口腔衛生学会雑誌
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73 巻, 1 号
令和5年1月
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
総説
  • 片岡 宏介, 吉松 英樹, 栁沢 志津子, 三宅 達郎
    原稿種別: 総説
    2023 年 73 巻 1 号 p. 13-20
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー

     ヒト成人の皮膚総面積の200倍以上を占める粘膜の表層では,常に細菌やウイルスといったさまざまな病原体が体内への侵入を試みている.それに贖う手段として,非特異的防御バリア(自然免疫機構)と特異的防御バリア(獲得免疫機構)が粘膜部では作働している.粘膜ワクチンは,病原体の侵入門戸である粘膜面に病原体由来の抗原と免疫賦活化剤(アジュバント)を直接投与することにより,自然免疫機構を効率良く誘導し,異的防御バリアの主体となる抗原特異的分泌型IgA抗体を産生することを可能とする.

     われわれはこれまで,加齢の影響を受けにくい鼻咽腔関連リンパ組織(NALT)の樹状細胞をターゲットに,サイトカインFlt3 ligand発現DNAプラスミドとCpGオリゴデオキシヌクレオチドを併用した経鼻ダブルDNAアジュバント(dDA)システムの構築を行い,高齢者にも応用可能な粘膜ワクチンの開発を目指してきた.

     本稿では,経鼻dDAシステムが抗老化作用を有すること,また感染症のみならずNCDs発症を防ぐ経鼻ワクチンへの応用の可能性について,われわれの最新の知見を紹介する.近い将来,本粘膜ワクチンが,感染症だけでなくNCDsをも制御することで,わが国の「健康寿命の延伸」と「健康格差の縮小」という国家課題の克服と,世界的に進行する超高齢社会における高齢者のQOL向上に寄与できるツールとなり,口腔保健医療サービスの充実に貢献できればと考える.

原著
  • 久保 枝莉, 福井 誠, 坂本 治美, 日野出 大輔
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 73 巻 1 号 p. 21-30
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究では妊婦と非妊婦との歯周状態の比較および関連する因子を解析することを目的とした.

     高知県における2016 ~2019年度の「妊婦への歯科保健調査」受診者3,359名を妊婦群とし,2020年度「高知県歯科疾患実態調査」の調査対象者のうち,同年代の女性316名をコントロール群とした.年齢群別に両群の口腔清掃状態や口腔衛生習慣等の項目を比較した.さらに「妊婦への歯科保健調査」のアンケート項目を独立変数,「歯周ポケット」または「歯肉出血」に関する歯周状態を従属変数とした二項ロジスティック回帰分析を行った.

     両群のアンケート項目の比較から,妊婦群では「歯ぐきの腫れ」が有意に高く,診査項目では,歯周ポケットを有する者が多かった.また,16 ~24歳の妊婦群では「歯周ポケット」と「歯肉出血」有所見者の割合が高い一方で,「喫煙者」の項目では有意差を認めなかった.さらに,妊婦群において「歯周ポケット」または「歯肉出血」の有無と「かかりつけ歯科医の有無」「歯ブラシ以外の道具使用」および「歯列咬合所見」で有意な関連性が認められた.

     以上の結果から,妊娠期に歯周組織の状態が不良となることが示唆され,妊娠中の良好な口腔状態の維持のためにかかりつけ歯科医をもつこと,および適切な補助清掃用具の使用などの歯科保健指導が有効である可能性が示された.

  • 坂本 治美, 福井 誠, 土井 登紀子, 吉岡 昌美, 日野出 大輔
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 73 巻 1 号 p. 31-41
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,3歳児う蝕に影響を与える要因分析,および後ろ向きコホート研究によりう蝕関連の口腔保健行動に対する妊婦歯科健康診査の有効性を検証することである.

     研究対象者は,2015年から2020年までに徳島県鳴門市が実施した1歳6か月児健康診査と3歳児健康診査の両方で歯科健康診査を受けた647人の子どもとその母親である.二項ロジスティック回帰分析により,3歳児う蝕と1歳6か月児または3歳児健康診査時のアンケート結果からの口腔保健行動の項目との関連を分析した.さらに,妊娠中に定期的な歯科健診を受けていなかった対象者480名を,鳴門市が実施した妊婦歯科健康診査を受けた妊婦健診群と非健診群の2群に分け,出産後の口腔保健行動の相違を2群間で分析した.

