と, 低温な区ほど主茎に対する生長が速くなっていた. 続いてDの影響を除去して, 主茎及びすべての分げつで葉齢の進み方が同じになるような生長様式(同周期生長)を想定して, 茎数増加曲線を構築したところ, 3処理区の茎数増加曲線はほぼ一致した. さらに, 同周期生長を仮定した場合に, 葉齢11の時までに出現した分げつでは, その分げつ位ごとの出現率は3処理区の間でほぼ一致していた. これらのことから, 温度は, おもに主茎と分げつ, あるいは分げつ間の生長速度のバランスに影響し, 個体を構成する分げつの, 発生節位の集体としての分げつ体系への影響はわずかであると考えた.
  • 津野 幸人, 山口 武視
    1989 年 58 巻 1 号 p. 74-83
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲3品種をポット栽培し, 分げつ期から登熟初期にかけて, 期間を変えて遮光処理(50%)および標高303mの山間部で生育させる"山あげ"処理を行い, 対照区と対比して水稲の弱光条件に対する調節機構を個体光合成能力の面から解析し, さらに根の呼吸速度と光合成との関連性を明らかにした. 分げつ期の処理では茎数が17~43%減少し, 個体当り葉面積(F)が著しく減少した. しかし, 穂数への影響が少ない時期の処理では, 葉身長, 比葉面積の増大により, Fは13~54%増加した. 処理による乾物生産量の平均抑制率は30.3%で, N吸収量のそれは3.7%であった. このため, 体内N濃度が上昇し, その反映として葉身および根部のN%が上昇した. 葉身N%の上昇は, 総光合成速度を高め, Fの増加と共に個体光合成能力を高めた. しかも, 葉面積当り個体暗呼吸速度(r^^-)の増加はみられなかった. このr^^-について葉身N%と茎重/葉面積(C/F)比の2要因を用いて重回帰分析を行った結果, 重相関係数R=0.823**が得られた. N%はr^^-を増加させるが, Fの増加はC/F値を対照区より低い値とし, これがr^^-の増大を強く打ち消す方向に作用した. 根の呼吸速度(R)について根部N%とC/F比で重回帰分析を行ったところ高い重相関係数(0.817**)が得られ, N%が高くC/F比の小である個体ほどRが大となる. この2要因によるRの促進は, 期間内に増加したN吸収量(ΔN)と乾物量(ΔW)の比(ΔN/ΔW)を高め, 体内N濃度を高く保つ方向に作用した.
  • 川島 栄, 村田 吉男, 名越 時秀, 横沢 健二, 中村 隆博
    1989 年 58 巻 1 号 p. 84-90
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    トリアコンタノール(TRIA)を生育初期に葉面散布すると玄米増収効果を示すことが分かっているが, 使用濃度幅が広くなかったので, 本報では散布濃度の効果に重点を置き, TRIAが水稲の生育・収量に及ぼす効果の確認と解析を試みた. 結果は次のとおりであった. 1. 有効な処理濃度の範囲は広く(0.2~10ppb), 分げつ初期のみの10ppb液散布で最高16%の増収が得られ, 有効濃度幅は比較的広いことが分かった. 2. 生育初期の地上部生育は若干抑制される傾向を示したが, 生育後期の根系は処理により著しく大きく保たれることが見出された. 3. 増収の要因は, 登熟歩合と玄米千粒重の向上による場合が最も多かった. 4. 処理区の出穂後全乾物増加量と登熟期間の純同化率(NAR)はともに無処理区より高く, この両者の間には全区をこみにして高い正の相関関係が認められた. 以上の結果から, 生育初期の水稲へのTRIAの葉面散布は, 地上部の生長はある程度抑制するが, 穂数や籾数を増やし, 根系の増大による出穂後乾物生産の向上を通じて登熟歩合を高め, 増収に導いたものと推定された.
