口腔衛生学会雑誌
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67 巻, 3 号
平成29年7月
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
総説
  • 重石 英生, 杉山 勝
    2017 年67 巻3 号 p. 149-159
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/08
    ジャーナル フリー

     Human Papillomavirus(HPV)の感染は子宮頸癌の最大の危険因子であり,頭頸部領域では中咽頭癌の発症や治療の予後に関係している.一方,口腔へのHPV感染と口腔癌との因果関係についてはいまだ不明な点が多い.そこで本稿では,最新の疫学研究や基礎的研究の結果をもとに,口腔のHPV感染の危険因子や,口腔癌におけるHPV陽性率および HPV陽性口腔癌の分子生物学的特徴について検討した.その結果,口腔癌におけるHPV DNAの陽性率は4.0 〜32.0%で,高リスク型HPVの中では,HPV16が高い陽性率を示した.上皮異形成症や口腔扁平上皮癌では,正常口腔上皮と比較してHPV16陽性率が高く,HPV16が口腔癌の発生において何らかの役割を担う可能性がある.また,口腔癌では,E6, E7 mRNAの陽性率は数%であり,HPV DNA陽性率と比較しても低いため,HPV関連口腔癌(口腔のHPV感染が原因で生じる口腔癌)において,E6, E7の安定高発現を介さない悪性形質の獲得機構の存在が示唆される.HPV16陽性口腔癌患者は陰性口腔癌患者と比較して,予後が良好であるとの報告があるが,HPV関連口腔癌の予後についてはいまだ明らかになっていない.口腔内の衛生状態とHPV感染には関連性があり,口腔ケアや禁煙対策は,口腔へのHPV感染を予防するうえで重要であると考えられる.今後,HPV関連口腔癌の予防を科学的根拠に基づいて行うためには,HPV DNA陽性口腔癌におけるHPVの存在意義と役割を明確にする必要があり,口腔HPV感染の基礎的,臨床的研究の推進が強く望まれる.

  • 竹内 研時, 佐藤 遊洋, 須磨 紫乃, 古田 美智子, 岡部 優花, 田中 照彦, 小坂 健, 山下 喜久
    2017 年67 巻3 号 p. 160-171
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/08
    ジャーナル フリー

     近年,歯科疾患を予防・管理し口腔の健康状態を良好に保つことが歯科疾患による経済的負担を減らすだけでなく,生活習慣病重症化予防等につながることが報告されている.本研究は口腔の健康状況や歯科保健管理が歯科医療費および医療費にどのような影響を与え得るかについて,これまでの知見を総覧することを目的に,①口腔の健康状態と歯科医療費および医療費の関係の検討,および②歯科保健サービスの受給状況と歯科医療費および医療費の関係の検討,を行った.電子検索データベースとハンドサーチによる文献検索から32編が精読の対象となった.①に関しては,残存歯数が20歯以上の場合に歯科医療費は少なく,また残存歯数が多いほど医療費は少なくなる傾向を多くの文献が報告した.また,歯周病を中心とした歯科疾患の存在も歯科医療費および医療費の増加と関連するという報告が存在した.②に関しては,予防目的の歯科通院や歯科検診に代表される歯科保健活動への参加が歯科医療費および医療費の少なさと関連するという報告がみられた.本研究結果から,口腔の健康状態の中では特に残存歯数が,歯科保健サービスの中では特に予防目的の歯科医療機関の受診が,歯科医療費および医療費と関連することが示唆された.これより,歯の喪失の主たる要因となるう蝕や歯周病などの歯科疾患の予防を中心とした歯科医療機関への定期受診を若年期から継続させることは,歯科医療費だけでなく医療費全般を抑制できる可能性があると考えられる.

原著
  • 木村 秀喜, 渡邊 智子, 鈴木 亜夕帆, 岩﨑 正則, 葭原 明弘, 小川 祐司, 宮﨑 秀夫
    2017 年67 巻3 号 p. 172-180
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/08
    ジャーナル フリー

