これまで3歳児う蝕有病状況の地域差が報告されているが,全市町村を同時に比較した報告はなかった.地域相関研究で歯科保健水準とう蝕との関連が示されていないのも,これが一因と考えられる.また市町村単位の地域比較の際には標本誤差変動が生じやすく,解決策の1つに経験的ベイズ推定が知られている.今回1998年(3,122市町村),2000年(全3244市町村)の3歳児歯科健康診査結果を収集,う蝕有病者率の経験的ベイズ推定値による疾病地図を作成し,地域比較を行った.また重回帰分析により歯科保健水準に関する指標について,社会背景指標を調整して検討した.疾病地図から北海道,東北,四国,九州を中心に有病者率が高い傾向にあることが認められた.また重回帰分析から,「最終学歴割合(大学)」,「合計特殊出生率」,「二次産業従業者割合」,「失業率」(決定係数=0.375,偏相関係数=-0.424,0.214,-0.204,0.149)の指標の関連が強く,「保健指導受診回数」(偏相関係数=-0.067)はう蝕を減少させる方向に弱く関連していた(p<0.001).経験的ベイズ推定値の疾病地図により,3歳児う蝕有病者率の市町村単位の地域差が明確になった.また「保健指導受診回数」の高い地域で有病者率が低い傾向が弱いながらも認められた.今後,今回の地域相関研究の結果を,個人単位の研究により究明していく必要があるだろう.
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