1. 緩和ケア, 最近の考え方
西欧とは異なり, 日本の緩和ケアは病院から始まった. 現在までに約200のホスピス・緩和ケア病棟が誕生しているが, 西欧のようなホスピス・マインドの文化・歴史がなく, 在宅ホスピスも生まれにくい状況で, 日本の緩和ケアは病院で始まったまま病院に留まる傾向が強かった. 高齢化社会でがん死が増加し続ける現況では, いずれ病院の収容能力が限界に達し, 「終末期がん難民」が生まれる. そのような状況下, 平成19年4月「がん対策基本法」が施行され, 「がん患者の療養生活の質の向上に向けて, 「がん早期から必要に応じ疼痛などに対する緩和ケア, 在宅でがん医療を提供できる連携体制の確保, 医療従事者に対する緩和ケア研修の機会の確保」等が定められた. 平成21年度から, 各都道府県のがん診療連携拠点病院は, 「がん診療に携わるすべての医師が緩和ケアついての基本的知識を習得すること」を目標に, 2日間12時間以上にわたる「緩和ケア研修会」を開催することが義務づけられたが, がん診療に携わるすべての医師が受講し終わるには5-10年を要しそうである. 在宅緩和ケアと地域連携への先進的な取り組みは, 宮城県名取市, 広島県尾道市, 長崎市などで, 主に診療所医師, 医師会が中心となって実施されている. 栃木県でも, 2年前に「在宅緩和ケアとちぎ」を立ち上げ, 地域連携のネットワーク作りをめざしている.
2. スピリチュアルペイン, そして「喪失の疑似体験」
死にゆく過程で人はどのような心的体験をするのでしょう?もはや治療法もなく, 余命が限られていることを悟ってしまった患者の心理的な苦痛はいかばかりか. 当事者でなければわからない, 他人には理解できないものでありましょう.
大切なものを失って行き, できることができなくなり, 否応なく日常を変えざるを得ない状況になっていく, その過程で, 「本当に大切なものは何だったのか, 何のために生きてきたのか」, といった問いを自らに突きつけ, その答えを求めて苦悩することになるのです. これが, 自分という存在の根底を揺るがす「スピリチュアルペイン」です.
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