口腔衛生学会雑誌
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63 巻, 1 号
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論説
  • 古川 清香
    2013 年 63 巻 1 号 p. 3-8
    発行日: 2013/01/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
     日本における自治体のフロリデーションの実施には,住民の合意が必要である.その合意形成には,住民がフロリデーションを知り,理解を深め,政治的な意思表示をする能力,すなわちフロリデーションに関するヘルスリテラシーの向上が重要である.
     本論文では,群馬県富岡甘楽地区におけるフロリデーション推進活動をNutbeamのヘルスリテラシーの概念を用いて評価を行った.その結果,「機能的ヘルスリテラシー」の向上には,専門家からの質の高い多くの情報提供,「インタラクティブヘルスリテラシー」の向上には,フロリデーション水の体験やフロリデーションに関する不安や疑問に対する相談窓口の設置,IT情報の活用能力,「批判的ヘルスリテラシー」の向上には,歯科専門家が住民の批判的ヘルスリテラシーの質を知ったうえで,住民が必要とする情報を提供することが重要であろうと考えられた.
     住民のヘルスリテラシーの向上のために,歯科専門家は,ヘルスコミュニケーションの技術を用いて,住民のヘルスリテラシーに合わせたわかりやすい情報を提供することが必要である.また,住民がフロリデーションの実施に関して適切な選択ができるように,歯科専門家の統一したフロリデーション推進の見解とその根拠を国民に示す必要がある.
     そのためには,歯科専門家はフロリデーションの知識と理解をさらに深めることが必要である.
原著
  • 出分 菜々衣, 濱嵜 朋子, 加藤 佳子, 粟野 秀慈, 吉田 明弘, 邵 仁浩, 安細 敏弘
    2013 年 63 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2013/01/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
     近年,口臭や口腔ケアに対する関心が高まっており,自分の口臭に対して不安を感じる者が増加し,日常生活に影響を及ぼすことが報告されている.これまでに実施された口臭に関する意識調査をみると,口臭に由来する心理状態や行動パターンについての報告はみられるが,心理的健康の一側面を示すとされているボディーイメージとの関連についての報告はみられない.そこで,本研究では若年層の女性のボディーイメージと口臭に対する意識との関連を明らかにすることを目的とした.
     某女子大学に在籍する学生134名を対象にボディーイメージと口臭に関する自記式質問紙調査を行った.ボディーイメージの評価として,やせ型から肥満型の8体型のモデル図をもとにした.
     その結果,他人が自分の口臭を気にしていると感じたことがある者や,自分の口臭を検査したいと思う者に,理想とする体型として平均よりやせているシルエットを選択する者が有意に多いことがわかった.本研究の結果,ボディーイメージは口臭を意識する患者の心理・社会的側面ないし行動医学的側面と関連をもつ可能性を示唆している.
  • 山本 未陶, 筒井 昭仁, 中村 譲治, 松岡 奈保子, 埴岡 隆
    2013 年 63 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 2013/01/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
     本研究は3歳以降の幼児の乳歯う蝕有病状況を調査すること,ならびに年齢ごとの乳歯う蝕関連要因を明らかにすることを目的とする.福岡県内8つの保育所・幼稚園に通う3歳児以上の各園児を対象として定期歯科健康診断によるう蝕有病状況の把握とその保護者へのう蝕関連要因に関する質問紙調査を実施し,データが揃った775名(3歳児161名,4歳児288名,5歳児326名)を解析対象とした.年齢間のう蝕有病状況を比較したところ,df歯数が少ない者の割合は近似していたが乳歯う蝕有病者率,dft-indexはともに年齢が上がるほど高かった.乳歯う蝕の有無を目的変数とするロジスティック回帰分析を年齢別に解析モデルを設定して行った.各モデルに共通して選択されたう蝕関連要因は1歳6か月以降の断乳完了と,年2回以上の定期歯科健診であった.年齢によって異なって選択された要因は,3歳児が祖父母との同居,哺乳ビンでのジュースの飲用,男児,4歳児が1日2回以上の甘味食品摂取,週4回以下の仕上げ磨きの実施,5歳児が子どもの手の届くところに甘味食品がある,出生順が第二子以降であった.甘味食品摂取に関連する要因は設問項目が異なるものの,いずれの年齢においても選択されていた.本研究結果から,3〜5歳の乳歯う蝕予防はう蝕がない者をそのままに保つこと,う蝕経験者のdf歯数の増加を抑制することの2つの視点から行い,その際には甘味食品摂取の影響を考慮する必要性が示唆された.
