口腔衛生学会雑誌
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63 巻, 4 号
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原著
  • 丸山 貴之, 友藤 孝明, 江國 大輔, 水谷 慎介, 森田 学
    2013 年 63 巻 4 号 p. 321-327
    発行日: 2013/07/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
     頭頸部がん治療の予後を知るうえで,小野寺の予後推定栄養指数(O-PNI)は重要な指標であるが,O-PNIと栄養摂取器官である口腔内の状態との関連について検討したものはない.本研究の目的は,頭頸部がん患者におけるO-PNIと口腔内状態との関連を調べることである.嚥下機能への影響を考慮するため,がんの発生部位を口腔内と口腔外に分け,それぞれのO-PNIと口腔内状態との関連について比較検討した.
     岡山大学病院にて頭頸部がんと診断を受けたがん治療開始前の150名を分析対象とした.がんの部位,進行度(ステージ),body mass index,飲酒経験,喫煙量,肝機能,腎機能,C反応性タンパク(CRP),口腔内指標を調べた.口腔内外それぞれのがんにおいて,O-PNIと各指標との重回帰分析を行い,O-PNIとの関連因子について検討した.
     重回帰分析の結果,口腔がん患者においてはO-PNIと年齢(p=0.017),平均クリニカルアタッチメントレベル(p=0.049),CRP(p<0.001)との間に関連を認めた.一方,口腔がん以外の頭頸部がん患者においてはO-PNIとCRP(p=0.005)との間に関連を認めたが,口腔内指標との関連は認められなかった.
     以上より,頭頸部がん患者におけるO-PNIを左右する因子として,口腔内のがん患者については歯周状態が関連しているのに対し,口腔外のがん患者については口腔内指標との関連はなかった.
  • 富永 一道, 安藤 雄一
    2013 年 63 巻 4 号 p. 328-336
    発行日: 2013/07/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
     咀嚼は栄養摂取に強く影響するといわれるが,両者の関連は咀嚼機能の低下が調理により補償されるため,説明しづらくなっている面がある.そこで著者らは,栄養摂取と咀嚼の関連が食事づくりの実践により異なるか否かを検証することを目的に横断的な疫学調査を行った.対象は地域在住の高齢者297名(平均年齢77.6±6.5歳)である.栄養状態の指標にはMini Nutritional Assessment(MNA)を用いた.咀嚼はグミ咀嚼検査による客観的評価と13食品に対する咀嚼可否による主観的評価を複合した指標を用いた.食事づくりは質問紙で得た毎日調理しているか否かの情報を用い,これと現在歯数にて層別してMNAを目的変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)にて,毎日調理するか否かにより咀嚼とMNAの関連の違いを検討した.その結果,毎日調理する層ではMNAと咀嚼には有意な関連が認められなかったが,毎日調理しない層ではMNAと咀嚼には有意な関連が認められた.これは,食事づくりを毎日実施する高齢者では低下した咀嚼機能が調理の実践により補償されていることによるものと考えられた.
報告
  • 伊藤 加代子, 船山 さおり, 濃野 要, 山田 亜紀, 金子 昇, 勝良 剛詞, 佐々木 綾子, 井上 誠
    2013 年 63 巻 4 号 p. 337-343
    発行日: 2013/07/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
     口腔乾燥症の診療では唾液分泌量を測定するが,その結果を記録するツールはほとんど見当たらない.また,他疾患の治療のための薬剤追加やストレスの原因となるイベント事象などは,唾液分泌量や乾燥感に大きな影響を与えるが,それらを記録するツールもない.したがって,症状の記録,患者-医療従事者間の情報共有,診療科間の情報共有,患者への情報提供,の4つを目的とした「ドライマウス手帳」を作成し,2012年4月に発行した.その後,医療従事者に対して,手帳のデザインや内容に関する無記名の質問紙調査を行った.
     質問紙調査の結果,手帳の大きさ,厚さ,文字の大きさ,唾液分泌量や症状の記入欄の大きさ,豆知識の情報量について「ちょうどよい」と回答した者はいずれも過半数を占めていた.改善点として挙げられたのは,常用薬剤の記入欄,症状のある部分を記入できる口腔内の図の掲載や,舌痛症や灼熱感などに関する情報提供などであったため,今後,手帳を改訂する際に検討したい.将来的には,口腔乾燥症と診断された患者すべてにドライマウス手帳を配布することで,患者?医療従事者間,医療従事者-医療従事者間の情報共有,患者自身の症状把握が進み,口腔乾燥症の診療の一助となればと考えている.
