口腔衛生学会雑誌
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56 巻, 5 号
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原著
  • 河本 幸子
    原稿種別: 本文
    2006 年56 巻5 号 p. 660-664
    発行日: 2006/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    平成10〜16年度に岡山市3歳児健康診査を受診した35,954名の歯科健康診査結果を用い,6保健センター別のう蝕有病者率はどのように経年変化をしているか,その変化の仕方に地域格差が存在するかを明らかにすることを目的とした.年度の違いをレベル1,保健センターの違いをレベル2とする2段階の構成とみなし,マルチレベル分析を行った.目的変数を保健センター別のう蝕有病者率,説明変数を受診年度として求めた回帰モデルにおける傾きは-2.156となり,う蝕有病者率は年々減少していることが示された.切片38.656は,保健センターの違いによって分散6.992でばらついていた.また,傾きも保健センターの違いによって分散0.018でばらついており,う蝕有病者率の減少の仕方に保健センター間で違いがあることが示された.さらに,切片と傾きの共分散が-0.624となり,負の相関をもつことから,切片が高い保健センターは急な負の傾きをもち,切片が低い保健センターは緩やかな傾きをもつことが示された.このことから,同一の歯科保健サービスを実施している一自治体内であっても3歳児のう蝕有病者率の変化には,地域格差が存在していることが示された.
  • 岸 光男, 高橋 雅洋, 岸 香代, 晴山 婦美子, 田村 光平, 阿部 晶子, 杉浦 剛, 相澤 文恵, 米満 正美
    原稿種別: 本文
    2006 年56 巻5 号 p. 665-672
    発行日: 2006/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    口腔ケアの評価に用いられることの多い臨床的指標と,舌苔湿重量ならびに舌苔中細菌数との関連を検討し,比較的簡便に得られる臨床的指標が口腔内の細菌量を反映しているかを検討した.調査対象は体系的な口腔ケアが行われているリハビリテーション病院に入院した者27名とし,入院時と入院2か月後の両時点で同一の口腔内指標を採得した.臨床的指標には口中VSC測定値,舌苔スコア,CPIを用い,舌苔中細菌数の測定にはreal-time PCRを用いた.その結果,入院時と入院2か月後の比較において,舌苔スコア,CPI, CH_3SH濃度および舌苔湿重量に有意な減少が認められ,H_2S濃度と舌苔中総細菌数には減少傾向が認められた.一方,舌苔1mg当たりの細菌数はほぼ同等の値となった.臨床的指標と舌苔中細菌数の関連において,入院時と入院2か月後のいずれにおいても,口中H_2S濃度と舌苔1mg中細菌数および舌苔中総細菌数の間に有意な関連を認めた.舌苔スコアとVSC測定値を独立変数,舌苔中総細菌数を目的変数とした重回帰分析では舌苔スコアとH_2S濃度が有意な変数として選択された.これらのことから,口腔ケアの臨床的指標として舌苔量を評価することに加えて口中気体のH_2S濃度を測定することで,舌苔中細菌数の変動をより詳細にとらえていると考えられ,それらを口腔ケアの指標とすることの妥当性が確認された.
  • 北田 勝浩, 日野 陽一, 濱田 静樹, 濱田 靖子, 於保 孝彦
    原稿種別: 本文
    2006 年56 巻5 号 p. 673-680
    発行日: 2006/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    学校保健の現場では,学童期のう蝕は減少傾向を示すなか,重度のう蝕経験者が少数ながら存在することが問題となっている.これまでのような集団を対象とした歯科保健指導・管理でなく,個々のう蝕リスクを考慮した個人単位の指導・管理が必要とされている.今回,鹿児島県開聞町内の2小学校の全児童に対して学校歯科健診実施時にう蝕リスク検査を行った.そのうち,2年間(3回)追跡できた1〜4年生の児童211名を,開始時にDMFが0であるグループ(DMF=0群,118名)と1以上であるグループ(DMF≧1群,93名)に区分し,分析の対象にした.唾液緩衝能と歯垢の酸産生能の結果を点数化(0,1,2)し,その合計点をリスク指標(0〜4)とした.DMF=0群では,う蝕のリスクが低いほどう蝕増加がない者の割合が高く,う蝕の増加が「なし」,「あり」の2群間においてリスク指標の程度に統計学的に有意な差(p<0.05)が認められた.DMF≧1群では,う蝕のリスクとう蝕増加に顕著な関連は認められなかった.調査開始時の健診ではう蝕がなく口腔内状況が良好であると思われる集団においても,う蝕リスクの高い群が存在しており,それら高リスク群では2年後にう蝕の増加を示す者の割合が高かった.本結果から,学校歯科健診においてリスク検査を行う有効性が示唆された.