  • 小松崎 明, 江面 晃, 黒川 裕臣, 田中 彰, 藤井 一維, 小野 幸絵, 鈴木 見奈子, 吉岡 裕雄, 岡田 匠, 野村 隆
    2013 年 63 巻 1 号 p. 21-27
    発行日: 2013/01/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
     ひきこもり者の支援イベント参加者,支援団体が開設する「居場所」利用者133名(ひきこもり者75名を含む)を対象として,質問紙調査を実施し,ひきこもりと歯科疾患との関連性や支援活動の必要性について検討した.また,歯科受診がひきこもり者のストレスとならないかを検討するため,「居場所」で口腔診査前後,歯科保健指導後に簡易唾液アミラーゼ活性測定法による緊張度評価を実施し(「居場所」利用者19名を対象),その影響の有無について検討した.
     その結果,ひきこもり者の66%が「歯が痛む・しみる」と回答した.「居場所」での口腔診査の結果からも,ひきこもりはう蝕等の歯科疾患のリスクを高めることが示唆された.
     ひきこもりの長期化が歯・口の健康に影響すると回答した者は,ひきこもり者群で77%,家族・支援者群では88%を占め,その影響を危惧する者が多く,歯科領域からの支援をひきこもり者の80%の者が必要と回答していた.
     歯科受診が,ひきこもりの改善に寄与すると回答したひきこもり者は71%あり,在宅歯科診療での受診も60%のひきこもり者が,必要な場合に利用したいとの回答だった.
     唾液アミラーゼ活性の測定結果では,診査後,指導後とも測定値の有意な上昇は認められず,歯科受診がひきこもり者のストレスとなる可能性は低いと考えられた.
報告
  • 中根 理, 平岩 清貴, 大澤 六也, 大澤 守, 服部 基一, 近藤 英明, 森田 一三, 中垣 晴男
    2013 年 63 巻 1 号 p. 28-34
    発行日: 2013/01/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
     本研究は「歯のパスポート」手帳を用いた6歳臼歯保護育成事業参加者と参加していない者の第一大臼歯のう蝕罹患状況の評価をすることを目的に行った.
     愛知県T市の11小学校に通学していた「歯のパスポート」利用者198名,および利用しなかった対照児童406名について分析し,小学校2年生から6年生にかけてのう蝕罹患状況を比較した.
     その結果,「歯のパスポート」を用いて歯科医院にて第一大臼歯の管理を行った児童は,用いなかった児童に比べ第一大臼歯の一人平均DF歯数,う蝕罹患者率が低かった.さらに2年生時から6年生時に「歯のパスポート」を利用しなかった対照児童に対して,利用児童における第一大臼歯のDF歯数増加の相対危険度は0.54(0.35-0.83)であり,「歯のパスポート」の利用者は第一大臼歯のDF歯数の増加が少なかった.
     以上から「歯のパスポート」利用者は第一大臼歯のう蝕増加が少なかったと結論される.
資料
  • 尾上 文菜, 犬飼 順子, 中垣 晴男, 向井 正視
    2013 年 63 巻 1 号 p. 35-42
    発行日: 2013/01/30
    公開日: 2018/04/06
    ジャーナル フリー
     本研究は歯面研磨がエナメル質の表面粗さに与える影響を歯面研磨時間,歯面研磨材の種類,ラバーカップの硬さの各要因から検討した.
     鏡面研磨したヒト抜去歯エナメル質を試料とし,歯面研磨時間5,15,30,45秒間,市販研磨材5種類および水,ソフトタイプおよびハードタイプラバーカップの2種類の硬さのラバーカップを使用して個々の条件ごとに歯面研磨を行った.表面形状測定顕微鏡を用いて各試料の中心線平均粗さ(Ra値)を測定後,二次電子像を撮影した.統計解析は歯面研磨時間,歯面研磨材の種類,ラバーカップの硬さの各要因について歯面研磨前のRa値を共変量としたRa値の共分散分析およびBonferroniの多重比較を行った.
     その結果,Ra値は,歯面研磨時間,研磨材の種類,ラバーカップの硬さのそれぞれの要因で有意差が認められた.また,歯面研磨材とラバーカップおよび,歯面研磨材と歯面研磨時間の交互作用に有意差が認められた.多重比較の結果,歯面研磨時間の5秒後と15,30,45秒後に有意差が認められた.荒研磨材アドネスト®コースは他の歯面研磨材と比較して有意にRa値が高く,それぞれの歯面研磨材間でRa値に有意差が認められるものがあった.したがって,歯面研磨はハードタイプラバーカップで15秒以上の研磨時間を確保し,最終研磨にはRa値のより低い歯面研磨材を使用すると良いといえた.
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