音声言語医学
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62 巻 , 2 号
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原著
  • 池尻 幸司, 橋本 幸成, 水本 豪, 宇野 彰
    2021 年 62 巻 2 号 p. 91-98
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/19
    ジャーナル 認証あり

    非語の音読で文字列全体の音読を試みると語彙化が生じ,自分でその誤りに気づき,いったん自己修正を試み,逐字読みによって正しく音読できたにもかかわらず,再度語彙化錯読する症状を呈した失語症例に対し,各種言語検査の結果に基づき分析した.仮名1文字の音読における反応の遅延とモーラ合成の成績低下から,非語彙経路における文字―音韻変換処理の効率性の低下および出力バッファ内の音韻統合の問題が疑われた.語彙化錯読については,非語彙経路と比較して相対的に活性度が高まった語彙経路の文字列レキシコンと音韻列レキシコンの活性化が関与していると考えられた.また,逐字読みにより正しく音読できた点については,語彙化を抑制して非語彙処理を行えたためではないかと考えられる.症例が非語全体を再度音読すると,最初の語彙化と同様に,相対的に活性度が高まる語彙経路において実在語表象が誤って活性化され,二度目の語彙化が生じたと推測された.

  • ―「北風と太陽」の比較―
    逢坂 美加, 城本 修
    2021 年 62 巻 2 号 p. 99-107
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/19
    ジャーナル 認証あり

    【目的】2つの「北風と太陽」の日本語文章のうちケプストラム分析にどちらが適した文章か検討する.
    【対象】若年健常話者45名(男性21名,女性24名),平均年齢21.5歳(SD 2.0歳)
    【手続き】2種類の「北風と太陽」の日本語文章(資料1,資料2)を各2回ランダムに音読させ,録音した音声のCPP,CSID,L/H ratio, durationを測定した.1回目の録音を第1試行,2回目の録音を第2試行とした.
    【結果】どちらの文章も全パラメータについて検者内・検者間信頼性,日内再現性は0.9を超える高い相関を示した.また,資料1と資料2の第1試行の各パラメータ平均値を比較した結果,全パラメータにおいて有意差を認めた.資料2のほうがCPPとL/H ratioの測定平均値は有意に大きく,CSIDの測定平均値は有意に小さくなった.さらに,資料2の各パラメータ値と,有声音出現率との間に弱い相関を有意に認めた.
    【結論】資料1に比し有声音出現率が高い資料2のほうが,ケプストラム分析には適していると考えられた.

  • 古川 怜奈, 田口 亜紀, 城本 修
    2021 年 62 巻 2 号 p. 108-115
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/19
    ジャーナル 認証あり

    われわれは,Vocal Function Exercises(VFE)の短縮版として,特定の高さでの発声持続練習,発声持続練習のみを行うVFE短縮版を考案し,健常人で検討した.健常人成人女性29名を対象に,持続発声群,胸声群,頭声群の3群に分け,10日間の音声訓練を行った.訓練前後で最長発声持続時間(MPT),空気力学的検査,生理的声域,音響分析,自覚的評価について検討した.結果,胸声群では,MPTの延長,生理的声域の拡大,APQの低下を有意に認めた.本研究から,VFE短縮版は訓練期間が短縮され,音声治療に対する効果も期待できると考えられた.

  • 岩城 忍, 涌井 絵美, 高橋 美貴, 入谷 啓介, 四宮 弘隆, 丹生 健一
    2021 年 62 巻 2 号 p. 116-122
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/19
    ジャーナル 認証あり

    高齢者の音声障害に対してVocal Function Exercises(VFE)施行後1年での発声機能について検討した.対象は2014年2月以降に発声困難を訴え神戸大学医学部附属病院耳鼻咽喉・頭頸部外科を受診しVFEを施行した21例のうち,VFE終了後1年で音声評価を実施できた5例.男性2例,女性3例,年齢は68〜78歳(平均72.2歳)であった.VFE終了時には他覚的指標で一定の改善が得られ,1年後に維持,改善している項目もあるものの,1年後には維持できていない項目も多く見られた.高齢者の音声障害ではVFE施行後の音声の長期的な維持が困難な例があると思われた.加齢に伴う身体的変化や機能的低下は経年的であることが一因であると考えられ,今後,高齢者のVFEの効果を長期的に維持するためには,ベースプログラムをさらに長期間実施すること,同時に発声の機会を積極的に増やすよう働き掛けることが必要であると考えられた.

  • 大石 如香, 菅井 努
    2021 年 62 巻 2 号 p. 123-133
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/19
    ジャーナル 認証あり

    左側頭葉病巣により健忘失語を呈した2例における二方向性失名辞の呼称の特徴とメカニズムについて検討した.症例1は53歳右利き女性.左側頭葉神経膠腫と診断され,左側頭葉前方を切除した.症例2は70歳右利き女性.左側頭-頭頂葉に脳出血を認めた.2例ともに流暢な発話と良好な復唱,自発話における失名辞,高頻度に見られる空語句や迂言,低頻度語における聴理解障害から二方向性の健忘失語と考えられた.2例に共通する失名辞の特徴として,(1)失名辞を呈した語に対し,名称を聞いても再認できない,(2)語頭音呈示により音韻的類似語が誘発される,(3)語頭音効果が乏しいといった症状が見られた.語彙理解に関する検討では,名詞の聴覚的理解や類似性判断等の言語-言語性課題の成績が低下していた.2例に見られた失名辞の背景として語彙理解障害が語彙選択障害の基盤になっている可能性が示唆された.

