口腔衛生学会雑誌
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62 巻, 3 号
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原著
  • 小原 由紀, 古川 清香, 安藤 雄一, 木下 淳博, 深井 穫博, 恒石 美登里, 大山 篤, 石田 智洋, 青山 旬, 大内 章嗣
    2012 年 62 巻 3 号 p. 282-288
    発行日: 2012/04/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    昨今,歯科衛生士が不足しているといわれているが,その実態はよくわかっていない.本研究では,歯科衛生士の不足について,歯科診療所における歯科衛生士の求人状況に着目し,日本歯科医師会会員を対象とした調査から,歯科衛生士の実態を明らかにすることを目的とした.
    2010年7〜8月,歯科医療従事者の歯科診療に関する実態調査を,無作為抽出した日本歯科医師会会員2,000名を対象に郵送法にて実施し,有効な回答が得られた882名分のデータを分析対象とした.
    歯科医師,歯科衛生士,歯科助手を募集していると回答した歯科診療所数から,その割合と95%信頼区間を算出し,2009年に実施した医療施設動態調査で示された歯科診療所数68,097施設を乗じて,本邦において歯科医師,歯科衛生士,歯科助手を募集している歯科診療所数を推計した.
    歯科衛生士を募集していると回答した歯科診療所は16.9%であり,本邦において歯科衛生士を募集している歯科診療所数は,95%信頼区間に基づく推計幅より,1〜1.3万程度と推計され,歯科医師,歯科助手に比べ高値を示した.
    歯科衛生士を募集している歯科診療所は,院長の年齢が50歳未満で,ユニット所有台数が多い傾向が認められ(p<0.001),歯科診療所の規模が大きく,院長の年齢が若い歯科診療所ほど歯科衛生士を積極的に雇用しようとしている状況が示唆された.
  • 岩崎 正則, 葭原 明弘, 宮崎 秀夫
    2012 年 62 巻 3 号 p. 289-295
    発行日: 2012/04/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は女性高齢者におけるガムを用いた咀嚼能力と開眼片足立ち保持時間の関連を検討することである.
    2009,2010年度の調査に参加し,問診,身体計測,開眼片足立ち検査,および歯・口腔に関する診査に協力の得られた65〜74歳女性138名を本研究対象とした.咀嚼能力判定試験には咀嚼力判定ガムを用いた.2分間の咀嚼による色の変化をカラーチャートと比較し,5段階(スコア1〜5)で咀嚼能力を評価した.対象者をスコアに基づき3群(咀嚼能力が高い群=スコア5,中間群=スコア4,低い群=スコア1〜3)に分けた.そして開眼片足立ち30秒保持の可否を目的変数とし,現在歯数,年齢,および運動機能を共変量とするロジスティック回帰モデルを用い咀嚼能力と開眼片足立ち保持時間の関連を評価した.
    咀嚼能力が低いことは開眼片足立ちが30秒間保持できないことと有意に関連していた(咀嚼能力が高い群を基準として,中間群:調整済オッズ比[95%信頼区間]=2.34[0.91-6.01],低い群=3.61[1.14-11.4]).
    結論として,女性高齢者において咀嚼力判定ガムにより評価された咀嚼能力と開眼片足立ち保持時間の間に有意な関連があることが本研究結果から示された.
  • 瀧口 徹, 山本 龍生, 青山 旬, 平田 幸夫
    2012 年 62 巻 3 号 p. 296-304
    発行日: 2012/04/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    関東7都県全市区町村の1998年から2008年までの3歳児dftの時系列変化パターンと地域集積性を解析した.事前処理として,平成の大合併により失われた時系列的比較対象性を市区町村の変遷情報を基に回復し,基準自治体を2006年12月31日現在の377市区町村とした.dft時系列変化の指標を平均値,中央値,最大値,最小値,標準偏差,変動係数,回帰直線の寄与率,回帰直線の傾きおよび切片の9指標とし,主成分分析により固有値>1.0の条件で3主成分(累積寄与率95.9%)を抽出した.その特性はそれぞれ,第1主成分:dftの最大値が大きく急勾配に減少,第2主成分:dftの最小値が大きく小変動,第3主成分:dftが非直線的に変動,であった.主成分ごとに地域集積性をMoranのI指標で評価し,また地理的位置関係を局所空間統計量LISAのクラスターマップで評価した.その結果,第1主成分がMoranの1=0.595 (p<0.001)の高い地域集積性を示し,首都圏のほぼ全体がコールドスポット(周囲の値の低い地域に囲まれた値の低い地域)地帯で,周囲を地域集積性が無い地帯に囲まれ,その外側をホットスポット(周囲の値の高い地域に囲まれた値の高い地域)帯がとり囲むという特徴的なパターンを示し,背景に人口動態あるいは社会経済的な要因との関連が示唆された.第2,第3主成分の地域集積性は,有意であったが地理的な特徴を示さなかった.
