本研究では,小学生の咀嚼習慣と口腔内状態との関連性を介入研究にて調査することを目的とした.
徳島県内にある2つの小学校のうち,1校の5年生(81名)を介入群とし,他校の5年生(39名)をコントロール群として,食習慣に関する保健調査を実施した.介入群では,児童それぞれのPMA index(Schour-Massler index)を評価した.さらに,1年間を通して計5回学校給食時に咀嚼計を用いた「噛ミング30学習」を実施した.
介入終了後,“よく嚙む” 項目においてコントロール群と介入群では有意な差が認められた(p<0.01).“よく嚙む” 項目の変化の有無により,介入群を2つのグループに分類した.“よく嚙む” 項目の非改善群ではPMA index中央値が有意に増加していた(p<0.05)が,改善群ではPMA index中央値の増加は認められなかった.
これらの結果は,小学生において,不十分な咀嚼習慣と歯肉の炎症に関連性があることを示している.「噛ミング30学習」は,よく嚙むことを促すだけでなく,歯肉炎の予防にも効果がある可能性が示唆された.
長崎県内には51の有人島があるが,離島は本土と比較して現在歯数が少ない.これは離島特有の歯科医院へのアクセスの悪さが関係していると考えられている.しかし,同じ離島であっても歯科医院の有無が現在歯数に与える影響や無歯科医離島住民の受療行動についての研究はなされていなかった.そこで,平成17年以降長崎大学が実施した五島市での口腔内診査と,平成22年に五島市が実施した無歯科医離島における歯科受療に関するアンケート調査を用いて,口腔内の現状と受療行動について分析した.その結果,無歯科医離島は,歯科医院のある離島と比較して平均現在歯数が有意(p<0.01)に少なく(無歯科医離島:10.8±10.5本,歯科医院のある離島:15.9±10.4本),無歯顎者の割合が有意(p<0.01)に高かった(無歯科医離島32.3%,歯科医院のある離島15.6%).また,住民の約半数の者が治療回数を減らすために抜歯を他の治療よりも優先した経験を有すること,約9割の者が島内での歯科受療を希望していることが明らかとなった.これより,無歯科医離島では,時間的,地理的制約から歯科医療機関への頻回のアクセスが困難であるため,治療回数を減らすために抜歯することが,当該地区の平均現在歯数が少なく,無歯顎者の割合が高い理由の一つと考えられた.本調査結果より,無歯科医離島における歯科医療サービスの提供体制の構築が急がれるとともに,予防対策の充実を図る必要性が示唆された.
本研究では,自立高齢者を対象に口腔関連QOLに関連する要因を解析するため,指標としてGeneral Oral Health Assessment Index(GOHAI)を使用し,口腔内状態,歯科受診行動,生活環境との関連について調査した.対象は60歳から86歳までの,千葉市にある2つの老人福祉施設利用者216名とし,自記式無記名の質問紙調査を行い,欠損データのなかった145名を対象として解析を行った.GOHAIと各要因に対しt-検定を行い,その結果,現在歯数,1日の口腔内清掃回数,主観的咀嚼能力,義歯の使用,口腔内の自覚症状,定期的な歯科健診,1年以内の歯科受診において有意差が認められた(p<0.05).これらの有意差が認められた要因を,相関の強かったものを除いて独立変数とし,ロジスティック回帰分析を行ったところ,現在歯数,主観的咀嚼能力,定期的な歯科健診と高いGOHAIスコアとの間に関連が認められた.特に主観的咀嚼能力はGOHAIと強い関連性が確認され,GOHAIを指標とした口腔関連QOLを高く維持するためには,現在歯数を減少させず,主観的咀嚼能力を高く維持させることが重要であると推察された.結論として,現在歯数が多いこと,定期的な歯科健診を受けていること,主観的咀嚼能力が高いことが,高い口腔関連QOLと関連があることが示唆された.
口腔の健康格差解消が日本の健康政策や国際的な学会で述べられている.しかし日本人の全国的なライフステージごとの口腔の健康格差の実態は不明である.そこで政府統計調査データを利用した横断研究を実施した.平成17年の歯科疾患実態調査と国民生活基礎調査のデータセットをリンケージさせ,3,157人のデータを解析した.社会経済状況の指標に等価家計支出を用いた.共変量として性別,年齢,居住地域類型を用いた.幼児期(1~5歳,N=116),学齢期(6~19歳,N=353),成人期(20~64歳,N=1,606),高齢期(65歳以上,N=1,082)ごとの層別解析を行った.幼児期では乳歯う蝕経験の有無,学齢期では永久歯う蝕経験の有無,成人期では進行した歯周疾患(CPIコード3以上)の有無,高齢期では無歯顎かどうか,を目的変数として用いた.ポアソン回帰分析を用いて,等価家計支出が低いほど歯科疾患を有したり無歯顎である関連が存在するかを検討した.解析の結果,成人期の歯周疾患(p=0.001)および高齢期の無歯顎(p<0.001)で,等価家計支出が低いほど統計学的に有意に有病者率が高い傾向が認められた.学齢期の永久歯う蝕経験については,統計学的に有意ではなかったものの,等価家計支出が低いほど多い傾向が認められた(p=0.066).対象者数が少なかったためか,乳歯う蝕経験については明確な傾向は認められなかった.今後,口腔の健康格差を減らすため社会的決定要因を考慮した対策がより一層必要であろう.
健康寿命の延伸には生活習慣病の予防が必要である.口腔の健康状態の維持は生活習慣病の予防につながると考えられているが,その関係性の解明は十分とはいえない.そこで本研究では,口腔の健康状態と生活習慣病の関係を調べた.
平成19年度久山町住民健診で歯科健診を受診した40~79歳の2,523人を分析対象者とした.口腔の健康状態は,現在歯数,歯周ポケットの深さ,う蝕経験状態を評価した.生活習慣病については,糖尿病,高血圧,脂質異常症の有病状況を評価し,すべての疾患を有していない者を「生活習慣病がない者」とした.年齢を40~59歳と60~79歳に層別化し,目的変数に生活習慣病の有無,説明変数は口腔の健康状態を用いてロジスティック回帰分析を行った.
生活習慣病がない者は40~59歳で42.0%,60~79歳は17.9% であった.ロジスティック回帰分析で年齢,性別,body mass index,喫煙,飲酒,運動習慣,職業の影響を調整した結果,40~59歳では多数歯の保有,60~79歳では歯周ポケットが浅いことは生活習慣病がないことと関連していた.
本研究では,口腔の健康な者には生活習慣病のない者が多いことが示されたことから,口腔の健康状態を良好に保つことが生活習慣病の予防につながる可能性が示唆された.
本研究の目的は,徳島市内在住の幼児に対するフッ化物配合歯磨剤利用とその口腔保健行動を調査することである.3~6歳児の保護者を対象として2010年では140名,2013年では116名へアンケート調査を行った.歯磨剤を「使わない」幼児は2010年調査の27.9%と比較して,2013年調査では12.1%と低い割合となった.2013年調査では歯磨剤利用者におけるフッ化物配合歯磨剤の利用率は100%となり,2010年調査の値と比較して歯磨剤使用後の洗口回数は有意に減少した(p<0.05).以上のように,2010年と2013年調査の比較による幼児のフッ化物配合歯磨剤使用状況において好ましい変化が認められた.しかし,依然として多数回の洗口を行う幼児も多く存在するなどの課題も明らかとなった.