順天堂医学
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34 巻, 1 号
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目次
Contents
特集 輸血と血液製剤の現況とその問題点
  • 湯浅 晋治
    1988 年 34 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 1988/06/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    医療の進歩に伴う血液製剤の需要増加に対応するため, 合理的で且つ有効利用に役立つ成分輸血が導入されたのは昭和50年初頭である. 以後十数年, 現在では少なくとも数字で見る限り成分輸血も一般的となり, その普及ぶりがうかがえる. しかしその使われ方を見ると, 必ずしも正しく順調な経過をたどってきたとはいいがたい. すなわち, 成分輸血で手軽く入手できるようになった新鮮凍結血漿や血小板の使用が目立つこと, また本来, 輸血の根幹をなすべき赤血球への転換が不十分で, 未だ特に外科系では全血指向の傾向がうかがえることである. 一方, アルブミンなどを中心とする血漿分画製剤もここ数年爆発的ともいえる急増を示し, その96%近くを外国よりの輸入に依存して来たことである. 国ではこれら血漿分画製剤の国内自給自足を目ざし, 昭和61年4月戦後長く続いてきた採血基準を改め, 新たに400ml採血と成分採血の導入に踏み切った. そして一方, 使用者側である医師に対しては血液製剤の適正使用のガイドラインが示され, 献血による貴重な血液の適正, かつ有効な使用が強く望まれるに至った. ここでは各成分の適応について述べる.
  • 阪上 賢一, 折田 薫三
    1988 年 34 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 1988/06/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    移植前輸血が移植腎の生着延長効果をもたらすことは周知の事実であるが, 前感作の問題, 各種ウィルスの伝達などの負の効果を有することも考慮して, 適切なスクリーニングによってこれを防止する必要がある. 本論文では, 私共が数年来行っている生体腎移植に対するdonor-specific blood transfusionの経験から, DSTにイムランを間歇的に併用投与することによって, 前感作を十分に防止しうること, また移植後の免疫抑制療法として, シクロスポリン+ステロイド剤の併用投与によって1年生着率100%の成績がえられたこと, そして, DSTによって抗イディオタイプ抗体の誘導される症例の予後が, 特に良好であることを強調した.
  • 牧野 恒久
    1988 年 34 巻 1 号 p. 15-19
    発行日: 1988/06/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    ヒトの生殖過程は極めて巧緻なメカニズムの上に成立しているが, にもかかわらず, ある割合の生殖のロス (reproductive wastage) が存在する. これらは臨床上, 不育症あるいは習慣流産として呼ばれることもあるが, 総合的な検索によって主たる病因が判明することもある反面, 従来原因不明とされた症例も数多く存在した. 今日の免疫学の発展は, 生殖機構において〈免疫〉は欠くことの出来ない一つの機序・機構であることを次々と証明して来たが, 不育症の一部原因にも, この免疫機構が深く関わっていることが判明した. この機構を熟知した上での不育症の免疫療法は, 現在漸く端緒についたばかりであるが, 本稿ではそれらの臨床成績についてまとめた.
  • 鎌野 俊紀, 東 昇, 田村 順二, 佐藤 輝彦, 榊原 宣, 湯浅 晋治
    1988 年 34 巻 1 号 p. 20-26
    発行日: 1988/06/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    癌に対する輸血の影響について, 癌手術後の遠隔成績を中心に考察した. 大腸癌初回治療例で, 組織学的に治癒切除された281例を用いた. 輸血 (+) 群195例 輸血 (-) 群86例の10年生存率をKaplan-Meier法によって算出した. stageI+II群の結腸癌症例についてのみ, 輸血 (+) 群の方が予後不良の傾向がみられた. しかし, 輸血の時期・種類・量・部位別では特に有意差を認めなかった. 最近欧米および本邦においても, 輸血と手術後の再発率および, 遠隔成績との関係をみた報告も多く見られる. 臓器移植の面からは輸血が免疫抑制的に働くという事実, また, 感染症の危険性などからも, 悪性腫瘍の治療時に輸血を多用するわれわれ臨床外科医にとって, 慎重な態度が必要と考えられる.
