口腔衛生学会雑誌
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50 巻, 3 号
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論説
原著
  • 植松 道夫, 武井 典子, 伊藤 万喜子, 黒羽 加寿美, 輿水 正樹, 荒川 浩久, 栗山 純雄, 飯塚 喜一
    2000 年 50 巻 3 号 p. 302-308
    発行日: 2000/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    生涯を通した口腔保健は8020を促進するために重要である。成人を対象にした歯科保健活動は,乳幼児期および小学生から高校生まで母子保健法や学校保健法の管理下にある時期と異なり,歯科健診の受診者は少なく,また受診しにくい場合が多く困難である。歯科健診が受診しにくい人々にも幅広く歯科に関心をもってもらう目的で,質問紙に回答するとコンピュータのアドバイスが受けられるシステム(お口の健康アドバイスシステム)を開発した。本システムは症状編と歯みがき行動編などからなる。某企業従業員を対象に本システムの症状編について質問紙調査をし,口腔診査との対比を行った結果,1.う蝕については正答率が61.1% 2.歯周疾患については正答率が63.3% 3.知覚過敏については正答率が73.3%であった。以上より,本システムの症状に関する各項目に高い正答率が得られ,本システムの有用性が示唆された。
  • 岩田 幸子, 福井 正人, 大橋 たみえ, 廣瀬 晃子, 石津 恵津子, 磯崎 篤則, 可児 徳子
    2000 年 50 巻 3 号 p. 309-321
    発行日: 2000/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    本研究はNH4F溶液のフッ化物洗口液および歯磨剤の応用を考えて,フッ素濃度100ppmおよび900ppmのNH4F溶液をエナメル質に5分間作用させ,エナメル質への影響についてNaF溶液と比較検討した。ヒト永久歯エナメル質粉末を用い,溶液作用直後および1M KOH溶液洗浄後の試料についてフッ素,カルシウム,リン量の測定ならびに各試料の酸抵抗性試験を行った。また, intact enamelを用い,走査型電子顕微鏡(SEM)によるエナメル質表面の形態観察,電子線マイクロアナライザ(EPMA)による元素分析ならびに状態分析による反応生成物の同定を行った。その結果,100ppm作用ではNH4F群はNaF群と比較して,エナメル質表面の反応生成物(CaF2およびフルオロアパタイト)の生成傾向に差は認められず,フッ素取り込み量はNaF群より少ないことが認められた。しかし,酸抵抗性獲得効果はNaF群と同程度もしくはそれ以上であることが示された。900ppm作用では,NH4F群はNaF群と比較して,CaF,を多量に生成し,フッ素取り込みおよび酸抵抗性獲得効果が高いことが示され, CaF2が酸抵抗性獲得に影響していることが確認された。以上より, NH4F溶液は作用時間5分において,900ppm作用ではNaF溶液より高い, 100ppm作用では同程度のう蝕抑制効果が期待でき,NH4Fの洗口液および歯磨剤への応用の可能性が示唆された。
  • 安藤 雄一, 葭原 明弘, 清田 義和, 廣富 敏伸, 小川 祐司, 金子 昇, 高野 尚子, 山賀 孝之, 王 晶, 神森 秀樹, 岸 洋 ...
