口腔衛生学会雑誌
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68 巻, 2 号
平成30年4月30日
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著
  • 佐藤 美寿々, 岩﨑 正則, 皆川 久美子, 小川 祐司, 山賀 孝之, 葭原 明弘, 宮﨑 秀夫
    2018 年 68 巻 2 号 p. 68-75
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/18
    ジャーナル フリー

     フレイルと歯・口腔の健康との関連は疫学的に十分に解明されていない.今回われわれは,地域在住高齢者における現在歯数および義歯の使用状況・主観的評価とフレイルとの関連を明らかにすることを目的とする横断研究を実施した.79歳高齢者344人を解析対象とした.フレイルは,Study of Osteoporotic Fracture Criteria for Frailty を一部改変したものを用いて定義し,目的変数とした.説明変数には現在歯数および義歯の使用状況・主観的評価を用いた.そして両者の関連を性別,体格,および精神健康状態を共変量とするロジスティック回帰分析を用いて評価した.解析対象者におけるフレイルの頻度は8.4%であった.現在歯数(1本増加ごとの調整済オッズ比[OR]=0.94,95%信頼区間[CI]= 0.90–0.99),現在歯数20本以上有すること(20本未満と比較した調整済OR=0.39,95%CI=0.15–0.97),義歯不使用(義歯使用者と比較した調整済OR=17.89,95%CI=5.00–64.32),主観的に義歯不具合の訴えがあること(訴えなしと比較した調整済OR=3.38,95%CI=1.01–11.27)はフレイルと有意に関連していた.本研究結果から,地域在住高齢者において現在歯数および義歯の使用状況・主観的評価はフレイルと有意に関連していることが示された.

  • 秋山 理加, 濱嵜 朋子, 酒井 理恵, 岩﨑 正則, 角田 聡子, 邵 仁浩, 葭原 明弘, 宮﨑 秀夫, 安細 敏弘
    2018 年 68 巻 2 号 p. 76-84
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/18
    ジャーナル フリー

    【目的】在宅高齢者を対象として簡易嚥下状態評価票(EAT-10)を用いて,嚥下状態と栄養状態の関連について明らかにすることを目的とした.

    【対象および方法】新潟市の85歳在宅高齢者129名を対象とした.口腔と全身の健康状態に関するアンケートを郵送し自記式にて調査を行った.調査内容は,EAT-10,現在歯数,簡易栄養状態評価(MNA-SF),主観的健康観,老研式活動能力指標,Oral Health Impact Profile-49(OHIP),嚙める食品数である.これらの因子について,EAT-10の合計点数が3点以上を嚥下機能低下のリスク有り群とし,3点未満の群との比較検討を行った.

    【結果】EAT-10によって,嚥下機能低下が疑われたものは52.7% であった.嚥下機能低下のリスク有り群ではOHIP 高値(p<0.001),嚙める食品数低値(p<0.001)と有意な関連がみられ,主観的健康観で“あまり健康ではない”者の割合が有意に高く(p<0.001),MNA-SFで“低栄養”の割合が有意に高かった(p=0.007).さらに,MNA-SF を従属変数としたロジスティック回帰分析の結果,栄養状態と嚥下機能には有意な関連がみられ,EAT-10の点数が高くなるほどMNA-SF で“低栄養のリスク有りまたは低栄養”となるオッズ比が有意に高かった (p=0.043).

    【結論】在宅高齢者の嚥下機能低下と低栄養状態との関連性が示唆された.

  • 五十嵐 彩夏, 相田 潤, 坪谷 透, 杉山 賢明, 瀧澤 伸枝, 小坂 健
    2018 年 68 巻 2 号 p. 85-91
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/18
    ジャーナル フリー

