口腔衛生学会雑誌
Online ISSN : 2189-7379
Print ISSN : 0023-2831
ISSN-L : 0023-2831
47 巻, 5 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
原著
  • 川崎 浩二, 田中 康弘, 高木 興氏
    1997 年 47 巻 5 号 p. 652-656
    発行日: 1997/10/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    脱灰後,Nd-YAGレーザー照射を受けたヒト小臼歯エナメル質,ならびに脱灰後再石灰化されたエナメル質を高分解能電子顕微鏡を用いて観察した。脱灰後レーザー照射を受けたエナメル質の表層100〜150nmの領域は明るいコントラストとして変化しており,さらに高倍率の観察から,この変化領域は結晶性の良否の違いによって2層に分かれた。すなわち,表層の数十nmでは結晶格子縞が不明瞭に散在し,結晶性が悪いがそれより深い領域では明瞭な格子縞が確認され結晶性が高いことが確認された。一方,再石灰化エナメル質は格子縞の面間隔と格子面のなす角度からtetracalcium diphosphate monooxideである可能性が高いことが示唆された。
  • 安藤 雄一, 池田 恵, 葭原 明弘
    1997 年 47 巻 5 号 p. 657-662
    発行日: 1997/10/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    質問紙による現在歯数の自己評価法の信頼性について,この方法が地域レベルの成人歯科保健の評価方法として応用可能かどうかを検証することを目的として,新潟県の3町村の成人を対象に調査を行った。対象者には自身の現在歯数をそのまま記入させる質問を行い,□腔診査による実測値との一致度について調査を行った。分析対象者数は2,496名(平均年齢58.94±12.75歳)であった。その結果,対象者の自己評価による現在歯数の平均値は19.59,実際の現在歯数の平均値は19.60であり,両者の差はわずかで有意差が認められなかった。年齢階級別にみても,平均値の差は小さく,いずれの年齢階級においても有意差が認められなかった。個人単位での一致度については,相関係数が0.93と高かった。以上のことから,集団レベルの現在歯数は,口腔診査を行わなくても,質問紙による自己評価法によって十分正確に把握できることが示された。
  • 小島 登喜子, 末高 武彦
    1997 年 47 巻 5 号 p. 663-674
    発行日: 1997/10/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    歯科衛生士の職業寿命や需要供給量について明らかにするため,17都府県に在住する歯科衛生士1,712人を対象として「歯科衛生士の業務従事状況調査」を実施した。回答者は749人であり,歯科衛生士免許取得後の既婚率は6〜10年目で57%, 16〜20年目で88%である。歯科衛生士業務への従事率は,未婚者では1〜5年目で94%, 6〜10年目で88%,11〜15年目で82%, 16〜20年目で77%であり,既婚者ではそれぞれ61, 50, 48, 55%である。このうち,フルタイム従事者は,未婚者では1〜5年目で98%で,その後徐々に低下し16〜20年目で87%となり,既婚者では1〜5年目で92%で,その後次第に低下し16〜20年目で68%となる。日本人女性の将来生命表に基づく死亡率と上記の既婚率,業務従事率,フルタイム従事率をもとに,歯科衛生士免許取得者1万人の免許取得後40年目までの業務従事率を推計すると,フルタイム従事率は10年目で58〜66%,20年目で37〜44%, 40年目で35〜42%となる。また,パートタイム従事者も加えた総従事率は10年目で64〜71%,20年目で54〜60%,40年目で52〜58%となる。歯科衛生士養成数が現在の入学定員で今後も推移すると仮定したとき, 2020年における業務従事歯科衛生士推計数は,フルタイム従事者が約126,000〜145,000人となり,パートタイム従事者も加えると約160,000〜177,000人となる。
  • 川口 陽子, 大原 里子, 佐々木 好幸, 平山 康雄, 米満 正美
    1997 年 47 巻 5 号 p. 675-682
    発行日: 1997/10/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    日本人と韓国人は人種的にはモンゴロイドに属するが,民族としては異なっており,食生活,言語,文化,習慣などの生活環境も異なっている。民族性,生活環境の歯科疾患への影響を調査する目的で,3つの民族集団,日本に住む日本人(東京),韓国に住む韓国人(ソウル),日本に住む在日韓国人(大阪)の口腔内状況を比較してみた。対象は,1992年にわれわれが歯科健診を行った小学校1,6年生,中学校1,3年生であり,対象者数は,東京が335名,ソウルが401名,大阪が118名であった。韓国人の齲蝕有病者率やDMFTは,どの学年においても一番低かった。在日韓国人の齲蝕有病者率やDMFTの値は,韓国人よりも日本人に近い値を示した。12歳児のDMFTは,韓国人2.79歯,日本人3.76歯,在日韓国人4.17歯であった。また,韓国人のPMA indexや不正咬合を所有する者の割合も,三者間で一番低かった。これらの結果から,韓国人は日本人よりも,良好な口腔保健状態であることが明らかになった。しかし,在日韓国人は韓国に住む韓国人よりも齲蝕は多く,口腔保健状態は日本人と似ていた。在日韓国人の国籍は韓国であるが,彼らは日本で生まれ,日本の生活環境下で育っている。本研究の結果から,民族性よりも生活環境のほうが,歯科疾患に影響する要因として大きいことが示唆された。
