新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 患者は、 三密 (密閉・密集・密接) 回避、 ワクチン接種が進む中においても、 オミクロン株が主流となり増加し続けている。 東北大学病院は行政との連携の下、 大規模ワクチン接種センターやドライブスルー型PCR検査外来、 外来アセスメント、 軽症者等宿泊療養施設 (療養施設) 管理支援、 高齢者施設支援、 抗体カクテルセンターなどを運営し、 COVID-19による死亡を可能な限り抑制してきた。 特に医療機能付き軽症者等宿泊療養施設においては、 情報共有・往診システムの構築を行い、 広域ITシステムと連携したDXを展開し、 これまでに療養施設死亡者ゼロを継続している。 また、 日本東洋医学会では発病予防、 急性期治療、 遷延症状に対する漢方薬を活用した臨床研究を展開し、 急性期治療では漢方薬治療が重症化抑制に一定の効果を得ることを報告するに至っている。 遷延症状については、 自治体がまとめた症例集積報告に漢方薬治療や鍼灸治療の症例も含まれているものの、 特に後遺症と呼ばれる症状は多岐にわたることから、 治療の方向性や効果についての評価は定まっていない。 COVID-19対応は、 西洋医学、 伝統医学、 今後の医学の発展など複合した知識や技術の更新、 対応が長期的に続く。 今後も多職種間で、 情報発信、 情報共有、 現場への還元、 地道で絶え間ない努力が必要である。
末梢性顔面麻痺の予後不良の見方、 評価法、 治療上の注意、 鍼灸治療については、 鍼灸師間で共通理解が乏しく、 多職種との連携もその点で課題も大きい。 現在、 麻痺の治療は予後不良例に対して麻痺の回復過程で後遺症をいかに少なくさせるかが重要となる。 後遺症を予防し、 患者Quality of life (QOL) を向上させることがゴールである。 それには麻痺診療手引きを理解し、 他のメディカルスタッフ同様、 鍼灸師も適切な診察・治療・セルフケアの指導等を行い、 専門医との連携が図れることが重要となる。 本セミナーの内容を読んで頂き、 麻痺の病態や評価方法、 鍼灸治療上の注意など共通理解が得られ、 今後の麻痺に対する臨床研究のコンセンサスや鍼灸の可能性について検討できれば幸いである。
【目的】1年間の大学サッカー部におけるトレーナー活動について、 スポーツ外傷・障害を有しアスレティックリハビリテーション (以下、 アスリハ) を施行された選手に対する鍼治療を中心に報告することを目的とした。 【方法】2019年4月から2020年3月までの期間、 鍼灸師と日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー (JSPO-AT) の資格を持つトレーナーが活動を行った。 対象は大学サッカー部に所属する男性選手28名とした。 トレーナー活動の具体的な内容は、 (1)アスリハ、 (2)鍼治療、 (3)試合対応とした。 実際に行ったトレーナー活動について、 トレーナー活動日数、 アスリハ・鍼治療実施人数、 症例別のアスリハ・鍼治療実施回数、 鍼治療の内訳を後ろ向きに集計した。 【結果】トレーナー活動日数は63日であった。 内訳はアスリハ48日、 試合対応15日であった。 アスリハは延べ101名、 鍼治療は延べ33名に行った。 鍼治療を行った延べ人数 (33名) は、 アスリハを行った延べ人数 (101名) の32.7%だった。 鍼治療を行った症例は、 アスリハを受けた23症例のうち47.8% (11件) だった。 鍼治療を受けた11症例の部位はすべて下肢だった。 うち9症例が外傷、 2症例が障害だった。 【考察・結語】本研究ではトレーナーが鍼治療を提案しても、 選手が希望しないために行わない場合もあった。 このことが鍼治療を行った人数に影響を及ぼしたと考えられる。 1年間サッカーチームにおいてスポーツ外傷・障害に対する鍼治療を行った結果、 下肢の外傷の症例の割合が多かった。
【目的】神経サルコイドーシスは両側末梢性顔面神経麻痺の原因疾患の一つであるが、 これに対して鍼治療を実施した報告は我々が調査した限り存在しない。 今回、 両側末梢性顔面神経麻痺を発症、 神経サルコイドーシスが強く疑われた患者に対して鍼治療を実施し良好な経過を認めた症例を報告する。 【症例】73歳男性。 主訴:両側顔面神経麻痺。 現病歴:X年7月24日に右顔面神経麻痺発症、 27日に左顔面神経麻痺発症。 8月2日に当院脳神経内科を受診、 翌日に精査加療のため入院。 精査により神経サルコイドーシスが強く疑われステロイドパルス療法を実施。 8月26日に退院するも両側顔面神経麻痺は残存、 9月13日に当科を受診し鍼治療が開始。 身長159cm。 体重48.6kg。 神経学的所見:バレー徴候陰性、 病的反射陰性、 上下肢の深部腱反射や感覚検査は正常。 MMTは左足関節背屈のみ3。 柳原法:右26点、 左10点。 顔面神経を目標とした鍼通電刺激による表情筋収縮反応は、 右は0.04mAで収縮あり、 左は0.30mAで収縮なし。 右は軽度、 左は重度麻痺と考え、 麻痺の改善・後遺症の抑制を目的に鍼治療を実施。 鍼治療方法:右は聴会 (GB2)・下関 (ST7) へ鍼通電療法。 左は前頭筋、 眼輪筋の上・下、 上唇鼻翼挙筋、 鼻筋、 大・小頬骨筋、 口輪筋、 口角下制筋、 広頚筋へ置鍼治療を10分間実施、 106病日からは同部位に非同期鍼通電療法を実施。 治療頻度:週1-2回。 評価:柳原法。 経過:脳神経内科から処方されたステロイド薬に鍼治療を併用し、 右は170病日に38点、 左は204病日目に38点となった。 【考察・結語】本症例への治療効果は薬物治療と鍼治療の併用効果と言える。 神経サルコイドーシスが疑われた両側顔面神経麻痺患者に対して、 顔面神経の障害程度を考慮した鍼治療を実施した結果良好な治療成績を認め、 鍼治療は治療法の選択肢の一つとなり得る可能性が示唆された。
2022年11月18日 (金) から20日 (日) にかけて世界鍼灸学会連合会 (WFAS) 総会ならびに学術大会がシンガポールで開催された。 WFAS総会は2017年以来5年ぶり、 学術大会は、 オンラインとのハイブリッド形式ではあるものの、 2019年以来3年ぶりの現地開催である。 総会では執行理事の選挙、 2023年以降の大会開催地の選定などがあった。 本学会からは若山会長がWFAS副会長に選出されたほか、 2名が第 10 期執行理事に選出された。 本稿では、 執行理事会、 総会、 及び学術大会について報告する。
2004年に始まった 「日韓鍼とEBMワークショップ」 の一環として、 日韓シンポジウムが開催された。 このシンポジウムは、 11月1日と2日の両日に韓国のソウルで開かれた国際会議 「2022 International Conference for Global Cooperation in Traditional Medicine」 の1セッションとして組まれ、 日本と韓国からそれぞれ2名の専門家を招待し開催したものである。 本シンポジウムは、 両国が直面している超高齢化社会におけるフレイルとサルコペニアに焦点を当て、 鍼灸医療の可能性を模索したものである。 本稿では、 WHOの統合医療サービス部長の基調講演と日韓シンポジウムにおける各シンポジストの発表内容の概要を報告する。