音声言語医学
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56 巻, 2 号
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総説
  • 内田 育恵
    2015 年 56 巻 2 号 p. 143-147
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/21
    ジャーナル フリー
    聴覚障害は加齢とともに有病率が高くなる代表的な老年病で,われわれが地域住民対象研究から算出した推計値によると,65歳以上の高齢難聴者は全国で約1,500万人に上る.わが国が対応すべき緊要な課題の一つである.
    個人や社会に対して高齢期難聴がもたらす負の影響は,抑うつ,意欲や認知機能の低下,脳萎縮,要介護または死の転帰にまで及ぶと報告されている.一方,高齢期難聴に対する介入の有効性検証はいまだ限定的である.現時点では,補聴器使用により認知機能維持や抑うつ予防が可能かどうか結論にいたっていない.
    年齢がより高齢になると,語音明瞭度は悪くなり補聴効果をすぐに実感するのは困難になる.補聴による聴覚活用は“リハビリテーション”であって,トレーニングによる恩恵が,耳以外にも波及する可能性があることを,難聴者本人や社会に向けて啓発する必要がある.
  • ─臨床心理士の立場より─
    芦谷 道子
    2015 年 56 巻 2 号 p. 148-153
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/21
    ジャーナル フリー
    機能性難聴(FHL:functional hearing loss)とは,器質的異常を伴わない難聴の病態を指し,詐聴と心因性難聴の2つの病態が含まれる.小児FHLはほとんどが心因性難聴であると捉えられており,特に心理面での見立てや支援が必要となる.当院では耳鼻咽喉科医師と臨床心理士が小児FHLに対しチーム治療を行い,心身面からのアプローチを研究的に試みている.本論では小児FHLの心理的臨床像に関するこれまでの知見を概観し,2000年4月~2014年8月の期間に対象となった自験例126例について統計的に報告した.また小児FHLを心理的側面より「聴覚的不注意群」「抑圧転換群」「過剰適応群」の3群に分類し,事例と併せて心理的支援について論じた.
原著
  • 大原 重洋, 廣田 栄子
    2015 年 56 巻 2 号 p. 154-165
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/21
    ジャーナル フリー
    本研究では,音声言語コミュニケーションを用いる,平均聴力レベル71.6 dB(48.7~92.5 dB,1 SD 19.4)の聴覚障害幼児6名(生活年齢6歳~6歳10ヵ月)の社会的遊び場面における協同的なナラティブ構成の発達について,生活年齢3~4歳の聴児と比較して検討した.結果,聴覚障害児は聴児と比べて,子ども同士で遊びのテーマを共有し,展開を予測し合いながらストーリーを構成していく協同的なナラティブ産生が遅滞する傾向にあった.ナラティブの構成にはメタプレイが関与しており,遊びの役を演じた発話の要因との関連性は低かった.聴覚障害児のメタプレイは,聴児とおおむね同水準の形式的発達(MLUm値)を示したにもかかわらず,遊びの展開で運用される頻度に乏しい傾向にあった.聴覚障害児は,聴児との社会的遊びのテーマの共有と伝達が難しく,刻々と変化する遊びのストーリー展開の俯瞰的な理解が困難であり,その結果,発話文長から期待されるほどにはメタプレイが増加しないと推察される.メタプレイは,人間行動に関するメタ認知に基づき,ナラティブの構成を可能とする重要な言語行動と考えられた.
  • 奥田 晶史, 玉井 ふみ, 城本 修
    2015 年 56 巻 2 号 p. 166-170
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/21
    ジャーナル フリー
    本研究では小学校低学年の母音発声時の音響パラメータPPQ,APQ,NHRを検討した.対象は小学校1〜3年生の88例の健常学童である.手続きは対象児に母音[ɑ]を声の高さ,大きさが一定となるように5秒間持続発声させ,対象児1例について2試行行った.音響分析はKay Model 4500のMulti-Dimensional Voice Program 5105を用いた.その結果,PPQでは2年生よりも3年生の測定平均値が有意に高かった.APQでは1回目に比して2回目の値が有意に低かった.またAPQにおいては小学校低学年では学習効果により1回目よりも2回目の測定値が低下する可能性が示唆された.西尾ら(2002)の先行研究の若年成人のデータと比較すると,小学校低学年の測定平均値は若年成人の平均に比べて大きい値を取るパラメータや,小さい値を取るパラメータがあり,若年成人と学童では正常範囲が異なる可能性が示唆された.
