口腔衛生学会雑誌
Online ISSN : 2189-7379
Print ISSN : 0023-2831
ISSN-L : 0023-2831
61 巻, 3 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • 中山 佳美, 森 満
    2011 年 61 巻 3 号 p. 265-272
    発行日: 2011/07/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    8020運動が提唱されてから20年以上経過しているが,いまだに多くの者が達成できておらず,北海道でも同様の状況である.今回,高齢者が歯を20本以上保つ要因について,北海道道東地域において調査を行った.町広報誌による一般応募から参加した現在歯数19本以下の高齢者79人(男性19人,女性60人)をケースとし,十勝地域高齢者歯のコンクール被表彰者である現在歯数20本以上の高齢者85人(男性60人,女性25人)をコントロールとして,身長,体重,治療中の疾患の有無,食習慣,口腔保健行動など全38項目について調査した.これらの38項目を説明変数,現在歯数を目的変数として,男女別に単変量ロジスティック回帰分析を行った.その結果,男性においては,現在歯数が20本未満と関連があった要因は,年齢が78歳以上などの8要因であり,女性においては,BMIが高いなどの8要因であった.これらの単変量解析で有意であった変数を用いて,stepwise法による多変量解析を行った結果,現在歯数が20本未満と関連があった要因は,男性では年齢が78歳以上,飲酒をほとんどしない,加工食品をほとんど食べないおよびかかりつけ歯科医がいないことで,女性ではBMIが23以上,運動が30分未満および糸ようじや歯間ブラシを使用していないであった.これらの結果を活用して,北海道道東地域の自治体の健康計画を推進する必要がある.
  • 多田 章夫, 泉福 英信
    2011 年 61 巻 3 号 p. 273-281
    発行日: 2011/07/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は日本の歯科医師における「HIV感染患者への態度」,「感染に関する知識」,「院内感染防止策実施」に関与する因子を探索し,さらに,「HIV感染患者への態度」,「感染に関する知識」,「院内感染防止策実施」の相互の関連を解析することである.愛知県に開業している歯科医師3,316人に対し「HIV感染患者への態度」,「感染に関する知識」,「院内感染防止策実施」についてのアンケート調査を行い,回答のあった人に対し統計的な解析を行った.全体として,「49歳以下」,「口腔外科専攻」,「1日36人以上の患者を診療する」はHIV感染患者への良好な態度,感染に関する高い知識,院内感染防止実施の有意な予測因子であった.49歳以下の歯科医師は50歳以上の歯科医師よりも「HIV感染患者への態度」におけるすべての項目で望ましい行動をとると回答した.1日36人以上の患者を診療する歯科医師は34人以下の歯科医師に比べ,ほとんどの院内感染防止策実施項目で実施状況が良好であった.「HIV感染患者への態度」,「感染に関する知識」,「院内感染防止策実施」それぞれにつき,各項目の回答結果をもとにインデックス化し「院内感染防止策実施」に有意な関連をもつ因子を調べたところ「感染に関する知識」,年齢,口腔外科専攻,患者数が該当した.「49歳以下」,「口腔外科専攻」,「1日36人以上の患者を診療する」はHIV感染患者への良好な態度,感染に関する知識,院内感染防止実施の予測因子であった.「感染に関する知識」は「院内感染防止策実施」と有意な関連を示した.
  • 峰岡 哲郎, 粟野 秀慈, 吉田 明弘, 邵 仁浩, 濱嵜 朋子, 安細 敏弘
    2011 年 61 巻 3 号 p. 282-287
    発行日: 2011/07/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    本調査は若年層の女性の口臭意識の実態と,口臭と対人行動の関係を明らかにすることを目的とした.対象者は某女子大学学生121名(平均年齢18.5歳)で,質問紙は30問の選択方式とした.その結果,彼女らが口の中で気になることはう蝕や口臭が多く,口臭にならんで気になることとして,歯並びが多く,歯周病や舌苔についてはあまり回答がなかった.一方で,口臭を気にしている者の多くは,口臭のケアができていないことがわかった.次に,コミュニケーションのときに口臭が気になる相手は,友人や先生など社会的関係を有する者に多かった.そこで,口臭に関する対人行動を解析したところ,自分の口臭に対して不安を感じている者ほど会話の距離をとり,自分の口臭を指摘してもらいたい者ほど相手の口臭を指摘した経験があること,相手の口臭が気になる頻度が高い者ほど口臭が対人行動に影響していることがわかった.以上のことから,若年層の女性はう蝕,口臭ならびに口腔の審美性に強い関心を示し,口内清掃に取り組んでいるが,一方で適切な口臭のケアが実践されていないことがわかった.また,自分や相手の口臭を気にする程度が大きいほど対人関係への影響も大きいことがわかった.これらの結果から,今後口臭に関する情報発信や啓発活動のあり方や一般に広く受け入れられる適切な口臭対策法を検討する必要性が示唆された.