  • 高橋 肇, 中世古 公男, 後藤 寛治
    1989 年 58 巻 1 号 p. 91-95
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    前報において春播コムギ2品種の乾物分配率を検討したところ, 春播コムギの生長は止葉分化期, 止葉出葉期, 開花期および乳熟期を転換点として5つの生育相に区分されることが明らかとなった. 本研究では, 生育特性の異なる3品種(長稈ハルヒカリ, 半倭性ハルユタカ, 長稈, 晩生 Selpek)を用いてこの結果を確認するとともに, 各生育相における葉身, 穂, 子実の乾物分配率(Y)を出芽後日数(X)に対する回帰で示し(第3図), 回帰式の係数および定数を用いてこれら3品種の特性を検討した(第2表). 生育相I(出芽期~止葉分化期)および生育相II(止葉分化期~止葉展開期)における葉身への分配率はYl1=b1X+c1およびYl2=-b2X+c2の一次式で示されたが, 長稈品種のSelpekは係数b2の値が小さいことから, 生育相IIの期間が長く, この間の稈への分配が大きいことが示唆された. また, 生育相III(止葉出葉期~開花期)では, 穂(子実を除く)への分配率はYe=-a3(X-b3)2+c3で示されたが, 曲線の膨らみを示す係数a3の値は品種間に差がみられず, 穂の伸長する期間の長さは3品種とも同様であった. しかし, 曲線の頂点の高さを示す定数c3の値はハルユタカで高く, 大きなシンク容量を形成したことが示唆された. 一方, 生育相IV(開花期~乳熟期)においては, 子実への分配率はYg=b4X-c4で示され, 同じ長稈品種でもハルヒカリは分配速度を示す係数b4の値が小さく, 開花期前後の稈の伸長による稈への分配が大きかったことが示唆された.
  • 刈屋 国男
    1989 年 58 巻 1 号 p. 96-102
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    イネ花粉の人工発芽は1919年以来多くの報告がある. しかし, 発芽率が低い場合や同じ培地でも発芽率の変動が大きい場合もあり, その再現性についても十分検討されていない. 本報では下記の方法により高発芽率でしかも再現性の高い人工発芽(発芽率80%以上, 標準偏差10%以下)に成功した. (1) 培地の組成: 1%寒天, 20%しょ糖, 20PPmホウ酸(第1~4表), (2) 発芽容器: 直径4.5cmシャーレ, (3) 培養温度: 20℃前後, なお, 18℃以下あるいは24℃以上では発芽率が低下する(第1図), (4) 花粉の培地への置床: 開花後できるだけ早い時期に, 穎花から葯をピンセットで採取し, シャーレの縁に軽くたたいて葯内の花粉を直接培地に置床する. 従来の方法に比べ, この方法で安定した高発芽率が得られるようになった主因は, 培地にホウ酸(20 ppm)を添加したこと, 培養の適温を発見したこと, および確実に新鮮な花粉を供試したことである. 上記の最適条件で花粉発芽の経時変化を観察した結果, 置床後2-3分で発芽しはじめ(第2図), およそ20分で発芽率は最大に達した(第2, 3図, 第5表). その時の花粉管の伸長速度は7.5μm・min-1であった(第5表).
  • 大島 雅子, 遠山 益
    1989 年 58 巻 1 号 p. 103-110
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    イネのプロトプラストの単離法と培養法を確立するために, 酵素液の組成, 培養の諸条件, 材料として用いる組織と品種の選択などを詳細に試験した. その結果, 播種6日後の幼植物の第1及び第2葉鞘が適当な材料であった. MS培養液の中に0.25%マセロザイムR-10, 1%セルラーゼ"オノヅカ" R10, 及び1%BSAを含む酵素液((pH 5.6)中で, 材料を4h静置処理をした. MS培養液中には標準MS培養液の無機塩類及びビタミン類, 1mg/l 2,4-D, 2.5mg/lカイネチン及び10g/lショ糖を含んでいる. 単離した葉鞘プロトプラストは1%BSAを含むMS培養液(0.42M)で培養された. 11品種から単離したすべてのプロトプラストが, 2週間以上にわたって細胞活性を保持した. 酵素液と培養液にそれぞれ1%BSAを添加することは, プロトプラストの活性持続に特に有効であった. 培養中にプロトプラスト内では液胞が発達するので, 単離直後のものに比べて, 5日培養後のプロトプラストは1.75倍にも大きくなる. また, 培養中にプロトプラスト内の葉緑体は脱分化を始め, クロロフィル含量と葉緑体の大きさが減少した. この培養液中ではプロトプラストの分裂増殖は観察されなかった.
  • 幸田 泰則, 由田 宏一, 後藤 寛治, 岡澤 養三
    1989 年 58 巻 1 号 p. 111-113
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    ダイズには, 開花後まもなく茎の伸長が停止する有限伸育型と, 開花後も伸長を続ける無限伸育型がある. 伸育型のみが異なる同質遺伝子系統が分離されていることから, 開花と茎の伸長停止の両現象を誘起する内生要因はそれぞれ別のものであると考えられる. 茎の伸長停止を引き起こす内生要因を究明するため, 有限型と無限型の同質遺伝子系統を用いて葉及び莢のアブシジン酸含量の経時的変動を比較した. アブシジン酸含量は両型共ほぼ等しく推移し, 差異は認められなかった. したがってダイズの伸育型の決定にアブシジン酸は関与していないと考えられた.
