筆者らは, これまで農業生産システムの評価が経営的収益性の評価のみに偏っていたことを反省する立場から, 化石エネルギーの利用量および余剰窒素量をも加えた3指標を用いて, 酪農生産システムを多面的に評価することを試みてきた。前報では草地型酪農専業地帯であるA町を対象として3指標を用いた評価を行ったが, 本研究では, 新たに畑作酪農混合地帯であるB町も調査対象として3指標を用いた評価を行うとともに, 両地域の比較を行った。
結果として, 単位面積あたりの成牛換算頭数は, A町: 1.4±0.4, B町: 2.5±0.7 [頭/ha] であり, 飼養密度は, B町がA町よりも高かった。また, 成牛1頭あたりの生乳生産量は, A町: 6.9±1.2, B町: 7.8±1.0 [t/頭] とB町の方が高い結果となり, B町の方が所有している経営面積に対して集約的経営をしていた。この結果, 単位面積あたりの農業所得は, B町の方が高い結果 (A町: 212±84, B町: 395±145 [千円/ha]) となったが, 経営の経済効率を示す農業所得率は, A町の方が高かった (A町: 36±10, B町30±8%)。投入化石エネルギーはA町: 39±14, B町91±32 [GJ/ha] であり, エネルギー効率を示すエネルギーの産出投入比は, A町: 2.0±0.5, B町2.4±1.5であった。余剰窒素は, A町: 106±51, B町268±93 [kg/ha] とB町の方が高いという結果であった。単位所得を得るために投入した化石エネルギー量である投エネ所得比は, A町: 210±117, B町: 267±172 [MJ/千円] となっており, B町の方が同じ所得を得るために投入される化石エネルギー量は高かった。単位所得を得る際に余剰となった窒素量である余剰窒素所得比は, A町: 0.6±0.4, B町: 0.8±0.5 [N-kg/千円] であり, B町の方が同じ所得を得るために環境に与える負荷が多いと推察された。以上の結果により, 畑作酪農混合地帯の典型であるB町は農業所得自体では高いものの, 環境に対する負荷の面から見ると, 草地型酪農地帯の典型であるA町の方がより環境に負荷をかけていない生産システムであるといえる。今までは, 農業所得の高かったB町の方が高い評価を受けてきたわけであるが, 環境という側面を加味した多面的な評価指標を用いて評価することにより, 今までとは異なる評価結果が得られた。このことから, 多面的評価指標による評価の必要性が地域間の比較においても明らかになった。
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