口腔衛生学会雑誌
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57 巻, 5 号
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原著
  • 渡辺 清子, 松下 昌史, 松下 祐治, 梅本 俊夫
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 5 号 p. 605-612
    発行日: 2007/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    ピクノジェノール®は,フランス海岸松であるPinus pinasterから抽出される植物性生理活性物質であり,プロシアニジンとフラボノイドを含有する.いずれの成分もポリフェノールの一種であることから,口腔常在菌を含む10菌種に対するピクノジェノール®の抗菌効果について種々の濃度のピクノジェノール溶液を用いて検討した.供試したグラム陽性細菌に対して,Actinomyces viscosusを除くすべての細菌に対して明らかな抗菌活性が認められた.また,Streptococcus mutansに対する抗菌活性は,0.05%濃度まで有意に認められたが,Streptococcus gordoniiに対する効果は低いものであった.これらの効果は作用時間を長くすることで増強し,10分間では抗菌活性の認められない0.01%濃度処理においても60分間作用させることにより有意な細菌生存率の減少が認められた.さらに,0.01%濃度のピクノジェノール®を含む培地を用いてS. mutansおよびS. gordoniiの増殖に対する影響について検討した結果,いずれの口腔レンサ球菌の増殖も無添加コントロールと比較して抑制された.一方,グラム陰性菌に対しては,Escherichia coliおよびVeillonella parvulaを除く4菌種に対して,顕著な抗菌活性が認められた.特に,偏性嫌気性グラム陰性桿菌であるPorphyromonas gingivalisおよびPrevotella nigrescensに対する抗菌活性は,0.1%ピクノジェノール濃度においてそれぞれ93.6±2.4%,89.6±4.8%であり,その効果は0.001%まで有意に認められた(P<0.05).以上の結果から,ピクノジェノール®は,口腔常在の幅広い細菌に対しての抗菌活性を有することが明らかとなった.
  • 高野 知承, 竹原 順次, 森田 学
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 5 号 p. 613-621
    発行日: 2007/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    本調査の目的は,非う蝕性歯頸部欠損すなわち,Noncarious Cervical Lesion(以下NCCL)と歯磨き習慣,歯ぎしり,咬合力,咬合接触面積および平均圧力との関連を明らかにすることである.分析対象は,陸上自衛隊丘珠駐屯地医務室歯科の受診者130名(男性)とした.全歯を対象に,NCCLの有無と形態を診査した後に,面接法による歯磨きおよび歯ぎしりに関する質問調査および咬合力,咬合接触面積および平均圧力の診査を行った.その結果,NCCLを少なくとも1歯以上保有している者は,対象者130名中78名(60.0%)であった.また,NCCL歯は,対象歯3,708歯中298歯(8.0%)であった.Tooth Wear Indexによる分類では,グレード2(深さが1mm未満の欠損)の歯が最も多く,NCCL歯298歯中の208歯(69.8%)であった.また,上顎が下顎に比べ有意に高い出現頻度であり,歯種別の出現率では前歯,大臼歯,小臼歯の順に有意に多くみられた.しかし,左右差は認められなかった.ロジスティック回帰分析の結果,NCCLの保有に対して有意な変数は,年齢(OR=2.43,36歳以上),ブラッシング圧(OR=4.88,強い : 400g)および咬合接触面積(OR=5.11,23.1mm^2以上)であった.以上の結果より,NCCL歯に左右差は認められず,上顎に多く,前歯,大臼歯,小臼歯の順で多く認められた.さらにNCCLは多因子性の疾患であり,年齢,ブラッシング圧および咬合接触面積が関連していた.
  • 埴岡 隆, 山本 未陶, 馬場 みちえ, 畝 博, 谷原 真一, 今任 拓也, 松瀬 亮一
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 5 号 p. 622-631
    発行日: 2007/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    歯肉溝滲出貯留液(GCF)中の炎症性物質とメタボリックシンドローム(MS)との関連性を調べた.事業所健診でGCFを採取し,ラクトフェリン(Lf),α_1-アンチトリプシン(AT),ヘモグロビン(Hb),IgA,アスパルテートアミノトランスフェラーゼ(AST),アルカリフォスファターゼ(ALP),乳酸脱水素酵素(LDH)について定量的分析を行い,陽性・陰性の判定を行った.MSおよび関連指標は通法に準じて判定した.35歳以上の536名(男353名,女183名)の記録を分析した.MS所見者は所見なしの者よりAT,Lf,IgA,ASTが有意に多く(P<0.05),同様に,腹囲所見ではLf,Hb,IgA,脂質所見ではLf,IgA,AST,LDH,血糖所見ではIgAの炎症性物質に有意差が認められた.MS所見とLf(性,年齢層,喫煙調整オッズ比,95%信頼区間 : 2.6,1.3-5.3)およびIgA(2.0,1.2-3.5)の判定,腹囲とLf(34,1.6-70)の判定,血糖とHb(2.2,1.0-4.7)およびIgA(2.0,1.1-3.5)の判定との関係も有意であった.以上のことから,GCF中の炎症性物質とMSとの関連性が示され,歯周組織の炎症応答とMSとの関連性が示唆された.
