音声言語医学
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総説
  • ―ヒトの特異性とは何か?―
    三枝 英人
    2020 年 61 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/27
    ジャーナル 認証あり

    構音はヒトのみが行う運動であるが,それを担う構音器官は,本来,構音を目的とするものではない.すなわち,呼吸と水分・栄養摂取に従事する器官であり,それらがヒトの脊柱による直立姿勢と,直立に伴う呼吸様式の変化と安定を基盤にして,音声言語活動に見合う自在性を獲得したものと考えられる.逆に,さまざまな要因により直立姿勢および呼吸様式に一定以上の負担が加わると,構音器官はこれらに対して代償的に活動することとなる.その結果,構音器官の構音を行うための自在性に制限が加わることとなり,神経学的異常による構音運動の異常が,より修飾されたものとなりうる.神経学的異常に起因した運動障害そのものを改善させることは難しいが,2次的に修飾された増悪因子を軽減することは可能である場合が多い.dysarthriaに対する医学的対応とはdysarthriaそのものよりも,患者全体をまずいかに見詰めるかに掛かっている.

  • ―嚥下造影検査で安全な造影剤は何?―
    上羽 瑠美, 佐藤 拓, 後藤 多嘉緒, 二藤 隆春
    2020 年 61 巻 1 号 p. 11-17
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/27
    ジャーナル 認証あり

    嚥下造影検査は多くの施設で施行されているが,造影剤誤嚥による急性期および慢性気道組織障害の免疫組織学的・分子生物学的機序は十分解明されていない.
    本学会研究助成を受け,3種類の造影剤(硫酸バリウム:Ba,イオン性ヨード系造影剤:ICA,非イオン性ヨード系造影剤:NICA)60μlの誤嚥ラットを作製し,投与2日目(急性期)と30日目(慢性期)に肺障害に関する組織学的・分子生物学的検証を行った.急性期にはBaが最も組織変化を生じ,著明な炎症細胞浸潤と炎症性サイトカイン上昇を呈した.ICAはわずかに肺鬱血所見を認めたのみで,ICAもNICAも炎症サイトカインは上昇しなかった.慢性期で組織変化を認めたのはBaのみで肉芽形成やT細胞を中心とした炎症細胞浸潤が継続していた.
    本稿ではさらに,造影剤誤嚥による急性および慢性気道障害の背景にある分子機序に関して文献的報告に基づき解説する.

原著
  • 城本 修, 奥田 あずさ, 宮路 隆世, 阿部 千佳
    2020 年 61 巻 1 号 p. 18-30
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/27
    ジャーナル 認証あり

    【目的】ケプストラム分析に適した日本語課題文を作成し,その信頼性と妥当性を検討する.
    【対象】健常若年成人男女各30例(平均年齢22.7歳,SD 4.5歳)
    【手続き】持続母音/a/,種類の異なる日本語課題文8文をそれぞれ2回ランダム順で録音し,24時間をおいて,ほぼ同時刻に2度目の録音を実施し,計4回の発話された日本語音声のcepstral peak prominence (CPP),Cepstral/Spectral Index of Dysphonia (CSID)について検討した.
    【結果】各課題文において,CPP,CSIDは高い被検者内再現性を示した.また,課題文の種類による主効果が認められた.
    【結論】ケプストラム分析で使用されるCPP,CSIDは,日本語課題文の種類にかかわらず高い再現性を示し,有用性が示唆された.ただし,課題文の種類によっては,CPP,CSIDに有意差が認められた.

  • 藤原 百合, 山本 一郎
    2020 年 61 巻 1 号 p. 31-40
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/27
    ジャーナル 認証あり

    目的:構音障害のある人を対象としてエレクトロパラトグラフィ(EPG)を用いた視覚的フィードバック訓練を実施しているが,典型的な日本語音の舌と口蓋の接触パターンに関するEPGデータは限られている.今回は最も高頻度に練習される歯茎音,歯茎硬口蓋音について目標パターンを作成することを目的とした.
    方法:対象は発声発語器官や聴力に問題のない15名の日本語話者の成人である.子音[t, d, n, s, ɕ, ts, dz, tɕ, dʑ]を含む「あた」など母音・子音・母音の音節をEPGで記録し,子音産生時の最大接触フレームおよび開放フレームを抽出し累積した.また,各子音の特徴を示す量的分析を行った.
    結果:子音産生時の舌と口蓋の接触状態は個々人によって差はあるが基本的な接触パターンは一致していた.15名のデータを累積することにより各音の特徴が明らかとなった.
    結論:EPGを用いた評価や視覚的フィードバック訓練に役立つ日本語子音の有用なデータが得られた.