  • 山岸 順子, 石井 龍一, 玖村 敦彦
    1989 年 58 巻 1 号 p. 114-118
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    明期において種々の光条件を経験したダイズ個体の, 連続暗黒下における呼吸速度から, 呼吸の経時変化が決定されるメカニズムを検討した. 暗期開始時における単位乾物重あたり呼吸速度(Respiration rate per unit dry weight, RPW)は, 直前の明期の光強度に影響されるが, 明期の長さとは関係なかった. 暗期開始後RPWは時間とともに低下し, その後上昇するが, 極小となった時のRPWは明期の長さによって異なり, 明期の長さが短いほど低い値を示した. 加えて, RPWが一時的に上昇した時の値は, 光強度および明期の長さの両方に影響され, 光強度と長さの積である積算光強度との間に直線的な関係があった. 窒素供給を停止した個体では, 前述のようなRPWに対する明期の長さの影響はまったくみられなかった. 以上より, 暗期における呼吸速度の経時変化は二つの相より成り, 一つは暗期開始直後に見られ, 明期の光強度の影響を受けること, 他の一つは, それ以降に見られ, 明期の積算光強度の影響を受けることがわかった. したがって, 呼吸速度は二つの異なる生理過程によって制御されていると結論された.
  • 武岡 洋治, 小川 佳子, 川合 豊彦, 和田 富吉
    1989 年 58 巻 1 号 p. 119-125
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲の発育に伴う幼穂と小穂の器官形成に関し, 頂端分裂組織の形態的変化, 雌・雄生殖器宮の相対的発育関係, 小穂構成器官の立体的配置, 器官表面構造の発達などを走査電子顕微鏡で観察した. 水稲品種ユーカラとフジヒカリを20 l容コンテナで土耕栽培し, 幼穂始原体分化期から出穂期まで連日アクロレイン5%を加えた改良カルノフスキー液で固定して, アセトン脱水, 金コーティングを施した後検鏡した. (1) 幼穂始原体分化期に高さと幅の比(H/W)が1であった頂端分裂組織の形態は, 内穎始原体分化期には0.4, 雄ずい始原体分化期には更に0.2に減少し, 幼穂の発育全期を通じて最小で偏平になった. (2) 外穎と内穎が内部の花器を包む時期までに雄ずいは葯と花糸に, 雌ずいは胚珠と子房壁に分化し, 葯表皮のクチクラが発達し始める花粉母細胞減数分裂期には, 花柱の先端で柱頭細胞が分化した. クチクラのひだ状構造が葯表面を被う時期には柱頭毛の形成が活発となり, クチクラが左右に入り組んだ構造に変化する時期に花柱維管束の木部導管が発達した. (3) 6個の雄ずい始原体中外穎側中央の1個は他より下位に位置し, 外穎側3個と内穎側3個との間に位置的上下関係が認められた. (4) 葯表皮におけるクチクラの発達とその構造変化は花粉外殻形成開始期から花粉内容充実終期に至る時期に進行し, 花粉成熟に伴う約壁細胞の厚壁化または収縮と関連してひだ状構造に変化が生じたと推察された. 花粉とタペート細胞表面における球状体の発達について若干考察した.
  • 岩間 和人, 西部 幸男
    1989 年 58 巻 1 号 p. 126-132
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    バレイショの野生種を利用して, 栽培種の根の特性を育種的に改良するために, 基本的情報として栽培品種および系統12種と野生種8種における根の形態, 呼吸活性, 乾物重, 長さおよび表面積を開花期に圃場条件下で比較した. 野生種は栽培品種および系統に比べ, 根の平均直径が細く, また根の乾物率が高い特性を示した. また, 根のモノリスの観察から, 分枝根の数と太さと長さに供試材料間で顕著な差異を認めた. 根重当たりおよび根長当たりのいずれにおいても根の呼吸活性は, 栽培品種のほうが野生種よりも高い値を示した. 幾つかの野生種は, 栽培品種および系統に比べ, 根重, 根長, 根表面積および葉重に対する根重の割合において顕著に大きな値を示した. 本実験の結果から, 野生種と栽培種との交配により, 根の特性に関して大きな遺伝的変異を示す後代が得られるものと予想され, 野生種は栽培種の根の特性の育種的改良に寄与することが示唆された.
  • 中野 寛
    1989 年 58 巻 1 号 p. 133-134
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
  • 稲田 勝美
    1989 年 58 巻 1 号 p. 135-136
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
  • 中谷 誠
    1989 年 58 巻 1 号 p. 137-139
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
  • 上地 由朗, 堀江 武
    1989 年 58 巻 1 号 p. 140-142
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
  • 森田 茂紀, 根本 圭介, 胡 東旭, 春木 康, 山崎 耕宇
    1989 年 58 巻 1 号 p. 143-144
    発行日: 1989/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
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