順天堂医学
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46 巻, 3 号
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Contents
目次
総説
  • 菊地 正悟
    2001 年 46 巻 3 号 p. 286-292
    発行日: 2001/01/20
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    Helicobacter pyloriはわが国では年齢とともに陽性率が高くなる. 同胞数が多い人, 父親や同胞に胃疾患がある人に陽性率が高いことから小児期の感染が重要であると考えられる. 喫煙者や飲酒者で陽性率が低くなる傾向があり, ニコチンやアルコールがこの細菌にとってすみにくい環境をつくることが考えられる. H. pyloriが感染すると, 血清pepsinogen I, IIとも上昇し, I/II比は低下する. 7年間追跡して長期的な影響を調べた研究では, H. pylori陽性者は陰性者に比べ, I/II比が低下する頻度が有意に高い. 胃がんの原因となることは, これまでの血清疫学的研究に加えて, スナネズミによる動物実験で発がん促進作用があることが確認されたことから確実である. H. pyloriの除菌による胃がんの予防が考えられるが, そのためにはH. pyloriの作用時期の特定が重要である. H. pylori陽性率の減少によって噴門部がんや, 食道下部腺がんの増加が予想されるが, 胃がんの減少に比べればわずかであると考えられる.
  • 三輪 洋人, 佐藤 信紘
    2001 年 46 巻 3 号 p. 293-303
    発行日: 2001/01/20
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    最近ヘリコバクター-ピロリ (以下H. pylori) の臨床的意義が明らかにされ, 最近胃疾患の治療が根底から変わりつつある. 除菌の対象に関しては, 今後のさらなる議論が必要であるが, 実際のH. pylori感染症に対する臨床的対応はそれほど困難なものではなく, H. pylori感染症をいかに診断し, そしてどのように治療するかに集約される. H. pylloriの診断法には大きく分けて, 内視鏡を用いる侵襲的診断法と内視鏡を用いない非侵襲的診断法がある. 非侵襲的診断法のうち, 13C尿素呼気テストは最も診断精度に優れた方法のひとつであるとされる. また, その優れた診断精度から除菌治療後の治癒判定にも積極的に用いられている. 血清診断キットは欧米からの輸入キットがほとんどであるが, 近年このキットを日本人にも用いると, その診断率が欧米での成績よりかなり劣ることが明らかとなり, 本邦独自での血清抗体の開発が待たれる. 最近尿を用いたIgG抗体検出キットが開発されたが, 従来の血清抗体測定法以上に良好な診断率が報告された. また, 便中H. pylori抗原測定法も実用化され, その信頼性に対しても検討もすすんできた. 除菌療法の世界の主流はプロトンポンプ阻害剤 (PPI) と抗菌剤2剤を用いた新3剤療法である. 欧米では除菌治療レジメに関して多くの論文が出されているが, これら欧米人で用いられる治療法が日本人でも有効かどうかについては新たな検証が必要である. われわれの多数例の検討では, 現在の日本における最適な治療法はPPIの2倍量 (1日2錠) にアモキシシリン1500mg, クラリスロマイシン400mgを組み合わせて7日間服用するPPI/AC療法であると考えている. 副作用は下痢や口腔内症状が主であるが, ほとんどは軽微で服薬率に影響を与えることは少なく, 安全な治療法でもある. H. pylori感染症の診断と治療は常に進歩しているが, 新しい方法や知識をいち早く取り入れ, そしてそれらの限界を見極めながら安全に効率よくH. pylori感染症の診断と除菌治療を行っていくことが肝要である.
  • -病理学的見地から-
    平井 周
    2001 年 46 巻 3 号 p. 304-310
    発行日: 2001/01/20
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    Helicobacter pylori (H. p) の細菌学的性状・検出法, ならびに上部消化管疾患との関連性について病理学的見地から概説した. H. pの病原因子としてこれまでに, ウレアーゼ活性・空胞化毒素・熱ショック蛋白・サイトカインなどが判明しており, さらに1997年にH. pの全遺伝子構造が解明されたことにより, 粘膜障害機序や薬剤耐性の更なる解明が期待される. 病理組織検索はH. p検出法の一つで, より明瞭な観察には特殊染色の選択が重要であり, 採取部位による偽陰性, 球状菌の判定などにも注意が必要である. H. p感染は非特異性炎であるが特徴的な組織反応が認められ, H. p菌体検索の手がかりとして重要である. H. p感染に関連する疾患としては, 非腫瘍性では慢性活動性胃炎・濾胞性胃炎・胃十二指腸潰瘍・Barrett食道炎などがあり, 悪性腫瘍では胃癌や胃MALTリンパ腫が考えられており, 詳細な検討が待たれる.