     3歳児のう蝕有病率は14.5% であり,間食回数または規則性,母親の定期的な歯科健診,歯周病に関する知識,母親または家族の喫煙習慣と有意に関連していた.また,出産後に定期的な歯科健診を受ける母子の割合は増加し,1歳6か月時の母親の定期歯科健診受診率は,妊婦健診群では非健診群に比べて有意に高かった.

     これらの結果から3歳児う蝕に関連する要因として,間食,定期歯科健診,歯周病に関する知識,喫煙習慣が示された.さらに,妊婦歯科健康診査は,出産後の定期的な歯科健診受診など,母親が自分自身や子どものための良好な保健行動獲得に影響を与える可能性がある.

  • 岩﨑 正則, 福原 正代, 大田 祐子, 藤澤 律子, 角田 聡子, 片岡 正太, 茂山 博代, 正木 千尋, 安細 敏弘, 細川 隆司
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 73 巻 1 号 p. 42-50
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー

     男性労働者における主食の重ね食べ(1回の食事で炭水化物の供給源となる主食を2種類以上同時に食べること)と歯周病の関連を明らかにすることを目的に横断研究を実施した.福岡県内の一企業で行われた定期健康診断にあわせて実施した歯科健診,食事調査,質問紙調査に参加した539名の男性従業員(平均年齢47.9歳)のデータを用いた.歯科健診では10歯の代表歯の歯周ポケット深さを計測した.食事調査では1日あたりの炭水化物摂取量を推定し,摂取量上位20% を多量摂取と定義した.そして4 mm以上の歯周ポケットを有する歯数を目的変数とし,主食の重ね食べの頻度「1日1食以上」「1日1食未満」を説明変数とする負の二項回帰モデルを用いて両者の関連を解析した.さらに,主食の重ね食べの頻度が高い者には炭水化物を多量に摂取している者が多く,歯周病へ影響を与えているとの関連を仮定し,一般化構造方程式モデリング(GSEM)を用いて3者の関連を分析した.解析対象集団の14.8%が1日1食以上の主食の重ね食べをしていた.主食の重ね食べの頻度が1日1食未満の群と比較して,1日1食以上の群では4 mm以上の歯周ポケットを有する歯数が有意に多かった(発生率比=1.47,95%信頼区間=1.10–1.96).GSEMを用いた分析の結果,主食の重ね食べの頻度が高いことは炭水化物の多量摂取と関連があり,主食の重ね食べが歯周病に与える影響の一部は炭水化物の多量摂取を介していることが示された.

資料
  • 中山 佳美
    専門分野: 資料
    2023 年 73 巻 1 号 p. 51-61
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー

     歯の喪失と骨粗鬆症は,50歳以上に影響を与える大きな公衆衛生問題である.今回,北海道オホーツク地域で過去に実施したコホート調査を再分析して,高齢女性の歯の喪失のリスク要因について検討を行い,歯の部位別の喪失のリスク要因についても分析を行った.解析対象者は北海道オホーツク地域2町の60歳以上の居住者で,平成12年と平成17年の両方の調査に参加した女性70人である.この女性70 人は,インフォーム・ド・コンセントで,書面で同意が得られた者である.調査項目は,歯の状況,骨密度(踵骨超音波法で測定された踵骨Stiffness 値),年齢,食習慣,喫煙経験,飲酒習慣,慢性疾患,運動習慣,出産回数,かかりつけ歯科医,歯磨き習慣であった.分析は,5年間の歯の喪失の有無を目的変数として,ロジスティック回帰分析の単変量解析,Stepwise法を用いた多重ロジスティック回帰分析を行った.多変量解析の結果,全体の歯の喪失と関連のあった要因は,出産回数4回以上,色の濃い野菜の摂取習慣が週5日以下および歯磨き習慣が1日1回以下であった.本研究より,踵骨Stiffness値と歯の喪失との関連はみられなかった.より大規模な縦断研究が必要と考えられた.

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