全日本鍼灸学会雑誌
Online ISSN : 1882-661X
Print ISSN : 0285-9955
ISSN-L : 0285-9955
62 巻, 4 号
全日本鍼灸学会雑誌
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
巻頭言
会頭講演
  • 豊田 長康
    原稿種別: 会頭講演
    2012 年 62 巻 4 号 p. 282-291
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/10/08
    ジャーナル フリー
    【目的】医学部を有する大学附属病院の鍼灸診療の意義と課題を明らかにする。
    【方法】2012年5月の各大学ホームページ上の公開情報を分析し、 三重大学病院の鍼灸診療の経験について、 同院麻酔科より情報提供を受けた。
    【結果】80大学病院のうち鍼灸外来を設けている病院は16あった。 設置形態には、 病院と独立した施設で実施、 院内で独立した診療科で実施、 特定診療科の中で実施という類型が認められた。
     三重大学病院では2007年に三重大学と鈴鹿医療科学大学で締結された包括連携協定の連携事業として、 2010年から 「麻酔科統合医療・鍼灸外来」 が開始された。 専属鍼灸師3名の他、 鈴鹿医療科学大学からの派遣教員 (鍼灸師) 3名が診療にあたり、 2年間で延べ2749件診療された。 麻酔科医師と鍼灸師による検討会を通じて、 医療安全対策や電子カルテの共用等、 大学病院で要求される診療レベルの向上が図られた。 開設2年目に入院患者の紹介が急減したが、 緩和ケアチームの本格的活動開始に伴い、 従来麻酔科に紹介されていた疼痛管理を必要とする症例が紹介されなくなったことが主要因と推定された。 現在、 鍼灸師側から緩和ケアチームに対して積極的な連携の促進が働きかけられている。
    【考察】大学病院での鍼灸診療の実施は、 保険医療機関で自費診療を実施する際の制約等、 いくつかの課題を抱えているが、 科学的根拠にもとづいた鍼灸診療の確立を促し、 鍼灸診療が医療界全体に理解される可能性を大きくする等の意義を有していると考えられる。 大学病院で鍼灸診療を定着化するためには、 科学的根拠にもとづいた鍼灸診療を鍼灸師の側から積極的に提案することにより、 鍼灸師と医師や他の医療専門職との相互理解と連携を深めることが重要と考えられる。
    【結論】いくつかの課題は存在するものの、 大学病院での鍼灸診療は将来の鍼灸診療の普及と発展のために大きな意義を有する。
特別講演
  • 統合医療が求められる本当の理由
    織田 聡
    原稿種別: 特別講演
    2012 年 62 巻 4 号 p. 292-298
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/10/08
    ジャーナル フリー
     近年、 統合医療という言葉が普及しつつある。 しかし、 統合医療と補完代替医療の概念的混同がしばしば見られ、 ある種の補完代替医療を推進することが統合医療の目的のように誤解されている。 補完代替医療の利用者や提供者にとどまらず、 各種関連学術団体においても、 同様な誤解が根強い。
     統合医療の目的には大きくわけて二つある。 西洋医学的診療の空白をつくらないことと適切な治療法を選択することにある。 統合医療には西洋医学的マネージメントと西洋医学と補完代替医療のコーディネートが必要であり、 患者の病態やあらゆる背景を勘案して治療法を選択することが理念そのものである。
     さらに、 統合医療では 「アクセシビリティ」 と 「アベイラビリティー」 が重要である。 我が国において、 鍼灸は他の補完代替医療と比較して、 広く普及しており、 また、 国家資格として認められていることから、 容易に、 また質の保証を得たうえで利用可能といえる。 日本の現在の医療環境下で統合医療を効率的に発展させるためには、 漢方や鍼灸といった伝統医学を外すことはできないが、 現状では医師との連携が十分であるとは言えない。
