F-アクチン分子中の速やかに反応するリジン残基の化学修飾が, ミオシンとの相互作用にどのような影響を与えるのかを調べることにより, F-アクチンのミオシン結合部位の機能を明らかにしようとした.
F-アクチンのリジン残基を無水マレイン酸で処理し, 遠心によりその反応混液からマレイル化したF-アクチン (マレイル F-アクチン) を調製した. この修飾F-アクチンはつぎのような特性をもっていた.
1. F-アクチン溶液に加える無水マレイン酸の濃度を高くすると, 重合能を失ったG-アクチンが増加し, その結果, マレイル F-アクチンの生成量は減少した. 2. 得られたマレイル F-アクチンは, アクチン分子あたり1から2モルのリジン残基が修飾されており, 未修飾のF-アクチンと比べて低い粘性を示した. 3. マレイル F-アクチンから合成したアクトミオシンの超沈殿は, 未修飾の (アクチン) から合成したアクトミオシンに比べて速度と最大濁度がいちじるしく増加した. 4. マレイル F-アクチンは未修飾のアクチンに比べ, ミオシンATPase活性をいちじるしく増加させた. このミオシンATPaseのいちじるしい活性化は, ミオシンの特異的SH基 (SH
1) をN-ethylmaleimide (NEM) で修飾することで完全に打ち消され, 未修飾のF-アクチンによる活性化のレベルにもどった.
以上の結果から, F-アクチンのマレイル化は未修飾のF-アクチンより低い粘性を示すような構造変化をもたらし, 同時にミオシンSH
1領域に, より高い親和性を示すことがわかった.
筋収縮の滑走説と合わせ考えると, マイレル F-アクチンが筋収縮の速度の調節機構解明のひとつの手掛かりを与えるのではないかと思われる.
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