AUDIOLOGY JAPAN
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64 巻, 1 号
February
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会告
第65回 日本聴覚医学会総括報告
総説
  • ―認知症予防対策における補聴器の役割―
    小川 郁
    2021 年 64 巻 1 号 p. 37-44
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    要旨: 超高齢社会を迎え, 認知症と加齢性難聴の増加が社会問題となっている。本稿では認知症予防に対する現状での政策について概説し, さらに認知症と加齢性難聴との関係, 認知症予防対策としての補聴器の効果について文献的に考察した。

  • 佐治 直樹
    2021 年 64 巻 1 号 p. 45-53
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    要旨: 本邦は高齢化社会を迎え, 認知症対策が喫緊の課題である。軽度認知障害 (認知症になる前段階) における, より早期での生活改善も認知症予防の視点から提唱されている。改善可能な認知症の危険因子のうち, 難聴は最も重要である。しかし, 補聴器の導入による認知症の予防効果は未解明な部分も多い。筆者らも, 耳鼻咽喉科ともの忘れ外来との協業で臨床研究を実施している。また, プレリミナリー研究の結果から, 難聴は認知症に伴う行動・心理症状の独立した関連因子であり, 難聴群ではもの忘れの自覚や不安感, 焦燥を感じる割合が多く, 抑うつ傾向であったことなどを見いだした。さらに, 地域在住高齢者の住民健診データを収集し多変量解析したところ, 難聴があると認知機能低下の合併が1.6倍多いことも判明した。補聴器導入が認知症の発症リスク軽減に寄与するのであれば, 今後は, 高齢者の聞こえや認知機能についてのチェックがさらに重要となるだろう。

原著
  • 増田 佐和子, 鶴岡 弘美, 須川 愛弓, 臼井 智子
    2021 年 64 巻 1 号 p. 54-60
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    要旨: 自動 ABR による新生児聴覚スクリーニング (NHS) で一側リファーとなり両側難聴と診断した19例を検討した。5例に難聴の家族歴を認め, 7例は複数回のスクリーニングで両側リファーとなったことがあった。パス側で判明した難聴の程度は軽度7例, 中等度11例, 高度1例, 聴力型は水平型9例, 低音障害型4例, 高音漸傾型3例, 高音急墜型2例, 不明1例であり, リファー側とパス側の難聴の程度は17例で, 聴力型は13例で一致した。パス側の偽陰性の理由は, 11例が境界域の聴力レベル, 6例が高音域の閾値が正常範囲内の聴力型, 1例が進行性難聴によると推定され, 1例は不明であった。18例が補聴器の適応とされたが4例は装用を拒否または受診を中断した。一側リファー例でも慎重に対応し, 難聴の家族歴をもつ場合, 複数回のスクリーニングで両側リファーがあった場合, リファー側が軽・中等度難聴や特殊な聴力型である場合などは特に注意すべきであると考えられた。

  • 野原 信, 廣田 栄子
    2021 年 64 巻 1 号 p. 61-68
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    要旨: インフォーマルな会話場面では, 話者の感情理解を背景に発話の意図を理解することが少なくないが, 聴覚障害児では会話時の情報制約により, 話者の感情理解が困難な状況が生じうる。そこで, 本研究では, 聴覚障害学童45名に対し, ポジティブ感情とネガティブ感情を惹起する図版について, 登場児・対象児の二者視点を組み合わせた条件で, 会話場面における感情認知と感情説明の発達について検討し, 聴力正常学童232名の結果と比較した。その結果, 聴覚障害児では, ネガティブ感情について, 一部で感情認知の共有が低下し, 感情説明について言語能力要因の関与が示された。言語発達支援では会話場面での感情理解に注目し, その説明を加えるなど理解の促進をはかることの重要性について指摘した。

  • 杉浦 彩子, サブレ森田 さゆり, 清水 笑子, 伊藤 恵里奈, 川村 皓生, 吉原 杏奈, 内田 育恵, 鈴木 宏和, 近藤 和泉, 中島 ...
    2021 年 64 巻 1 号 p. 69-77
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    要旨: 補聴器がフレイルに与える影響を明らかにすることを目的に, 補聴器導入前と補聴器導入約半年後に基本チェックリスト (Kihon Check List: KCL) を実施し, その変化について検討した。

