喫煙は歯周病の発症,進行,予後のリスクファクターであることが示されている。しかし,喫煙が歯列組織破壊に関与する生理学的機序については,明確に説明されていない部分が多い。本研究では,喫煙者と非喫煙者の歯肉組下温度を比較することにより,喫煙による歯周組織破壊の経路について生理学的な面から検討することを目的とした。喫煙者46名および非喫煙者53名の上顎前歯の歯肉組下温度を測定した。歯種,プラーク指数,歯肉炎指数別に歯肉組下温度には有意差が認められなかった(p=0.6835,0.6464,0.0730)。非喫煙者では歯列ポケットが深くなると歯肉組下温度も上昇した(p=0.0033)が,喫煙者では歯周ポケットの深さにより有意差は認められなかった(p=0.2807)。歯列ポケットの深さが3mm,4mm,5mmの部位では喫煙者の歯肉組下温度(35.2±0.7で,35.5±0.6℃, 35.7±0.8で)は,非喫煙者の歯肉組下温度(34.3±0.9℃,34.6±1.1℃,34.9±1.1℃)より有意に高かった(p=0.0048,0.0129,0.0457)が,6mmの部位では喫煙者(35.6±0.4で)と非喫煙者(35.8±1.1で)との間に有意差は認められなかった(p=0.2627)。以上のことから,喫煙者の歯肉組下温度は,非喫煙者に比して浅いポケットで高いことが示された。喫煙が関連する歯周組織破壊の前あるいは初期の段階において,歯肉組下温度の上昇が関与していることが示唆された。
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