口腔衛生学会雑誌
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45 巻, 3 号
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原著
  • 西口 栄子, 伊ケ埼 理佳, 鈴木 幸江, 藤野 富久江, 渡部 恵子
    1995 年 45 巻 3 号 p. 314-321
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2017/10/06
    ジャーナル フリー
    市販の各種清涼飲料水の歯牙エナメル質におよぼす影響を観察した。その結果、(1)各種清涼飲料水116銘柄について,そのpHを測定した結果,コーヒー飲料,ミルク入り紅茶飲料,茶飲料を除いて 他の清涼飲料水のpHは,2.3〜4.9の強酸性であった。(2)10銘柄の清涼飲料水に歯牙(中切歯)を浸漬して,エナメル質の脱灰状態を観察した結果,果汁入り清涼飲料水,無果汁清涼飲料水共に,pH 2.3〜3.7の清涼飲料水では,浸潰後1分間でエナメル質の脱灰が観察された。(3)1mM,10mM,100mMの乳酸および塩酸溶液に歯牙を浸漬して,エナメル質の脱灰状態を観察した結果,乳酸溶液塩酸溶液共に,1mMの濃度でエナメル質は脱灰した。その脱灰の程度は,塩酸溶液の方が強かった。これらの結果から,強酸性の清涼飲料水によって,歯牙エナメル質は脱灰し,その脱灰は,低pHによって起ると考える。
  • 遠藤 智彦, 佐藤 勉, 丹羽 源男
    1995 年 45 巻 3 号 p. 322-333
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2017/10/06
    ジャーナル フリー
    培養細胞のフッ素に対する感受性(フッ素感受性)は細胞種で差がある。同調細胞を用いた実験から細胞のフッ素感受性は細胞周期で異なることが示されており,感受性の高低は細胞周期のパターンと関連していると考えられる。本実験は通常に継代・培養した細胞のフッ素感受性を測定し,同時に細胞周期を解析することで両者の関連性を検討した。すなわち種々のフッ素濃度の培養液中で培養した時の細胞増殖とDNA合成からフッ素感受性を判定し,同時にフローサイトメトリーで細胞周期を解析し,次の結果を得た。1.細胞増殖能とDNA合成能は細胞種で異なり胎児歯肉由来のFGP-4-Y細胞,癌組織由来のHeLa S_3細胞とKU-2細胞が高く,ついでFGF-4-E細胞,成人歯肉由来のGF-5-Y細胞,GF-12-Y細胞,そしてGF-5-E細胞,GF-12-E細胞の順であった。2.細胞増殖とDNA合成を抑制するF濃度から判定した細胞のF感受性はFGF-4-Y細胞,HeLa S_3細胞とKU -2細胞が高くGF-5-E細胞とGF-12-E細胞が低かった。3.フローサイトメトリーにより細胞周期を解析した結果,いずれの細胞もGo/G1期細胞とS期細胞で全細胞周期の80%前後を占め,S期とG_0/G_1期の比率は細胞間で異なることが認められた。4.増殖能およびDNA合成能の高かったFGF-4-Y細胞. HeLa S3細胞とKU-2細胞はS期細胞の割合が高く,G_0/G_1期細胞の割合が低かった。一方,細胞増催能とDNA合成能が低かったGF-5-E細胞とGF-12-E細胞はS期細胞の割合が低く,G_0/G_1期細胞の割合が高かった。以上から,通常に継代・培養されている細胞のF感受性の高低はその細胞集団中に存在するS期細胞とG_0/G_1期細胞の割合と関連していることが示唆された。
  • 遅沢 顕二, 丹羽 源男
    1995 年 45 巻 3 号 p. 334-343
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2017/10/06
    ジャーナル フリー
