瀬戸内海の西部に位置する広島湾は,かつてはアサリの高い生産性を誇っていたが,近年,アサリの水揚げ量は急激に減少し,アサリの生息地は湾奥の太田川河口付近から大野瀬戸周辺で確認されるだけとなった.アサリは浮遊幼生期を持っているため,アサリ資源量回復には,アサリの生息域間の連結性(connectivity)を明らかにすることが重要である.そこで本研究では,広島湾におけるアサリ幼生の輸送過程を,数値モデル実験により解明することを試みた結果,6月には幼生は広島湾の西半分を通って南下したが,11月では幼生の分布は湾北部のみに 限定されることが明らかとなった.一方で,瀬戸内海では年2回,春と秋にアサリの産卵期があるが,近年の広島湾では秋に比べ春の幼生密度が非常に低いことが解ってきた.つまり,南下できる春に幼生密度が低くなったことが,アサリの生息域が湾北部に限られるようになった原因であると類推される.
2011年に発表した論文のなかで,我々はP波反射法測線に加えた3成分受振器1台で記録されたP – SV反射波を使い,その点下のS波速度構造を求める方法を開発した.そして,この方法をP – SV反射法探査の受振点一カ所に適用し,その点下の地下2 kmまでのS波速度構造を得られたこと,その結果がそのP – SV反射法探査やこの点近くの坑井内地震探査法(VSP)の結果とよく一致することを示した.今回の論文では,P波反射法探査時にP波反射法用の上下動成分受振器192台に3成分受振器1台を追加した際の運用調査を目的として,2006年に埼玉県鴻巣市で行った探査データを解析した結果を示す.探査測線中の5地点で3成分受振器設置を試みたが,そのうち1点でのみ解析に耐えうるデータが得られた.その受振点ギャザ上には複数のP – SV反射波が観測されており,その点下の地表から500 m深までのS波速度構造を求めることができた.