音声言語医学
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62 巻 , 3 号
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総説
  • 菊池 良和
    2021 年 62 巻 3 号 p. 181-185
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル 認証あり

    吃音症は発話流暢性の障害であり,小学生以降まで持続する場合は,吃音とうまく付き合いながら成長していかないといけない.親・保護者の希望としては,「吃音があっても,自己実現を達成できる人に成長してほしい」があり,「マズローの欲求段階説」に基づいた支援を行っている.欲求段階は,生理的欲求,安全の欲求,愛情と所属の欲求,尊重の欲求,自己実現の欲求の5段階と分かれ,低次の欲求が満たされると,より高次の欲求の希望をもつものである.安全の欲求を満たすために,3つの質問(真似,指摘,笑い)を行い,からかい・いじめの早期発見を行う.愛情と所属の欲求を満たすには,授業中に不安に感じる音読・発表などの対策と,休み時間も居心地いいか確認を行う.尊重の欲求を満たすには,吃音のために制限が生じていることに,学校の先生の協力をいただき合理的配慮を考慮することも必要だろう.これらの欲求が満たされ,吃音があっても自己実現の欲求をもつようになると考える.

  • ―エビデンスと今後の展望―
    水田 匡信, 土師 知行, 阿部 千佳
    2021 年 62 巻 3 号 p. 186-194
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル 認証あり

    ケプストラム解析に基づく音響分析(ケプストラム音響分析)は音声信号の個々の周期の同定を必要とせず,会話音声にも適用でき,また重度嗄声も解析できると考えられる.ケプストラム音響分析の指標であるCPP(cepstral peak prominence)とCSID(cepstral spectral index of dysphonia)の妥当性は,主に聴覚心理的評価との相関解析と,嗄声の有無の診断能に関するROC(receiver operating characteristic)解析により検証されており,英語や日本語を含め多言語において,持続母音だけでなく会話音声での高い妥当性が報告されている.また分析対象とする音声波形の範囲により算出される値が異なる可能性(検査の信頼性)があるが,今回重度嗄声例を用いて検証したところ,CPP,CSIDでは重度嗄声例においても信頼性が保たれることが確認された.このようにケプストラム音響分析は持続母音と会話音声に対して高い妥当性を有し,また重度嗄声に対しても高い信頼性を有すると考えられ,日常の音声障害診療において広く使用されることが望まれる.

原著
  • 重森 知奈, 廣田 栄子
    2021 年 62 巻 3 号 p. 195-204
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル 認証あり

    知的発達に遅れのない自閉症スペクトラム障害(ASD)児(5〜7歳,7名)を対象に,ナラティブにおける発話内容を検討し,対象児群(典型発達児:TD児10名)の発話と比較した.方法は,4枚からなる系列絵図版,計12話を用いて,対象児にストーリーを語ってもらった.叙述文について,発話量,発話内容(行為,状態,心情),および,因果的結合,ストーリーの組織化について比較した.その結果,発話量には2群間には差はなく,ナラティブの内容では,行為に関する発話が多く,心情に関する発話は少ない点で共通した.ASD児のナラティブでは,事象の因果的な説明については,心情的な内容を他の事象と因果的に関連づける叙述が少なく,また心理的ストーリーの組織化に困難を呈した.
    本研究では,幼児期に言語療育を実施したASD児について,幼児期後期に,同年齢TD児と比較してナラティブの課題を指摘した点に特色があると考える.幼児期からの早期介入では,登場人物の心情にかかわる因果関係やナラティブ構成へ注目したナラティブ発達支援の重要性が示唆された.

