日本人の歯周疾患有病率とその処置の必要度は非常に高く,現状を再考する必要がある。特に歯科保健活動に接する機会が少ない成人女性の場合は,妊婦健康診断時に歯周疾患の状況を把握し,指導を行うことの意義は大きいと考えられる。本研究では妊産婦の歯周疾患有病状態と,その処置の必要度を知り,保健指導の指針を得る目的で,妊婦歯科健康診査時にCPITN,視診による歯肉炎,歯周炎,歯石,VPIの各診査を行い分析した。調査対象は,保健所における母親学級参加者のうち,1990年〜1993年に歯科健診を受診した1,612名である。受診者の妊娠週数は平均19.6週,年齢は平均26.8歳であった。受診した妊婦のうち,なんらかの歯周処置を要する者は94.2%と高率であったが,歯周ポケット4〜5mm以上の重症の歯周疾患を有する者の割合は非常に少なく,妊娠期を通じて一定であった。本研究では年齢区分のうち人数の集中している20〜29歳について,妊娠通数別に分析を行い,以下の成績を得た。(1)CPITN Code は,妊娠期を通してCode 2 が多く23〜25通では特に多かった。(2)歯肉炎G+,++,+++も妊娠23〜25通で増加した。(3)VPI Fair とPoorの割合は妊娠23〜25週で高くなったがVPIと歯石の沈着度は妊娠後期には改善された。(4)CPITN Code 2 とCal+の考の割合は妊娠期を通して同じ傾向を示した。(5)CPITN Code 3,4の割合は非常に少なく妊娠期を通し変化がみられなかった。つまり,歯周炎は妊娠によって増悪化しないことが確認された。(6)妊娠期に見られる歯肉炎はVPIや歯石の沈着と非常に関連が深く歯口清掃状態に影響されることがわかった。以上の結果より,妊娠中期の23〜25週に歯口清掃が不良となり,歯肉出血,歯石が多くなるという傾向が明らかとなった。しかし,統計的には有意差は認められなかった。これには,本研究の結果では歯石沈着を意味するCode 2 が高率であリ,一般的な妊娠性歯肉炎の症状をもつ者もこの中に含まれていることも考慮に入れる必要があると思われる。妊娠による甫周疾患の増悪については多くの研究者が報告しているが,本研究でもその原因の多くが妊娠前期の吐き気や食事回数の増加などによる歯口清掃不良によるものであることが確かめられた。 以上のことから,妊娠中期からの歯肉炎の進行を予防するためには,妊娠前期に歯科健診を行い,歯周疾患の状況にあわせた保健指導を行うことが,意義のあることと考えられる。
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