  • -21世紀に向けての課題-
    佐藤 猛
    2001 年 46 巻 3 号 p. 311-321
    発行日: 2001/01/20
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    プリオン病は遺伝性, 孤発性, 医原性の神経疾患からなり, 細胞質内の可溶性プリオンが蛋白分解酵素にても分解されない不溶性のプリオンに変換することが特徴である. 全国疫学調査にて1979年1月から1999年9月にかけてヒト乾燥硬膜移植後に発症したクロイツフェルト-ヤコブ病 (CJD) 患者70名が見いだされた. その中, 少なくとも64名は特定の製造会社の同一方法で処理された硬膜が使用されていた. 孤発例の平均63歳に比し硬膜移植CJD患者では平均発症年齢が53歳と若く, 初発症状が小脳失調と見当識障害が多いことが特徴であった.
原著
  • 田中 新樹, 濱田 千江子, 窪田 実
    2001 年 46 巻 3 号 p. 322-330
    発行日: 2001/01/20
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    目的: CAPD療法の継続に大きな影響を及ぼすカテーテル感染症の発症率・症状・起因菌・転帰について調査し, これまでの報告と比較検討した. 対象と方法: 順天堂医院で6ヵ月以上CAPD療法を施行した172名 (男性115名・女性57名) の慢性腎不全患者を対象とし, カテーテル感染症の実態を調査した. 結果: 出口部感染・トンネル感染, 腹膜炎の発症回数はそれぞれ, 53回 (発症率: 1回/130.1患者・月) ・50回 (発症率: 1回/137.9患者・月) ・103回 (発症率: 1回/67.0患者・月) であった. カテーテル感染症の起因菌は, 黄色ブドウ球菌が最も多く, 次いで表皮ブドウ球菌・溶血性連鎖球菌・グラム陰性桿菌の順であった. 65歳以上の患者のカテーテル感染症は, 65歳未満の患者と比較して有意に少なかった. 慢性腎不全の主な原因疾患である慢性糸球体腎炎と糖尿病性腎症の間には, カテーテル感染症の発症率には有意な差はみられなかった. また, カテーテル感染症の発症率は, 透析液交換システムの改善に伴って有意に低下していた. 結論: 今回のカテーテル感染症に関する成績は, 既報の成績と比較して明らかに低率であった. これには, 著者らのカテーテル挿入法やカテーテルケア, 患者教育などでの様々な工夫や改善が関与していると考えられた.
