口腔衛生学会雑誌
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49 巻, 5 号
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原著
  • 中村 公也, 本多 丘人, 兼平 孝, 谷 宏
    1999 年49 巻5 号 p. 752-760
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    1986年より1995年まで北海道えりも町において展開してきた幼児および小・中学生を対象とした歯科保健活動の成果などを知る目的で,う蝕有病状況の10年間の推移について検討した。幼児のう蝕有病者率および一人平均う蝕経験歯数は,ほぼすべての年齢で減少傾向を示していた。1993年の歯科疾患実態調査と1995年度のえりも町の結果を比較したところ,2〜5歳児では依然としてえりも町のほうが高く,特に4,5歳児では一人平均df歯数が2本以上高かった。しかし,乳臼歯の重度う歯保有者率はこの10年間で激減し,えりも町においても幼児の歯科保健状態の改善が進み10年間の巡回歯科保健活動の成果が大であったことも明らかになった。小・中学生に間しては,小学1,2年生ではう蝕有病者率,一人平均DMF歯数ともに減少傾向にあった。しかし,小学5,6年生および中学生では明らかな変化はみられなかった。また,重度う歯保有者率はこの10年間で大きく減少したが,前歯部う歯保有者率にはほとんど変化がなく,われわれが行ってきた活動のみでは前歯のう蝕予防には効果が少ないことが示された。幼児および小・中学生の歯科保健状況のさらなる向上のためには,今後新たな視点で保健・医療・教育の担当者との連携を強化し,生活習慣の改善を主体にした保健教育と地域保健管理をあわせた歯科保健活動を展開していくことが重要であると思われた。
  • 外山 敦史, 中垣 晴男, 藤垣 展彦, 加藤 一夫, 村上 多恵子, 坪井 信二, 加藤 尚一, 森田 一三, 新井 康司, 松井 圭子, ...
    1999 年49 巻5 号 p. 761-770
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    愛知県A町立A中学校の生徒は,O,S,TおよびI小学校の4つの出身者から構成されている。そのうちO小学校では1988年からF洗口を実施し,S,TおよびI小学校においてはフッ化物洗口は行っていない。そこで小学校でのフッ化物洗口経験の有無によるう蝕経験の違いを知る目的で,同中学校において調査を行った。診査は歯科医師1名により,全10歯(上顎中切歯,上下顎第一および第二大臼歯)を対象とし,検査者盲検法下で行った。診査結果をフッ化物洗口経験の有無で分け(F群,NF群),各学年のDMF歯面率を用いて比較し,さらにフッ化物洗口経験の有無,学年,性別要因による分散分析を行った。対象10歯の全学年平均DMF歯面率は,F群4.4%,NF群9.4%,DMFTはF群1.33,NF群2.70,DMFSはF群2.00,NF群4.26であった。分散分析では,フッ化物洗口因子は上下顎第一大臼歯において有意であり,寄与率は上顎第一大臼歯で4.3%下顎第一大臼歯で9.1%,対象歯10歯については8.1%であった。DMF歯面率でみた対象10歯のう蝕抑制率は49.7%であり,またF群では44.4%の生徒がう蝕罹患未経験であった。小学校でのフッ化物洗口経験により,洗口中止後,中学校生徒においても低いう蝕経験が維持されると結論できた。
  • Lilani EKANAYAKE, Ranjith MENDIS, 安藤 雄一, 宮崎 秀夫
    1999 年49 巻5 号 p. 771-779
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    ここ10年以上,スリランカでは児童・生徒の口腔の健康増進を目指して,プライマリーヘルスケアアプローチに基づく数多くの保健計画を実施してきた。また,厚生省は文部省との協力のもと,小学校教師に対し口腔保健の基礎を教育し,口腔保健教育のやり方を訓練してきた。さらに,国民の口腔健康増進のためにマスメディアも重要な役割を担ってきた。しかしながら,これらすべての計画や活動の目標が望ましい行動をもたらすための,口腔保健に関する基礎知識を与えることであるにもかかわらず,児童・生徒の口腔保健知識やその実践の現状を評価することはほとんどなされてこなかった。そこで,この研究は青年を評価対象とし,口腔保健に関する知識,意識,行動の様相を把握し,あわせて,歯磨き頻度に影響を与える要因を調べることを目的に行われた。