  • 新保 城一, 末高 武彦, 小松崎 明, 石井 瑞樹
    原稿種別: 本文
    2006 年56 巻5 号 p. 681-687
    発行日: 2006/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    (財)日本口腔保健協会が実施している職域での歯科保健事業の参加者のうち,40〜59歳男性を対象に口腔内の自覚症状5項目,食生活・喫煙習慣4項目,口腔保健行動4項目について2001年度に調査を行った.ここでは,歯科保健事業の実施効果との関連性を検討するため,同事業への参加状況を多参加群と少参加群とに群別して,さきの調査項目13項目についてX^2検定,ロジスティック回帰分析により分析を行った.この結果,13項目についてX^2検定による個別の分析では,40歳代と50歳代ともに多参加群において,「歯ぐきから血がでる」「口臭があるといわれたことがある」「ほぼ毎日タバコを吸っている」「かかりつけ歯科医がある」「歯磨き回数が3回以上である」「歯間部清掃用具を使用している」「磨き方が適切である」などの11項目で良好な結果が認められた.さらに,ロジスティック回帰分析の結果から「歯の磨き方が適切」「歯間部清掃用具を使用」と強い関連が認められた.本調査研究の対象とした歯科保健事業では,口腔状況に合わせた専門的口腔清掃と口腔清掃指導を主体として行われており,今回多参加群において口腔清掃行動と強く関連が認められたことにより同事業実施による影響が示唆された.
  • 三藤 聡
    原稿種別: 本文
    2006 年56 巻5 号 p. 688-708
    発行日: 2006/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は尾道市における1歳6か月時および3歳時のう蝕有病状況に影響する要因を明らかにし,地域で実践できる効果的なう蝕予防対策を構築していくことであった.1歳6か月児健診時と3歳児健診時に,生活習慣,育児環境などの質問票調査と歯科健診を行い,両者の関係についてロジスティック回帰分析などを使用して分析を行った.その結果,1歳6か月時までのう蝕発症に対し強く関連する要因は「就寝時授乳」「母乳育児」「甘味食品摂取開始時期」などであった.また,1歳6か月時から3歳時までのう蝕発症に対しては,「スポーツ飲料の摂取頻度」「就寝時授乳」および「ジュースの摂取頻度」の関連が強いことが示された.「間食回数」「間食の規則性」「ジュースの摂取頻度」「スポーツ飲料の摂取頻度」「就寝前の飲食」「食事中のテレビ視聴」「仕上げ磨きの頻度」などの生活習慣は,1歳6か月時点で身に付いたものが3歳時まで継続することが示された.「間食の規則性」「仕上げ磨きの頻度」は1歳6か月時から3歳時までの間に,良い生活習慣に変化しやすい項目であり,「ジュースの1日摂取量」「スポーツ飲料の摂取頻度」は摂取量や頻度が増加する項目でもあった.乳幼児に対する歯科保健指導においては,年齢に応じて重点的に指導すべき項目を考慮することが必要であることが示された.
報告
  • 福田 英輝, 北野 久枝, 志方 朗子, 伊東 芳郎, 齋藤 俊行
    原稿種別: 本文
    2006 年56 巻5 号 p. 709-713
    発行日: 2006/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    妊娠期における歯科に関連した知識として,「う蝕原性菌の母子伝播」および「歯周疾患と早産」を取り上げ,妊産婦におけるこれらの知識の普及状況を調査した.対象者は,佐世保市にて2006年2月1日から同月28日までの期間に妊娠届を行った初妊婦65名,および同期間中に佐世保市保健所にて実施している10か月児歯科育児相談を受診した母親140名であった.妊娠届を行った初妊婦と10か月児歯科育児相談を受診した母親とのグループ別に,歯科的知識の普及状況を比較したところ,「う蝕原性菌の母子伝播」を知っているとした者の割合は,妊娠届を行った初妊婦では52.3%,10か月児歯科育児相談を受診した母親では97.1%であった.また,「歯周疾患と早産」を知っている者の割合は,初妊婦では9.2%,10か月児歯科育児相談を受診した母親では29.3%であった.いずれの項目においても統計学的に有意な差がみられた.また,10か月児歯科育児相談受診者においては,妊娠中に口腔に関連した自覚症状があった者は,なかった者に比べ,歯科的知識を有している者の割合が大きかった.これらのことから,妊娠期に発現する自覚症状を含む健康教育の実施は,妊娠期の歯科的知識の普及に対しては,一定の効果があると考えられた.
資料
  • 安藤 雄一, 平田 幸夫, 石川 清子, 鶴本 明久, 眞木 吉信
    原稿種別: 本文
    2006 年56 巻5 号 p. 714-719
    発行日: 2006/10/30
    公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー
    全国の主要自治体におけるフッ化物利用に関する施策の実態を把握することを目的に,2005年1月,全国の都道府県と政令指定都市・中核市・保健所政令市・特別区(以下,「政令市等」)を対象とした質問紙(郵送法)による実態調査を行った.調査項目は,健康日本21地方計画におけるフッ化物利用に関する目標の有無,フッ化物利用に関する事業の内容,啓発資料等の有無などである.回収率は,都道府県が98%(46/47),その他の自治体が94%(75/80)であった.健康日本21関連の地方計画でフッ化物利用に関する目標を掲げていた都道府県は83%,「政令市等」では55%であった.フッ化物利用に関する事業は,都道府県の70%,「政令市等」の77%で実施されており,都道府県ではその財源として厚生労働省の8020運動推進特別事業を活用している割合が高かった.啓発資料関係では,都道府県の61%,「政令市等」の25%で手引き・マニュアル類が,また都道府県の57%,「政令市等」の40%で啓発用資料が作成・発行されていた.本調査結果より,国の施策が地方自治体におけるフッ化物利用の推進を後押ししてきたことが確認された.しかしながら全国的にみた場合,フッ化物利用が地方自治体における歯科保健事業として定着するにいたったとはいいがたく,本調査結果を通じて関係者の理解・周知を図っていく必要性が高いことが示唆された.
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