  • ―障害構造に即した訓練方法と効果および適応に関する症例シリーズ研究―
    宇野 彰, 春原 則子, 金子 真人, 後藤 多可志, 粟屋 徳子, 狐塚 順子
    2015 年 56 巻 2 号 p. 171-179
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/21
    ジャーナル フリー
    ひらがな,もしくはカタカナ1モーラ表記文字に関して1年間以上習得が困難であった発達性読み書き障害児36名を対象として,音声言語の記憶力を活用した訓練方法を適用した.全例全般的知能が正常で,かつReyのAVLT (Auditory Verbal Learning Test)の遅延再生課題にて高得点を示していた小学生である.また,訓練開始前に練習をするとみずからの意思を表明していた児童,生徒である.訓練は,次に示す3段階にて実施した.すなわち,1)50音表を音だけで覚える,2)50音表を書字可能にする,3)文字想起の速度を上げる,であった.また,4)児童によっては拗音の音の分解練習を口頭で実施した.その結果,平均7週間以内という短期間にて,ひらがなやカタカナの書字と音読正答率が有意に上昇し,平均98%以上の文字が読み書き可能になった.さらに,1年後に測定したカタカナに関しては高い正答率が維持され,書字の反応開始時間も有意に短縮した.今回の症例シリーズ研究にて,良好な音声言語の記憶力を活用した練習方法の有効性が,正確性においても流暢性においても示されたのではないかと思われた.
  • 南 和彦, 丸山 萩乃, 土師 知行
    2015 年 56 巻 2 号 p. 180-185
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/21
    ジャーナル フリー
    チューブ発声法はさまざまな音声障害に有効な音声治療として使用されており,コンピュータによるシミュレーションによると,声道の入力インピーダンスと声門のインピーダンスとを容易に適合させて効率の良い発声を導きやすくさせるとされている.しかし,実際にチューブ発声を行っている状態の声帯振動を観察した報告はわれわれが確認した範囲では,ない.
    当院では声帯結節に対してチューブ発声法を積極的に指導しているが,同訓練法の声帯振動への影響は不明であった.本検討ではチューブ発声時の声帯振動を電子スコープで観察したところ,通常発声時と比較して声帯振幅が増大する傾向にあることがわかった.これはコンピュータでのシミュレーションのように,チューブ発声が効率の良い発声を導くことを示す一つの証拠となると考えられた.
    チューブ発声法は自宅で簡便に訓練でき,継続的な訓練が可能である.今後,さらなる症例を重ねて治療効果についても検討したい.
症例
  • 葛西 聡子, 玉重 詠子, 西澤 典子, 福田 諭
    2015 年 56 巻 2 号 p. 186-191
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/21
    ジャーナル フリー
    近年の周産期医学の発展に伴い気管切開児は増加傾向にあり,その施術年齢は低年齢化し,長期的な気管切開管理が必要なケースも増加している.これまで長期気管切開児には身振り,AACなど代用機器の利用,文字言語の習得訓練などが主に行われており,積極的な音声言語獲得に向けての訓練はいまだ報告が少ない.また,これらの症例のなかには吸着音による口腔囁語が出現することがあり,これが異常構音として定着するとその後の気流動態が整った時点での正常な構音操作獲得の妨げになることが臨床上経験される.そこで今回,長期気管切開が推測された症例2例に対して,乳幼児期より電気式人工喉頭を導入し,吸着音による口腔囁語の定着を予防しながら音声言語の獲得につなげる目的で訓練を行った.電気式人工喉頭で獲得された母音は発声の気流動態が整った時点で音声言語へ移行しうることが示唆され,代償的な電気式人工喉頭の使用が構音発達の起点となることが期待された.
  • 谷合 信一, 前新 直志, 田中 伸明, 栗岡 隆臣, 冨藤 雅之, 荒木 幸仁, 塩谷 彰浩
    2015 年 56 巻 2 号 p. 192-198
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/21
    ジャーナル フリー
    高齢で突発した心因性吃音の症例を経験した.症例は70歳男性,肺炎で他院入院中に突然吃音を発症.当科初診時,口腔・咽喉頭に器質的異常なく,構音障害や失語症も認めなかった.語頭音のくり返しを主症状とする吃音を認め,随伴症状を認めた.訓練は,発話速度低下訓練とカウンセリングを併用した.訓練実施後から吃音症状は徐々に軽減し,訓練開始3ヵ月半でほぼ消失した.本例の特徴は,吃音が獲得性で突然発症している,発話は語頭音のくり返しが多い,随伴症状がある,数ヵ月の訓練で著明に改善している,画像所見で突発した吃音を説明できる病変がない,発症誘因と推察される入院に伴う強いストレスがある,吃音の原因となる他疾患の可能性がないことがある.これらの特徴から,本例は心因性吃音であると考えられた.
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