無作為に抽出された2市および8村の公立学校に在学する11年生(平均年齢15.7歳)492名が,担任の監督下にアンケートを回答した。生徒の大部分はう蝕と歯同病の予防に関する知識は持っていたが,これらの原因についてはいくらかの考え違いがあった。知識と意識に関する平均スコアは,いずれも村の生徒より市内の生徒のほうが有意に高かった。ロジスティック回帰分析の結果,性,居住地,口腔保健知識,および口腔保健に関する情報を受けたかどうかの4項目は,(保健行動の1つである)歯磨き頻度と有意に関連していることが示された。以上の所見より,村の生徒の口腔保健に関する知識,意識,行動は市内の生徒より劣っている,したがって,村の生徒向けに口腔保健計画を改善することによって,口腔保健に関する知識と行動のレベルを高める努力がなされるべきであるという結論を得た。
  • 森下 真行, 宮城 昌治, 河端 邦夫, 石井 みどり
    1999 年49 巻5 号 p. 780-785
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    平成7年度広島県歯科保健実態調査事業報告書のデータをもとに,広島県におけるう蝕,歯周疾患治療および欠損補綴治療ニーズを算出した。選挙人名簿登録者から無作為に5,017名を抽出して調査対象とした。対象者のうち1,544人が受診し,受診率は31.2%であった。う蝕治療のニーズ量は,未処置歯数に要再修復歯数を加えたものとした。歯周疾患治療のニーズ量はCPITN最大コード別割合に,年齢階級別人口を乗じたものとした。補綴処置を必要とする欠損部位を有するにもかかわらず,処置を受けていない者の人数を欠損補綴ニーズ量とした。全体のう蝕治療ニーズ量は約468万本で,人口構成の割合が高かった40歳台が最も多かった。ニーズ量を歯科医師一人あたりに換算すると2,463歯,一診療所あたりでは3,631歯であった。歯周疾患治療のニーズ量は全体で約180万人であり,男性では40歳台でコード3,女性では50歳台でコード3の人数が最も多かった。欠損補綴治療を必要としている人は約36万人で,20歳以上の全人口に占める割合は16.5%であった。歯周疾患治療ニーズ量はCPITN最大値コードを用いて推計したので,過小評価されている。したがって,歯周疾患治療に要する時間は,う蝕治療と同等かそれ以上である可能性が考えられた。今後さらにこのような実態調査を継続し,歯科治療ニーズ量の推計を行うことが重要と考えられた。
  • 森田 学, 小椋 正之, 恒石 美登里, 渡邊 達夫, 岡田 真人, 宮武 光吉, 梅村 長生
    1999 年49 巻5 号 p. 786-793
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    根管治療(抜髄・感染根管処置)に関する歯科医療費と診療行為の内容を調査した。昭和55,58,60年,平成2,6年の厚生省社会医療診療行為別調査に用いられた歯科診療報酬明細書のデータのうち,病院,一般診療所分を除いた歯科診療所分のデータを対象とした。各年の対象とした件数は,それぞれ16,145,8,831,18,028,17,165,18,294件であった。歯髄炎や歯根膜炎を主傷病名とする歯科診療報酬明細書の割合は経年的に減少し,平成6年では12〜14%であった。また,根管治療にかかわる点数の合計も年々減少しており,平成6年では,1件あたり平均117点で,総点数の8.3%であった。平成6年の歯科診療報酬明細書について根管治療にかかわる点数を検討したところ,以下の知見が得られた。1)根管治療は40歳,50歳台で最も頻繁に行われていた。また,20歳台では,ほかの年齢層と比較して,3根管歯の抜髄頻度が高いことが認められた。2)根管治療点数の占める割合が最も高い年齢層は20〜29歳であり,総点数の11%であった。しかし,老人医療においては,その割合は約4.0〜5.0%と,全年齢層中,最も低かった。3)抜髄あるいは感染根管処置に始まり根管充填で終わる一連の検査,処置を包括化し,推定点数を算出した。その結果,推定点数の最頻値は,電気的根管長測定検査,麻酔抜髄(あるいは感染根管処置),0回または1回の根管貼薬処置の後に,加圧根管充填した場合の合計点数に等しかった。4)本調査は,1ヵ月の診療報酬明細書を扱い,比較的簡単な症例のみが抽出されていることから,今後数カ月にわたる追跡の必要性が示唆された。
  • 田村 文誉, 綾野 理加, 水上 美樹, 大塚 義顕, 藤谷 順子, 向井 美惠
    1999 年49 巻5 号 p. 794-802