  • 田村 俊暁, 苅安 誠, 吉岡 豊, 富澤 晃文, 佐藤 克郎
    2021 年 62 巻 3 号 p. 205-214
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル 認証あり

    Dysarthriaの構音異常の音響指標として,第2フォルマント(F2)移動の諸計測(移動時間,移動域,移動率F2 slope)が示されてきた.F2移動が日本語話者でも有用かを知るために,F2移動諸計測のdysarthria話者と健常話者との違い,発話明瞭度との関係性,同一話者で標的語での違いの程度を調べた.軽度と中等度のdysarthria話者13名と若年健常話者23名に「北風と太陽」を音読させ,標的語(太陽,外套)の連母音/ai/のF2移動部分を測定した.Dysarthria話者は若年健常話者よりもF2移動時間が有意に長く,F2 slopeが有意に小さかった.発話明瞭度は,F2 slopeと有意な相関があった(rs=−0.59).標的語とその再出で,dysarthria話者はF2移動の変動が大きかった.F2移動は日本語話者のdysarthria例の構音機能評価に活用できる可能性がある.

  • ―対比を通して捉えた小児声帯結節の臨床的特徴―
    白井 裕美子, 前川 圭子, 末廣 篤
    2021 年 62 巻 3 号 p. 215-222
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル 認証あり

    声帯結節における小児症例と成人症例の臨床的特徴の差異について検討するため,両者の初診時所見を比較したところ,小児は成人に比して,次の点で有意な差があった.1)叫び声を多用する.2)嗄声の自覚から初診までの期間が長い.3)喉頭内視鏡所見にて結節病変が大きい.4)聴覚心理的評価は中等度嗄声の占める割合が高い.5)音響学的指標は振幅変動指数の異常値を示す者が多い.
    音声酷使は小児,成人ともに認めたが,小児では叫び声を多用し,かつ嗄声を長期間放置されるという特徴があり,結節病変,聴覚心理的評価,音響学的指標における成人との差を生じる要因の一つである可能性がある.小児声帯結節は変声期に軽快あるいは治癒する症例が多いとされるが,比較的重い嗄声を呈した状態で,音響外傷に当たる叫び声を含む音声酷使を長期間繰り返すことで,将来的に外科的治療が必要な線維性に硬化した結節病変になる可能性もあり,注意が必要であると考える.

  • ―課題文の変更による診断性能への影響―
    吉田 大地, 細川 清人, 北山 一樹, 加藤 智絵里, 小川 真, 猪原 秀典
    2021 年 62 巻 3 号 p. 223-232
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル 認証あり

    Acoustic Voice Quality Index(AVQI)は持続母音と文章音読の両者の録音音声を用いた音響分析手法であり,日本語においても高い診断性能が報告されている.しかしながら,文章音読の課題文が異なれば診断性能が損なわれる可能性がある.そこで当研究では,課題文の変更による診断性能への影響を調査した.
    全311録音について,「北風と太陽」の第2文までの計58音節を既報で使用された前半30音節と検証用の後半28音節に分割しそれぞれのAVQI値を求めた.聴覚心理的評価との相関係数はそれぞれ0.850および0.842,受信者操作特性曲線の曲線下面積はそれぞれ0.897および0.892であり,ともに良好な診断性能が確認された.また,両者の値の差はわずかであった.
    当検討における課題文の変更はAVQI値の変動に大きな影響を与えず,AVQIは課題文変更をある程度許容できる可能性が示唆された.

  • ―語頭モーラ頻度に着目して―
    髙橋 三郎
    2021 年 62 巻 3 号 p. 233-238
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,なぜ吃音が母音で生じやすいと感じられるのかを明らかにするために,学齢期の吃音児の自由会話を分析し,子音と母音の違いが吃音の生起に与える影響を検討した.そのうえで,語頭モーラ頻度と吃音生起数の関係性を検討した.対象児は6歳9ヵ月から12歳1ヵ月までの吃音児20名であった.対象児と筆者との自由会話の様子を録画し,発話を分析した.二項ロジスティック回帰分析の結果,子音と母音の違いは吃音の生起に有意な影響を与えなかった.また,一部の母音(「い」「お」「あ」)は他の子音よりも語頭モーラ頻度が高く,吃音生起数も多かった.以上のことから,一部の母音で吃音が生じやすいと感じられるのは,語頭モーラ頻度の高さによって吃音生起数が多くなることが関与すると推測された.