    鉄欠乏性貧血は各種貧血のうちで最も頻度が高いといわれている。本実験は成長期ラットを用いて実験的に鉄欠乏性貧血を起こさせ,その際のフッ素投与のおよぼす影響について生体効率の面から検討したものである。すなわち4週齢ラットに鉄欠乏食を与え,さらにフッ素を1日当り2mg食餌中に添加し飼育4週後に鉄目復を行い1週間飼育して次の結果を得た。1.鉄欠乏群の体重増加は,実験全期間を通じて対照群に比べて低い傾向にあり,フッ素投与による影響はみられなかった。2.実験4週後の鉄欠乏群のHb値はフッ素投与により有意な上昇が認められたが,鉄目復によるフッ素投与の影響はみられなかった。また実験全期間を通してHt値へのフッ素投与の影響も認められなかった。3.実験5週後の鉄回復期では鉄欠乏群の大腿骨および下顎骨中フッ素音量はフッ素投与により対照群に比べ増加した。4.フッ素投与による硬組織中鉄音量の変動はいずれの群でも認められなかった。5.使組織のうち臼歯象牙質フッ素合量は代謝性の貧しさから大腿骨フッ素合量に比べて1/2以下であった。6.鉄欠乏群および鉄回復群の血漿中フッ素濃度および血漿鉄に対するフッ素投与の影響は認められなかった。
  • 斉土 昌弘
    1995 年 45 巻 3 号 p. 344-353
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2017/10/06
    ジャーナル フリー
    ドミウムの生体に対する影響は,その主な標的臓器が腎臓であることから腎臓あるいは腎臓由来細胞を用いた報告が多い。一方,カドミウムの口腔内組織におよぼす影響については,高濃度カドミウムの慢性曝露時にみられる切歯および犬歯歯頭部黄色環以外はほとんど知られていない。また口腔内軟組織についての報告も散見するにすぎない。そこで本研究は口腔内軟組織に与えるカドミウムの影響を調べる目的で成人歯肉より分離したケラチノサイトを用いてメタロチオネイン誘導合成との関連性から検討した。その結果,カドミウム曝露により成人歯肉由来ケラチノサイトは10^<-4>mM Cd群以上で濃度依存的に細胞増殖とDNA合成が抑制されるが,10^<-6>mM Cd群と10^<-5>mM Cd群ではタンパク質合成が先進し,この濃度でメタロチオネインの誘導合成も先進することが認められた。また,成人歯肉出来ケラチノサイトの増殖を著しく阻害するような高濃度カドミウム曝露では,メタロチオネイン誘導合成が抑制されることが示唆された。
  • 飯島 洋一, 高木 興氏
    1995 年 45 巻 3 号 p. 354-357
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2017/10/06
    ジャーナル フリー
    エナメル質ならびに象牙質脱灰試料の乾燥による収縮程度を検討した。試料の脱灰は. 0.1M乳酸ゲル溶液(pH 5.0)に10日間浸潰して行った。乾燥・収縮にともなう試料表面の変化を収縮量として24時間にわたり計測した。エナメル質脱灰試料の収縮量は,乾燥条件下においては湿潤条件下に比較して収縮量は常に高い値を示すが,その程度は3〜5μmであった。脱灰病変の深さに対する収縮率は約5%であった。象牙質脱灰試料は,乾燥15分経過後よリすでに20μm前後の収縮量を示した(p<0.01)。この収総量は実験期間中,一定した値を示した。収縮率は約25%であった。エナメル質脱灰試料に比較して約5倍高い収縮量であった。象牙質試料の収縮量は,再度・湿潤条件下に24時間保存後はほぼ乾燥前の状態に回復する傾向を示した。本研究より,特に象牙質脱灰試料のマイクロラジオグラフィーの撮影時には,湿潤状態のまま試料をいわゆるラッピングフィルムで包むことにより乾燥・収縮を防ぐことが示唆された。
  • 大竹 千生
    1995 年 45 巻 3 号 p. 358-378
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2017/10/06
    ジャーナル フリー
    口腔内の健康にとって,歯列不正,とくに叢生歯列は,歯口清掃を困難にするため悪影響を及ぼすことが知られている。本研究では叢生歯列と歯垢付着,歯内炎についての関連性を,指数を用いて明らかにする目的で検討した。成人173名を対象に不正咬合,歯口清掃,歯肉の状態について指数による評価を行い,各指数間の関連性,歯垢付着と歯肉炎ハイリスク群を検出するスクリーニングレベルを検討した。不正咬合でない者は約10%,Malalignment Index(MI)より叢生のない者は20.2%,歯内炎を有する者は52.0%,歯垢付着は全員にみられた。不正咬合指数とDebris Index(DI),PMA Index(PMA)間ではMIとの関連性が強かった。また,DIが2以下の群を付着(-)群としてMIのスクリーニングレベルを求めた結果,MIが2以上の者を陰性とする点が良好であった。PMA が0の群を健常群とした時にも,MIが2以下の者を陰性とする点が良好であった。 DI を目的変数,MIによる目転(Rot.)と転位(Dis.)を説明変数とした重目帰分析では,男子はRot.,女子はDis.でよりDIに対する関連性が強かった。同様にPMAを目的変数とした重回帰分析では男女ともDis.でよりDIに対する関連性が強かった。これら指数を用いた方法により,叢生歯列と歯垢付着,歯内炎との関には密接な関連性が示唆された。