  • 山中 玲子, アクター ラヘナ, 古田 美智子, 江國 大輔, 江崎 光恵, 山本 龍生, 岡崎 好秀, 丸山 貴之, 横井 彩, 森田 学
    2011 年 61 巻 3 号 p. 288-294
    発行日: 2011/07/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    口唇閉鎖力は,主に口輪筋の機能を反映している.口輪筋は発音や咀嚼などさまざまな口腔機能に関連している.口唇閉鎖力は咀嚼能力や不正咬合に関連がある.一方,裸眼視力1.0未満(<20/20)の小学生は,日本においてこの20年間増え続けている.小学生の視力低下を予防することは,重要な課題である.視力は眼輪筋の強さに関連する可能性がある.眼輪筋は口輪筋とともに顔面筋の一つであり,両者ともに顔面神経の支配を受けており,頬筋などを介して機械的にもつながっており,協調して運動する.口輪筋の強さは,眼輪筋の強さを反映していると推測される.本研究では,口唇閉鎖力が視力に関連しているという仮説を立て,小学生の視力と口唇閉鎖力の関連性を横断的に検討することを目的とした.対象は岡山市内の7歳から12歳までの小学生396名(男子197名,女子199名)とした.口腔内状態と視力は,定期健康診断の結果を用いた.口唇閉鎖力は,LIP DE CUM®/LDC-11O(コスモ計器,東京)を用いて測定した.典型的な不正咬合を有する16名を除外し,高視力群(≥20/20)264名と低視力群(<20/20)116名に分けた.統計分析には,Mann-Whitney U検定,χ^2検定,ロジスティック回帰分析を用いた.高視力群では,口唇閉鎖力(p=0.024)と男子の割合(p=0.045)が有意に高く,年齢(p=0.001)とヘルマンの歯齢(p=0.002)が有意に低かった.性別,年齢,ヘルマンの歯齢で調整しても,低視力群では口唇閉鎖力が有意に低かった(OR1.65,95%CI1.04-2.64,p=0.004).小学生において,視力と口唇閉鎖力には関連があることが示唆された.
報告
  • 岡 雅子, 小畑 文也, 渡邊 達夫
    2011 年 61 巻 3 号 p. 295-300
    発行日: 2011/07/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,全身の筋力低下,筋萎縮と球麻痺が認められる疾患である.今回われわれは54歳日本人男性のALS患者について,歯科訪問診療を行った成果について報告する.週1回の訪問診療にて5年間口腔ケアを継続的に行った.さらに術者と患者のコミュニケーションを通した健康教育,フェイススケール(FS)を用いた患者のQOLの評価を行った.その結果,患者は歯周組織の炎症が改善し,歯肉出血の減少が認められただけでなく,診療の際の健康教育により,患者自身がエンパワーメントされて,生きることそのものへの姿勢が前向きになり,QOLの向上につながった.
  • 広瀬 弥奈, 村田 幸枝, 福田 敦史, 村井 雄司, 大岡 令, 八幡 祥子, 水谷 博幸, 五十嵐 清治
    2011 年 61 巻 3 号 p. 301-309
    発行日: 2011/07/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    本学近隣の小児や保護者にフッ化物によるう蝕予防法をこれまで以上に普及させるためには今後どのような対策を講じていけば良いかを明らかにする目的で,北海道石狩郡新篠津村立小・中学校の保護者を対象にう蝕予防に関する意識調査を行った.その結果,う蝕予防で最も重要(問4)なのは「歯磨き」と回答した保護者が94.6%と最も多く,「フッ素」と回答した保護者は皆無であった.フッ化物によるう蝕予防は効果が高い(問13)と答えた保護者は62.8%で最も多かった.フッ化物配合歯磨剤の認知度(問15)は91.6%とかなり多かったが,フッ化物洗口法を知っていると答えた保護者は36.6%と少なく(問14),水道水フッ化物添加法においては18.5%とかなり少なかった(問20).一方,フッ化物配合歯磨剤の使用率は高かったものの,フッ化物配合歯磨剤を使用しないブラッシングにも予防効果があると答えた保護者が半数以上認められた.また,フッ化物に不安を抱いている保護者はフッ化物の応用に消極的であった.以上のことから,保護者のフッ化物によるう蝕予防に関する正確な知識が乏しいことが明らかとなった.今後,フッ化物の効果と安全性,応用法などに関する正しい知識を普及させるための啓発活動の必要性が認められた.
  • 齋藤 俊行
    2011 年 61 巻 3 号 p. 310-317
    発行日: 2011/07/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
    長崎大学は福島県の要請を受け,福島第一原発の北側20〜30km圏域に位置する人口約7万の南相馬市において在宅の自力移動困難者および避難所住民を対象に,歯科医療・口腔ケアを行った.同地域は原発事故により自主避難,屋内退避区域に指定され,医療・介護従事者を含む70%以上の住民が避難したが,多くの高齢者・障がい者は残っていた.市町村が収集した159人の自力移動困難者のリストをもとに,2011年4月4〜9日,医師・看護師・行政からなる6チームが高齢者や自立度の低い者から巡回診療を始めた.巡回時に口腔内観察と歯科医療・口腔ケアニーズ調査票への記入を依頼し,それをもとに必要性の高い者や自立度の低い高齢者・障がい者から,歯科医師と歯科衛生士のチームが翌日訪問し,応急処置と口腔ケアを行った.巡回以外では圏域内の避難所を訪問したが,自ら症状を訴え治療を希望する者は少なく,自立度の低いと思われる高齢者等を中心に積極的に声かけを行い介入,口腔内を診査し口腔ケアと応急処置を行った.6日間で87人(在宅15人,62〜93歳,避難所72人,1.6〜93歳)に口腔ケアや応急処置を,また複雑な治療が必要な者には再開し始めた歯科医院への紹介を行った.在宅,避難所いずれにおいてもプラークが多量に堆積した者が多く,ほとんどの者に義歯の清掃を含む口腔ケアを実施した.行政や自衛隊の協力のもとに,医療巡回チーム→歯科医療巡回チーム→歯科医院とつなげることで効率の良い支援が実施できることがわかった.
feedback
Top