全日本鍼灸学会雑誌
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57 巻, 5 号
全日本鍼灸学会雑誌
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巻頭言
解説
  • 形井 秀一, 篠原 昭二, 坂口 俊二, 浦山 久嗣, 河原 保裕, 香取 俊光, 小林 健二
    2007 年 57 巻 5 号 p. 576-586
    発行日: 2007/11/01
    公開日: 2008/05/23
    ジャーナル フリー
    1. はじめに
    2006年10月31日~11月2日の3日間、9カ国2組織が参加してWHO/WPRO (西太平洋地域事務局) 主催による経穴部位国際標準化公式会議がつくば市の国際会議場で開催された。会議のアドバイザー (発言権のある参加者) は、9カ国 (日本、中国、韓国、モンゴル、シンガポール、ベトナム、オーストラリア、アメリカ合衆国、英国) と2組織 (WFAS=World Federation of Acupuncture Societies, AAOM=American Association of Oriental Medicine) から計20名であった。この会議で、過去3年間日中韓で検討してきた経穴部位案が正式に決定された。
    2. 経穴部位の合意
    本会議で決定された経穴部位は361穴であり、これまで日本で教育されてきた354穴より7穴多い。これまでの教科書と変更になるのは、 (1) 奇穴から正穴となったもの (2) 前腕長などの骨度の分寸の変更によるもの (3) 個別の理由で変更になったもの、などであった。また、最後まで一部位に決定出来ずに2部位併記経穴が6穴 (迎香、禾〓、水溝、中衝、労宮、環跳) あった。
    3. 今後の動き
    つくば会議で最終的な経穴部位標準化が達成されたが、WPROは、経穴部位のみでなく、 (1) 東洋医学用語の標準化、 (2) 東洋医学の医療情報の標準化、 (3) 鍼灸研究法のガイドライン作りなど、多岐にわたる標準化を進め、東洋医学全体の用語や考え方、枠組みの標準化を行い、それらを東洋医学の世界的な研究、臨床へ活用しようとしている。
    4. 経穴部位決定後の課題
    今後の課題としては、 (1) 経穴部位のより厳密な再検討。 (2) 標準化部位の国内普及。 (3) 「日本鍼灸」の明確化と世界への普及。などが上げられる。
第56回 全日本鍼灸学会学術大会 (岡山)
セミナー
  • 小川 卓良, 金井 正博, 福田 文彦, 山口 智, 真柄 俊一, 津嘉山 洋, 幸崎 裕次郎
    2007 年 57 巻 5 号 p. 587-599
    発行日: 2007/11/01
    公開日: 2008/05/23
    ジャーナル フリー
    第53回大会において初めて『癌と鍼灸』をテーマにしたシンポジウムが本学会において開催され、がん (及びがん患者) に対する鍼灸の有用性や可能性が示唆され、本セミナーはその続編である。近年本邦及び世界中でがんの鍼灸治療の関心は高まりその有用性や適応などについて多数報告されているが、エビデンスのある適応範囲は限られており、治癒並びに予防、再発予防などの分野ではまだまだ信頼性に乏しい報告しかなく、症例集積を積み上げていく必要がある。病院内で医療との併療では鍼灸は症状緩和や延命に有用性があり、なるべく早期に頻回治療を行う方が有効性は高く、リンパ球数は鍼治療継続中には上昇するが、治療終了後には元に戻る傾向という報告があった。自律神経免疫療法を行った報告では、長期的に見ると治療継続によりリンパ球数には変化はないものの、リンパ球機能が活性化されIL12, IFNγ, TNFα等のサイトカイン産生能力が高まると同時に、Th1、Th1/Th2値が上昇し、免疫機能が賦活され、かつ腫瘍マーカーも正常になるか正常に近づき、未手術例においてもがんの縮小 (中には消失) や再発が防止され、症状が緩和しQOLも改善して延命になるとのことであった。本セミナーでは前回以上にがん (及びがん患者) に対する鍼灸治療の有用性や治療の可能性が示唆され、益々この方面での研究が必要との認識が高まった。
特別講演
  • 窪田 登
    2007 年 57 巻 5 号 p. 600-612
    発行日: 2007/11/01
    公開日: 2008/05/23
    ジャーナル フリー
    筋力トレーニング (Strength training) の歴史は、人間そのものの歴史と同じくらいに長いものなのかもかも知れない。だが当然それは想像の域を出ない。
    今日、広く知られている筋力トレーニングの大原則『漸進的過負荷 (Progressive overload)』は、その原型を紀元前6世紀のクロトナのミロ (Milo of Crotona) が行った牛を担いでの歩行トレーニングに求めることが多い。牛の体重が増えていくのと合わせて筋力が伸びていく様が、ウェイト (Weights) や各種マシーンによる抵抗負荷 (Resistance) を利用した今日の筋力トレーニングにそっくりだからである。
    今日的なダンベル (Dumbbell、唖鈴) は、すでに紀元3世紀には存在していたが、ヘヴィなそれは19世紀、また軽いバーベル (Barbell) は17世紀に登場した。
    筋力トレーニングへの科学的研究の緒は、1950年頃、アメリカのピーター・カルボビッチ (Peter Karpovich) によって開かれて今日に至っている。
