フィッシャーシーラントがう蝕予防効果の高い予防法であることは,多くの調査により確認されている。しかし,フィッシャーシーラントの経済性については未だ明確ではない。今回の調査の目的は,異なったフィッシャーシーラントの適応基準の経済性を評価すること,および最も有効な基準に影響を与える主要因を明確にすることである。今回の調査のために,小学1年生〜3年生290人の健全な第一大臼歯854歯を選出した。3つの異なった適応基準でそれぞれ実施した際の経済性をシミュレーションにより比較した。適応基準として選択した指標は,1)う窩の形成を伴わない軽度のSticky fissure(以下(SF)),2)同一顎内の反対側同名歯にう蝕を認めた歯牙,3)小学校1年時の第二乳臼歯4本すべてにう蝕を有する児童の歯牙,4)すべての歯牙,である。期待効用値(シーラント処置,および必要に応じて実施したう蝕処置の1歯あたりの費用),およびコスト-エフェクティブネス値を4つの適応基準ごとにそれぞれ算定した。それぞれの適応基準で実施した際,期待効用値では,基準2(同一顎内の反対側同名歯にう蝕を認めた歯牙)が最も低く199円であった。また,基準1(SF)が次に低く(289円),以降,基準3(小学校1年時の第二乳臼歯4本すべてにう蝕を有する児童の歯牙; 526円),基準4(すべての歯牙; 1,520円)の順であった。基準2の期待効用値を1とすると,基準1,3,4の期待効用値はそれぞれ1.5,2.6,7.6であった。同様に,コスト-エフェクティブネス値は,それぞれ,基準1(SF)が6,004円,基準2が10,193円,基準2が17,668円,基準3が27,282円であった。基準1のコスト-エフェクティブネス値を1とすると,基準2,3,4のコスト-エフェクティブネス値はそれぞれ1.7,2.9,4.5であった。フィッシャーシーラントの経済性は,対象集団のう蝕有病状況の違いにより変化することが確認された。う蝕が比較的少ない対象集団では,フィッシャーシーラントはSticky fissure に対してのみ実施されるべきである。一方,今回の調査でシミュレーションされたように,3年間で第一大臼歯の80%以上がう蝕に罹患するような集団では,フィッシャーシーラントはすべての小窩裂溝に対し実施されるべきである。これらの結果から,Sticky fissureのみを適応基準として実施するシーラントプログラムは最も経済性が高く,シーラントプログラムは,適応基準の決定を含めて,対象集団のう蝕有病状況にあわせて計画されるべきであることが明らかになった。
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