  • 宮崎 恭子, 櫻井 大樹, 増山 敬祐
    2021 年 62 巻 2 号 p. 134-139
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/19
    ジャーナル 認証あり

    山梨大学医学部附属病院および他院にて2003年1月から2018年6月までに喉頭摘出術を受けた患者243例を対象に,術後の音声の使用度や社会的,経済的側面に関するアンケート調査を行い,有効な回答を得た140例を解析した.術後のコミュニケーションの方法はシャント発声がほとんどを占めた.術後の生活の不自由さは,90%が不自由と感じ,術前に比し音声の使用度は低下した.職業の変化は,転職,離職(退職),配置換えは約半数あり,月収は減少し,社会的経済的にも不利な立場になることが明らかであった.40年前に平野らが食道発声および人工喉頭を主なコミュニケーション方法とした喉頭摘出者を対象に行った同様の調査結果と比較して大きな変化は見られなかった.今後,音声再獲得のための治療法や代用音声の研究に加え,術後の患者の社会的および経済的側面へのフォーカスを継続し,さらなるQOL改善に目を向けていく必要がある.

  • 間藤 翔悟, 宮本 真, 渡邉 格, 茂木 麻未, 中川 秀樹, 齋藤 康一郎
    2021 年 62 巻 2 号 p. 140-146
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/19
    ジャーナル 認証あり

    病悩期間の長い声帯結節に対する音声治療(VT)の効果を検証した.対象は病悩期間6ヵ月以上の声帯結節患者で, 2017年6月以降に当科でVTを実施した10例.全例女性で平均年齢38.6±9.6歳,平均病悩期間28.3±20.6ヵ月であった.VTは声の衛生指導,喉頭マッサージ,semi occluded vocal tract exercises,vocal function exerciseを用いた.VT後にMPT,jitter,shimmer,VHIは有意に改善し,病変が縮小〜消失した患者の割合は70%であった.特に病悩期間36ヵ月以内の患者では8例中7例(87%)で病変サイズが改善し,サイズ不変例でもVHIは改善した.VT後に喉頭微細手術を実施した患者は若年者であり,VT期間中に職業性の音声酷使に伴う音声の悪化経験を伴っていた.

  • 岡野 由実, 富澤 晃文, 池田 泰子, 坂崎 弘幸, 角田 玲子, 伏木 宏彰
    2021 年 62 巻 2 号 p. 147-155
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/19
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    言語聴覚士を雇用する耳鼻咽喉科クリニックは全国的に非常に限られている現状がある.地域の言語聴覚士に対するニーズと耳鼻咽喉科クリニックにおける言語聴覚士の役割を検討するため,当クリニックにおける言語聴覚療法および補聴器外来対象者の診療録を後方視的に分析した.
    地域の言語聴覚士へのニーズは小児の言語発達や構音,吃音,さらには加齢性難聴への対応など多岐にわたり,特に小児の相談が多い傾向を示した.地域のクリニックという身近さから,ホームページを見て自発的に相談にいたるケースが多く,遠方より来院するケースもあり,地域の耳鼻咽喉科クリニックにおける言語聴覚士に対するニーズの高さが示された.耳鼻咽喉科医と言語聴覚士が協働することで診療の質の向上を図ることができ,今後言語聴覚士の雇用が要請されているといえる.雇用にあたっては設備面や費用面,人員の不足,言語聴覚士の研修制度などに課題があることが示唆された.

  • 浜田 千晴, 宇野 彰
    2021 年 62 巻 2 号 p. 156-164
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/19
    ジャーナル 認証あり

    小学1年生173名を対象に,ひらがな特殊表記の音読および書字の習得度とそれらに影響する認知能力を検討した.刺激は促音,拗音,長音,撥音の各表記を含む単語(特殊表記単語)と非語ならびに清音,濁音,拗音,撥音のかな1モーラ表記文字とした.典型発達児の音読において,拗音表記文字では頻度効果が認められ,単語では促音および拗音表記の正答率は長音および撥音表記に比べて有意に低かった.また,書字において,単語では促音表記の正答率が最も低く,次いで,拗音と長音表記は撥音表記に比べて有意に低かった.重回帰分析の結果,単語音読には単語逆唱と図形模写と語彙,単語書字には特殊表記単語の音読成績と非語復唱と図形直後再生が有意な予測変数として示された.小学1年生における特殊表記単語の音読には音韻処理能力,視覚認知能力,語彙力が影響し,書字には音読力の影響が示唆された.

症例
  • 大塚 満美子, 佐藤 絵梨, 齋藤 あや, 熊田 政信
    2021 年 62 巻 2 号 p. 165-172
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/19
    ジャーナル 認証あり

    舌突出現象(tongue protrusion, tongue thrust)は,発話時のみの不随意的な舌の突出が特徴である.海外では局所性ジストニアの一種としてボツリヌストキシン注射による治療報告が多くあるが,国内での報告は限られており,詳しい治療経過や言語聴覚士との連携については報告されていない.
    われわれは舌突出現象が認められた3例に対し,ボツリヌストキシン注射および言語聴覚士による評価と訓練を併用し,良好な治療結果を得たので報告し検討を加えた.3例ともに,構音安定時には発話明瞭度1,発話自然度1までの改善が認められ, 治療前は最大時に「歯列外」まで出ていた舌突出が認められなくなった.自験例における舌突出現象は局所性ジストニアであり,ボツリヌストキシン注射および言語聴覚士による評価と訓練が有効であった.

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