AUDIOLOGY JAPAN
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63 巻, 4 号
August
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会告
総説
  • ―軟骨伝導の基礎・応用と軟骨伝導補聴器―
    細井 裕司, 西村 忠己, 下倉 良太
    2020 年63 巻4 号 p. 217-225
    発行日: 2020/08/30
    公開日: 2020/09/09
    ジャーナル フリー

    要旨: 2004年に細井は「耳軟骨に音声情報を含む振動を与えると, 気導や骨導と同程度に音声情報が明瞭に内耳に伝えられること」を発見し, この第3の音伝達経路を「軟骨伝導 (Cartilage conduction) 」と命名した。また, この現象から導き出される応用製品 (電話機, 補聴器など) について記載した。2017年には世界初の軟骨伝導補聴器が発売され, 骨導補聴器に対する優越性から骨導補聴器に代わって国内外に普及が始まっている。

原著
  • ~成人期まで改善することなく生活に支障を来した 1 例~
    中山 梨絵, 新田 清一, 鈴木 法臣, 鈴木 大介, 坂本 耕二, 御子柴 卓弥, 岡田 峻史, 藤田 航, 大石 直樹, 小川 郁
    2020 年63 巻4 号 p. 226-233
    発行日: 2020/08/30
    公開日: 2020/09/09
    ジャーナル フリー

    要旨: 心因性難聴とは, 詐聴を除いた狭義の機能性難聴であり, 実際には音が聞こえていると考えられるにもかかわらず, 音が聞こえたと感じることができない疾患である。6~8割が軽快するため一般に予後良好といわれる一方で, 成人期まで症状が残存する例も存在するが, 有効な治療法は確立されていない。今回, 我々は小児期に発生した心因性難聴に心理療法や薬物投与を行ったが改善せず, 成人になっても症状が残存した症例を経験した。生活上の支障が大きかったため補聴器装用を試み, その臨床的意義を検討した。結果, 心因性難聴自体は一時的な改善にとどまったが, 補聴器装用時の QOL は改善し, 補聴器の常時装用が継続された。成人期にも症状が残存し, QOL を低下させる心因性難聴に対する治療法として補聴器が有用であることが示唆された。装用にあたっては音響外傷のリスクに十分留意し, 適切な最大出力制限を行うこと, 定期的な ASSR を施行することが必要である。

  • 稲村 和俊, 松井 祐興, 伊藤 吏, 窪田 俊憲, 欠畑 誠治
    2020 年63 巻4 号 p. 234-241
    発行日: 2020/08/30
    公開日: 2020/09/09
    ジャーナル フリー

    要旨: 東北中央病院にて聴覚ドックを受診した257人 (良聴耳257耳) の検査データ, 生活習慣, 生活環境と難聴の関連について統計学的に検討した。純音聴力検査での難聴のあり・なし, 歪成分耳音響放射 (DPOAE) での検出のあり・なしを目的変数とした。検討項目の年齢, 性別, 既往歴, 飲酒歴, 喫煙歴, 難聴家族歴, 耳疾患既往歴, 騒音暴露, 心電図, 眼底所見, 血液検査, 呼吸機能検査, 体格指数 (BMI), 最高血圧から, 難聴・検出あり・なし群で有意差 (p<0.05) の有った項目を説明変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。中性脂肪の増加, 最高血圧上昇などメタボリック症候群に関連する項目で純音聴力検査の難聴と有意な関連を示した。年齢 (加齢), 性別 (男性), 喫煙歴の項目では高音域において純音聴力検査の難聴および DPOAE の検出低下と有意な関連を示し加齢性難聴に重要な危険因子と考えられた。

  • 松井 祐興, 伊藤 吏, 窪田 俊憲, 新川 智佳子, 千葉 寛之, 米澤 裕美, 欠畑 誠治
    2020 年63 巻4 号 p. 242-249
    発行日: 2020/08/30
    公開日: 2020/09/09
    ジャーナル フリー

    要旨: 重度の聴力障害児において公的に補聴器支援がされていたが, 軽度・中等度難聴児においては財政的な支援が今まではされていなかった。そこで, 山形県では2014年4月から18歳未満の軽度・中等度難聴児において補聴器の購入支援支援が行われるようになった。補聴器購入の2/3を公的に補助することで, 補聴器を購入しない保護者がより早期に補聴器を購入することを促し, 補聴器装用により難聴児の言語習得や生活能力, 会話能力の向上を期待し行われてきた。今回, この支援事業で補聴器を交付された症例を対象に, 難聴発見の時期, 申請時期, 申請理由, 補聴器の装用状況について検討を行った。2014年4月から2019年3月まで当科で支援事業を利用した57例につき後方視的検討を行った。男児34例, 女児23例であり, 年齢は0.4-16.5歳 (平均6.7歳) であった。身障者非該当で自費では補聴器が非導入であった19例において補聴器の新規導入となった。従って, 補聴器購入支援事業は軽度・中等度難聴児に対して有用であると考えられた。

  • ―データログ機能の解析から―
    片岡 大輔, 日高 浩史, 福井 英人, 小西 将矢, 土井 直, 鈴鹿 有子, 岩井 大
    2020 年63 巻4 号 p. 250-255
    発行日: 2020/08/30
    公開日: 2020/09/09
    ジャーナル フリー