  • 竹内 倫子, 山本 龍生, 森田 学
    2012 年 62 巻 3 号 p. 305-311
    発行日: 2012/04/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    精神疾患(・障害)を理由に医療機関を訪れる人々が年々増加しており,特に気分障害,ストレス関連障害の通院患者の増加が著しい.本研究では,岡山県内において,地域歯科保健事業を行っている市町村と行っていない市町村との間で精神および行動の障害に関連する疾患の医療費の10年間の増加額を比較した.
    平成9年から平成11年および平成19年から平成21年の各年5月分の岡山県市町村単位の国民健康保険受給対象者の医科のすべての診療報酬明細書データを用いた.これらの診療報酬明細書のうち,主病名として「精神および行動の障害に関する疾患」(以下,精神疾患)に割り当てられている診療報酬明細書のみ抽出し,市町村別に精神疾患の総費用額を算出した.また,「歯科検診を含む基本健診」等9項目の歯科保健事業実施の有無を市町村別に調査した.
    各歯科保健事業別に実施している市町村(実施群)と実施していない市町村(未実施群)との間で,一人当たり精神疾患医療費の増加額を比較した.その結果,9項目中8項目について,未実施群よりも実施群の一人当たり精神疾患医療費の増加額が少なかった.また,歯科保健事業実施数が少ない市町村ほど精神疾患医療費の増加額が多くなる傾向がみられた.
    歯科保健事業と精神疾患医療費との直接の関係は不明である.しかし,歯科保健事業を実施するような市町村では精神疾患医療費が減少する傾向にあると思われる.
  • 廣瀬 晃子, 岩田 幸子, 大橋 たみえ, 石津 恵津子, 川村 卓義, 徳本 龍弘, 横井 宏一朗, 磯崎 篤則
    2012 年 62 巻 3 号 p. 312-321
    発行日: 2012/04/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    う蝕予防手段として公衆衛生上有用であるフッ化物洗口法は,現在保育園や幼稚園では週5回,小・中学校では週1回で実施されている.用いられる洗口液は,週5回法では製品化されたものがいくつかあるが,週1回法では存在せず,試薬のNaFを調整して使用している.
    そこで本研究では用いられる溶液による反応の違いについて基礎的データを得る目的で,週5回法で用いられているフッ化物濃度450ppmの2種のフッ化物製剤(A450,B450)とNaF試薬で調整したフッ化物濃度900ppmの溶液(NaF900)のアパタイトに及ぼす効果について,フッ化物の取り込み,酸抵抗性ならびに水洗溶出試験を行い比較検討した.
    その結果,NaF900群と比較してA450群,B450群はアパタイト粉末,ペレットともに取り込まれたフッ化物量は多い傾向を示した.また,酸抵抗性試験ではペレットについては同程度であったが,アパタイト粉末に関してはA450群,B450群で有意に高い酸抵抗性獲得が示された.水洗溶出試験ではB450群では24時間の溶出が多かったが,A450群とNaF900群の間に差は認められなかった.
    以上よりアパタイトを用いた研究では,フッ化物濃度が半分量のフッ化物製剤を用いてもフッ化物の取り込みと酸抵抗性については差がないことが示された。今後はさらに低濃度のフッ化物洗口液の効果を検討するため,エナメル質を用いた研究や形態学的検討を実施していく予定である.
  • 豊田 恵美子, 山崎 安信, 岡 浩一郎
    2012 年 62 巻 3 号 p. 322-328
    発行日: 2012/04/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    これまで明らかとされていなかったクローン病(Crohn's Disease : 以下CD)患者の口腔関連QOLの実態,口腔関連QOLと口腔保健行動および,口腔内の自覚症状との関係を調査した.
    対象は東京都内総合病院に併設の炎症性腸疾患センター外来に通院する患者が利用する薬局へ来局したCD患者60名(20-56歳)である.口腔関連QOLはGeneral Oral Health Assessment Index (GOHAI)を用い評価し,清掃行動,摂食行動,口腔の関心度,受診行動等の口腔保健行動および,口腔内の自覚症状についての質問を行った.その結果,CD患者のGOHAIスコアは性別,年齢階級別による比較において,すべての階級で,国民標準値を下回った.また,良好な口腔保健行動を行っている対象者とそうでない対象者との間でGOHAIスコアとの有意な差は認められず,口腔内の自覚症状の有無でのみGOHAIスコアとの有意な差が認められた(p<0.001).
    本結果から,CD患者の口腔関連QOLは低く,改善に向けた取り組みと,自覚症状軽減のための対策の必要性が示された.また,口腔関連QOL低下の要因の検討が必要である.
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