  • 黒田 博之
    1988 年 34 巻 1 号 p. 27-33
    発行日: 1988/06/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    輸血という治療法には多くの効用が認められているが, 副作用も注目され, 特にウィルスの持続感染の存在は医原性疾患として注意しなければならない. 輸血後肝炎は, 歴史的にウィルスとの関係を明らかにし, B型肝炎においては治療にまで進歩してきているが, 劇症型は致命的な経過をたどり予後が悪い. この他, 多くのウィルスが血液内に存在していることが推測され, それらの抗原・抗体系はまだ明らかにされていない. この非A非B型輸血後肝炎は増加の傾向を示し, 疾患として慢性肝炎・肝硬変・肝癌という永い経過をたどり, 5年, 10年, 15年とriskが高くなり, 持続感染が問題となる. 抗原・抗体系の発見こそが, 輸血後肝炎の予防にとって最も重要な点である. ウィルスの同定されていない現在, 非特異的なウィルスに対する治療は成果にも限度があろう.
  • -整形外科領域における凍結保存自己血輸血の応用-
    藤原 三郎, 湯浅 晋治, 佐々木 和義
    1988 年 34 巻 1 号 p. 34-44
    発行日: 1988/06/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    輸血感染症を始めとする輸血合併症が近年特に問題となっており, その予防が可能な自己血輸血法 (Autologous Blood Transfusion: A. B. T. ) がいま注目されている. ここでは, 現在手術に際し行われている各種の自己血輸血法を紹介し, 特に我々の行っている凍結保存法に関し詳細を述べ, 併せて本法により手術を行った症例に付き検討を加え報告する. 現在までに, 当院輸血室の管理のもとに本法を行った症例はすでに149例に達し, 現在貯血中のものも56例を数える. このうち整形外科疾患である脊柱側彎症や, 変形性股関節症を始めとする股関節疾患に応用した121例に対し貯血期間中, 手術後の諸検査値の変動を追ったが, 特に問題となる異常はなく, 輸血合併症も見られなかった. AIDSなどの新たな問題も考慮すると, 今後更に, 本法の需要は高まることが予想されるが, 現在までの経験を生かし発展に寄与して行きたい.
原著
  • 高瀬 幸子
    1988 年 34 巻 1 号 p. 45-53
    発行日: 1988/06/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    産婦人科領域における腹腔鏡検査の有用性については, 徐々に認められるところとなったが, その普及は未だ十分とはいえない. 当科で1982年より約4年間に施行した129例 132回の腹腔鏡検査について, 主な適応領域における腹腔鏡検査前後の所見を比較することにより, その臨床的意義を検討した. 不妊領域においては40%の症例に, 術前の推定病変とは異なる所見を認めた. いわゆる原因不明不妊の75%に器質的病変を認め, その半数が骨盤子宮内膜症であった. また卵管通過性に関する術前の子宮卵管造影像との一致率は57.5%であった. 子宮外妊娠を疑って腹腔鏡を施行した症例の術前診断の正診率は61.5%であり, 腹腔鏡によれば部位診断も可能であった. 原因不明下腹痛に対する腹腔鏡の有所見率は73.3%にのぼり, 病変としては骨盤子宮内膜症 (36.4%) ・骨盤内炎症性疾患 (27.3%) などが認められた. また, 卵巣形態につき腹腔鏡による分類を試み, 排卵障害症例, 特に卵巣型及びPCO型の障害例に対しては積極的に卵巣生検を施行した. その結果, 卵巣型排卵障害では, 卵胞成分の有無については腹腔鏡所見より判断するのは困難であったが, 卵巣生検により病理組織学的診断が可能であった. PCO型では, 腹腔鏡によりPCOとした症例は内分泌的診断基準を満たすものであり, 腹腔鏡所見より想定される卵巣被膜の厚さは病理組織学的に測定されるそれとよく相関した. PCOの22.2%で卵巣生検後の排卵誘発に成功した. 子宮内膜症においては術前診断の正診率は79.3%であり, 術前に推定できなかった内膜症は32.5%であった. またstageの軽症な症例に治療後の再発・再燃が少なかった. 以上より腹腔鏡検査は, 婦人科各領域において, より正確な病態把握のために有用であり, また予後の推定, 治療方針の決定の上で重要な役割を担い得るものと考えられる.
