5カ年間Pb-鼠を用いて行つた13種の実験 (各実験は2乃至6群, 一群は9乃至67匹鼠即ち41群1106匹) に誘発された裂溝う窩を統計して, 各群の有病鼠率 (P) と平均う窩数 (E) の問にP=0.502 log
10E+0.426の関係のあることを知つた。 この式はう蝕発生箇所の感受性の差異に基づくものであることが解析され, 有病鼠率とは最高感受性部の罹患率であことを意味している。 またこの函数的関係は人間のう蝕でもみられた。 従つてこの式は有病率平均う窩数間の普遍的な標準関係を現わすものであるから, 実験値はこの式によて補正してから, 実験結果を考察するのが望ましい。 それで13実験に加えられた因子がそれらの実験で対照となつている6PMVのう蝕誘発力に与える影響を補正値で考察した。 ビタミンB
1, Gelatin, フッ化物の歯牙萌出後の投与, 2.0のCa-P比等が明確なう蝕抑制的因子であつた。 この様な場合有効であることの有意性は推計学的に確かめることになるが, 本研究により平均う窩数は有病鼠率より精密な尺度であることの理由は存在しないことが明らかとなつたので, 有病率が1以下の範囲は寧ろ有病鼠率で差の検定をする方が便利であると思われた。 そして有病率が1以上となると, う窩数出現頻度を対数正規分布として平均値の差の検定を行うことがよいと思われた。
以上の結果は人う蝕にも適用出来る。 人う蝕の有病率平均う歯関係式は, 歯牙年齢を無視出来る集団に対してはPh=0.465 log
10Eh+Cと推定されるが, 小学児童 (7歳より12歳) ではPj=0.677 log
10Ej+0.495であった。 また二群の有病率に有意な差のないときでも, ビタミンB
1或はGelatinの例のように, 投与量と抑制度の問に一定の量的関係を得ることが出来たものでは, その有効性が確認できた. 有病鼠率一平均う窩数式で補正することと或る因子の作用様式を考察することは各種う蝕予防因子の生物学的検定の出発点となると思われた。 補正値を使つて実験結果を考えることは測定の尺度を変えると, 同じ因子の効果が逆転するようなこともなく便利である。
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