心身医学
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57 巻, 10 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
巻頭言
第57回日本心身医学会総会ならびに学術講演会
パネルディスカッション特集/大災害ストレスの心身医学
  • 辻内 琢也, 村上 典子
    2017 年 57 巻 10 号 p. 997-998
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル フリー
  • —東日本大震災後の消化性潰瘍の増加とその特徴—
    菅野 武, 飯島 克則, 小池 智幸, 島田 憲宏, 星 達也, 佐野 望, 大矢内 幹, 熱海 智章, 阿曽沼 祥, 下瀬川 徹
    2017 年 57 巻 10 号 p. 999-1004
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル フリー

    背景 : ヒトにおいて精神的ストレスのみで潰瘍が発症するかは再検証が必要である. 目的 : 東日本大震災後の消化性潰瘍の成因, 特徴を平時と比較検討する. 方法 : 発災直後から3カ月間, 前年同時期に宮城県内7施設において新たに診断された消化性潰瘍症例を後ろ向き研究として集積した. 震災後症例において非出血群をコントロールとし潰瘍出血の危険因子を求めるロジスティック回帰分析を行った. 結果 : 震災後3カ月間で潰瘍症例は約1.5倍, 特に出血性潰瘍は2.2倍に増加, 成因としてH. pylori陰性かつ非NSAID群が24%を占め, 前年の13%から有意に増加した. 災害後出血性潰瘍は, 多発し胃に多く, 輸血を要した患者が多かった. 避難環境は, 独立した災害時潰瘍出血の危険因子であった (OR4.4). 結論 : 東日本大震災後に著明に消化性潰瘍が増加し, H. pylori陰性かつ非NSAID群の割合の有意な増加から, 大規模災害時の精神的ストレスは独立して消化性潰瘍を引き起こす可能性が初めて示された.

  • —心療内科医としての経験を通じて—
    村上 典子
    2017 年 57 巻 10 号 p. 1005-1012
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル フリー

    神戸赤十字病院は1995年1月の阪神・淡路大震災において日本赤十字社の災害救護活動の拠点となった. その翌年, 震災被災者への心身医学的ケアを目的として神戸赤十字病院に心療内科が新設された. 筆者はそこに赴任することとなり, 復興期の被災地での心身診療を通じて, 「災害復興期における心身医学」 の重要性を認識していった. その後も新潟県中越地震 (2004年), JR福知山線脱線事故 (2005年), 東日本大震災 (2011年) と, さまざまな災害において現地で救護活動に携わったり, 多くの災害医療関係者と関わる中で, 急性期から復興期までの災害のあらゆるフェイズにおいて 「心身医学」 のニーズを痛感するに至った. 本稿ではそうした筆者の 「心療内科医として災害と関わった経験」 をまとめてみた.

  • —福島原子力災害の調査・支援実績から—
    岩垣 穂大, 辻内 琢也, 扇原 淳
    2017 年 57 巻 10 号 p. 1013-1019
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル フリー

    災害復興におけるソーシャル・キャピタルの役割が注目されている. ソーシャル・キャピタルとは 「社会関係資本」 と訳され, 他者への信頼感, 助け合いの意識, ネットワーク, 社会参加などで評価される人間関係の強さを表す概念である. 先行研究において, 災害発生時, ソーシャル・キャピタルの豊かな地域ではPTSDやうつといった精神疾患の発症リスクが低いとの報告も行われている.

    本研究では福島第一原子力発電所事故からの避難者を対象にソーシャル・キャピタルとメンタルヘルスの関連について調査を行った. その結果, 高齢者を対象とした調査, 子育て中の母親を対象とした調査のいずれも, 個人レベルのソーシャル・キャピタルが豊かなほどメンタルヘルスが悪化しにくいことが明らかとなった.

    今後, ソーシャル・キャピタル醸成の視点を取り入れた災害復興政策を行っていくことが重要であると考えられた.

心身医学講習会特集/専門医のための心身医学講座
  • 須藤 信行
    2017 年 57 巻 10 号 p. 1020
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル フリー
  • 江花 昭一
    2017 年 57 巻 10 号 p. 1021-1024
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル フリー

    2016年11月, 日本心身医学会と日本心療内科学会のそれぞれの専門医制が合同し, 両学会から相対的に独立した新しい心療内科専門医制度が発足した. この専門医制度は, 「基本領域を内科とするサブスペシャルティ領域の専門医」 であり, 名称は 「心療内科専門医」 である. 新しい日本専門医機構への登録を目指すこの制度の発足により, 心療内科の専門医像, 診療領域の独自性・独立性が明確にされ, 基本領域 (内科) との関係も確固としたものになった. 本稿では, この新しい制度と今後の課題について説明するが, その前史にも触れる.