  • 藤枝 真
    1995 年 45 巻 3 号 p. 379-397
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2017/10/06
    ジャーナル フリー
    われわれ歯科界の人間にとって基本的な用語である「歯」という語が,民俗学的にはどのように使われているかに強い関心を持ち,「定本柳田国男集(新装版)」(筑摩書房)をテキストとして,その「索引読み」を試みた。その結果,総索引中に30語が見出された。さらにそれらの内容について民俗学的諸分野にわたる分類を試みたところ,その分布状況を把握することができた。その一方で,テキスト読解に関する「索引読み」の方法論は,今後の電子機器とそれらに関連する教材開発の進展により益々威力を発揮するようになり,テキストの本質に,より接近しうる可能性が示唆された。
  • 鶴本 明久, 山本 透, 青柳 佳治, 佐野 祥平, 福島 眞貴子, 北村 中也, 武井 啓一
    1995 年 45 巻 3 号 p. 398-405
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2017/10/06
    ジャーナル フリー
    前報において犬歯周疾患に関する多元的要因を考慮した計量診断および保健指導にも有用な質間紙法による調査を目的として,6尺度48の質問項目で構成された質問紙票を作成した。今回は,その質問紙の信頼性および妥当性を検証する為に,異なる成人集団を用いて質問紙における尺度構成の信頼性を因子分析や信頼性係数によって調べ,さらにPMA,歯周ポヶットの有無などの口腔保健状況と質問紙との関連性について検討した。尺度を構成する各質問項目は因子分析により算出された各要因によく集約されていた。また,各尺度におけるα-信頼係数も比較的高い数値を示した。従って,作成した質問紙の尺度としての安定性および信頼性は保持されていると思われた。しかし,CPITNの基準によって測定された個人コードでの歯列ポケットの有無を外的基準とした判別分析では「口腔の健康」の尺度以外は説明変数としての寄与は小さく,判別の的中率65.3%とこの質問紙の診断能力はあまり良くなかった。すなわち妥当性の低い調査方法という結果であった。また,因子分析によって尺度構成したにも関わらず各尺度間の独立性が低く,いくつかの尺度相互に有意な相関関係のあるものが見られるが,このことは尺度相互の関連性を考慮した保健指導での利用を可能とするものと思われた。以上の結果から,鑑別能力を高め,目的とする質問紙の作成のために,各尺度内の質問項目の再検討および新たな尺度の設定を試みる必要性が示された。
  • 三浦 宏子, 磯貝 恵美子, 廣瀬 公治, 上田 五男
    1995 年 45 巻 3 号 p. 406-410
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2017/10/06
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,唾旅中の齲蝕原性細菌類がショ糖クリアランス能と関連性を有するかを調べることである。被験者は43名の健康な歯科大学生である。ショ糖クリアランス能の低下は,唾液中のミュークンスレンサ球菌類の増加と有意な関連性が認められた(p<0.001)。しかし,ショ糖クリアランス能は唾液中の総嫌気性菌類,乳酸標菌類,総レンサ球菌類と関連性を示さなかった。また,安静唾液流出速度とミュークンスレンサ球菌類との間に,有意な負の相関関係が認められた(p<0.01)。唾液中のミュータンスレンサ球菌類は,安静唾液流出速度に大きく影響を受けるショ糖クリアランス能と関連性を有することがわかった。以上の結果より,ショ糖クリアランス能が低い被験者は,宿主要因と環境要因の両面からみて高い齲蝕活動性を有する可能性が高いことが示唆された。