    2000 年 50 巻 3 号 p. 322-333
    発行日: 2000/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    本調査の目的は,高齢者に対する歯科疫学調査において,現在歯数や全身健康状態などによるサンプリングバイアスがどの程度生じるかを検討することである。新潟市に在住する70歳と80歳の高齢者全員(6,629名)に対して郵送による質問紙調査を実施し,現在歯数,健康状態,歯科健診の受診希望状況などを調査した。督促回数は1回で,回収率は79.5%であった。質問紙の非回答者から無作為に選んだ対象者に,電話による聞き取り調査を行った。健診受診者は,希望者を中心に参加を募り, 763名が受診した。分析は,現在歯数と健康状態などについて,質問紙回答の有無別・回収時期別および健診受診有無別に比較した。さらに現在歯数の自己評価値と口腔診査値の関連を分析し,質問紙調査と質問紙の非回答者の分析結果から,母集団における現在歯数の推定値を算出した。分析の結果,口腔診査結果から算出された健診受診者の現在歯数の平均値は,母集団の推定値に比べ,70歳では2.6〜3.9本,80歳では0.8〜1.8本多いことが確認された。健康度については,質問紙の回収時期による差が認められたが,全般的に現在歯数の差の程度と比べると小さかった。以上より,高齢者を対象とした歯科健診を希望制により実施する場合には,全身的な健康状態よりも現在歯数によるバイアスが生じる可能性が大きいことが示された。
  • 中村 譲治, 鶴本 明久, 筒井 昭仁, 堀口 逸子
    2000 年 50 巻 3 号 p. 334-340
    発行日: 2000/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    著者らは,企業における健康づくり型歯科保健事業の試みとしてプリシード・プロシードモデル(以下MIDORI理論)を構成概念の枠組みとして採用し,歯周疾患にまつわる諸要因を総合的に評価することができる診断プログラムを開発した。今回は,抽象的構成概念であるMIDORI理論を構成する各要因が,このフレームワークのなかでの適切な評価を可能とするものになっているかを検証をするために,構成概念妥当性の検討を行った。分析の対象となるデータは,20歳台から60歳台までの工場勤務者(平均年齢39.4歳:S.D.=10.5)から得られた324名の質問紙である。解析は共分散構造分析で行った。共分散構造分析は,LISREL分析(線形構造関係分析)のなかの多重指標モデルによる最尤法を採用した。LISREL分析の結果,総合的な因果モデルの適合性の指標であるGoodness of Fit Index (GFI)は0.824と比較的高く,算出された因果係数も構成概念である潜在変数とそれらの因果の連鎖性を矛盾なく説明していた。開発した診断プログラムはMIDORI理論に適合しており,企業における歯周病の解決のための問題点を診断できることを示していた。
  • 小倉 喜一郎
    2000 年 50 巻 3 号 p. 341-350
    発行日: 2000/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    亜鉛(Zn)は必須微量元素の1つであり,生体内の数多くの酵素の構成成分として生理機能に重要な働きを示しており,その欠乏時には味覚異常や成長抑制などの障害を引き起こすことが知られている。本研究はWistar系雄性ラットを用いて,Zn欠乏飼料で4週間飼育し,Zn欠乏における味蕾細胞のターンオーバータイム延長および大腿骨に及ぼす影響を調べる目的で,舌微小血管構築の走査電子顕微鏡観察,大腿骨骨密度および機械的特性について検討した。それらの結果としてZn欠乏群ラットは,対照群に比べて食餌摂取量が減少し,体重増加が抑制されたことや,実験開始3週間頃よりZn欠乏の特徴とされる皮膚症状や立毛などの肉眼所見が観察された。また,血液生化学値に関しては対照群に比べ血清中Zn濃度および血清ALP活性が有意に低値であった。舌中Zn濃度については対照群に比べ有意に低値であり,大腿骨における骨長,骨密度および最大ひずみ,最大曲げ応力は,対照群に比べともに有意に低値であった。さらに,舌微小血管構築像の電子顕微鏡観察により舌微小血管の漏洩像が観察された。これらのことから,Zn欠乏による味覚異常は,味蕾細胞の栄養供給路である舌微小血管の障害が関連しており,かつ大腿骨骨密度の成長障害および骨密度の低下が認められた。これらからZn欠乏が舌乳頭の局部組織障害とともに硬組織への影響が無視できないことが示唆された。
