口腔衛生学会雑誌
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61 巻, 2 号
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総説
  • 雫石 聰, 田中 宗雄, 永田 英樹
    2011 年 61 巻 2 号 p. 190-202
    発行日: 2011/04/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    近年,栄養素・食品と歯周病との関連性に関する疫学研究が行われ,多くのエビデンスが蓄積されつつある.一方,健康の保持増進と疾病予防に関するエビデンスが示されている機能成分を含む食品である機能性食品の開発が精力的に進められているが,歯周保健の分野においても,栄養素・食品による介入研究が活発に行われてきている.この総説では1995年1月から2010年10月に報告された歯周保健のための機能性食品に関する介入研究を中心に英文と和文の原著論文ついてシステマティックレビューを行った.ビタミンCとE摂取による無作為化比較試験(RCT)では,歯周病の臨床指標やバイオマーカーの改善がみられ,歯周保健への有用性が示された.また,カルシウムと大豆イソフラボンの摂取により歯槽骨の維持・獲得が認められた.乳酸桿菌摂取によるいくつかのRCTでは,歯周病細菌の減少や歯周病の臨床指標の改善がみられ,今後歯周保健の分野での応用が期待される.薬剤や植物抽出物などを配合した抗菌性食品では,クロールヘキシジンやユーカリ抽出物配合ガムの有効性がRCTで明らかにされている.そのほか脂肪酸や種々のビタミン類を含むサプリメントについても,まだ科学的根拠が十分とはいえないが,歯周保健に対する有効性が示されつつある.今後,さらに栄養素・食品による歯周保健への有効性に関する質の高いエビデンスを蓄積し,歯周保健のための機能性食品の開発に応用されることが望まれる.
原著
  • 晴佐久 悟, 相田 潤, 大石 憲一, 大石 恵美子, 田浦 勝彦, 筒井 昭仁, 黒瀬 真由美, 境 脩
    2011 年 61 巻 2 号 p. 203-208
    発行日: 2011/04/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    花崗岩類には他の岩石よりも高濃度のフッ化物が含まれており,花崗岩が水道水中のフッ化物イオン濃度に影響を及ぼす可能性がある.過去の研究では,水道水フッ化物イオン濃度が0.3mg/L以上で齲蝕予防に貢献するとの報告がある.著者らは,齲蝕予防の観点から,フッ化物イオン濃度が0.3mg/L以上の水道水を供給する浄水場(以下0.3mg/L以上群)の分布について調査した.その結果,0.3mg/L以上群の浄水場は全国で94施設であり,全体浄水場数の1.7%であった.0.3mg/L以上群の浄水施設数の多い県は,順に,愛媛県,広島県,兵庫県など花崗岩の分布同様に西日本に集中していた.次に0.3mg/L以上群と比較するために,0.3mg/L以上群を有する25府県において,0.3mg/L未満である浄水場100施設を無作為に抽出した(以下0.3mg/L未満群).0.3mg/L以上群,未満群を花崗岩分布図にプロットし,それらの浄水場の分布と花崗岩との位置関係を調査した結果,0.3mg/L以上群の約96%の浄水場が花崗岩の分布上に位置した.その割合は0.3mg/L未満群の26.0%より有意に高かった.以上の結果から,日本ではフッ化物イオン濃度が0.3mg/L以上の水道水を供給している浄水場が花崗岩分布同様に西日本に偏在しており,花崗岩中の高濃度のフッ化物が水道水中のフッ化物イオン濃度に影響を及ぼしている可能性が示唆された.
