口腔衛生学会雑誌
Online ISSN : 2189-7379
Print ISSN : 0023-2831
ISSN-L : 0023-2831
68 巻, 4 号
平成30年10月
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
総説
  • 五月女 さき子, 船原 まどか, 川下 由美子, 梅田 正博
    2018 年68 巻4 号 p. 190-197
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー

     頭頸部がんの放射線治療時にしばしばみられる有害事象の一つに重症の口腔粘膜炎があるが,有効な予防法は確立していない.本稿では,MASCC/ISOOガイドラインに示されている頭頸部がん放射線治療時の口内炎対策とそれに対する著者らの知見を示し,含嗽剤やステロイド局所投与について,関連する情報と著者らの基本的考え方について述べる.

     さらにわれわれが行っている有害事象バンドル(①感染源になる歯の照射前抜歯,②スペーサー作製,③口腔ケア,④塩酸ピロカルピンの投与,⑤デキサメタゾン軟膏+オリブ油の塗布,⑥保清と保湿,ステロイド塗布などの皮膚ケア,⑦フッ化物局所応用の予防策)についても紹介する.

     周術期口腔機能管理が保険収載され数年が経過し,多くの医療機関で放射線治療時の有害事象の予防が歯科に求められるようになったが,管理方法の標準化や有効性に関するエビデンス検証は今後の課題である.多施設共同臨床研究などにより,放射線性口腔粘膜炎の重症化予防方法を確立していくことが重要である.

原著
  • 皆川 久美子, 葭原 明弘, 佐藤 美寿々, 深井 穫博, 安藤 雄一, 嶋﨑 義浩, 古田 美智子, 相田 潤, 神原 正樹, 宮﨑 秀夫
    2018 年68 巻4 号 p. 198-206
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー

     健康の評価方法として,歯科保健の分野においても主観的評価による健康度を評価指標にした調査が報告されている.しかし,主観的健康観についての調査対象は高齢者が多く,65歳未満の者を対象とした調査はほとんど行われていない.そのため本研究は,一般地域住民を対象に,歯や歯肉の健康状態と全身健康状態との関連を主観的健康観により明らかにすることを目的とした.

     全国から20~79歳の5,000人を抽出し,質問紙による調査で回答を得た2,465人(有効回収率49.3%)の中から,分析に用いる変数に欠損値のない1,972人を分析対象者とした.対象者を年齢によって壮年(20~39歳)・中年(40~59歳)・高年(60~79歳)の3区分に分け,それぞれの群において歯や歯肉の健康状態と全身健康状態の主観的健康観の回答をそれぞれカテゴリー化した後,相互の関連を順序ロジスティック回帰分析を用いて分析した.共変量として,現在歯数,性別,仕事の有無,主観的経済状態,就学年数,治療中の疾患の有無,相談相手の有無,BMIを使用した.

     その結果,すべての年齢群において歯や歯肉の健康状態が良いと回答した者は全身的な健康状態がより良好であると回答していた(調整済オッズ比〔95%信頼区間〕=壮年期12.41〔7.22–21.34〕,中年期11.77〔7.50–18.48〕,老年期10.07〔6.55–15.50〕).一般住民において属性や関連要因を調整した分析で,いずれの年代においても主観的な歯や歯肉の健康状態と全身健康状態との間には明確な関連性が認められた.

  • 酒井 理恵, 濱嵜 朋子, 角田 聡子, 廣島屋 貴俊, 邵 仁浩, 片岡 正太, 岡田 圭子, 筒井 修一, 岩﨑 正則, 安細 敏弘
    2018 年68 巻4 号 p. 207-218
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー

