口腔衛生学会雑誌
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71 巻, 2 号
令和3年4月
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著
  • 相田 潤, 草間 太郎, 五十嵐 彩夏, 小関 健由, 小坂 健, 人見 早苗, 渡部 千代
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 71 巻 2 号 p. 72-80
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/25
    ジャーナル フリー

     歯科衛生士不足が問題となっている.そこで産業保健分野で重要な職業性ストレスモデルに基づき歯科衛生士の離職原因となりうる要因(離職関連要因)を検討し,歯科医師との認識の違いを分析した.2017年度に宮城県内の歯科衛生士1,334人,歯科医師1,185人を対象に郵送の質問紙による横断研究を実施した.6つのストレスモデルに基づく質問を用い,歯科衛生士と歯科医師の回答の差をχ2検定で分析をした.歯科衛生士313人(回収率:23.5%),歯科医師213人(同:18.0%)の回答の内,欠損値のない各303人と174人のデータを用いた.歯科衛生士の離職関連要因は,「人間関係の問題」(78.2%)や「時間面の労働条件」(68.6%),「給与面の待遇」(58.4%)の回答が多かったが,歯科医師はそれらは有意に少なく「産休育休の問題」の回答が有意に多かった.人間関係の問題の内訳は,歯科衛生士は「院長との問題」,歯科医師は「スタッフ間の問題」が最も多く有意な差が認められた.労働条件の内訳は歯科衛生士・歯科医師ともに「勤務時間」が最も多かった.しかし,歯科衛生士は有給休暇や残業についての回答も有意に多かった.就業していない歯科衛生士は,非常勤で復職を望むものが最も多く,午後から夕方の勤務は避けたい者が多かった.歯科医師と歯科衛生士の間で離職原因の認識に大きな差が存在した.これらを解消することで,歯科衛生士の離職を防止し,復職を支援する環境につながる可能性がある.

  • 伊井 久貴, 南 ひかる, 犬山 依志行, 福田 雅臣
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 71 巻 2 号 p. 81-87
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/25
    ジャーナル フリー

     本研究では,フッ化物配合歯磨剤の適正使用量を示すため,歯磨剤チューブの形状,そしてその内容物の性状に関わる諸要因について検討を行った.

     歯科医院専用フッ化物配合歯磨剤31種類について,チューブ内径,1 cm あたりの重量(基準重量)を測定した.使用重量は,それぞれ6名で測定した平均値を1 cm あたりの使用重量とし,さらに変動係数,使用誤差(%)を求めた.使用重量のばらつきについては,一元配置分散分析,Bonferroniの多重比較検定を行い,各歯磨剤の逐次比較の結果を有意差数とした.さらに各歯磨剤の内径,基準重量,使用重量,比重,粘稠度,変動係数,使用誤差(%),有意差数について単相関分析,重回帰分析を行い,関連性を検討した.

     その結果,単相関分析では基準重量と使用重量,内径と比重,使用重量と比重,使用重量と粘稠度,粘稠度と変動係数,基準重量と使用誤差(%),使用重量と使用誤差(%),粘稠度と使用誤差(%),変動係数と使用誤差(%),基準重量と比重,基準重量と粘稠度,基準重量と有意差数で有意な相関(p<0.05)がみられた.重回帰分析では,目的変数を使用誤差(%)としたものでは,内径,比重,変動係数において有意な関連(p<0.05)がみられ,さらに目的変数を有意差数とすると,粘稠度と変動係数で有意な関連(p<0.05)がみられた.

     以上の結果から,適正量の歯磨剤を使用するためには,1 cm あたりの基準重量を明記することが必要であると考えられた.

  • 橋野 恵衣, 久保庭 雅恵, 坂中 哲人, 石川 明日香, 眞弓 昌大, 竹内 洋輝, 天野 敦雄
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 71 巻 2 号 p. 88-93
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/25
    ジャーナル フリー