  • 黒瀬 真由美, 森田 学, 渡邊 達夫
    1997 年 47 巻 5 号 p. 683-692
    発行日: 1997/10/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    広島市内の幼稚園児約100名(初診時年齢3〜4歳)について,乳歯う蝕予防を試み,2年間追跡した。実験群の園児に対して年2回,フッ化物を塗布した。保護者に対してはう蝕予防に関する講演と,食事調査票を用いて砂糖の摂取制限の個別指導を行った。食事調査は,砂糖の摂取量算出を目的としたため,3日間の記録法を用いた。砂糖の摂取状況とう蝕罹患の関係について分析した。その結果,実験群では1年後に食事調査票上で砂糖摂取量の有意な減少を認めたが,対照群と比較してもう蝕抑制はみられなかった。また,3〜4歳児における砂糖の摂取状況とう蝕有病状態,その後のう蝕発生との間に有意な相関を認めた。しかも,栄養学的に妥当とされている量の砂糖を摂取している園児(1日20g以下)では,う蝕の発生が抑えられていた。しかし,4〜5歳での砂糖摂取状況とう蝕との間には相関はみられなかった。以上より,次のような結論を得た。1. 講演,ブラッシング指導,フッ化物塗布によるう蝕抑制効果はみられなかった。2. 乳歯う蝕を抑制するためには,4歳以前から砂糖の摂取量を抑えることが必要であり,1日あたり20g以下が目安となることが示唆された。3. 3〜4歳児の砂糖摂取量を調べることによって,その後のう蝕増加を予想できる可能性が示唆された。
  • 埴岡 隆, 高谷 桂子, 田中 宗雄, 岸本 美香子, 雫石 聰
    1997 年 47 巻 5 号 p. 693-702
    発行日: 1997/10/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    わが国における口腔保健医療従事者による喫煙対策の推進を図るため,歯科医師の喫煙習慣,喫煙に関する知識,患者の禁煙支援の活動実態およびその障壁について調査を行い,日常診療への禁煙プログラムの導入について検討した。某大学同窓会会員歯科医師における調査(回答者545名,回収率70.6%)では,喫煙率は男性28.7%,女性1.6%であり,男性の29.8%は元喫煙者であった。喫煙関連疾患の知識は全体的に低い水準であったが,口腔癌は約65%,歯周病は約42%の歯科医師が喫煙と関連があると答えた。喫煙習慣の問診は約65%,喫煙の害の助言も約40%の歯科医師が行っており,この割合は,口腔癌と比べて,歯周病の知識を有する者が高かった。喫煙問題に関心が高い日本禁煙推進医師歯科医師連盟の歯科医師会員を対象とした調査(回答者67名,回収率78.8%)では,禁煙支援活動のうち喫煙者に共通な行為は約80%の者が行っていたが,個々人の内容に踏み込んだ支援行為は少なく,また,「紹介機関がない」,「患者の抵抗や不満」,「患者教育のための教材がない」,「時間がない」ことなどが障壁と認識されていた。しかし,禁煙支援のトレーニングを受けた歯科医師では,禁煙支援の日常化の程度が高かった。以上のことから,歯科診療の場において禁煙支援を日常的に行うためには,喫煙と歯周病との関連等の啓発および禁煙支援のトレーニングが重要であることが示唆された。
  • 葭原 明弘, 佐久間 汐子
    1997 年 47 巻 5 号 p. 703-716
    発行日: 1997/10/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    フィッシャーシーラントがう蝕予防効果の高い予防法であることは,多くの調査により確認されている。しかし,フィッシャーシーラントの経済性については未だ明確ではない。今回の調査の目的は,異なったフィッシャーシーラントの適応基準の経済性を評価すること,および最も有効な基準に影響を与える主要因を明確にすることである。今回の調査のために,小学1年生〜3年生290人の健全な第一大臼歯854歯を選出した。3つの異なった適応基準でそれぞれ実施した際の経済性をシミュレーションにより比較した。適応基準として選択した指標は,1)う窩の形成を伴わない軽度のSticky fissure(以下(SF)),2)同一顎内の反対側同名歯にう蝕を認めた歯牙,3)小学校1年時の第二乳臼歯4本すべてにう蝕を有する児童の歯牙,4)すべての歯牙,である。期待効用値(シーラント処置,および必要に応じて実施したう蝕処置の1歯あたりの費用),およびコスト-エフェクティブネス値を4つの適応基準ごとにそれぞれ算定した。