  • 松平 文朗, 北村 中也, 佐野 祥平, 鴨志田 義功, 斉木 稔, 佐々木 正名, 近藤 清志
    1995 年 45 巻 3 号 p. 411-418
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2017/10/06
    ジャーナル フリー
    この研究は,休日急患診療にたずさわった大和歯科医師会の1980年から1989年にかけての10年間の記録によるものである。受診巻数の総計は,5086入(男性3045人,女性2041人),そのうちの65.6%は大和市の住民で,19.2%が綾瀬市の住民であった。月別で見ると年間受診者の18.6%が12月で,次いで1月,5月に多かった。受診者の年代構成では,30代が最も多く22.7%,次いで20代の18.6%であった。健康保険等の支払い区分では,社会保険加入者本人が最も多く,受診者の37.6%をしめていた。主訴の第1位は,下顎第一大臼歯の根尖性甫周組織炎であり,処置も第1位は根管治療であった。大和市および綾瀬市の両市で,歯科休日急患診療について質問票による調査を平成3年に行った。回答者の60.2%は大和歯科休日急患診療所について知っていた。そして,その中の2.2%がこれまでに受診したことがあるとのことであった。受診者は,男性が多くかつ社会保険加入者本人が多いことはひとつにはその労働環境によるものと考えられる。また他の報告にあるように歯科休日急患診療所を地域医療の要として,二次・三次の医療機関との連携を考える必要がある。
  • 市橋 透, 斎藤 邦男, 川村 和章, 山崎 朝子, 平田 幸夫, 荒川 浩久, 飯塚 喜一
    1995 年 45 巻 3 号 p. 419-427
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2017/10/06
    ジャーナル フリー
    市販ミネラルウォーター類(25銘柄)および缶入りお茶類(21銘柄)を購入し,これら製品中のフッ素濃度などについて情報を得る目的で分析を行い,以下の結果を得た。1.国産品ミネラルウォーター類のフッ素濃度は,17銘柄中13銘柄が0.1ppm未満で,最も高い値を示した製品は0.76ppmであった。輸入品では8銘柄中4銘柄が0.1ppm未満で,最も高い値を示した製品は0.70ppmであった。2.国産品ミネラルウォーター類のCa量,Mg量はそれぞれ1.14〜58.81mg/l,0.70〜7.93mg/lであった。輸入品のCa量,Mg量はそれぞれ8.13〜88.78mg/l. 1.07〜25.86mg/lであった。3.お茶類のフッ素濃度は,緑茶飲料では番茶が1.29ppmで最も高く,緑茶は0.53ppm〜0.90ppm,ウーロン茶では0.75ppm〜l.50ppm,紅茶では0.47ppm〜2.19ppm,杜仲茶や麦茶(正確な意味でのお茶類ではない)では0. 1ppm未満であった。以上の結果から,ミネラルウォーター類や緑茶飲料などに存在するフッ素やミネラル含量などは銘柄間で異なっていることが明らかとなった。そのため,これらの飲料中の成分の情報をさらに明らかにしていくことは,フッ素やミネラルの供給源として,これら製品を有効に活用することに結び付くものと考えられた。
  • 新谷 裕久, 桑原 洋子, 小澤 亨司, 上坂 弘文, 可児 瑞夫, 可児 徳子
    1995 年 45 巻 3 号 p. 428-439
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2017/10/06
    ジャーナル フリー