  • 兒玉 成博, 讃岐 徹治
    2021 年 62 巻 3 号 p. 239-245
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル 認証あり

    音声治療におけるドロップアウトの割合と影響因子および早期ドロップアウト症例の特徴について検討を行った.
    対象は,音声障害195例で平均年齢43.6±19.5歳であった.音声治療ドロップアウトの有無を従属変数,背景因子(年齢,職業,病悩期間,処方から治療開始までの日数,喫煙の有無,飲酒の有無),治療前音声評価(MPT,G,VHI-10)を独立変数としてドロップアウトの影響因子を検討した.また,MPTとVHI-10の平均値および標準偏差を用いてZ値を算出し,声に対する問題意識の程度について高値群,一致群,低値群に分け,その割合を比較した.さらに,音声治療のセッション数を従属変数として,早期ドロップアウト症例の因子の検討を行った.
    ドロップアウト率は22.6%であった.また,その他の音声障害および心理的疾患・精神疾患では,ドロップアウトの影響因子として職業とVHI-10が有意に関連していた.音声治療セッション数の影響因子には,年齢とMPTが有意に関連していた.

症例
  • 竹上 つかさ, 前川 圭子, 末廣 篤
    2021 年 62 巻 3 号 p. 246-251
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル 認証あり

    変声を契機に声の高さは低下したが,粗糙性・気息性嗄声を長期間呈した症例を経験した.喉頭に器質的異常はないが,発声時スリット状の声門閉鎖不全と声門上部の過収縮を認めた.音声治療開始当初は半遮蔽声道エクササイズを用い,母音発声時嗄声は改善した.しかし,子音の構音操作や抑揚をつけると嗄声が再燃した.そのため,変声障害に用いるWeleminsky法と大声発声を併用したところ嗄声は消失した.
    本症例は,変声を契機として喉頭筋の調節不良を生じ,筋緊張性発声障害をきたしたと推察される.つまり,声帯内転筋群に比して輪状甲状筋の緊張が強いため,スリット状の声門閉鎖不全を生じ,それを代償するため,声門上部が過剰に収縮し嗄声をきたしたと推察された.そのため,輪状甲状筋の筋緊張を緩和,かつ声帯内転筋群の働きを適度に促進して,声帯内転筋群と輪状甲状筋の筋緊張の不均衡を是正する音声治療が有効であると考えられた.

  • ―高音急墜型の中枢性聴力障害の重複について―
    安崎 文子, 山本 佐代子, 石本 晋一
    2021 年 62 巻 3 号 p. 252-262
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル 認証あり

    陳旧性右被殻ラクナ梗塞の後,左側頭・頭頂葉の脳梗塞により感覚性失語を発症した症例である.急速に失語症状は改善したが,語音認知不良が残存した.加齢による高音急墜型聴力障害が重複し,純粋語聾が疑われた.左右の脳の病巣の違いによる左右耳別の語音認知の影響を明らかにした.発症初期は右耳の語音聴力検査で明瞭度が低下したが,その後,左耳の語音明瞭度が低下した.異聴マトリックスでは,/r/への異聴が両耳で多かったが,右耳に有意に多く母音も/r/へ異聴していた.子音部や母音の音韻の特徴がつかめず,明確な狭窄や雑音も含まない曖昧な/r/を推測し異聴した可能性が考えられた.左耳は,構音様式や構音点の類似した音声や低周波帯域に音響エネルギのある通鼻音への異聴が増加した.右被殻周辺の聴放線近傍の神経連絡に何らかの障害が起こり,さらに聴覚の加齢変化も加わり,中枢性と思われる高音急墜型聴力障害の症状にいたったと考えられる.

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