     乳幼児う蝕は減少しているものの,学歴や収入などの社会経済状況による健康格差が存在することが報告されている.茨城県においても市町村間に地域差が存在するが,健康格差の経時的な推移については明らかではない.本研究は,茨城県内市町村間の3歳児う蝕有病者率の絶対的および相対的格差の経時的推移を明らかにすることを目的とした.茨城県の全44市町村を対象とした地域相関研究を行った.2005年から2013年までの3歳児う蝕有病者率(市町村乳幼児歯科健康診査結果)および一人当たり市町村民平均所得(市町村民経済計算)を用いた.健康格差を測る指標として,絶対的格差を表す格差勾配指数(Slope Index of Inequality:SII)および相対的格差を表す格差相対指数(Relative Index of Inequality:RII)を用い,全44市町村間の3歳児う蝕有病者率の健康格差を算出した.分析の結果,茨城県内のほぼすべての市町村でう蝕有病者率は低下していたが,健康格差はいまだに存在していた.市町村間のSIIは減少傾向にあったものの,RIIはほぼ不変であった.健康格差を減らすための対策の実施とともに,継続的な健康格差モニタリングが必要であろう.

  • 矢田部 尚子, 古田 美智子, 竹内 研時, 須磨 紫乃, 渕田 慎也, 山本 龍生, 山下 喜久
    2018 年 68 巻 2 号 p. 92-100
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/18
    ジャーナル フリー

     歯周疾患検診は平成7年度より老人保健事業の総合健康診査の一環として行われ,平成12年度からは独立した検診として40歳および50歳の者を対象に実施された.平成16年度から対象者が60歳と70歳にも拡大された.現在,歯周疾患検診の受診率は公表されておらず,受診率の実態が把握できない状況である.今回われわれは,歯周疾患検診の受診率を推定し,その推移と地域差について検討した.

     平成12~27年度地域保健・健康増進事業報告の歯周疾患検診受診者数と住民基本台帳人口を用いて,歯周疾患検診受診率を試算した.全国値は平成12年度が1.27%,平成17年度が2.74%,平成22年度が3.34%,平成27年度が4.30%であった.都道府県別にみると,平成27年度で最も受診率が高い県では13.33%,最も低い県では0.34%で,都道府県で受診率は大きく異なっていた.都道府県別の受診率と社会・人口統計学的要因の関連性を調べた結果,歯科健診・保健指導延人員が多い,家計に占められる保健医療費割合が高い,貯蓄現在高が多い都道府県で受診率が高かった.

     近年,全体の受診率は微増しているが,地域差は拡大している状況である.今後,受診率が低い地域は高い地域の取り組みを参考にすることにより,全体の受診率はさらに向上する可能性があると考えられる.

報告
  • 藤野 悦男, 安藤 雄一, 小宮山 和正, 戸張 英男, 三木 昭代, 深井 穫博, 島田 篤, 石川 清子
    2018 年 68 巻 2 号 p. 101-105
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/18
    ジャーナル フリー

     フッ化物洗口の取り組みは,全国的に行政主導の事例が多いが,都道府県レベルで歯科医師会主導で取り組んだ事例は少ない.埼玉県では埼玉県歯科医師会が埼玉県から委託を受け,フッ化物洗口の普及・拡大に取り組んできた.本稿では,その経過と成果について報告する.

     埼玉県内におけるフッ化物洗口の取り組みは, 幼稚園児に対するフッ化物応用モデル事業(1997~1999年)に端を発し,2000年からフッ化物洗口実施施設への必要経費助成事業が県から県歯科医師会への委託事業として始まった.

     2001年に制定された「すこやか彩の国21 プラン」における乳幼児期・学齢期のう蝕予防対策として「保育園(所)・幼稚園,小・中学校におけるフッ化物洗口の普及・拡大」が明記された.2011年10月の「埼玉県歯科口腔保健推進条例」後に策定された「埼玉県歯科口腔保健推進計画」ではフッ化物洗口実施施設数の目標値(保育園(所)・幼稚園200,小学校600)が設定された.さらに目標達成のために「埼玉県小児う蝕予防対策事業」が開始された.本事業の実施によりフッ化物洗口実施小学校数は,事業開始前の39校から126校(2016年度末現在)と急増した.フッ化物洗口によるう蝕予防の成果として長期間全小学校で実施していた4市町の2008~2016年度における12歳児DMFT-indexの減少を県全体と比較したところ,4市町の減少が県全体を上回っていた.

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