  • 相田 潤, 晴佐久 悟, 大石 憲一, 大石 恵美子, 田浦 勝彦, 筒井 昭仁, 黒瀬 真由美, 境 脩
    2011 年 61 巻 2 号 p. 209-214
    発行日: 2011/04/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    フッ化物は,地中,水中,空気中,食品中などに含まれており,人は日常的にこれを体内に取り込んでいる.日本の水道水中にも自然にフッ化物が含まれているが,これまでその齲蝕予防効果が広い地域にわたって検証されたことはなかった.本研究では,日本の水道水中フッ化物イオン濃度と3歳児齲蝕有病状況の関連の検討を目的とした.本研究は,市町村ごとの平成12年度3歳児齲蝕有病者率および平成12年度水道統計の浄水のフッ化物イオン濃度のデータを用いた地域相関研究である.全3,252市町村のうち,水道水データの存在する1,861市町村のデータを解析に用いた(57.2%).重回帰分析により,市町村の歯科保健に関する指標を含む共変量を調整したうえで,3歳児齲蝕有病者率の経験的ベイズ推定値と水道水中のフッ化物イオン濃度の関連を検討した.水道水中のフッ化物イオン濃度が0.000-0.049mg/Lの地域の齲蝕有病者率は43.6%(SD=11.1)であり,濃度が0.400mg/L以上の地域では35.9%(SD=7.6)であった.重回帰分析により共変量を調整したうえで,水道水中のフッ化物イオン濃度が0.300-0.399mg/Lおよび0.400mg/L以上の地域では,0.000-0.049mg/Lの地域に比べて,それぞれ7.2%(p=0.005),7.3%(p=0.001)有意に齲蝕有病者率が低かった.水道水フロリデーションされていない日本においても,水道水中のフッ化物イオン濃度が高い場合に齲蝕予防効果が生じている可能性が示唆された.
  • 小松崎 明, 小松 義典, 末高 武彦
    2011 年 61 巻 2 号 p. 215-224
    発行日: 2011/04/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    秋田県某市H地区では,う蝕リスク評価に基づく継続的な保健指導を重視し,幼児歯科健康診査にカリエスリスクテストを導入した.本研究では,3歳児までの歯科健康診査の継続受診児245名を対象として,dftおよびその推移,質問項目の結果,Dentocult®-Strip mutans(Dent-SM)スコアを比較し,3歳児のdftと関連する要因について分析し,以下のような結果を得た.3歳児までのdftの推移で対象者を群別したところ,0歯群58.0%(142名),2歳児までに罹患群17.6%(43名),3歳児までに罹患群24.5%(60名)となっていた.Dent-SMスコアが「2,3」の幼児は,2歳児以降に増加し(25.7%),1歳6か月児との間に有意差(p<0.01)が認められた.Dent-SMスコアの推移パターンと3歳児のdf者率とを比較した結果,スコアが悪化する時期が早いほど3歳児df者率は高く,1歳6か月児から継続してスコア「2,3」だった群では3歳児dft者率は70%を超え,他群との間で有意差(p<0.01)が認められた.dftの推移群別にDent-SMスコアおよび各質問項目の回答とを比較した結果,2歳児までに罹患群で「仕上げ磨き」ほか全項目で「要指導」となる回答者の割合が増加し,0歯継続群との間に有意差(p<0.01)が認められた.3歳児のdftを従属変数としてロジスティック回帰分析を実施したところ,2歳児Dent-SMスコア(6.524,p<0.01),3歳児Dent-SMスコア(4.000,p<0.01),3歳児間食規則性(3.284,p<0.05),2歳児飲料内容(2.582,p<0.05)でオッズ比が有意となっていた.これら結果から,2歳児までのミュータンス菌が増加する時期を捉え,食生活指導や仕上磨きの指導等を充実させることが重要との示唆を得た.
  • 杉浦 剛, 岸 光男, 相澤 文恵, 阿部 晶子, 南 健太郎, 稲葉 大輔, 佐藤 一裕, 米満 正美
    2011 年 61 巻 2 号 p. 225-232
    発行日: 2011/04/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    歯の喪失は定期的な機械的歯面清掃と口腔衛生指導により予防可能であることが報告されている.そこでデータマイニングの手法であるテキストマイニングおよび決定木分析を用いて定期歯科受診者の受診中断に関わる要因分析を行った.大学付属病院予防歯科外来にて定期歯科受診者106名を対象に定期歯科受診に対する感想および要望,満足度,口腔関連QOLについて質問紙調査を行った.口腔健康関連QOLの評価にはGOHAI(General Oral Health Assessment Index)を用いた.また,受診者のカルテの記載より住所,年齢,性別などを調べた.ついで1年後に受診継続している者(継続群75名)と6ヵ月以上受診を中断した者(中断群31名)に分類し,比較した結果,GOHAIの合計スコア,受診継続期間が中断群で有意に低かった(P<0.01).次に継続群と中断群について決定木分析を行ったところ,GOHAI合計点が40点以下の者(11名)は81.8%(9名)が受診を中断していた.GOHAI合計点が41点以上の者は受診を継続する傾向がみられたが,感想文中に「安心」または「気持ちよい」と記述していなかった者はほとんどが受診を中断していた.結果より口腔関連QOLが低い者は定期歯科受診を中断してしまう傾向があり,定期歯科受診に対して「安心」または「気持ちよい」と感じている者は受診を継続する傾向にあると考えられた.