  • 中原 和樹, 益田 貞彦
    2001 年 46 巻 3 号 p. 331-343
    発行日: 2001/01/20
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    目的: 非小細胞肺癌において, (I) N0・N1症例に対する縦隔リンパ節郭清範囲の縮小は可能であるか, (2) 左側N2症例に対する系統的拡大郭清 (両側縦隔リンパ節郭清) は予後を改善するか, を検討する. 対象・方法: 非小細胞肺癌切除例のp-N0・N1・N2症例 (510例) を対象として, 郭清度別の予後, 再発部位, N2症例における肺葉別リンパ節転移部位などを分析した. 結果: p-N0症例は307例で5年生存率 (以後5生率) は73.8%だった. 郭清度別の比較では, NDO+ND1症例が78.1% (n=27), ND2以上の症例が73.4% (n=280), 左肺ND2症例について完全郭清群が78.1% (n=24), 不完全郭清群が72.5% (n=71) で, ともに有意差を認めなかった. p-N1症例は93例で5生率は43.9%, 郭清度別5生率はND1が28.6% (n=7), ND2以上の症例が45.4% (n=86), 左肺ND2症例のうち完全郭清群は39.0% (n=21), 不完全郭清群が62.7% (n=19) で, ともに有意差を認めなかった. p-N2症例は110例で, 腺癌72例・扁平上皮癌27例・大細胞癌8例だった. 腺癌の野口分類A, B型, 扁平上皮癌の腫瘍径2cm以下はなかった. 原発部位は右上葉33例・右中葉6例・右下葉28例・左上葉29例・左下葉14例だった. P-N2症例の5生率は17.0%で, P-N0症例・p-N1症例に対し有意差を認めた. 原発肺葉と縦隔リンパ節の転移部位の関係をみると, 右上葉は#3, 4, 7, 右中下葉は#3, 4, 7, 左上葉は#4, 5, 6, 左下葉は#4, 7のいずれかに転移を認めた. 術後の再発部位は, リンパ節だけに再発を認めたのは左下葉が3例, 左上葉と右下葉が各1例だった. 左下葉例は対側縦隔のリンパ節再発だったが, 左上葉例は患側縦隔のリンパ節再発だった. 結論: (1) p-N0・N1症例で縦隔リンパ節郭清の範囲を縮小できる可能性がある. (2) 左肺のp-N2症例に対する系統的拡大郭清は, 一部の下葉症例でのみ予後改善に寄与する可能性がある.
  • --告知後の患者と家族の心理--
    卜部 元道, 新井 平伊, 広沢 正孝, 鎌野 俊紀, 鶴丸 昌彦, 関根 正幸, 安藤 隆夫, 岩崎 良三
    2001 年 46 巻 3 号 p. 344-352
    発行日: 2001/01/20
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    目的: 根治不能癌患者への緩和医療を行うに当って, がん告知は必須の事柄である. しかし, 患者への精神的衝撃を最小限にして, いかに患者と家族, それと医療者との三者の関係を良好に保つかがチーム医療を行う上で最大の課題と考え, これを解決する糸口を探ることをめざした. 対象・方法: 筆者らが担当した根治不能消化器癌患者9名に対し, まず患者自身に『病状説明に関する意識調査』を初診時に行った. 以後, 新井の7段階告知様式を用いて段階的に告知し, 患者と家族の心理の推移を考察した. 結果: 患者が自分の病名, 病状について告知を強く希望しており, 家族の心理も患者自身の希望を尊重する心理が明らかとなった. 根治不能癌患者に対する緩和医療を行う際, 病状の進行に伴って複数回の告知, インフォームド・コンセントを行う必要があった. これに際して, 段階的に告知レベルの内容を高めた結果, そのつど患者の心理の変化を知り, 希望する医療内容を選択できた. このことが患者と家族の関係を良好に維持できたことから, 家族の心理も, ほぼ高い満足度を得たと考えられた. 結論: 段階的告知はがん患者の心理の変化を的確に知ることができる. このことを正確に把握して, 患者の希望に応じた良いチーム医療を行えるよう配慮したい.
症例報告
  • 大日方 薫
    2001 年 46 巻 3 号 p. 353-356
    発行日: 2001/01/20
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    ヒトパルボウイルス (HPV) -B19感染に伴ってループス様症状を呈し, 低補体血症や自己抗体産生など免疫学的検査異常を認めた2例を経験した. 症例1は35歳の女性. 発熱・多関節炎・レイノー症状, 体幹の発疹および顔面の蝶形紅斑があり, リンパ球減少・低補体血症・抗核抗体陽性を認めたため, SLEと診断された. 同時期に6歳の長女が伝染性紅斑に罹患したことからHPV-B19抗体を測定したところ, 母子ともにIgM抗体が上昇しており, HPV-B19特異的PCRによるゲノムDNAの検出が陽性であった. 症例2は13歳の女児. 顔面・四肢の紅斑, 多関節痛があり, リンパ球減少・血沈亢進・低補体血症・抗核抗体陽性を認め, SLEと診断された. 同胞2名が伝染性紅斑に罹患したことから, 患児のHPV抗体の検索を行ったところ, IgM抗体を検出した. これら2症例のループス様症状は短期間に消失し, 検査値も数ヵ月以内に正常となった. HPV-B19感染により自己免疫反応が誘導され, 一過性にループス様症状を呈した可能性が考えられた.
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