口腔衛生学会雑誌
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48 巻, 5 号
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原著
  • 稲葉 大輔, 池田 久住, 米満 正美, 高木 興氏
    1998 年 48 巻 5 号 p. 648-653
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
    脱灰したヒトエナメル質人工裂溝に,波長248 nm のKrFエキシマレーザー(総エネルギー密度:172 J/cm^2),または波長532 nm のQスイツチNd:YAGレーザー第2高調波(総エネルギー密度:100 J/cm^2)を照射し,これらを健常成人の口腔内に1ヵ月間保持した。試料のミネラル分布はマイクロラジオグラフィにより定量的に評価した。レーザー照射試料における裂溝底部の脱灰深度l_d(μm)とミネラル喪失量△Z(vol%・μm)は,レーザー未処理の試料と比較して有意な差を示さなかった。また,再石灰化を示す明らかな所見はすべての試料で認められなかった。本研究の結果から,エナメル質初期齲蝕の表層下における脱灰はQスイツチNd:YAGあるいはKrFエキシマレーザーの照射によって抑制されない可能性が示唆された。
  • 稲吉 俊重
    1998 年 48 巻 5 号 p. 654-663
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
    ベリリウム(Be)の骨芽細胞に及ぼす影響を明らかにする目的でマウス頭蓋冠由来骨芽細胞株MC3T3-E1にBeCl_2を作用させ,細胞のカルシウム(Ca)蓄積,細胞増殖,タンパク質合成,アルカリ性ホスファターゼ(ALPase)活性,酸性ホスファターゼ(ACPase)活性,乳酸脱水素酵素(LDH)活性,およびサイクリックAMP(cAMP)レベルの動態について検討した。Beは,0.001μMから濃度依存的に細胞のCa蓄積を抑制し,0.1μM以上の濃度でCa蓄積はほぼ完全に阻止された。しかし,0.1μMBeで細胞増殖およびタンパク質合成の抑制は,認められなかった。次に,骨芽細胞の分化に重要な役割を演じていると考えられているALPase活性へのBeの影響を調べたところ,1μMBe処理細胞のALPase活性は抑制されなかったが,細胞破砕抽出試料にBeを添加すると,ALPase活性は0.01μM以上において濃度依存的に抑制された。一方,ACPase活性およびLDH活性は,ともに0.1μMBeで抑制されなかった。また0.1μMBe処理細胞のcAMPレベルは,処理8時間後にのみ有意に低値を示した。以上より,Beは骨芽細胞株MC3T3-E1のCa蓄積を抑制することが示された。その抑制にはBeがALPaseを含む細胞外膜酵素に対して活性阻害作用を及ぼしていることが推察された。
  • 矢野 正敏, 安藤 雄一
    1998 年 48 巻 5 号 p. 664-677
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は10年以上継続して歯科疾患予防管理を受けた成人集団における歯の喪失に及ぼすリスク要因を特定すること,および喪失に至った歯の抜歯原因を明らかにすることである。対象は,新潟大学歯学部附属病院において歯科疾患予防管理を受けた663名(男性291名,女性372名:初診時の平均年齢37.6歳)である。リコール期間中に1歯以上の歯を喪失した者は269名(40.6%)であり,5歯以上の多数歯を喪失した者は47名(7.1%)であった。年齢や性などの基本属性・初診時の歯および歯周組織に関する各指標を説明変数,リコール期間中の喪失歯発生の有無を基準変数とした多重ロジスティック回帰分析の結果から,未処置う蝕歯が多い者,クラウン装着歯(単冠)が多い者, 3mm以上の歯周ポケット保有歯率が高い者,歯石沈着度(VM-index)が高い者ほどリコール期間中に歯を喪失する傾向が高いことが示された。初診時に未処置う蝕のある歯とクラウンが装着されていた歯は,リコール期間中の喪失歯率が健全歯に比べて高く,カリエスリスクとう蝕罹患経験の影響が大きいことが示された。リコール期間中に5歯以上喪失した者を多数歯喪失者として,リコール期間中に歯を喪失した者に対象を限定し,喪失の多寡について多重ロジスティック回帰分析を行った結果,初診時の年齢が高い者ほどリコール期間中に多数歯を喪失する傾向が高いことが示された。喪失した歯の抜歯原因についてみると,歯周疾患に起因する割合(52.0%)がう蝕に起因する割合(40.2%)よりも若干高かった。多数歯喪失者における抜歯原因については,歯周疾患に起因する抜歯の割合(6.4.6%)がう蝕に起因する割合(32.3%)を大きく上回っており,多数歯喪失は歯周疾患リスクに起因していることが示唆された。