     高齢者の歯・口腔の健康は摂食と構音を良好に保つために重要であり,生活の質(QOL)の向上にも大きく寄与するとされている.歯を20本以上有することは,口腔の機能を維持し,さらには全身の健康に寄与する一つの基準とされている.厚生労働省は日本人の長寿を支える「健康な食事」を示している.そこで本研究は,現在歯数20本以上の75歳高齢者が「健康な食事パターン」を満たしているか検討した.対象は2003年新潟市高齢者コホートスタディに参加し,口腔内診査,健康診査,簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)調査等に協力が得られた75 歳高齢者338人とした.「健康な食事パターン」は「健康な食事」を参考にした.「健康な食事」は料理区分を主食,主菜,副菜とし,1食の上限および下限値を定めている.本研究は,下限値の3倍量を主食,主菜,副菜の下限量/日と定めた.3料理区分すべてを満たしている食事パターンを充足群,それ以外を不足群とした.対象者を現在歯数20本以上,未満の2群に分け,現在歯数と「健康な食事パターン」の関連について多重ロジスティック回帰分析を用いて評価した.結果として,現在歯数を20本以上有する群の「健康な食事パターン」充足に対する調整オッズ比は1.7(95% 信頼区間=1.1-2.6)であり,統計的に有意だった.結論として,地域在住高齢者において現在歯を20本以上有することと食事パターンの間に関連があることが示された.

  • 仲筋 宣子, 深井 智子, 高橋 明子, 杉 陽子, 末續 真弓, 宮澤 慶, 西條 光雅, 清水 良昭, 松本 勝, 竹下 玲, 高野 梨 ...
    2017 年67 巻3 号 p. 181-189
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/08
    ジャーナル フリー

     私たちの研究グループは,「あごの健康診断チャート」(以下,チャート)を学校歯科保健活動に利用し,平成20年度からは改訂四版を用いている.本研究は具体的な保健指導に結びつけるため,このチャートを使用し,顎関節の自覚症状の有無による相違を明らかにすることが目的である.調査期間は平成20年度から平成26年度であり,対象はストレスが大きくなり自覚症状が現れやすいことを考慮し,思春期にある埼玉県下の公立中学校3年生とした.分析対象者は,391名(男子208名,女子183名)であった.顎関節の自覚症状の有無でグループ分けし,チャートに記載しているう蝕・咬合異常,生活習慣,ストレスの各要因,および要因数,体と心の状態をvisual analog scaleポイント(以下,VASポイント)を用いて検討を行った.その結果,顎関節の自覚症状を有する生徒は,生活習慣に関する要因が有意に多かった(p<0.05).また,自覚症状を有する生徒と症状を有さない生徒では要因数に統計学的有意差を認めた(p<0.01).体と心の状態のVASポイントは,相関検定で有意性を認めた.自覚症状の有無でVASポイントの平均を比較すると,自覚症状を有する生徒の体の状態の平均VASポイントは有意に低くなった(p<0.05).中学3年生の顎関節の自覚症状は生活習慣との関連性が考えられ,顎関節症の発生要因と考えられる要因数にも影響を受け,また自覚症状を有している生徒は体と心の関連性が弱い可能性も推察された.

報告
  • 石黒 梓, 川村 和章, 石田 直子, 神谷 美也子, 中向井 政子, 晴佐久 悟, 田浦 勝彦, 広川 晃司, 串田 守, 荒川 勇喜, ...
    2017 年67 巻3 号 p. 190-195
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/08
    ジャーナル フリー

     健康日本21(第2次)に歯・口腔の健康目標が示され,歯・口腔の健康が健康寿命の延伸と健康格差の縮小に寄与することが期待されている.学校保健教育は生涯を通じた口腔保健の取り組みの土台をなすものである.

     本研究では,今後の子どもたちの保健教育の改善を目的に,平成28年度に使用されている小学校から高等学校の学習指導要領,学習指導要領解説および学校で使用されているすべての保健学習用教科書を資料に,口腔関連の記載内容を調査し,「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」の歯科疾患の予防計画の学齢期の内容と照合した.

     小学校では大半が「むし歯」と「歯周病」に関する原因と予防について記載されていたが,フッ化物応用,シーラント,定期的な歯科検診の記載はほとんどなかった.中学校では「むし歯」と「歯周病」の記載はほとんどなく,「口腔がん」や「歯と栄養素」,水道法基準として「フッ素」の記載に変化していた.高等学校になると「むし歯」に関する記載はまったくなく,「歯周病」や「口腔がん」の記載が中心であったが,歯口清掃に関する記載はなかった.

     現在の小・中学校および高等学校で使用されている保健学習用教科書は,「歯科口腔保健の推進に関する基本事項」の学齢期に示されている保健指導,う蝕予防,歯周病予防に関連する記載内容は不十分であり,学習指導要領を見直すとともに,子どもの発達に応じた表現で収載することを提言する.

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