  • 鈴木 勝彦
    1988 年 34 巻 1 号 p. 54-61
    発行日: 1988/06/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    F-アクチン分子中の速やかに反応するリジン残基の化学修飾が, ミオシンとの相互作用にどのような影響を与えるのかを調べることにより, F-アクチンのミオシン結合部位の機能を明らかにしようとした. F-アクチンのリジン残基を無水マレイン酸で処理し, 遠心によりその反応混液からマレイル化したF-アクチン (マレイル F-アクチン) を調製した. この修飾F-アクチンはつぎのような特性をもっていた. 1. F-アクチン溶液に加える無水マレイン酸の濃度を高くすると, 重合能を失ったG-アクチンが増加し, その結果, マレイル F-アクチンの生成量は減少した. 2. 得られたマレイル F-アクチンは, アクチン分子あたり1から2モルのリジン残基が修飾されており, 未修飾のF-アクチンと比べて低い粘性を示した. 3. マレイル F-アクチンから合成したアクトミオシンの超沈殿は, 未修飾の (アクチン) から合成したアクトミオシンに比べて速度と最大濁度がいちじるしく増加した. 4. マレイル F-アクチンは未修飾のアクチンに比べ, ミオシンATPase活性をいちじるしく増加させた. このミオシンATPaseのいちじるしい活性化は, ミオシンの特異的SH基 (SH1) をN-ethylmaleimide (NEM) で修飾することで完全に打ち消され, 未修飾のF-アクチンによる活性化のレベルにもどった. 以上の結果から, F-アクチンのマレイル化は未修飾のF-アクチンより低い粘性を示すような構造変化をもたらし, 同時にミオシンSH1領域に, より高い親和性を示すことがわかった. 筋収縮の滑走説と合わせ考えると, マイレル F-アクチンが筋収縮の速度の調節機構解明のひとつの手掛かりを与えるのではないかと思われる.
  • 河村 哲
    1988 年 34 巻 1 号 p. 62-71
    発行日: 1988/06/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    近年, 中枢神経系の脳移植が神経科学の分野において注目されている. 一方, Alzheimer病においては生化学的研究により, コリン作動性ニューロンを多く含んでいるマイネルト核の脱落・変性が, その発症の原因に大きく関与していることが明らかになってきている. そこで今回, ラットの腹側淡蒼球 (VP) [ホ乳類のマイネルト核に相当する] の脳移植を行い, 移植環境下におけるVPのコリン作動性ニューロンの生着・神経発達・再構築, そして宿主の神経組織との関係について検討した. 胎生18日目のラット腹側淡蒼球を成熟雄ラットの側脳室と大脳皮質に移植し, 3週間後標本作製した. ニッスル染色, アセチルコリンエステラーゼを用いた染色, コリンアセチルトランスフェラーゼの抗体を用いた免疫染色にて, 移植片の生着・発達を調べた. その結果, 移植片は宿主の側脳室・大脳皮質に生着し, VPにみられるコリン作動性ニューロンの性質を兼ね備えていることを証明できた. しかし, 宿主と移植神経組織との相互の神経間連絡については, 一部の神経線維が宿主側へ向かっていく像がとらえられたにすぎなかった. 今後, この点については, 検討を重ねる必要があると思われた. このように脳移植環境下というin vivoの状態において, コリン作動性ニューロンである腹側淡蒼球の神経発達を検討していくことは, Alzheimer病の発症のメカニズムの解明に役立つものと考える.
  • 能美 明夫
    1988 年 34 巻 1 号 p. 72-82
    発行日: 1988/06/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    著者は消化性潰瘍における血清group 1 pepsinogen (PG1) 分泌動態と, 胃内外分泌動態との関連を究明するために, 消化性潰瘍症例51例 (MAOが20mEq/hr未満のnormosecretor (N) 群が26例, 20mEq/hr以上のhypersecretor (H) 群が25例) と対照群37例を対象として, 各種負荷試験を施行し, 血清PG1と胃内外分泌反応との相関を検討した. その結果, 塩酸betazoleおよびinsulin刺激時の血清PG1と胃酸分泌動態から, 血清PG1と胃酸分泌との間の正の相関が示唆され, 他に血清PG1分泌にcholinergic factorの関与も示唆された. また消化性漬瘍においてgastrinはN群で, secretinはN群とH群で, 血清PG1の合成・分泌に関与することが示唆された.