  • 小澤 雄樹, 岩倉 政城, 田浦 勝彦, 押切 邦中, 坂本 征三郎
    1998 年 48 巻 5 号 p. 678-684
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
    某健康保険組合支部が運営している歯科診療室において,被保険者本人に対する歯科保健活動を行った。本研究の歯科保健活動内容は,歯科検診,歯科保健指導,歯科処置,歯科治療の一般開業医への依頼である。歯科検診として質問紙調査,口腔内写真撮影,硬組織検査,WHOのCPITNの評価, O'Learyらのplaque control record(PCR)の評価を行った。歯科保健指導として歯口清掃指導を行った。歯科処置としては,主にスケーリング,ルートプレーニングを中心とした歯両疾患の基本処置と初期う蝕の充填処置を行った。 歯科保健活動導入前後の歯科診療報酬請求件数と請求点数を集計した。また,同じ健康保険組合で歯科保健活動を行っていない隣接した地域での被保険者群を対照とし,同様の集計を行い統計学的に差の検定をした。 その結果,以下の知見が得られた。1.被保険者1人あたりの診療報酬請求件数と請求点数は,歯科保健活動を始めると一時的に増加するが,2から3年目になると歯科保健活動を行っていない対照群よりも統計学的有意に低くなった。2.被保険者1人あたりの累積診療報酬請求件数と累積請求点数の増加率は,歯科保健活動開始後,対照群より統計学的有意に小さくなった
  • 河本 幸子, 岡崎 眞奈美, 西川 真理子, 平岩 弘, 岸本 悦央, 森田 学, 渡邊 達夫
    1998 年 48 巻 5 号 p. 685-690
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
    岡山大学歯学部附属病院予防歯科診療室では,患者に定期的来院を促し,術者による徹底した歯口清掃(Professional toothbrushing)を中心とする歯周治療を行っている。本研究では,予防歯科診療により歯の喪失がどの程度抑えられたのかについて,同附属病院内の他診療科で歯周治療を受けている外来患者の場合と比較した。1982年から1989年までの間に,当病院を6年以上継続来院して歯周治療を受けた者を対象に,予防歯科で歯周治療を受けた患者群と,他科で歯周治療を受けた患者群(対照群)とに分類した。両群間で治療開始時の年齢,性別,現在歯数をマツチングし,各群112名(男性30名,女性82名,平均年齢45.4歳)の6年間の歯の喪失状況を比較した。その結果,1.予防歯科受診者群の喪失歯の総計は91本,対照群では189本であり,予防歯科受診者群の歯の喪失は,対照群の約48%に抑えられていた。2.年代別では40,50歳台,歯種別では前歯部,特に下顎前歯部で,予防歯科受診者群の喪失歯数が抑えられていた。3.6年間の予防歯科受診者群の平均来院回数は対照群の約1.7倍であった。また,対照群と比較して,歯周外科処置の割合が少なかった。以上のことから,術者による徹底した歯口清掃を定期的に行う予防歯科診療は,歯周病罹患歯の保存に有効であることが示された。
  • 飯島 洋一, 高木 興氏
    1998 年 48 巻 5 号 p. 691-696
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
