北上山地と阿武隈高地に産出する白亜紀花崗岩類の酸素同位体比(δ
18O SMOW)を48個の全岩試料について新たに報告するとともに,既存値10個とあわせて花崗岩類の起源に関する考察を行った. 北上山地の白亜紀前期の花崗岩類は主に磁鉄鉱系に属し,低いSr同位体比初生値(0.70363-0.70463を)持つ.δ
18O値はI 帯の花崗岩類で最も低く,この花崗岩類が
18O に枯渇したソレアイト系苦鉄質岩類の部分溶融によって発生した可能性を暗示する.II 帯や Va 帯の花崗岩類には高
87Sr岩類が認められており,その起源に沈み込む海洋地殻の部分溶融が示唆されている.変質海洋地殻が溶融すれば高いδ
18O も期待できるが,II 帯の値は北上山地で平均的なもので特に高くはない.カリウム質の日神子岩体とカルクアルカリ岩系の人首岩体からはやや高い値が得られた.日神子岩体の諸岩石は酸化的でKに富むから,そのような起源物質が上部マントル レベルで必要であり,人首岩体は主にやや還元的なカルクアルカリ岩であるから,その起源物質には大陸地殻下部の若干の堆積岩を含む苦鉄質岩類が考えられる. 阿武隈高地の花崗岩類は主にチタン鉄鉱系に属し,そのSr同位体比初生値は北上山地よりやや高く0.70518前後である.δ
18O値は北上山地に於ける値よりも全般的に高く,花崗岩系列の相違と一致し,その起源に大陸地殻の堆積性物質の混在が推察される.被貫入岩類の広域変成度が高い西列の花崗岩類は東列のものよりもやや高いδ
18O値を持つ.西列の両雲母花崗岩は最も高いδ
18O値を持ち,この花崗岩類の起源に
18Oに富む大陸地殻起源の堆積岩類の比率が最も高く,他の石英閃緑岩-花崗閃緑岩類は主に苦鉄質火成岩起源であったことを示している.
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