  • 田島 聖士, 小野寺 勉, 阿部 公喜, 海老沢 政人, 飯塚 浩道
    2013 年 63 巻 4 号 p. 344-350
    発行日: 2013/07/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
     2011年3月11日,東日本大震災が発生し甚大な災害となったが,海上自衛隊(海自)は災害派遣命令により宮城県沖に多数の自衛艦を派出した.被災地では歯科医療機関の被害もあったため,海自移動歯科班を歯科診療支援要請に基づき,3月26日から4月21日まで宮城県本吉郡南三陸町および気仙沼市大島において歯科診療支援を実施した.一方,現地歯科医師会歯科班は3月20日から4月25日まで各避難所を往診車にて巡回診療を行った.現地歯科班と海自歯科班は協働して歯科診療支援を行い,避難所等における診療実績および質問紙調査から,震災直後の歯科診療ニーズ,口腔清掃状況ならびに現地歯科班と海自歯科班の診療連携について調査した.調査対象は初診患者数455名,延べ患者数584名,疾患内訳はう蝕31%,歯周疾患23%,脱離17%,義歯不適10%,根尖性歯周炎9%,義歯紛失2%であった.災害対策本部があった志津川ベイサイドアリーナにおける経時的な受診調査では,震災直後から最多疾患であったう蝕は調査期間中増加傾向を示し,歯周疾患は2〜3週以降減少傾向を示した.主訴発現に関する調査では震災直後から震災後1週の主訴発現は全体の12%であったが,その内75%は急性症状を伴っていた.本調査から震災直後における歯科診療ニーズが確認できたが,現地歯科班による避難所等の情報収集能力と海自歯科班の機動性や装備を生かすことにより相互補完的な支援が可能であることが示唆された.
資料
  • 近藤 武
    2013 年 63 巻 4 号 p. 351-355
    発行日: 2013/07/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
     長野県では,学校保健統計について文部科学省の標本調査のほか,県独自の全数調査が行われている.この結果の概要,統計値は各年度の「学校保健統計調査報告」として公表されている.平成22,23年度報告から高等学校「歯・口腔」の項目を抽出し,そのうち,う歯(むし歯)保有者についてまとめたので報告する.
     対象者は長野県下に在籍する高校生(15〜17歳)で,総数は約60,000人である.平成23年度の永久歯う歯保有率は17歳男子57.9%,女子64.5%であった.対前年度比では15歳(高1)では1%の増加,16歳(高2)では5%の減少,17歳(高3)では増減はみられなかった.また,各年齢別の年間増減率では4〜7%の増加がみられた.
症例報告
  • 原田 祥二, 藤田 真理, 原田 晴子, 江端 正祐, 本多 丘人
    2013 年 63 巻 4 号 p. 356-361
    発行日: 2013/07/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
     症例は68歳女性であり,歯間ブラシを習慣的に歯周ポケット内に挿入して清掃していたところ,歯間ブラシの先がなくなっていたことに気づいた.先が緩んで床に落ちたと思っていたが,数日後,上顎左側臼歯部の違和感および腫脹感を自覚したため,かかりつけ歯科医を受診し紹介により当院を受診した.デンタルX線写真において,上顎左側第二大臼歯遠心に歯軸に沿うように細い金属様不透過像が認められた.摘出された異物は基部で破折したワイヤーであり,歯周ポケット内で歯間ブラシが破折し,ワイヤー部が残存したものと推察された.口腔の健康の保持増進のため,歯間部の清掃効果を高める歯間部清掃用器具の併用が勧められており,特に歯間ブラシの使用割合は近年増加傾向にある.高齢化が進む中,高齢者が歯間ブラシを使用する頻度は今後も高まるものと思われる.一方,歯間ブラシは,患者自身が頻繁に屈曲して使用するため,ワイヤー部で破折しやすいことが指摘されている.破折した歯間ブラシが上顎洞内に迷入し,上顎洞異物の診断にて全身麻酔下で摘出された例も報告されている.かかりつけ歯科医および歯科衛生士は,歯科ブラシのワイヤー部が破折して口腔内に残存する可能性があることを認識するとともに,患者が実際に行っている歯間ブラシを用いた清掃方法を定期的に確認して,正しい使用方法を繰り返し指導する必要があると思われる.
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