新生児・乳児において,喘鳴,SpO2低下,無呼吸といった呼吸症状は生命にかかわるため,出生直後から大きな問題となり,治療が必要となることが多い.一方,嗄声など音声症状は,出生直後は問題となることが少ない.
今回2018年3月からの5年間に杏林大学医学部付属病院耳鼻咽喉科の小児気道外来を受診した1歳未満の患児のうち,嗄声を主訴とした症例について検討した.236例の大多数は呼吸症状で受診し,音声症状は19例(8.1%)であった.19例の内訳は,声帯結節10例,一側性声帯麻痺(先天性動脈瘤と挿管性)2例,挿管性の内筋麻痺疑い1例,声帯の腫瘤性病変2例で,4例は声帯に所見を認めなかった.経過観察できた17例全例症状は改善した.声帯の層構造の未熟さと,高速振動による易障害性が関係している可能性がある.新生児・乳児の嗄声の原因として,喉頭乳頭腫以外に声帯結節など多数疾患を念頭に喉頭内視鏡検査を行う必要があると考える.
本研究の目的は,脳卒中後うつ症状とコミュニケーション能力を含めた諸要因との関連を探索することである.発症から2週間〜6ヵ月経過した入院中の脳卒中患者62名(男性31名,女性31名)を対象に,抑うつ症状の評価としてthe 10-item Stroke Aphasia Depression Questionnaire日本語版(J-SADQ10)を実施し,コミュニケーション能力の評価である実用コミュニケーション能力検査の短縮版(短縮版CADL)の予測得点との関連,およびその他の関連要因について検討した.その結果,J-SADQ10と短縮版CADLの予測得点との間には有意な負の相関が認められた(r=−.286,p=.024).また,発症時のNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)得点との間に有意な正の相関が認められた(r=.328,p=.014).すなわち,コミュニケーションに困難を抱える場合,および急性期における脳卒中の重症度が高いほど抑うつ症状が強い傾向にあり,特にこれらの患者の心理面の問題に目を向ける必要があると論じた.
構音時の舌運動を理解するためには,3次元で捉えることが必要である.そこで著者らは,東京都市大学と,2次元舌超音波画像を基に3次元の舌画像(以下,舌モデル)を構築するツール(以下,舌モデル構築用ツール)を開発した.今回は,舌モデルを用いて,健常人と側音化構音(lateral articulation,以下LA)症例の,安静時と[a],[ɕ],[a]構音時の舌形態について検討した.結果,健常人の安静時は左右対称,構音時は左右対称と舌正中に溝がみられた.LA症例では,安静時,構音時ともに,左右非対称と,舌の一部の溝の形成や凸形成,舌尖部のゆがみなどの所見がみられた.以上から,舌形態を明視下に示す舌モデルは,複雑な舌運動の解明ツールとして,また構音障害症例と訓練者が構音訓練時に改善すべき課題を共有する訓練ツールとして有用と考えられた.今後,舌モデル動画像を,社会へ発信する予定である.
本研究は,球麻痺型の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者での発話明瞭度(SI),発話速度(SR),最大舌圧(MTP)の関係を明らかにすることを目的とした.後方視的に音読発話資料とMTPが得られた球麻痺型ALS患者16名(男性6名,女性10名,45〜81歳)を抽出し,visual analog scaleを用いて発話明瞭度(VAS-SI)を評価し,音響分析によりSRを求めた.VAS-SIとSRには線型と非線型,VAS-SIとMTPには非線型モデルが適合した.SRとMTPにはMTPが低い群14名で非線型モデルが適合した.3次元プロットでクラスター(群)を認めた:群1(VAS-SIとMTPが保たれSRが低かった2名),群2(MTPが低いがVAS-SIとSRが保たれていた5名),群3(3変量すべてが低かった9名).発語運動の要素で,速度と力を反映する発話速度と舌の力が,発話明瞭度を規定している可能性が示された.
Listening effort(以下,LE)とは,聴覚情報に注意を向け理解するために必要とされる認知的努力である.本研究では成人健聴者を対象とした聴覚的再認課題を実施し,健聴者のLEに関する基礎的な知見を得ることを目的とした.成人健聴者14名(平均21.7歳)に,数を雑音とともに聴覚呈示し,この呈示区間の数が後続する検索区間でも呈示されたかの判断を求めた.呈示する数字の数(記憶負荷量)を3桁と7桁,雑音のレベル(雑音負荷量)をSN -10 dBとSN ±0 dBの各2条件となるよう設定した.正答率・反応時間・条件ごとのLEのVAS評定値を比較した.雑音負荷量に比べ記憶負荷量が,有意に正答率に影響した.同じ記憶負荷量で比較すると,正答率・反応時間に有意差は認められなかったが,VASの主観的評定値においては7桁条件間で差が認められた.LEの評価においては,対象者の主観的評価も考慮する必要性が示唆された.
日本語話者の発達性ディスレクシア児において,音読速度に関与する認知要因を明らかにすることを目的とした.参加者は,専門機関にて読み書きに関する学習到達度と読み書きに関連する認知機能検査にて発達性ディスレクシアと診断評価された小学2〜6年生の男女165名である.STRAW-Rのひらがな単語と非語,カタカナ単語と非語,文章の音読速度課題の所要時間と誤読数のz得点を従属変数,読み書きに関連する認知機能検査結果のz得点を独立変数としてステップワイズ法による重回帰分析にて検討した.その結果,すべての音読速度課題の所要時間にはRAN,さらに課題によって音韻能力や語彙力が,誤読数にはRAN以外に視覚認知力が有意な予測因子として抽出された.これらの結果はアルファベット使用語圏での報告や日本語話者典型発達児の結果と同様であった.