【目的】医学部を有する大学附属病院の鍼灸診療の意義と課題を明らかにする。
【方法】2012年5月の各大学ホームページ上の公開情報を分析し、 三重大学病院の鍼灸診療の経験について、 同院麻酔科より情報提供を受けた。
【結果】80大学病院のうち鍼灸外来を設けている病院は16あった。 設置形態には、 病院と独立した施設で実施、 院内で独立した診療科で実施、 特定診療科の中で実施という類型が認められた。
三重大学病院では2007年に三重大学と鈴鹿医療科学大学で締結された包括連携協定の連携事業として、 2010年から 「麻酔科統合医療・鍼灸外来」 が開始された。 専属鍼灸師3名の他、 鈴鹿医療科学大学からの派遣教員 (鍼灸師) 3名が診療にあたり、 2年間で延べ2749件診療された。 麻酔科医師と鍼灸師による検討会を通じて、 医療安全対策や電子カルテの共用等、 大学病院で要求される診療レベルの向上が図られた。 開設2年目に入院患者の紹介が急減したが、 緩和ケアチームの本格的活動開始に伴い、 従来麻酔科に紹介されていた疼痛管理を必要とする症例が紹介されなくなったことが主要因と推定された。 現在、 鍼灸師側から緩和ケアチームに対して積極的な連携の促進が働きかけられている。
【考察】大学病院での鍼灸診療の実施は、 保険医療機関で自費診療を実施する際の制約等、 いくつかの課題を抱えているが、 科学的根拠にもとづいた鍼灸診療の確立を促し、 鍼灸診療が医療界全体に理解される可能性を大きくする等の意義を有していると考えられる。 大学病院で鍼灸診療を定着化するためには、 科学的根拠にもとづいた鍼灸診療を鍼灸師の側から積極的に提案することにより、 鍼灸師と医師や他の医療専門職との相互理解と連携を深めることが重要と考えられる。
【結論】いくつかの課題は存在するものの、 大学病院での鍼灸診療は将来の鍼灸診療の普及と発展のために大きな意義を有する。
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