  • 山本 龍生, 恒石 美登里, 村上 千春, 渡邊 達夫
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 5 号 p. 632-639
    発行日: 2007/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    岡山大学病院予防歯科診療室では,歯の喪失を防止するために,口腔内の継続管理を行っている.しかし,メインテナンス中でも歯が喪失されており,何らかの対策が必要である.本研究では,初診から2年以降のメインテナンス中における歯の喪失状況を後ろ向きに調査し,喪失原因や喪失にかかわる因子を検討した.岡山大学病院予防歯科を8〜10年継続的に受診した全患者106名(男性33名,女性73名)を対象とした.診療録により,受診2年以降の歯の喪失原因,全身疾患の有無,喫煙の有無を調査した.歯の喪失の原因は,エックス線写真や主治医の記憶も考慮した.初診時,初診から2年時点,および調査時点の現在歯と歯周組織の状況および歯垢指数を記録した.初診時の年齢は65.1±11.8歳であった.50名が初診から2年以降に歯を喪失し,喪失経験者は年齢の高い者に多かった.対象者の総喪失歯は103本で,歯種では上顎第二大臼歯が最も多かった.喪失原因としては歯周病が最も多く,次いで自然脱落,破折の順であった.歯の喪失経験者は未経験者に比較して,年齢が高く,高血圧症罹患者の割合が高く,初診時の現在歯数が少なく,重度の慢性歯周炎罹患者が多かった.これらの結果から,メインテナンス中における歯の喪失防止には,重度の歯周炎患者に対する歯周病の再発に注意する必要があることが明らかになった.
  • 角舘 直樹, 須貝 誠, 藤澤 雅子, 森田 学
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 5 号 p. 640-649
    発行日: 2007/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    歯冠修復および定期歯科健診についての歯科医業収支を比較した.インレー修復,コンポジットレジン充填,抜髄後に鋳造歯冠修復,成人の定期歯科健診の4つの処置を対象とした.方法は,社会保険歯科診療報酬点数早見表を用いて医業収入を算出し,そこから医業費用を引いて収支差額を算出した.医業費用は材料費と歯科技工外注費および人件費に分けて算出した.収支差額とチェアタイムから,単位時間あたりの収支差額を算出して,各処置を比較した.その結果,単位時間あたりの収支差額は,コンポジットレジン充填,成人の定期歯科健診,抜髄後に鋳造歯冠修復,インレー修復の順に大きかった.以上の結果から,定期歯科健診を行う歯科衛生士とそのユニットを確保できる場合は,定期歯科健診を目的として来院する成人の患者数が増加することで経営的に収支差額が向上する可能性が示唆された.
  • 石井 瑞樹, 末高 武彦
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 5 号 p. 650-661
    発行日: 2007/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    初めて歯科保健事業を実施した事業所における成人男性の口腔保健状況には,事業実施前におけるかかりつけ歯科医の状況と歯科に関する受診行動が影響すると考え検討を行った.本研究の対象者は,某健康保険組合被保険者のうち30〜59歳の男性985名である.口腔保健状況の実態を把握し,かかりつけ歯科医の状況により3群に群別し比較検討した.かかりつけ歯科医をもち過去1年間に歯科健康診査と歯石除去のための受診経験がある群(かかりつけ受診群)とない群(かかりつけ未受診群),かかりつけ歯科医をもたず過去1年間の受診経験がない群(かかりつけなし群)の3群とした.その結果,かかりつけ受診群とかかりつけ未受診群との間には,歯の磨き方や歯間部清掃用具の使用に差がみられ,それぞれかかりつけ受診群で有意に多かった.また,ロジスティック回帰分析の結果から,かかりつけ歯科医をもち,かつ定期的な受診行動をとる群では,30歳代では良好な口腔保健行動が強く関連しており,40歳代と50歳代では,口腔の健康に関する積極的な意識や認識の面が強く関連していた.本研究のようにかかりつけ歯科医の有無に定期的な受診行動を加味して比較検討を行った報告はなく,今回の結果から,かかりつけ歯科医の存在と実際の受診行動が歯科保健管理のどの分野に特に影響しているかについて推察できた.