  • 武藤 隆嗣, 譽田 英喜, 前田 伸子, 松本 亀治, 森戸 光彦
    2000 年 50 巻 3 号 p. 351-360
    発行日: 2000/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    本研究では異なる2施設に入居する高齢者を対象として,口腔内診査と口腔常在微生物叢の検査を行い,両施設間での比較を行った。また,特にCandidaに関してはA)舌表面のCandidaの菌数と義歯との関連,B)今回の結果と厚生科学研究8020データバンク構築事業の一部の結果(新潟県下で自宅に居住する70歳と80歳)との比較も行った。神奈川県下の特別養護老人ホーム(50名)および東京都下の老人病院(29名)の2施設に入居する高齢者(平均年齢80.9歳)を被験者として,唾液量,唾液緩衝能,唾液中のmutans streptococciとlactobacilliの菌数,舌表面のCandidaとstaphylococciの菌数を調べた。今回,検査した全項目で,2施設間に差はみられなかった。しかし,両施設を義歯装着の有無で2群に分けて比較した場合,Candidaとstaphylococciの菌数が義歯装着者群で非装着者群に比べて高く,両群間で統計学的に有意な差がみられた。また,本研究で得られた施設に入居する高齢者のCandida菌数と,自宅に居住する70歳者あるいは80歳者のCandida菌数と比較したところ,施設に入居する高齢者では最も菌数が高いGrade 4に属するものが多く,両施設入居者と70歳者あるいは80歳者との間に統計学的有意差があった。以上の結果から,施設に入居する高齢者では口腔内のCandidaが多く,義歯装着者では義歯がreservoirとなってCandida数がさらに増加することが示された。
  • 三畑 光代, 戸田 真司, 荒川 浩久
    2000 年 50 巻 3 号 p. 361-374
    発行日: 2000/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    調査対象者は2つの集団からなり,某企業従業員38名と某短期大学の歯科衛生学科1年生26名である。これら2つの異なった集団に対して,歯磨剤と発泡剤の有無によるブラッシング感,歯垢と口腔細菌の除去,ブラッシング時間などのブラッシングに伴う諸因子の違いを評価項目とするクロスオーバー試験を実施した。ブラッシング方法は,方法A:発泡剤配合歯磨剤,方法B:発泡剤無配合歯磨剤,方法C:歯磨剤なし,方法D:各被験者の使用歯磨剤であり,それぞれのブラッシング方法を1週間ずつ実施して,各評価項目を解析調査した。その結果は以下のようにまとめることができる。1.方法Cに比較して,歯磨剤を用いる方法Aと方法Bは,有意にブラッシング感の評価が高かった。ことに,発泡剤配合の方法Aは総合的に評価が高く,より高い満足感をもってブラッシングできることが示された。2.ブラッシングは,歯垢除去と口腔細菌を減少する効果のあることが再確認できた。さらに,発泡剤配合の方法Aは,使用歯磨剤量が少なくても効果的にブラッシングができることが示唆された。3.歯磨剤量を増加(0.23〜1.66K)すると歯垢の再付着が抑制され,特に発泡剤配合歯磨剤ではその効果が大きかった。4.ブラッシング時間やブラッシングに伴う諸因子に対しても歯磨剤や発泡剤の影響はほとんど認められず,ブラッシング時間は左右されないことが示された。以上により,歯磨剤,特に発泡剤配合歯磨剤をブラッシングに用いることは,より良好なブラッシング方法であることが示された。
  • 八木 稔, 佐久間 汐子, 宮崎 秀夫
    2000 年 50 巻 3 号 p. 375-381