  • 高野 佐代子, 松崎 博季, 元木 邦俊
    2020 年 61 巻 1 号 p. 41-49
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/27
    ジャーナル 認証あり

    母音発話における各種の舌筋の活動について数多くの検討がなされてきたが,舌の内部変形の特徴については観察が困難なために考慮が少なかった.本研究では変形を可視化するために開発された,黒い線を付加できるタギングシネMRI(tagged-cine MRI)のデータ(高野ら,2006)に基づいて,舌の内部変形の特徴を考慮したうえで舌モデルを構築し,有限要素法のシミュレーションにより特に横舌筋の効果について検討する.
    これまでの研究により,母音発話/ei/(日本語2モーラ)のタギングシネMRIにおいて,舌は前後および上下に4つの部位に分けて考えることで最も簡単に解釈できることが報告されている(高野ら,2006).すなわち,前部は前方移動と中央方向への圧縮,後部は前方移動と左右方向への膨張が見られ,特に前方上部(舌端部)は前後方向よりも上方向への移動が顕著であった.さらに,前方上部は後方下部(舌根部)よりも動き始めるのが早く,速度および移動距離が最も大きかった.これは舌の構造から考えると,横舌筋前部の関与が推測された(高野ら,2006).
    そこで本研究では,母音/i/における舌端部の運動について,舌を前後および上下に分割した立方体4要素の舌モデルを構築し,有限要素法によるシミュレーションを用いて前部横舌筋の作用について検討した.その結果,母音/i/では前部横舌筋の筋活動に相当する収縮力の発生により,舌端点は中央方向への圧縮を伴い,より早いタミングで動き出し,速度も速く,移動距離も大きくなるという傾向が確認された.

  • ―音声障害患者と若年-壮年健常成人における検討―
    城本 修, 末松 美穂
    2020 年 61 巻 1 号 p. 50-60
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/27
    ジャーナル 認証あり

    【目的】音声障害患者と若年-壮年健常成人において音声疲労質問紙Vocal Fatigue Index(VFI)日本語版の信頼性と妥当性を検証した.
    【方法】調査対象者は,全国6施設の協力を得て,音声障害患者102名(音声障害患者群)と健常成人56名(健常者群)の合計158名とし,全員にVFIを1週間以上おいて2回実施した.
    【結果】①VFIの内部一貫性を示すCronbachのα係数は,0.919であった.
    ②VFIの再信頼性を示す検者内信頼性係数は,0.912であった.
    ③VFIを構成する下位項目ファクターTとファクターPの得点と総得点の平均は,音声障害患者群は健常者群よりも有意に高かった.
    ④VFIの音声障害患者と健常者のカットオフ値は,21.5であった.
    【結論】①VFI日本語版は十分な信頼性が示されたが,翻訳に関しては一部再検討の余地がある.
    ②VFI項目別得点と総得点の平均に音声障害患者群と健常者群の間で有意差が認められ,音声障害の検出に有用であることが示唆された.

  • ―ひらがなと漢字における検討―
    澁谷 文恵, 宇野 彰
    2020 年 61 巻 1 号 p. 61-66
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/27
    ジャーナル 認証あり

    二重障害仮説(DDH)では,読み困難のある児童を音韻認識障害(PAD)群,自動化能力障害(NSD)群,二重障害(DD)群の3群に分類でき,DD群が最も重い読み困難を示すと報告されている.しかしDD群は最も重い読み困難を示さなかったという報告も複数あり,その理由の一つに文字言語体系の差が挙げられている.本研究では,小学1年生から6年生の日本語話者児童795名のうち,異なる文字言語体系である「ひらがな」と「漢字」に読み困難のある児童を対象に,DD群の読み成績について検討した.その結果,ひらがなの読み困難群においてDD群は最も重い読み困難を示さなかったが,漢字の読み困難群においては最も重い読み困難を示した.本研究の結果からはDD群の読み困難度は文字言語体系によって影響を受けることが示唆された.また,DDHでは分類できない読み困難のある児童を複数認めたことから,DDHで想定している認知障害以外の認知能力も考慮すべき可能性が示唆された.

症例
  • 福永 真哉, 時田 春樹, 塩見 将志, 池野 雅裕, 永見 慎輔, 中谷 謙
    2020 年 61 巻 1 号 p. 67-75
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/27
    ジャーナル 認証あり

    発語失行は発語運動のプログラミングレベルの障害とされ,責任病巣は左中心前回中下部とされている.しかし,右半球病巣によって生じる発語失行例はまれであり,発話特徴の一つであるプロソディ障害と他の発話障害で生じるプロソディ障害との違いは明らかにはなっていない.
    本症例は初診時に右中心前回中下部の皮質・皮質下を含む病巣で,発語失行が生じたことから,発話機能は右半球に優位な側性化がなされていたと考えられた.本症例のプロソディ障害に対し,アクセント課題を実施したところ,音読ではアクセントパターンの表出障害を認めたが,アクセントパターンの聴覚的判断や復唱でアクセントパターンの表出が保たれていたことから,感情的プロソディ障害であるアプロソディアには該当しないと考えた.加えて,本症例のプロソディ障害は初診時に認められた発語失行の改善に伴い,構音の誤りから自己修正や音の連結不良へと変化し発話速度の低下を認めたことから,外国人様アクセント症候群によるものではないと考えた.
    本症例の改善経過からプロソディ障害は,発語失行による構音の誤りを代償するための自己修正や音の連結不良によって生じたと考えられた.

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