  • 佐々木 容三
    1988 年 34 巻 1 号 p. 83-92
    発行日: 1988/06/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    手術不能な胃癌においては, 患者の一般状態や肝転移・癌性腹膜炎・遠隔転移等の状態に応じた化学療法を行うことが大切である. 1969年11月-1984年5月の間に190例の進行胃癌に化学療法を行った. 固形がん化学療法直接効果判定基準に従うと, 効果判定可能例は81例であり, その治療成績は有効18.5%, 不変54.3%, 進行27.2%であった. 病態別の奏効率は限局型30.4%, 肝転移型16.7%, 腹水型10.5%, 遠隔転移型0%であった. 治療法別にみると, 弗化ピリミジン系薬剤にMMCを併用した治療法が最も治療効果があった (26.2%). しかし, 白血球・血小板の異常は, 弗化ピリミジン系薬剤の単独投与の19.2%に比較し43.8%と増加した. 生存期間を延長させるには, 弗化ピリミジン系薬剤の長期連日の経口投与とMMCの反復投与が必要である. MMCを安全に投与するには静注 (週1回) では3回, 腹腔内投与 (週1回) では2回を1クールとするのが適当である. 白血球・血小板の異常は1.0-3.7週で回復するので, MMCの再投与はこの回復を待って行うべきである. 2クール以上投与できた症例では延命を認めた (50%生存期間は8.7カ月). 治療効果の判定は, 4週間で行うと半数以上の有効例を失うため, 少なくとも2カ月間は治療を継続してから行うべきである.
報告
  • 鈴木 裕子, 村田 大一郎, 若林 芳久, 上原 直樹, 飯田 昇, 清水 一夫
    1988 年 34 巻 1 号 p. 93-99
    発行日: 1988/06/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    ごく稀に何らかの原因で, 骨髄に反応性に形質細胞が著増することがあり, 形態学的に骨髄腫細胞との鑑別が困難な場合があることが知られている. 今回我々は, 45歳の女性で薬剤の投与によると思われる汎血球減少をきたした症例で, 骨髄に著明な形質細胞増多を示した症例を経験したので, 症例の報告をするとともに, それに対する考察を行った. この症例は, 発熱・鼻出血・咽頭痛・扁桃腺腫脹を呈し, 重篤な汎血球減少症をきたし, 骨髄像は多発性骨髄腫像と鑑別が困難なくらいに, 形質細胞の著明な増加がみられ, かつ, polyclonal hyper-gammaglobulinemiaが存在し, M蛋白血症は認められず, Bence Jones蛋白が陰性であったこと, 更に臨床経過が急激であることなどから, 薬剤による汎血球減少症に伴った反応性形質細胞増多症が最も疑われた.
  • 有阪 治, 志村 直人, 中山 有子, 藪田 敬次郎
    1988 年 34 巻 1 号 p. 100-106
    発行日: 1988/06/20
    公開日: 2014/11/20
    ジャーナル フリー
    21水酸化酵素欠損による先天性副腎皮質過形成 (CAH) の未治療例, および治療不良例において, 血中17-hydroxyprogesterone (17-OHP) 濃度は著しく上昇する. 本研究では, 唾液中17-OHPを特異的なradioimmunoassayを用いて測定し, 血中17-OHP濃度との間に有意な相関があるかどうかを検討した. 対象はCAH患児11例および正常小児6例である. その結果, 血清および唾液の31ペア検体 (同時に採取) における17-OHP濃度の両者の相関は, 低濃度から高濃度の広い範囲にわたってきわめて良好であった (r=0.93, P<0.01). CAH患児11例の血中17-OHP濃度は1.7ng/ml-247ng/mlであり, それに対応する唾液中17-OHP濃度は164ng/L-15,500ng/Lであった. 正常小児6例の唾液中17-OHP濃度は200ng/L-300ng/Lであった. また唾液中17-OHPの血中17-OHPに対する濃度比はCAH患児で5.00±2.39% (平均値±標準偏差), 正常小児で6.98±1.45%であった. さらにCAH患児1例においての, 血中および唾液中17-OHP濃度の連続測定 (41時間プロファイル) では, 両者の値は一致して変動した. 唾液中17-OHP濃度の測定は検体の採取も容易で, 頻回の検査も可能であり, CAH患児を長期に治療してゆくうえで有用な手段になりうると考えられた.
抄録
てがみ
編集後記
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