    発行日: 2000/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    フッ化物洗口は,歯のフッ素症のリスクになるかもしれないとして,6歳未満の子どもたちには用いるべきではないとされる場合がある。しかし,日本のようなフッ化物の全身応用がなされていない地域において,そのようなフッ化物洗ロプログラムが歯のフッ素症のリスク要因であるという疫学的な報告はみあたらない。そこで,(1)フッ化物洗口群(非フッ素地区において4歳児からフッ化物洗ロプログラムに参加),(2)天然フッ素群(天然にフッ化物添加された約0.8mg F/lの水を飲用,フッ化物洗口プログラムない,および(3)非フッ素群(非フッ素地区,フッ化物洗ロプログラムない,それぞれの小学校5,6年生を対象に,2〜6歳の間に形成されるエナメル質の歯面領域(Fluorosis Risk IndexのClassification II)におけるエナメル斑の発現について疫学的調査を行った。フッ素性とみなされたエナメル斑の発現については,フッ化物洗口群では,非フッ素群よりも少ない傾向にあったが(オッズ比0.358),統計学的に有意ではなかった。同じエナメル斑の発現は,天然フッ素群では,非フッ素群に比較して有意に多かった(オッズ比3.112)。また,非フッ素性とみなされたエナメル斑の発現は,フッ化物洗口群および天然フッ素群ともに,非フッ素群と比較して少ない傾向がみられたが,統計学的に有意ではなかった。よって,非フッ素地区における就学前4歳児からのフッ化物洗ロプログラムが,歯のフッ素症のリスク要因となるとはいえなかった。
  • 後藤 篤子, 橋本 修一
    2000 年 50 巻 3 号 p. 382-397
    発行日: 2000/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    歯髄組織に対するSr^<2+>の影響を調べる目的で,ラット歯髄組織由来の歯髄培養細胞および骨芽細胞様細胞株MC 3 T 3-E1を用い,細胞のアルカリ性ホスファターゼ(ALP)活性およびプロテインキナーゼC(PKC)活性に対する作用について検討し,以下の結果を得た。1.10^<-4>M以下のSr^<2+>は,歯髄細胞のALP活性を高めた。2.Sr^<2+>は,細胞抽出ALP自体を活性化せず,細胞増殖も促進しなかった。しかしタンパク質生成量は増加したことから,Sr^<2+>による細胞のALP活性の上昇は,酵素の生成誘導に起因する可能性が示唆された。3.歯髄細胞では,10^<-3>M以下のSr^<2+>によるカルシウム沈着量の増加は認められなかったが,骨芽細胞では,Sr^<2+>添加濃度に応じて増加した。4.10^<-3>MのSr^<2+>は,歯髄細胞および骨芽細胞のPKC活性を高めた。この両細胞から抽出したPKCに直接Sr^<2+>を作用させても,Ca^<2+>と同様,酵素活性が上昇した。5.Sr^<2+>,Ca^<2+>はともにラット脳のPKC標品の活性を高めたが,Sr^<2+>によるPKC活性上昇作用はCa^<2+>の1/10であった。Sr^<2+>とCa^<2+>をPKCに同時添加すると,Ca^<2+>を単独添加したときの酵素活性よりむしろ低下した。6.PKCに対するSr^<2+>とCa^<2+>の結合親和性は,およそ1:2の比率であった。以上の結果から10^<-3>M以下のSr^<2+>は,歯髄細胞および骨芽細胞などの硬組織周辺細胞へのALP活性およびPKC活性を高め,硬組織の石灰化に対し促進的に作用することが示唆された。
  • 笹原 妃佐子, 河村 誠
    2000 年 50 巻 3 号 p. 398-406
    発行日: 2000/07/30
    公開日: 2017/12/08
    ジャーナル フリー
    母親は育児の主な担い手であり,母親のフッ化物応用に対する知識,態度および行動が子どもの口腔内状態に影響を及ぼすと考えられる。そこで,本研究では,1993年11月から1994年3月までに,3歳児健康診査受診のため,広島市内某保健所を訪れた母子437組を対象に,フッ化物応用に関する母親への質問紙調査と3歳児の口腔内診査を行い,以下の結果を得た。1.回答を得た母親の69%は,う蝕予防には歯みがきが最も効果的であると回答し,フッ化物応用のほうが効果的であると回答した母親は1%だった。2.母親の24%がフッ化物配合の歯磨剤を3歳児に使用し, 81%の母親が3歳児にフッ化物塗布を受けさせていた。3.3歳児のう蝕罹患経験の有無は,フッ化物配合歯磨剤の使用の有無やフッ化物塗布経験の有無により統計学的有意差はみられなかった。以上のことから,う蝕予防手段としてのフッ化物応用に対する母親の認識は全体的に低く,積極的にフッ化物応用を取り入れている母親においても,その行動が3歳児のう蝕を減じるに至っていないことが示唆された。そのため,専門家である歯科医師には,フッ化物応用に対する正確な情報を伝達する責任があると考えられる。
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