  • 富岡 光直
    2017 年 57 巻 10 号 p. 1025-1031
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル フリー

    ストレス関連疾患あるいは心身症では, 心理社会的要因により否定的な情動や身体的緊張が持続するため, 持続, 増悪するメカニズムが存在する. リラクセーション法はストレス刺激による心理・生理的反応を緩和・緩衝する技法である. 広義には心身医学領域で用いられている心理療法全般が含まれることになるが, ここでは身体的緊張を改善する目的で用いられている技法に焦点を絞る.

    心身医学領域で用いられている主な技法には, 漸進的筋弛緩法, 自律訓練法, バイオフィードバック法, 呼吸法などがある. これらの技法がストレス関連疾患の治療に用いられる場合には, リラックス状態を得ることに加え, 心身の状態への気づきを高めること, セルフコントロール力を身につけること, 再発を防止することまでを視野に入れて指導が行われる (松岡, 2006).

    講習会では, 代表的な技法の概略を示し, 治療の中でどのように用いられているのかを解説した.

  • —ヘルスコミュニケーションと問題解決アプローチ—
    中尾 睦宏
    2017 年 57 巻 10 号 p. 1032-1039
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル フリー

    Evidence-based medicine (EBM) では, つくる側と利用する側で, 情報の集め方が異なる. つくる側の立場では, 最新の医学的文献を集め, その中身を精査し, 批判的吟味 (critical reading) をする. EBMを利用する観点に立てば, 医療者でない人, つまり患者や健康な人に対して, できるだけわかりやすく正確に情報提供される必要がある. その際, 情報で終わるだけでなく, 現実の問題を解決するための具体的な道筋が示されなくてはならない. 筆者は5年前の心身医学講習会で, 2つのEBM実践例について発表をした (心身医学52 (12) : 1110-1116, 2012). 「高血圧症へのバイオフィードバック療法」 と 「慢性腰痛を有する心気症患者への認知行動療法」 である. 本稿では, 2つの実践例がその後どうなったかまとめる. そしてEBMの先にある課題として, 「ヘルスコミュニケーション」 と 「問題解決アプローチ」 について紹介をする.

  • —事実と価値判断の区別という観点から—
    藤田 みさお
    2017 年 57 巻 10 号 p. 1040-1045
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル フリー

    同じ医学的事実を共有していたとしても, それをとらえる価値観が異なれば, 医療従事者や患者・家族の間で治療上の判断が分かれる事態が起こりうる. 臨床における倫理的問題とは, こうした価値観の対立から生じる治療決定上の問題のことである. 倫理的問題を取り扱う際には, 事実と価値判断とを明確に区別したうえで, (自分自身も含む) 当事者間での価値観の違いを評価することが重要である. 当事者間で治療方針をめぐって合意に至れない場合には, 倫理コンサルテーションと呼ばれるサービスを利用することも選択肢の1つであろう. ただその前に, 患者にとっての最善の利益をともに模索することは可能であり, そのことは, 何も生命倫理・医療倫理の専門家でなければ取り組めないものではない. 心身医学領域に親和性の高いコミュニケーション技法は, 最終判断に必要な情報を収集して整理し, 当事者間で検討するうえでも有効であろう.

原著
症例研究
  • 千々岩 武陽, 伊藤 隆, 須藤 信行, 金光 芳郎
    2017 年 57 巻 10 号 p. 1056-1062
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル フリー

    心身医学の臨床では, 薬物療法や心理療法を用いても十分な治療効果が得られにくい, 抑うつ状態を呈した症例に遭遇することが少なくない. しかし, これらに対して 「温補」 という漢方医学的アプローチを用いることで, 奏効するケースが存在する. 今回, 抑うつ症状に対して漢方薬による温補療法が奏効した3症例について報告する.

    症例1は66歳, 女性. ストーマ造設術後から気分が落ち込むようになり, 吐き気, 食欲低下を主訴に外来を受診した. 「全身が冷える」 という訴えを重視して, 真武湯と人参湯エキスの併用を開始した結果, 内服2週間後には全身が温まる感覚とともに, 食欲と気分の著明な改善がみられた. 症例2は33歳, 女性. 微熱, 下痢, 抑うつを主訴に外来を受診した. 電気温鍼の結果を参考に通脈四逆湯 (煎薬) を処方した結果, 手足が温まるとともに, 心理テストのスコアは大きく改善した. 症例3は35歳, 女性. 4年前からうつ病と診断され, 各種抗うつ薬, 漢方薬に効果がみられないため, 筆者の外来を受診した. 通脈四逆湯を処方したところ, 内服2日後から外出が可能となり, 2週後には食欲と冷えが改善, 6週後には睡眠薬を必要とせずに良眠が得られるようになった.

    現代医学的に治療抵抗性がみられる抑うつや精神不穏を呈するケースの中には, 裏寒すなわち 「臓腑の冷え」 が病態を修飾しているものがある. その場合, 漢方薬による温補療法は心身医学領域においても有効な治療手段であることが示唆された.

連載:関連領域からの学会・研究会だより
地方会抄録
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