Rhoキナーゼ阻害剤の塩酸ファスジルは, 1) 血管拡張・血流改善作用, 2) 神経・シナプス再生作用を有し, 突発性難聴の主たる病態の1つとされる内耳血流障害を改善させ, 同時に, ラセン神経節細胞―有毛細胞間のシナプス結合の修復を促すことで, 突発性難聴に対して優れた治療効果を示すことが期待される薬剤である。塩酸ファスジル併用ステロイド治療を突発性難聴10症例に対して行い, 完全回復が9例と極めて良好な治療効果が得られた。血管収縮物質エンドセリンによる内耳微小血管の収縮は, 突発性難聴の内耳病態, 分子機構の一つと示唆されている。エンドセリンによる砂ネズミ蝸牛軸動脈の収縮は, Rhoキナーゼ阻害薬により濃度依存性に抑制される。塩酸ファスジル併用ステロイド治療は, エンドセリンによる内耳循環障害を軽減し, ステロイド単剤治療の効果をより高め, 突発性難聴の治療成績を著明に向上させ得る新規治療法となる可能性が示唆された。
抄録全体を表示