それぞれの適応基準で実施した際,期待効用値では,基準2(同一顎内の反対側同名歯にう蝕を認めた歯牙)が最も低く199円であった。また,基準1(SF)が次に低く(289円),以降,基準3(小学校1年時の第二乳臼歯4本すべてにう蝕を有する児童の歯牙; 526円),基準4(すべての歯牙; 1,520円)の順であった。基準2の期待効用値を1とすると,基準1,3,4の期待効用値はそれぞれ1.5,2.6,7.6であった。同様に,コスト-エフェクティブネス値は,それぞれ,基準1(SF)が6,004円,基準2が10,193円,基準2が17,668円,基準3が27,282円であった。基準1のコスト-エフェクティブネス値を1とすると,基準2,3,4のコスト-エフェクティブネス値はそれぞれ1.7,2.9,4.5であった。フィッシャーシーラントの経済性は,対象集団のう蝕有病状況の違いにより変化することが確認された。う蝕が比較的少ない対象集団では,フィッシャーシーラントはSticky fissure に対してのみ実施されるべきである。一方,今回の調査でシミュレーションされたように,3年間で第一大臼歯の80%以上がう蝕に罹患するような集団では,フィッシャーシーラントはすべての小窩裂溝に対し実施されるべきである。これらの結果から,Sticky fissureのみを適応基準として実施するシーラントプログラムは最も経済性が高く,シーラントプログラムは,適応基準の決定を含めて,対象集団のう蝕有病状況にあわせて計画されるべきであることが明らかになった。
  • 門脇 憲一, 福田 雅臣, 一宮 頼子, 丹羽 源男
    1997 年 47 巻 5 号 p. 717-728
    発行日: 1997/10/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    女性高齢者の歯周疾患,う蝕と口腔内状況および健康習慣との関連性を調べる目的で,住民健康診断を受診した60歳以上の女性を対象に調査研究を行った。口腔診査とBreslowの7つの健康習慣に関するデータから,疾病にかかわる因子を構造的に理解するため,多変量解析法を用い次の結果を得た。1. 口腔内状況のうち,DMFTは23.2±19.5またDT,MT,FTはそれぞれ0.6±1.3,17.0±9.0, 5.8±5.5であり,FT以外は歯科疾患実態調査値より低かった。2. PIの良・不良は,MT,FTと咀嚼能力指数別,EI別で関連性が認められた。また,健康習慣では,PIの良・不良と適正体重間でも関連性が認められた。3. CPITNを外的基準とし,口腔診査値と生活習慣を脱明変数として関連性を数量化II類により調べたところ,CPITNの判別に最も影響を与える要因は咀嚼能力指数であった。4. PIを外的基準とし,口腔診査値と健康習慣を説明変数として関連性を数量化II類により調べたところ,PIの判別に影響を与える要因は喪失歯数であった。5. 数量化II類による判別適中率は,PIが83.5%,CPITNが70.5%とPIが優れていた。6. DTを外的基準とし,多要因を説明変数として数量化II類により調べたところ,DTの判別適中率は62.2%であり歯周疾患の場合より,判別力は劣っていた。以上から歯周疾患,う蝕に影響を及ぼす健康習慣は,各々の多変量解析においても特異的構造が示唆された。
  • 松丸 二郎
    1997 年 47 巻 5 号 p. 729-738
    発行日: 1997/10/30
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー
    カドミウム(Cd)の口腔組織に及ぼす作用を調べる目的で,成人歯肉より分離した線維芽細胞を用いて実験を行った。細胞をCd添加培養液中で培養し,Cd感受性およびメタロチオネイン(MT)誘導合成と細胞周期との関連性について検討した結果,以下の結論を得た。1. 非同調細胞の増殖およびDNA合成は,10^<-4>mM Cd以上で濃度依存的に抑制された。2. 非同調細胞とS期細胞のコロニー形成率は,10^<-4>mM Cd以上で濃度依存的に抑制された。各Cd濃度での抑制率は非同調細胞がS期細胞に比べて高かった。G_0/G_1期細胞のコロニー形成率は,10^<-7>mM Cd以上で抑制された。3. 非同調細胞の^<35>S^-システインの取り込みは,10^<-7>mM Cd群〜10^<-5>mM Cd群が対照群に比べ増加した。4. 10^<-7>mM Cd群と10^<-6>mM Cd群は非同調細胞の免疫組織学的MT染色を行った結果,対照群に比べ陽性像が多く認められた。5. 非同調細胞のMT濃度は,10^<-7>mM Cd群〜10^<-5>mM Cd群が対照群に比べ高く,10^<-3>mM Cd群と10^<-2>mMCd群では低かった。MTの誘導合成が最も高い10^<-6>mM Cdで4時間培養したところ,合成されたMT濃度はS期細胞>非同調細胞>G_0/G_1期細胞の順であった。以上より,成人歯肉由来の線維芽細胞におけるCd感受性は細胞周期で異なり,細胞周期とMTの誘導合成量との間に密接な関連性のあることが示唆された。
短報
feedback
Top