    病院歯科診療室の気菌濃度の継続管理のために簡便で有用なKochの落下法について再検討することを目的として,朝日大学歯学部附属病院の5歯科診療室において3年間(1988,1990,1991) ,気候,環境ならびに気菌濃度の測定をSY式pin hole sampler 法(SY法)とKochの落下法により行った。分析点は次のとおりである。1:気候因子,環境因子と落下細菌濃度(落下法)因子による浮遊細菌濃度(SY法)の推定は重回帰式分析により行った。さらに,落下細菌濃度を加えることによる重回帰式の推定精度への影響について検討を行った。2:落下法とSY法との相関関係を検討し,SY法の浮遊細菌濃度の清浄閾値(0.2CFUμ)に相当する落下細菌濃度を予測区間推定した。次のような成績が得られた。1.重回帰分析による浮遊細菌濃度の推定は,落下細菌濃度因子を加えることにより,重回帰式の推定精度が向上(p<0.01)することが示された。落下法は空気汚染の簡便なモニタリングとして活用できることが示された。2.落下細菌濃度と浮遊細菌濃度は,r = 0.439〜0.606の高い相関関係(p<0.01)であった。浮遊細菌濃度の清浄闇値に相当する落下細菌濃度の予測値は0.755〜1.333CFUであり,信頼度95%の区間推定上限値は2.161〜4.116CFUであった。このことから,落下細菌濃度の空気清浄関値は約4.1CFUであることが示され,落下法は空気汚染の簡便なスクリーニングが可能であることが示された。以上の結果,継続的な気前濃度管理のために落下法の実施は有用であることが確認された。
  • 安藤 雄一, 八木 稔, 佐々木 健, 小林 秀人, 小林 清吾, 堀井 欣一
    1995 年 45 巻 3 号 p. 440-447
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2017/10/06
    ジャーナル フリー
    新潟県内のフッ化物洗口(以下,F洗口)の実施地域(36市町村)と未実施地域(37市町村)における12歳児DMFTの経年的な推移について検討した。評価期間は1982〜1993年度とした。分析対象はF洗口を管内のすべての小学校で6年以上継続実施している市町村と未実施の市町村とした。F洗口を実施している料については,開始時期別に,1970年代開始群,1982〜1985年度開始群,1986年度開始群の3群に分類して分析を行った。未実施群のう蝕は漸減傾向にあり,全国平均に極めて近い傾向を示した。評価期間以前にF洗口の効果が現われていたと考えられる1970年代開始料は,未実施群と同様,漸減傾向を示したが,う蝕は一貫して少なかった。1993年度における未実施料と比較した1970年代開始群のDMFTの差は43.2%であった。一方,評価期間中に注目を開始した群では,F洗ロ開始以後のう蝕の減少量が未実施料よりも大きく,その減少傾向は統計的に有意であった。未実施料のう蝕減少量を考慮して1993年度時点のF洗口の補正減少率を算出した結果,82〜85年度開始群が45.1‰86年度開始群が31.1%であった。以上より,F洗口によるう蝕の予防効果は,F洗口以外の要因の影響によるのう蝕の減少を除外しても高いことが確認された。
  • 大橋 たみえ, 可児 徳子, 可児 瑞夫, 石津 恵津子, 磯崎 篤則, 新谷 裕久
    1995 年 45 巻 3 号 p. 448-454
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2017/10/06
    ジャーナル フリー
    日本人の歯周疾患有病率とその処置の必要度は非常に高く,現状を再考する必要がある。特に歯科保健活動に接する機会が少ない成人女性の場合は,妊婦健康診断時に歯周疾患の状況を把握し,指導を行うことの意義は大きいと考えられる。本研究では妊産婦の歯周疾患有病状態と,その処置の必要度を知り,保健指導の指針を得る目的で,妊婦歯科健康診査時にCPITN,視診による歯肉炎,歯周炎,歯石,VPIの各診査を行い分析した。調査対象は,保健所における母親学級参加者のうち,1990年〜1993年に歯科健診を受診した1,612名である。受診者の妊娠週数は平均19.6週,年齢は平均26.8歳であった。受診した妊婦のうち,なんらかの歯周処置を要する者は94.2%と高率であったが,歯周ポケット4〜5mm以上の重症の歯周疾患を有する者の割合は非常に少なく,妊娠期を通じて一定であった。本研究では年齢区分のうち人数の集中している20〜29歳について,妊娠通数別に分析を行い,以下の成績を得た。(1)CPITN Code は,妊娠期を通してCode 2 が多く23〜25通では特に多かった。(2)歯肉炎G+,++,+++も妊娠23〜25通で増加した。(3)VPI Fair とPoorの割合は妊娠23〜25週で高くなったがVPIと歯石の沈着度は妊娠後期には改善された。(4)CPITN Code 2 とCal+の考の割合は妊娠期を通して同じ傾向を示した。