    砂糖代替甘味料はフッ素単独の再石灰化効果に比較して,フッ素の再石灰化能を促進する作用があるかについて人工齲蝕モデルを用いて検討を行った。すなわち,代替甘味料を添加した人工唾液である再石灰化液(Ca 3.0mM, P 1.8mM, F 2ppm, pH 7.0)による再石灰化程度を無添加再石灰化液の再石灰化程度と比較した。再石灰化能は,脱灰深度の変化ならびにミネラル喪失量の変化を指標として評価した。脱灰深度の指標は,フッ素による再石灰化効果に比較して,パラチノース群,ソルビトール群は約20μm脱灰深度が浅くなる所見を示した。脱灰直後の脱灰深度に比較していずれの群ともに明らかな再石灰化の傾向を示しているが,統計学的な有意差(p<0.05)はキシリトール群を除く各群で認められた。脱灰深度の改善率は高い順番に,パラチノース群34.6%,ソルビトール群32.0%,フッ素群20.3%,キシリトール群8.5%であった。しかしながらフッ素群との比較では,いずれの甘味料群ともに有意差は認められなかった。ミネラル喪失量については,フッ素による再石灰化群に比較してより高い再石灰化効果を示したのはパラチノース群だけであった。脱灰直後のミネラル喪失量との比較では,いずれの群ともにミネラル喪失量が少なくなり,再石灰化の傾向を明らかに示しているが統計学的に有意差(p<0.05)が認められたのはフッ素群,パラチノース群ならびにソルビトール群であった。ミネラル喪失量の改善率は高い順番に,パラチノース群42.8%,フッ素群37.8%,ソルビトール群34.4%,キシリトール群19.6%であった。しかしながらフッ素群との比較では,いずれの甘味料群ともに有意差は認められなかった。in vitroの実験からは砂糖代替甘味料のフッ素含有再石灰化液への添加は,フッ素単独の再石灰化能を阻害せず,また促進もしない結果であった。
  • 于 宏〓, 飯島 洋一, 川崎 浩二
    1998 年 48 巻 5 号 p. 697-706
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2017/10/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,ヒト・エナメル質の酸抵抗性に脱灰と再石灰化期間のバランスがどのように影響を与えるかをin vitroで検討することであった。ヒト小臼歯エナメル質ブロツクを0.1M乳酸緩衝液(3.0mM Ca,1.8mM P,1%CMC,pH=4.5)に1〜6日間浸潰して脱灰した後, 3.0ppm フツ素を含む再石灰化液(3.0mM Ca,1.8mM P,1%CMC,pH=7.0)に1〜6日間浸潰した。実験群は脱灰と再石灰化の期間の比を1対1に固定した6グループとした(D1R1,D2R2...D6R6;D:脱灰,R:再石灰化,数値:脱灰または再石灰化の日数)。脱灰・再石灰化処置後,酸抵抗性試験(ART)として処置エナメル質を0.1M乳酸溶液(pH 4.5)に1, 3, 7日間浸潰し,溶出Ca量(μg)ならびに喪失ミネラル量(△Z;μm・vol%)をそれぞれ原子吸光光度計,マイクロラディオグラフィーで測定して評価した。溶出Ca量は酸抵抗性試験の期間の長さに比例して直線的に増加した。酸抵抗性試験1日目では2つのタイプのCa溶解性が認められた。すなわち,溶解性の高いグループ(D1R1, D2R2, D5R5)と低いグループ(D3R3, D4R4, D6R6)である。酸抵抗性試験3日目では3つのタイプのCa溶解性が区別できた。すなわち溶解性の高いグループ(D1R1, D5R5),中等度のグループ(D2R2, D4R4),そして溶解性の低いグループ(D3R3,D6R6)である。ミネラル喪失量は,Ca溶出量のデータと完全に一致しているわけではなかったが, D6R6はD3R3と同様にミネラル喪失量は少なく,酸抵抗性のLaminationの形成が認められた。酸抵抗性試験7日目では,多くのサンプルでerosive lesionが認められたため,7日間という期間は酸抵抗性を評価するには長すぎるように思われる。脱灰と再石灰化の期間が短すぎるとエナメル質に十分な酸抵抗性が形成されなかった。われわれの研究結果は,酸抵抗性を獲得するには脱灰と再石灰化の微妙な至適バランスが必要であることを示唆している。評価方法に関しては,Ca溶出量とマイクロラディオグラフィーの2つの方法を組み合わせることで,酸抵抗性試験中にどの領域でミネラルが喪失したかを評価することが可能であった。
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