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    摂食・嚥下機能不全のある要介護者53名を対象として,日常生活状態,口腔のケア状況,摂食状況に関するアンケート,および摂食・嘸下機能にかかわる口腔内診査を行った。そのなかから,口腔内過敏症状の実態を明らかにする目的で,義歯未装着者42名に対し,口腔内過敏症状の有無と口腔機能,口腔内環境,口腔衛生の管理状況との関連について検討した結果,以下の知見を得た。1)上下顎いずれかに過敏症状がみられた者は,義歯末装着者42名中27名(64.3%)であった。2)過敏症状の有無を上下顎別にみると,やや下顎のほうが多くみられた。3)過敏症状の有無と,栄養摂取方法との間に統計学的有意差は認められなかった。4)過敏症状の有無と舌の炎症との関連では,舌の炎症がある者では,ない者と比較して1%の危険率で有意に過敏症状のある者が多いことが示された。5)数量化理論II類を用いて分析した結果,口腔衛生の管理状態における「歯ブラシの使用」が,過敏症状に対して最も高い偏相関係数を示した。
  • 飯島 洋一, 高木 興氏
    1999 年49 巻5 号 p. 803-808
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    砂糖代替甘味料は,フッ素単独の再石灰化効果に比較して,フッ素の再石灰化能を促進する作用があるか否かについて,人工齲蝕モデルを用いてin situで検討を行った。口腔内実験装置を5名の被験者(男3,女2;20歳台)に装着後,口腔内環境下でフッ素2ppmを添加した10%代替甘味料溶液による再石灰化の程度を,フツ素単独の再石灰化の程度と比較した。再石灰化能は,脱灰深度の変化ならびにミネラル喪失量の変化を指標として評価した。歯垢が常に存在する口腔内環境下では,フツ素2ppmの作用によっても約25μm脱灰が進行する所見を示した。脱灰直後の脱灰深度の平均150μmに比較していずれの群ともに明らかな脱灰傾向を示し,脱灰傾向は順番に,フツ素群-16.6%キシリトール群-8.6%ソルビトール群-7.9%パラチノース群0%であった。しかしながら,いずれの群間においても有意の差は認められなかった。脱灰直後のミネラル喪失量の平均5059に比較していずれの群ともに明らかな脱灰傾向を示し,ソルビトール群-23.8%フッ素群-20.8%キシリトール群-20.8%パラテノース群-5.1%の順であった。しかしながら,いずれの群間においても有意の差は認められなかった。フッ素群,砂糖代替甘味料群ともに本実験条件下では,脱灰抑制ならびに脱灰促進傾向を示し再石灰化所見は示さなかった。砂糖代替甘味料が唾液分泌を刺激することにより,再石灰化効果を最大限に発揮するためには,歯垢を除去した脱灰表面に刺激唾液が直接作用し,しかもフッ素入り歯磨剤などとの併用が望ましいことが考察された。
  • 葭原 明弘, 八木 稔, 澤村 恵美子, 金子 昇, 宮崎 秀夫
    1999 年49 巻5 号 p. 809-815
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2017/11/12
    ジャーナル フリー
    本研究は,歯科健康診査に加え個別歯科保健指導を主体とする健康教育の実施が口腔健康状態の改善や口腔保健行動の変容に与える影響を,無作為化対照試験により評価することを目的としている。2歳児健康診査受診者のうち,3歳児健康診査も受診した244人の母親を対象とした。テスト群(117人)に対しては,歯科衛生士が対象者1人あたり約10分の個別指導を実施した。指導のポイントとした点は(1)歯間ブラシ,フロスの意義と具体的な使用方法,(2)フッ化物配合歯磨剤の推奨,(3)歯科医院への定期受診の推奨の3点であった。その結果,母親の口腔健康状態には1年間で変化は認められなかった。歯間ブラシまたはフロスを補助清掃用具として使用している割合は,コントロール群では15.0%(ベースライン)から17.3% (1年後)と同様の使用率であったのに対し,テスト群では17.1% (ベースライン)から28.2% (1年後)と有意に増加した(p<0.05)。また,変数減少法による段階式ロジスティック回帰分析の結果,1年後の補助用具の使用の有無に対し,有意な要因として選択されたものは,ベースライン時の補助用具の使用(Odds比:12.56),歯科医より歯周疾患の情報入手(Odds比:3.15)および歯科衛生士による個別指導(Odds比:2.14)の3変数であった。このことは,成人歯科事業には個別指導を取り入れる必要があることを示している。また,歯科医師の指導を何らかの形で取り入れていくことが必要であると考察した。
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