     この講演では、 統合医療の理念を詳らかにすると同時に、 統合医療が成熟していく過程を明らかにすることで、 今後どのように医療を変えていくべきかを提示する。 さらに、 その変革を実現するために鍼灸がどのような役割を果たすべきか、 具体的なモデルを提案する。
セミナー
  • 食から健康と鍼灸を見つめなおす
    前田 和久, 野口 栄太郎, 三潴 忠道
    原稿種別: セミナー
    2012 年 62 巻 4 号 p. 299-314
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/10/08
    ジャーナル フリー
     医療技術の発達の一方で、 疾病をいかに予防するかが重要な課題となっている。 またガン、 糖尿病、 心筋梗塞、 脳梗塞、 脳溢血といった日本人の大半の死因につながる疾患は生活習慣が大きな因子として関わっており、 生活習慣を改めることによって発症を予防できる可能性が明らかになっている。
     本セミナーでは生活習慣の中でも、 特に食に注目して講演を展開した。
     まず食生活と疾患の関連性をカロリー制限とバランスの観点から、 次に栄養吸収に対する鍼灸治療の効果について、 最後に東洋医学的な食事の考え方と病気とのかかわりと病院食における食養生について講演を行った。
     以上の講演をもとにディスカッションを行い、 食事と病気の関係、 鍼灸と栄養吸収の関係、 東洋医学的な食事の見方を考え直し、 鍼灸治療に食を応用するための有用な可能性が示唆された。
原著
  • 国内の開業鍼灸院を対象として
    新原 寿志, 小笠原 千絵, 早間 しのぶ, 日野 こころ, 谷口 博志, 角谷 英治
    原稿種別: 原著
    2012 年 62 巻 4 号 p. 315-325
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/10/08
    ジャーナル フリー
    【目的】本研究の目的は、 国内の鍼灸臨床における有害事象 (過誤・副作用) の現状を明らかにすると共に、 その問題点と改善のための方策を検討することにある。
    【方法】対象は、 平成21年10月現在、 iタウンページに登録の開業鍼灸院20,454件から無作為に抽出した6,000件とした。 アンケートは、 平成21年10月初旬に郵送し、 同年12月末日を返信期限とした。 調査項目は、 1) 回答者プロフィール、 2) 鍼による有害事象、 3) 灸による有害事象、 4) 鍼灸の有害事象に対する患者の苦情および告訴、 5) 鍼灸の有害事象に関するインフォームド・コンセント、 6) 鍼灸の安全性に関する書籍・雑誌の購読状況、 7) 鍼灸の安全性に関する自由記述とした。 なお、 本調査は、 2000年以降の有害事象の経験の有無について調査を行い、 その発生件数(頻度)は問わなかった。
    【結果】回収率は21.6%であった。 鍼の有害事象では、 皮下出血 (65.8%)、 微小出血 (62.0%)、 刺鍼時痛52.9%などの副作用が上位を占め、 過誤では鍼の抜き忘れ (32.7%) が最多で、 重大な過誤では折鍼 (2.2%)、 気胸 (2.0%) であった。 灸の有害事象では、 意図しない熱傷 (24.0%)、 髪の毛の燃焼 (15.5%)、 衣服の燃焼 (15.0%) が上位を占め、 重篤な過誤では灸痕化膿 (10.8%) が最も多かった。 有害事象に対する患者の苦情では症状悪化 (21.8%)が、 告訴では気胸 (36.4%, 11件中4件) が最も多かった。 有害事象に関するインフォームド・コンセントを得ているとの回答は全体の74.8%で、 そのうち口頭のみが61.0%であった。 鍼灸の安全性に関する書籍等の購読率はいずれも30%未満であった。
    【まとめ】鍼の有害事象の多くは副作用であり、 刺激過多に起因するものが多かった。 灸では、 施術者の不注意に起因するものが多かった。 また、 関連する書籍等の購読率が低いなど、 安全性に関する情報は未だ十分に浸透しているとは言えない現状が示唆された。 今後は、 書籍のみならずインターネットを用いた情報の発信が必要であると考えられた。
国際部報告
feedback
Top