  • 土居 貴士, 三宅 達郎, 上根 昌子, 神 光一郎, 川崎 弘二, 西田 侑平, 大橋 晶子, 神原 正樹
    2011 年 61 巻 2 号 p. 233-238
    発行日: 2011/04/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    本研究は乳歯列の口腔保健状態の診査において,主観的診査法である視診と客観的診査法であるquantitative light-induced fluorescence(QLF)法によって得られた結果の関係を明らかにすることである.大阪府下の保育園児119名(4-5歳)を対象に診査を行った.視診型の診査ではデンタルミラーとCPIプローブを用い,健全・修復(シーラントを含む),う蝕,初期う蝕の診査基準によって診査を行った.一方,QLF法による診査では,第二乳臼歯の咬合面と唇側面,乳切歯の唇側面を対象に視診型の診査と同じ基準で画像診査を行った.診査の結果,視診型による診査で検出された初期う蝕35歯面に対して,QLF診査では332歯面であり,両診査の間に初期う蝕の検出には約10倍の差が認められた.さらにQLF診査で修復と判定された134歯面は,視診では63歯面が修復と診査され,残りの61歯面は健全と判定された.これらの結果から,主観的診査法と客観的診査法を組み合わせた,新しい口腔内診査方法を確立する必要性が示唆された.
報告
  • 水谷 雄樹
    2011 年 61 巻 2 号 p. 239-244
    発行日: 2011/04/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    1993(平成5)年から2007(平成19)年までの15年間,名古屋市立A小学校における歯の健康診断に際し,歯面別う蝕検診票を用いてう蝕罹患の減少傾向を追跡した.11歳児童(6年生)のう蝕罹患歯面の84%が第一大臼歯で,そのうち咬合面が46%と全う蝕歯面の半数近くを占めていた.15年間を5年ごとに3期に分け,第一大臼歯咬合面について,S(健全)歯面から1年後にCO,D(未処置)あるいはF(処置)へ移行した割合をCODF発生率,DあるいはFへ移行した割合をDF発生率,CO歯面からDあるいはFへ進行した割合をDF進行率とし,それぞれ比較すると,1993-1997年期と1998-2002年期とではDF発生率が減少していたが,近年の2003-2007年期では変化がなかった.DF進行率は経年的に大きな変化がなかったが,CODF発生率は経年的に減少していた.以上より近年の児童のう蝕減少傾向は,COからDFへの進行率は変わらないものの,COの発生率が減少していることが寄与していると結論できる.
資料
  • 北田 勝浩, 西山 毅, 日野 陽一, 長田 恵美, 五月女 さき子, 佐藤 節子, 山口 泰平, Andreia de TOLEDO, 於 ...
    2011 年 61 巻 2 号 p. 245-253
    発行日: 2011/04/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    鹿児島県曽於郡大崎町で,平成20-22年度に歯周疾患検診と特定健康診査を同時受診した住民263人(男性114人,女性149人,平均年齢65.1±9.4歳,年齢幅40-89歳)を対象に,特定健康診査と歯周疾患検診における診査項目の関連性について検証した.特定健康診査等情報提供票をもとに,身体計測,血圧,血中脂質,肝機能,血糖および尿の測定項目と生活習慣の情報を得た.歯周疾患検診では,歯周病の状況に加えて,口腔湿潤度,口臭の程度,歯垢付着状態,舌苔付着状態,洗口・吐出した蒸留水の粘度,アンモニア濃度および濁度を調べた.過去1年間の体重の増減,就寝前の食習慣,十分な睡眠,および生活指導に対する受講希望が口腔清潔度に,就寝前の食習慣が男性の歯周組織の状態に関連していることが示唆された.特定健康診査の各検査項目について,中央値により低値群と高値群の2群に分け歯周疾患検診結果との関係を調べたところ,肝機能および血糖の状態と口腔清潔度,口腔清掃度,歯周組織状態,唾液粘度,口腔内湿潤度,口臭程度などとの間に関連が認められた.以上の結果から,特定健康診査と歯周疾患検診における診査項目の間には関連性が存在することが明らかになった.
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