  • 岩垣 博巳
    2007 年 57 巻 5 号 p. 613-620
    発行日: 2007/11/01
    公開日: 2008/05/23
    ジャーナル フリー
    担癌悪液質モデルマウスを用いて、脳内モノアミン神経活動、末梢ヒスタミン代謝、消化管セロトニン代謝について解析した。非担癌マウスに比し、悪液質マウスの脳内モノアミン代謝は、ドーパミンについては低下、セロトニン、ヒスタミンについては有意に増加し、それぞれ、運動量の低下、うつ的傾向、食欲不振に関与していることが示唆される。また、癌悪液質マウスでは、非肥満細胞におけるヒスチジン脱炭酸酵素が強く誘導されており、この結果、招来される末梢組織におけるヒスタミン代謝の亢進は、癌悪液質状態における交感神経の過緊張とともに、細胞性免疫の抑制を助長するものと考えられる。悪液質マウスの消化管において好クロム親和性細胞数の増加、並びに、セロトニン合成酵素活性の増加に伴うセロトニン含量の有意の増加が認められ、このことが求心性腹部迷走神経を活性化させ、癌悪液質にみられる嘔吐・悪心という臨床症状を引き起こすものと推定される。
臨床体験レポート
  • 鈴木 雅雄, 大野 康, 大野 崇子, 江川 雅人, 苗村 健治, 赤尾 清剛, 矢野 忠, 藤原 久義
    2007 年 57 巻 5 号 p. 621-632
    発行日: 2007/11/01
    公開日: 2008/05/23
    ジャーナル フリー
    【目的】びまん性汎細気管支炎 (Diffuse Pan-Bronchiolitis : 以下DPB) に伴う咳嗽、膿性喀痰、労作時呼吸困難などの症状を認めた患者に対して、呼吸症状の改善を目的に鍼治療を行い、呼吸症状の推移を検討したので報告する。
    【症例と方法】症例 : 62歳男性。2002年1月頃より咳嗽、膿性喀痰、呼吸困難などの呼吸器症状を認めたため岐阜大学医学部附属病院呼吸器内科へ受診となりDPBと診断された。その後、呼吸器感染症を契機に症状が悪化したため、主治医の勧めで同年8月より鍼治療の併用が開始された。方法 : 鍼治療は1週間1回とし、50週間行った。配穴は中医弁証に基づき行った。評価 : 患者の訴える症状の変化に加えて以下の項目で評価を行った。 (1) F-H-J分類、 (2) 6分間歩行試験、 (3) 血液検査、 (4) 動脈血ガス分析、 (5) 呼吸機能検査、 (6) CT検査。評価は項目 (1) ~ (5) では開始時、15週、50週の3回行い、項目 (6) は開始時および50週の2回行った。
    【結果】鍼治療開始15週では、膿性喀痰や呼吸困難感の改善が認められた。各検査項目でも6分間歩行試験では歩行距離の増加と呼吸困難感の軽減が認められ、炎症反応を表すCRP値は2.60から1.84mg/dlと減少した。呼吸機能検査では、残気量が2.90Lから2.70Lと減少を認めた。また、その効果が約1年後の50週まで継続が可能であった。
    【結語】薬物治療に併用して定期的に鍼治療を行った結果、呼吸器症状の改善が認められ、その効果が50週まで継続できた。DPBと診断された本症例に鍼治療が有効であったと考えられた。
論考
  • ―「気」との関わり―
    王 財源
    2007 年 57 巻 5 号 p. 633-645
    発行日: 2007/11/01
    公開日: 2008/05/23
    ジャーナル フリー
    宇宙は生命を創る永遠の宝庫であるという。中国の医家である陶弘景の養生観は宇宙と人間とがひとつになるための修行方法を探求した。その結果、彼は宇宙と人間生命の一体化が存思による「守真」とした。この思想は今日の東洋医学における「天人合一」思想を体現化させる手段の一つとして残され、陶弘景が追求し続けた宇宙的生命との同一化、すなわち「真人」は、その後の東洋における文化や科学などのあらゆる分野における、もっとも重要な課題の一つとなった。
教育
  • ―専門学校を中心に―
    箕輪 政博, 形井 秀一
    2007 年 57 巻 5 号 p. 646-657
    発行日: 2007/11/01
    公開日: 2008/05/23
    ジャーナル フリー
    【目的】日本の鍼灸教育における灸療法指導の現状と課題を把握する。
    【方法】2004年4月現在の (財) 東洋療法研修試験財団の学校養成施設名簿に基づく、全国の鍼灸専門学校66校への郵送によるアンケート調査。
    【結果】有効回答は62.1% (41/66校) であった。1学年で、基礎実技として習得して、単位数は「2単位」が36.6% (15/41校) で最多、指導内容は透熱灸の時間数が最も長く、無痕灸の4倍以上であった。艾〓の大きさは米粒大以下の小艾〓が主流で、七分灸や八分灸の手法を多く用いていた。8割以上の学校で灸療法は大変有効であると答えていたが、臨床実習での施術指導は約半数に留まっていた。実技指導上の問題点は火傷が最も多かったが、9割以上の学校で学生同士の施灸指導をしていた。
    【まとめ】日本の鍼灸専門学校における灸療法指導の概要を明らかにした。今後は、日本の伝統的な灸療法を堅持しながらも、特に火傷問題を中心にした安全性に関する議論を早急に始める必要がある。あわせて、現代日本鍼灸臨床における灸療法の実態調査が必要であると考える。
書評
世界の鍼灸コミュニケーション (29)
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