    要旨: 社会的交流が乏しい環境下では, 認知症の発症リスクの上昇が示唆されている。そのため, 難聴高齢者の生活環境における社会的交流状況を把握する必要がある。我々は装用時の生活環境音圧を入力音圧として表示できるデータログ搭載補聴器を活用し, 装用指導を行っている。そこで, この入力音圧の分布に着目し, 当科補聴器外来で入力音圧を記録できた27例を対象に難聴高齢者の生活環境と, それにもとづいた装用指導の重要性について検討した。その結果, 使用頻度の最も多かった入力音圧は, 全症例平均で50~60dBであった。また, 非就労症例では高齢者が多く, 入力音圧の分布がより低入力であることが判明し, 社会的交流が乏しい音圧環境で生活をしている可能性が考えられた。高齢化により今後増加の可能性がある非就労の難聴高齢者への装用指導は, 特に常用指導に加えて, 装用者の生活環境にもとづいた社会的交流促進指導が重要と考える。

  • 古木 省吾, 佐野 肇, 栗岡 隆臣, 井上 理絵, 梅原 幸恵, 原 由紀, 鈴木 恵子, 山下 拓
    2020 年63 巻4 号 p. 256-262
    発行日: 2020/08/30
    公開日: 2020/09/09
    ジャーナル フリー

    要旨: 補聴器増幅特性の決定は補聴器フィッティングの中で最も重要なプロセスである。

     NAL-NL 法や DSL 法などの処方式を選択しソフトウェア上で算出した設定値は平均的な外耳道, 鼓膜の特性を基に計算されたものであり各耳の個体差は考慮されていない。そこで我々は, 純音聴力検査の結果をフィッティングソフトに入力し選択した処方式から算出された設定値と, 実耳測定を用いてターゲット値に近似するように調整した後の設定値との差を比較し, フィッティングソフトにより算出される設定値の妥当性を評価した。結果, 全周波数の修正が±4dB以内に止まった割合は NAL-NL2では10% (2/20耳), DSLv5では5% (1/20耳) とかなり低値であった。適切なフィッティングには実耳測定が重要であることが再認識された。しかしながら, 実耳測定を行っている施設はおそらく限定的である。どのような方法で実耳測定の代用方法を構築できるかは今後の課題である。

  • 鈴木 恵子, 井上 理絵, 梅原 幸恵, 秦 若菜, 清水 宗平, 佐野 肇, 中川 貴仁, 岡本 牧人, 山下 拓
    2020 年63 巻4 号 p. 263-271
    発行日: 2020/08/30
    公開日: 2020/09/09
    ジャーナル フリー

    要旨: 高齢期難聴への介入法を検討する目的で, 地域グループ活動に参加する居宅高齢者の聴覚評価と補聴器試聴を行った。対象は, 地域包括支援センター主催の健康教室に通う高齢者62例 (男性13例, 女性49例; 76.3±5.4歳) である。耳鼻咽喉科医が耳内を診察し, 言語聴覚士が難聴と補聴器に関する啓発的講義, 聴力検査, 質問紙調査を行い, 平均聴力レベル30dB以上を対象に耳かけ型片耳装用3か月間の補聴器試聴を試みた。その結果, 36例58.1%に難聴 (軽度30例, 中等度6例) を認め, うち22例を試聴対象としたが8例が辞退した。試聴群14例中5例が補聴器の新規購入または自機調整により装用継続となった。今回の結果から, 支援を受けずに潜在する高齢期難聴への介入の可能性と有効性が示された。また試聴の諾否, 試聴後の装用継続に関与する要素として, 難聴重症度に加え, 障害認識, 経済的条件, 遂行能力, 日常生活の様相, 家族との関係性, 装用を忌避する心理が示唆された。

  • 亀井 昌代, 佐藤 宏昭, 上澤 梨紗, 米本 清, 小田島 葉子
    2020 年63 巻4 号 p. 272-278
    発行日: 2020/08/30
    公開日: 2020/09/09
    ジャーナル フリー

    要旨: 補聴器装用者は, グループワークや会議などの発話者が多数の場合には補聴援助システムを使用しても聞取りにくいことが多い。我々は少人数グループワークなどで, 補聴器, 補聴援助システムを使用した場合の客観評価と主観評価を行い検討した。

     補聴援助システムはヒアリングループシステム, FM 補聴システム, デジタル補聴援助システム (以下 Roger) とし, 健聴者を対象に客観評価として雑音下の語音明瞭度と単語了解度を, 主観評価として会話文の印象評価を施行した。その結果, 雑音下語音明瞭度は, Roger は補聴器単独, ヒアリングループ, FM に比較し, 有意に語音明瞭度が良好であった。さらに, Roger は同時発話条件下の単語了解度も有意に良好であった。印象評価は補聴器単独と FM が「好き」,「自然」の項目でヒアリングループに比較し有意に評価が高かったが, Roger との間に有意差はみられなかった。客観評価と主観評価には相関はみられなかったが, 雑音下や同時発話時での語音明瞭度は Roger が有意に高く, 全体的な聞取りが良好であることがわかった。

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