  • 晴佐久 悟, 山本 未陶, 埴岡 隆
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 5 号 p. 662-670
    発行日: 2007/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    舌苔と生活習慣および自覚症状との関連性を視覚評価およびデジタル画像解析により検討した.大学生92名の舌のデジタル画像から,舌苔の厚さ,色調,量を視覚により判定し,デジタル画像解析として,画像処理ソフトを使用して標準RGB値を算出した.生活習慣および自覚症状については,質問紙により調べた.すべての対象者に舌苔が認められ,舌の後方中央部が最も舌苔が厚く,また色素沈着率も高かった.舌苔の平均標準R値,G値,B値は,それぞれ,108.4±6.3.75.5±3.9,71.1±4.3であった.舌後方中央部の舌苔の厚さは,性,歯磨き回数,消化器系症状3項目と有意の関連性を示した.舌苔の量は,歯磨き回数および舌ブラシの使用と有意の関連性(p<0.01-0.05)を,舌苔の色調は,消化器系症状1項目と有意の関連性(p<0.05)を示した.標準R,G,B値は喫煙,消化器系症状7項目と有意の関連性を示した(p<0.001-0.05).これらの結果から,若年成人においても,舌苔は生活習慣や自覚症状を反映し,評価法を用いて,対象者の健康に関する会話に利用できる可能性が示唆された.
  • 笹原 妃佐子, 大谷 裕幸, 佐藤 美穂子, 河村 誠
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 5 号 p. 671-678
    発行日: 2007/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    近年,母子に対する歯科保健活動は随所で行われており,母親が子どもを育てる過程で母親自身が教育され歯科保健行動が良好になることが予想される.また,その基盤には子どもを育てることとは無関係な歯科保健行動に対する変動要因も存在するであろう.そこで,本研究では,HU-DBI(歯科保健行動目録)を用いて1歳6か月児健診時に母親の歯科保健行動調査を実施し,母親の年齢階層(育児以外の一般的な部分での教育)および健診を受けさせた子どもの出生順位(育児段階での教育)の両者と歯科保健行動との関連を二元配置分散分析により検討した.対象の母親は,平成5〜12年度,広島県東広島市での1歳6か月児健診時に母親の歯周健診と刷掃指導も行う『親子歯科健診』事業への参加者8,896名とした.母親の年齢階層,子どもの出生順位ともにHU-DBI得点と有意な関連がみられた(両方ともp<0.01).分散分析後に多重比較を行うと,母親の年齢階層では32-36歳群(5.40)に,子どもの出生順位では第3子(5.65)にHU-DBI得点のピークがあった.このことから年齢的に口腔の健康を守っていこうとする意識や自分の口腔状態の捉え方が良好な年齢層とそうでない年齢層があること,また,第1子から第3子にかけては子どもの養育過程で母親自身が歯科保健行動の面で教育されることが示唆された.
報告
  • 吉岡 昌美, 本那 智昭, 福井 誠, 横山 正明, 田部 慎一, 増田 かなめ, 日野出 大輔, 伊藤 博夫
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 5 号 p. 679-686
    発行日: 2007/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    われわれは平成5年度から徳島県内の某中学校において学校歯科保健活動に継続的に取り組んでいる.平成8年度からは臨時歯科検診にPMA indexを取り入れ,生徒の歯肉炎の状態を観察してきた.PMA indexの判定では,診査者間のばらつきが危惧されたため,平成16年度までは1名の診査者が判定を行った.平成17年度,われわれはより客観性の高い歯肉炎の評価方法を模索するため,検診時に撮影した39名の被検者の口腔内写真を用いて,5名の評価者によるPMA indexとGO(歯周疾患要観察者)/G(歯周疾患罹患者)の判定を行った.1年後の平成18年度にはPMA indexにおける判定のばらつきを是正するための補正用媒体(視覚素材)を作成し,同じ5名の評価者がこの媒体を用いてキャリブレーションを実施したのち,同じ口腔内写真に対する2度目の評価を個々に行った.その結果,口腔内写真を用いた判定にはいくつかの問題点があるものの,診査者間のばらつきを補正できる利点が確認された.また,各自の口腔内写真とPMA indexの結果は学校教員による歯科保健指導用教材としても有用であることが示唆された.
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