亜硝酸イオン (以下NO
2-で示す) が, 発ガン性ニトロソ化合物の前駆体の一つであるということはよく知られた事実である。ヒト唾液中にNO
2-が存在することについては, 多くの人により報告されてはいるが, その生成機構については, まだ不明のところが多い。この研究の目的は, 唾液中の
2-がどのようにして産生されたかを検討することである。
種々の条件下において, 混合唾液, 耳下腺唾液, 含嗽水, 血液および尿中の
2-および硝酸イオン (以下NO
3-で示す) 濃度を測定し, 次の結果を得た。
1) 硝酸ナトリウムを経口投与すると, 混合唾液中に, 多量のNO
2-を検出したが, 耳下腺唾液, 血液および尿中には, NO
2-は全く認められなかった。一方, 混合唾液, 耳下腺唾液および尿中のNO
3-は増加したが, 血液中のNO
3-は投与の前後とも一定の値を保った。
2) 口腔内に硝酸塩溶液を保つと, 数分間で含嗽水中にNO
3-の減少とNO
2-の増加がみられた。
3)
in vitroでは, 唾液沈渣浮遊液の量に比例してNO
2-が産生された。沈渣浮遊液の熱処理およびメンブランフィルター濾液には硝酸還元作用はなかった。10KC, 10分間超音波処理をするとその活性は20%に減少した。
4) 含嗽水中の
Veillonella (口腔内常在性細菌) の数は, NO
2-/NONO
3-の比と相関した。
これらの結果から, 混合唾液中の
2-は, 食物中のNO
2-が直接血液を介して唾液中に分泌されるのではなく, 唾液腺で濃縮されたNONO
3-が, 口腔内細菌, 主として
Veillonellaにより, 口腔内で還元されて生成されるものと決論した。
抄録全体を表示