     糖アルコールの一種であるエリスリトールは,優れた代用甘味料であり,う蝕リスクの低減に有効であるとして歯磨剤や洗口剤にも使用されている.われわれは,エリスリトールがin vitro混合バイオフィルムモデルにおいて,主要な歯周病菌であるPorphyromonas gingivalisのバイオフィルム形成を抑制することを以前報告した.本研究では,歯周病菌が産生する口臭原因物質である揮発性硫化物(VSC)に着目し,P. gingivalisおよびTreponema denticolaによるVSC産生に対するエリスリトールの影響を検討した.まず,増殖阻害効果を観察するため,エリスリトール添加あるいは非添加の液体培地を用いてP. gingivalisおよびT. denticolaを48時間嫌気培養した.VSC産生阻害実験では,三角フラスコ中で両菌をそれぞれ培養し,ガスタイトシリンジでフラスコ内の気相部分に含まれる気体を採取し,ガスクロマトグラフを用いて硫化水素,メチルメルカプタン,硫化ジメチルおよび二硫化ジメチルの定量を行った.VSC産生量に対する有意差検定はダネットの多重比較法を用いた.5%,10%エリスリトールによるP. gingivalisメチルメルカプタン産生抑制率はそれぞれ29.0%,72.0%,二硫化ジメチルについては90.1%,98.4%と顕著な抑制率を示し,増殖抑制効果を上回る阻害効果が観察された.一方,エリスリトールはT. denticolaの増殖およびVSC産生には有意な抑制効果を示さなかった.以上より,エリスリトールは菌種特異的にP. gingivalisのVSC 産生を抑制し,P. gingivalisが検出される歯周病患者の口臭の改善に役立つ可能性が示された.

  • 基 敏裕, 中野 由, 西山 毅, 長田 恵美, 山口 泰平, 於保 孝彦
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 71 巻 2 号 p. 94-101
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/25
    ジャーナル フリー

     平成28年度国民健康・栄養調査によると,過去1年間に歯科検診を受診した者の割合(20歳以上)は52.9%である.健康日本21(第二次)には過去1年間に歯科検診を受診した者の割合を65%以上に増加する目標を掲げているが,いまだ達成されていない.本研究では,平成28〜29年度の2年間に鹿児島県曽於郡大崎町で実施された成人歯科検診を受診した366人(男性183人,女性183人,平均年齢66.4歳,年齢幅27〜96歳)を対象に,かかりつけ歯科医による定期検診受診に関わる因子について探索を行った.かかりつけ歯科医による定期検診受診の有無に対して,自己記入式アンケートおよび歯科医師による検診の結果をもとにデータマイニング手法である決定木分析を用いて因子の組み合わせやパターンを抽出し,それらの効果をχ2検定で評価した.その結果,「この1年間の口腔衛生処置の受療経験」「性別」「歯間清掃用具の使用経験」の3つが受診に関わる重要な要因であることが示された.歯科医療従事者は,少なくとも1年に1回は歯科医院で歯石除去等を受けて,週に3日以上の歯間清掃用具を使用するように指導することにより,定期歯科検診の受診率が向上する可能性が示唆された.また,性別については男性への受診勧奨がより有効と考えられた.

報告
  • 岡田 彩子, 村田 貴俊, 大塚 良子, 曽我部 薫, 有吉 芽生, マティン カイルール, 花田 信弘
    原稿種別: 報告
    2021 年 71 巻 2 号 p. 102-109
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/25
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,立案した保健指導プロトコルの有効性を検討することである.被験者は歯科医師8名とした.試験開始日に栄養・運動指導を行い,食と運動習慣の改善を図った.4週間後に口腔保健指導を行い,毎日の口腔清掃に加えてDental Drug Delivery System(以下,3DSとする)による除菌を6週間実施した.主要評価項目は,生活習慣病の代替評価項目:血圧,脈波伝播速度(以下,baPWVとする),足関節上腕血圧比(以下,ABIとする),Body Mass Index(以下,BMIとする)および体脂肪率を,副次的評価項目は,歯周組織状態,総レンサ球菌数,ミュータンスレンサ球菌数およびう蝕細菌比率(%)とした.血圧とABIの中央値は,基準値内を維持した.baPWV,BMIおよび体脂肪率の各中央値は,4週間後に一旦上昇したが,6 週間後からは減少した(p>0.05).歯周ポケット深さ(以下,PDとする)の中央値は,2 mm以下を維持し,試験最終日のプロービング時出血(以下,BOPとする)の中央値(四分位範囲)は,0.00(0.00–0.45)%であった.唾液中ミュータンスレンサ球菌数の中央値(四分位範囲)は,試験開始日:4.74(3.73–4.84)log CFU/mLから最終日:3.70(3.70–3.78)log CFU/mL と有意に減少した(p<0.01).

     以上より,本研究で立案した保健指導プロトコルは,口腔と全身の健康増進に寄与する可能性が示唆された.

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