口腔衛生学会雑誌
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73 巻, 4 号
令和5年10月
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
原著
  • 吉田 歩未, 中村 由紀, 大島 邦子, 中島 努, 笹川 祐輝, 濃野 要, 早﨑 治明
    2023 年 73 巻 4 号 p. 260-269
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/15
    ジャーナル フリー

     本研究は,知的障害者の障害支援区分をはじめとした支援の必要度と口腔内の状態および口腔ケアを受ける際の協力度(口腔ケア協力度)との関連性を明らかにすることを目的とした.調査対象は新潟県内の入所型の障害者支援施設の知的障害のある施設利用者101名とした.

     結果として,障害支援区分と歯の状態では現在歯数,健全歯数,処置歯数,未処置歯数,喪失歯数において有意差を認めなかった.一方,障害支援区分と口腔ケア協力度では有意差を認め,区分が高くなると口腔ケア協力度が有意に低下した.また,ADL評価でも障害支援区分と同様の結果を認めた.ADL自立度「要支援」において口腔ケア協力度は起き上がり,立ち上がり,衣服の着脱,危険の認識,入浴,食事の6項目が協力度「悪い」が有意に高く,ADL自立度「自立」において衣服の着脱,危険の認識,入浴,排尿,食事の5項目が協力度「良い」が有意に高かった.

     これらの結果から,定期的な歯科介入が実施されている施設の知的障害者の歯の状態は障害支援区分に関連しにくく,支援の必要度が高いほど口腔保健支援に対する協力が得づらいことが示唆された.またADL評価の結果より,支援全般における必要度から口腔ケア協力度を評価する際には,障害支援区分の認定調査項目「身の回りの世話や日常生活等に関連する項目」といった,知的能力を必要とする動作の自立度がスクリーニングに有効である可能性が示唆された.

  • 元井 志保, 加藤 千景, 小松﨑 明, 小野 幸絵, 嵐 聖芽, 煤賀 美緒, 小松﨑 豊, 鴨田 剛司
    2023 年 73 巻 4 号 p. 270-278
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/15
    ジャーナル フリー

     自覚症状が日常生活に影響するプロセスを分析することは,全身および口腔の疾病予防に寄与すると考えられる.本研究では,平成28年国民生活基礎調査の匿名データを活用し,42種の自覚症状と日常生活への影響の有無との関連性について分析した.対象は40歳以上70歳未満で自覚症状関連の質問に有効回答があった8,332名(男性4,022名,女性4,310名)である.分析方法は①分割表による自覚症状と日常生活への影響の有無との間での単変量分析,②日常生活への影響の有無別にみた各症状の回答率順位の比較,③日常生活への影響の有無(モデル1),主観的健康感(モデル2)を目的変数とした2項ロジスティック回帰分析(多変量分析)により実施した.

     その結果,単変量分析では「手足の動きが悪い」(オッズ比:4.17)を含む16症状で,口腔症状では「かみにくい」(1.95),「歯ぐきのはれ・出血」(1.42)で,日常生活への影響の有無との関連が認められた.日常生活への影響あり・影響なし群間で自覚症状の回答率順位を比較した結果,両群間に有意差(p<0.001)が認められた.

     2項ロジスティック回帰分析の結果,日常生活への影響の有無を目的変数としたモデルでは,「骨折・ねんざ・脱きゅう」(調整済みオッズ比:3.17),「手足の動きが悪い」(3.00)を含む5症状の調整済みオッズ比が有意となっていた.

     以上の結果から,日常生活に影響しやすい自覚症状の存在が示唆され,有訴者に対する保健指導に際しては留意すべきと考えられた.

  • 入江 浩一郎, 持田 悠貴, アルタンバガナ ナンデン ウチラル, 渕田 慎也, 東 哲司, 岩井 浩明, 米永 崇利, 笹井 保之, 友藤 ...
    2023 年 73 巻 4 号 p. 279-286
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/15
    ジャーナル フリー

     歯の喪失は全身の健康状態に影響を及ぼすため,早期の段階から予防することが重要である.喪失歯に関連する要因は多様で,現在歯数によって異なる可能性がある.そこで本研究では健診を受けた成人を対象に,28歯以上と28歯未満の者に分け,5年後における歯の喪失に関連する因子が異なるかを検討することを目的とした.朝日大学病院で健診を受診した者のうち,5年後も同様の健診を受診した292名(男性193名,女性99名)を対象とした.5年間で1歯以上の歯の喪失の有無を目的変数とし,喪失に関連する要因を説明変数とした変数減少法による二項ロジスティック回帰分析を行った.5年間の歯の喪失発生者率は28歯以上と28歯未満では,それぞれ22.1%と34.5%であった.二項ロジスティック回帰分析の結果,28歯以上では飲酒習慣(あり,オッズ比=2.81,95% 信頼区間:1.37–5.77)とう蝕(あり,オッズ比=3.19,95% 信頼区間:1.39–7.37)が,28歯未満では歯周ポケット深さ(≥6mm,オッズ比=20.38,95% 信頼区間:1.72–240.89)が歯の喪失の有無に有意に関連していた.結論として,現在歯数を28歯で分けて分析すると,歯の喪失発生者率やそれに関連する要因が異なり,28歯以上ではう蝕,28歯未満では歯周病対策が重要であることが示唆された.

報告
  • 野口 有紀, 藤田 美枝子, 上田 一紀, 種村 崇, 吉田 直樹
    原稿種別: 報告
    2023 年 73 巻 4 号 p. 287-293
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/15
    ジャーナル フリー

     2018年と比較し2021年の60~69歳のインターネット利用率が,大きく上昇している.近年の急速なインターネットの普及により,高齢者の歯・口腔に関する情報収集方法が変化し,高齢者の口腔保健行動にも影響を及ぼしていることが考えられる.そこで,前期高齢者のインターネット利用と歯間部清掃用具の使用との関連を検証することを本研究の目的とした.

     2021年3~5月に調査を実施した.調査対象者は,調査協力の得られた自治体の高齢者1,500名を無作為抽出し,郵送法による無記名自己記入式質問紙調査を行った.817名(54.5%)の有効回答者数が得られ,そのうちの65~74歳462名の前期高齢者を本研究の対象とした.欠損値を除いた403名を対象にχ2検定を実施後,歯間部清掃用具の使用を目的変数,過去1年間のインターネット利用を説明変数とし,性別,年齢,婚姻状況,最終学歴,世帯収入,喫煙および飲酒状況を調整変数としたロジスティック回帰分析を実施した.

     過去1年間にインターネットを利用したと回答した者は61.0%であった.歯間部清掃用具の使用があると回答した者は59.1%であった.ロジスティック回帰分析の結果,過去1年間にインターネットを利用していないと回答した者は利用していると回答した者に比べ,歯間部清掃用具の使用がないオッズ比は1.98[95%CI: 1.26–3.11]となり有意に高かった(p<0.05).

     前期高齢者においてインターネット利用は,歯間部清掃用具の使用との関連を示した.

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