酪農生産システムは, これまで主に, 経営的収益性によって評価されることが多く, その結果種々の環境問題を引き起こしてきている。酪農生産システムを経営的収益性だけではなく, 環境調和的視点を含めて総合的に評価するため, 2つの複合的評価指標を提案した。1つは, [窒素負荷/所得] 比 [kg-N/千円] であり, これは, 農業所得1,000円を得るために環境に与えている窒素負荷量を表している。もう1つは, [投エネ/所得] 比 [MJ/千円] であり, これは, 農業所得1,000円を得るためにどれだけの化石エネルギー量を投入したかを表している。なお, 「投エネ」とは、「投入化石エネルギー」の略である。
これまで, 農業生産システムを総合的に評価するための指標として, エネルギーの産出投入比 (宇田川, 1976) が用いられてきたが, この指標では, 複数種の農産物を生産する複合的農業生産システムの評価や, 異なった農産物を生産する農業生産システム間 (農家間) の比較を行うことはできなかった。ここで提案した複合的評価指標は, 算出に当たって, 分母に所得を用いるため, 複合的農業生産システムの評価や, 異なった農産物を生産する農業生産システム間の比較ができる可能性を有している。
北海道東部の浜中町の197戸を対象とした調査事例では, 同額の所得を得ている酪農生産システム間に窒素負荷で非常に大きなバラツキがあり, これを [窒素負荷/所得] 比や [投エネ/所得] 比で表すことにより, 環境調和的視点を加味した酪農生産システムの評価ができる可能性を有している。
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