     補聴器装用歴のない60歳以上の補聴器外来初診患者64名において, 補聴器導入前後における KCL 総得点の平均は, 装用前が5.1点, 装用後が4.9点で, 有意な変化は認めなかった。KCL の下位項目である日常生活関連動作, 運動器機能, 低栄養状態, 口腔機能, 閉じこもり, 認知機能, 抑うつ気分も有意な変化は認めず, KCL の質問項目それぞれについての検討で, 質問1(公共交通機関での外出) のみ有意な変化を認めた。KCL 総得点がロバスト方向へ変化した群としなかった群の特性の違いについて検討したところ, 補聴器導入前の KCL 総得点が高得点であること, 良聴耳聴力がよいことが有意にロバスト方向への変化と関連していた。一方, KCL 総得点のフレイル方向への変化の有無における特性は明らかでなかった。

  • ―中等度・高度群と重度群を比較して―
    佐藤 紀代子, 杉内 智子, 城本 修, 杉尾 雄一郎, 熊川 孝三
    2021 年 64 巻 1 号 p. 78-86
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    要旨: 音声コミュニケーションを用いた指導方法で療育を行った中等度・高度難聴群と重度難聴群の音声コミュニケーションの発達経過, および言語力の経緯を長期にわたって検討した。対象は, 指導を行った124例のうち生後5~6か月で補聴器装用を開始し, 聴覚以外に明らかな障害および聴力の変動・低下がなく, 中耳・内耳に異常を認めなかった6症例であった。本指導のねらいである5段階 (①発声模倣, ②単語模倣, ③2語連鎖模倣, ④肯定/否定意思選択, ⑤5W1Hの完成) における発達段階を比較, 検討した。結果, 重度群は平均2歳2か月で人工内耳手術を行ったが, 最終段階に到達するまでに中等度・高度群と比較すると1年4か月以上の遅滞がみられた。しかし, 10歳時の VIQ の結果は両群ともに同程度の結果となった。また, 健聴児の言語発達と比較すると, 明らかに聴覚障害が初期の音声コミュニケーションの発達に影響を及ぼすことが示された。聴覚障害児の音声コミュニケーションと言語の発達のために長期的な観察と個別化療育・医療が必要であることを示唆した。

  • 片岡 祐子, 菅谷 明子, 中川 敦子, 田中 里実, 問田 直美, 福島 邦博, 前田 幸英, 假谷 伸
    2021 年 64 巻 1 号 p. 87-95
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    要旨: 先天性難聴の早期発見,早期療育, 人工内耳手術の低年齢化などに伴い, 難聴児の聴取能, 言語発達は向上し, 近年地域の学校でインクルーシブ教育を受ける者が増加しているが, それに伴う問題も挙げられている。我々は, 小学校5年生以上25歳未満のインクルーシブ教育を受けた経験のある両側難聴者89名に, 学校生活で抱える問題に関して質問紙での実態把握調査を実施した。

     対象者の多くは, 授業中の支障に加え, グループ学習や雑音下, 距離が離れた場所からの聞き取りの支障を抱えており, また英語, 音楽, 体育をはじめとする教科学習での課題や, 友人関係での問題も挙げていた。難聴の程度が重いほど頻度が高い傾向がみられた。

     個々の学校生活における状況と問題を正確に把握した上で, 視覚情報を用いたコミュニケーション, 支援員の配属, 学習面でのサポート, 専門家による心理的負担へのアプローチといった個々に対応した介入の必要性が示唆される。

  • 江崎 嘉十, 五加 (大方) 律子, 藤井 加奈子, 福崎 勉, 松田 峻一良, 白石 君男
    2021 年 64 巻 1 号 p. 96-104
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    要旨: 本研究では, 中規模の耳鼻咽喉科病院の待合室と診察室において, 患者とスタッフ (看護師と受付事務員) に音声伝達と音環境に関するアンケート調査をおこない, また騒音レベルと残響時間を測定した。その結果, 難聴者が病院での呼び出しに不自由が生じ, 難聴の程度が悪化するほど不自由さが大きくなっていることが示された。スタッフの多くがその原因を騒音と聴力低下と考えており, 難聴者に対して説明時にゆっくり, はっきり, 大きな声で話すように心がけていた。また, スタッフの多くは騒音が多いと感じており, 「乳幼児の泣き声」をうるさく感じていた。残響時間は室容積からして音声伝達に適切であったが, 待合室と診察室で測定された騒音レベルは室内の騒音許容値を超えていた。

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