     【目的】在宅要介護高齢者の口腔機能状態と栄養状態および食物摂取状況の関連を明らかにすることである.【対象および方法】対象者は,65歳以上の要介護高齢者で,歯科診査,質問紙調査などへの同意が得られた63名(男性25名,女性38名,平均年齢±標準偏差:83.5±6.8歳)とした.口腔機能状態は,ROAGを用い,口腔内の8項目について1~3点で評価し,スコア8点で良好(以下,良好群),9~12点(軽度低下)と13点以上(重度低下)を口腔機能低下あり(以下,低下群)の2群に分け比較検討を行った.【結果】2群間で,年齢,BMI,骨格筋指数(SMI),握力,MNA®-SF に有意差はみられなかった.良好群は低下群に比べて,Alb 4.0 g/dl以上者が多い傾向にあり,舌圧35 kPa以上の者が有意に多く,認知自立度で要介護者が有意に少なかった.BDHQによる栄養素摂取量は,良好群は低下群に比べて,たんぱく質摂取量が70歳以上の推奨量以上摂取している者が有意に多く,ビタミンCの摂取量が有意に少なかった.食品群別摂取量は,良好群は低下群に比べ豆腐類,根菜類,脂ののった魚類の摂取量が有意に多く,いも類,柑橘類,洋菓子類の摂取量が有意に少なかった.【結論】在宅要介護高齢者において口腔機能状態と栄養状態,食物摂取状況との間に関連がみられた.在宅要介護高齢者の口腔機能状態の維持・悪化予防において,栄養状態のみならず食物摂取状況を把握することの必要性が示唆された.

  • 晴佐久 悟, 吉田 理恵, 秋永 和之, 内田 荘平, 窪田 惠子, 荒川 浩久, 眞木 吉信
    2018 年68 巻4 号 p. 219-230
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー

     病院ヘルスケアスタッフである福岡県内2病院の看護職,介護職およびリハビリ職374人を対象に成人・高齢者う蝕予防対策,ならびにフッ化物利用に関する知識,意識および実施状況を調査し,それらの現状・問題点を明らかにすることを目的として質問紙調査を実施した.

     回収できた321人(回収率85.8%)のデータを分析した結果,大多数が成人・高齢者のう蝕に関する知識を有していた.フッ化物配合歯磨剤の認知率は80%以上であったが,フッ化物洗口,水道水フロリデーションおよびフッ化ジアンミン銀塗布の認知率は,それぞれ41.5%,12.8%および9.4%であった.

     成人・高齢者のう蝕予防対策の実施と歯科医療従事者との連携に関する意識は高かったが,実際に実施しているのは両者ともに半数弱であった.また,口腔ケア時に成人・高齢者にフッ化物を利用している者は20%未満であったが,希望者を加えると80%以上になった.

     う蝕の知識・予防意識,水道水フロリデーション・フッ化ジアンミン銀の認知は,成人・高齢者のう蝕予防対策の実施やフッ化物利用の実施と関連していた.

     以上より,ヘルスケアスタッフの成人・高齢者のう蝕予防,フッ化物利用および歯科医療従事者との連携をさらに普及するには,う蝕予防の知識に加え,フッ化物応用についての情報提供が優先されると考えられた.

症例報告
  • 益成 美保, 水野 裕文, 丸山 貴之, 横井 彩, 小林 暉政, 佐々木 禎子, 志茂 加代子, 三浦 留美, 水川 展吉, 江國 大輔, ...
    2018 年68 巻4 号 p. 231-237
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー

     頭頸部がんに対する化学放射線療法(CRT)の有害事象である口腔粘膜炎による疼痛は,患者のQOLを低下させ,がん治療の完遂を困難にする.今回,われわれは術後CRTを受けている患者に対して口腔管理を行い,口腔粘膜炎および疼痛を制御した結果,がん治療の完遂に貢献できた症例を報告する.

     患者は67歳,男性である.右側舌がん(T2N2bM0)に対して舌可動部半側切除術,右側頸部郭清術,遊離前外側大腿皮弁による再建術を施行した.術後の病理組織検査より切除断端陽性,頸部リンパ節の節外浸潤を認めたため,術後CRT(抗がん剤:シスプラチン,5-フルオロウラシル;2クール,強度変調放射線治療60Gy)を行うこととなった.

     CRT前から,口腔管理および衛生実地指導を継続して行った.CRT開始時はプラークの除去を中心とした口腔管理を行った.22Gy照射時点で口腔粘膜炎(Grade2)が発症したものの,その後軽度疼痛を認める程度で経過していた.42Gy照射時点で口腔粘膜炎の悪化(Grade3)および自発痛・接触痛を認めたため,治療完遂まで毎日,歯科衛生士がプラークの除去に加え,口腔粘膜保護を目的とした口腔管理を行った.その結果,56Gy照射時点で口腔粘膜炎は改善傾向を示し(Grade2),疼痛も緩和され,CRT完遂に至った.

     術後CRT開始直後から口腔粘膜炎の状態に応じた口腔管理を行うことで,疼痛の制御が成功し,CRTの完遂に貢献できたと考えられる.

feedback
Top