ミオシンATPaseの活性中心に存在する特定なSH基 (S
1およびS
2) の, 4種のマレイミド試薬 (NEM, MBM, BIPM, DDPM) に対する反応性を“高次構造プローブ”として用いて, S
1, S
2近傍の高次構造の動態を解析した. (1) S
1は従来考えられていたような露出残基ではなく, むしろ埋没状態にあることが, 反応速度定数と解離定数から示された, その非常に高い反応性は, この異常に低いpKa値 (6.3) によって説明することができた. DDPMのS
1に対する異常な反応性からS
1近傍にヒスチヂン残基の存在が示唆された. (2) S
2の反応速度は低分子モデル化合物 (NAC) に較べて極端に小さく, 基質ATP添加によりその反応性が大きく増加すること, 芳香族側鎖試薬に対する反応性が高いことから, S
2も埋没状態にあると推定された. (3) S
1領域はpHにより, S
2領域は温度に依存してそれぞれ2つの異なった高次構造をとることが結論された. (4) S
1およびS
2領域は, 基質ATPまたは生成物ADPによって大きく融解されることが示された. 後者の場合には, S
2が溶媒に露出するかわりに, それと等モルの特異的なSH基が代償的に分子中に埋め込まれる (S
2領域高次構造のシーソー的転換現象).
以上のことからS
1およびS
2はATP結合部位に極めて近いところに存在し, E・ADPPi複合体では両者ともに埋没状態から露出し, 同時に他のSH基が逆に露出状態から埋没状態に移ることが結論された.
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