(5)CPITN Code 3,4の割合は非常に少なく妊娠期を通し変化がみられなかった。つまり,歯周炎は妊娠によって増悪化しないことが確認された。(6)妊娠期に見られる歯肉炎はVPIや歯石の沈着と非常に関連が深く歯口清掃状態に影響されることがわかった。以上の結果より,妊娠中期の23〜25週に歯口清掃が不良となり,歯肉出血,歯石が多くなるという傾向が明らかとなった。しかし,統計的には有意差は認められなかった。これには,本研究の結果では歯石沈着を意味するCode 2 が高率であリ,一般的な妊娠性歯肉炎の症状をもつ者もこの中に含まれていることも考慮に入れる必要があると思われる。妊娠による甫周疾患の増悪については多くの研究者が報告しているが,本研究でもその原因の多くが妊娠前期の吐き気や食事回数の増加などによる歯口清掃不良によるものであることが確かめられた。 以上のことから,妊娠中期からの歯肉炎の進行を予防するためには,妊娠前期に歯科健診を行い,歯周疾患の状況にあわせた保健指導を行うことが,意義のあることと考えられる。
  • 伊藤 龍也
    1995 年 45 巻 3 号 p. 455-463
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2017/10/06
    ジャーナル フリー
    今回の実験はセメント質のフッ素濃度分布の意義を知るためのものである。異なった濃度(0,50,100ppm F)の飲用水で異なった期間(4,13,25週)飲用後,蒸留水に変更しその後のフッ素濃度分布の変化をみた。方法としてアブレシブ・マイクロサンプリング法によってラット臼歯セメント質のフッ素濃度を測定した。その結果セメント質の平均フッ素濃度はフッ素濃度と飲用期間に比例して増加した。フッ化物添加飲用水の飲用を中止するとセメント質のフッ素濃度が,とくに表層において減少した。フッ素濃度減少率は飲用中止後それぞれ,外層(1〜60μm)において50ppmで94.2〜36.5%,100ppmで62.2〜49.0%,中層(61〜120μm)において50ppmで91.5〜24.1%,100ppmで74.1〜7.6%であった。減少率は飲用水の添加フッ素濃度や飲用期間よりセメント質の深さに関係が深かった。減少理由には2通りあり,飲用中止後に新しいセメント質が添加したことと,フッ素の供給が止まってからセメント質表層からフッ素が遊離もしくは置換されたということが考えられる。 ラット臼歯セメント質のフッ素濃度は,フッ素添加飲用水の飲用中止をすると,内層も減少する骨と違って,表層が減少していくと結論しされた。
  • 小松崎 明, 末高 武彦, 山田 敏尚, 干場 貫二
    1995 年 45 巻 3 号 p. 464-472
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2017/10/06
    ジャーナル フリー
    著者は,効果的な学校歯科保健対策を検討する手始めとして,歯科健康診断と事後措置の状況について,全国の小中学校合計1,201校を対象として郵送法を用いて調査検討を行い, 398校から回答を得た。定期歯科健康診断はすべての小中学校で実施され,結果については90%以上の学校で養護教諭が学校歯科医から指示・指導を受けている。またほとんどの学校では結果を児童生徒・保護者に報告し,治療勧告を行っている。なお,市部と郡部では特徴ある大きな差が見られなかった。しかし,健康診断当日に欠席した者を放置している学校も多く特に中学校では50%あり,学校歯科医からの指示・指導を校長では50%近くが,学級担任では50%以上が把握しておらず,疫学的な分析が50%以上で行われていなく,集計結果も学校歯科医に30%以上の学校で報告されていないなど,問題点も多くの学校で認められる。この結果,歯科健康診断等はいまだ多くの学校で義務づけられた保健管理として行っていると見られ,この結果を学校保健が目指す保健教育へ活用し,歯科保健の特性を生かして保健教育と保健管理との調和した学校保健を進めている学校はわずかと考えられる。著者は,保健教育と保健管理とが調和した学校保健活動を求めて,この調査の結果を踏まえ学校内の体制について,また,学校歯科医活動のあり方について若干の方策を提案した。
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