歯質中の微量金属に関する研究には, 歯牙の特異性, つまり歯牙が生理的交替 (turnover) に乏しいことを利用して生体負荷 (body burden) の指標としようという分野がある。この分野は金属類の公害問題とも関連して注日されるところである。特に乳歯は先人の業績からも推察できるように, 環境条件をかなり良く反映することが考えられ, しかも資料収集も容易であり, かかる研究には適切な資料といえるであろう。
そこで著者は, 東京・富山両地区より収集された乳歯785本について, カドミウム (Cd) , 亜鉛 (Zn) , 鉛 (Pb) の含有量を測定し, 地域差, 石灰化期の哺育栄養差および歯種差を比較することを計画した。3微量金属の定量には原子吸光分析法を用い, カルシウム (Ca) の定量はEDTA-2 Na法によった。
結果の要約は次の如くであった。
2. CaおよびCd, Zn, Pbいずれも地区別, 哺育栄養別に有意差は認められなかった。
3. Caの歯種別含有量は, 乳切歯の方が乳臼歯に比べ低い値を示す傾向が認められた。それぞれの平均値 (mg/g) は次の如くである。乳切歯307, 乳側切歯312, 乳犬歯318, 第一乳臼歯325, 第二乳臼歯334mg/g.
4. Cd, Zn, Pbともに乳切歯の含有量が高く, 乳臼歯において低い値を示した。この傾向は特にPbにおいて顕著で有意差が認められるものであつた。それぞれの平均値 (ppm) は次の如くである。
Cd: 乳切歯1.14, 乳側切歯1.11, 乳犬歯1.07, 第一乳臼歯1.01, 第二乳臼歯1.04ppm.
Zn: 乳切歯133, 乳側切歯135, 乳犬歯125, 第一乳臼歯118, 第二乳臼歯119ppm.
Pb: 乳切歯8.16, 乳側切歯8.24, 乳犬歯7.60, 第一乳臼歯6.20, 第二乳臼歯6.50ppm.
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