要旨: 日本聴覚医学会難聴対策委員会では, 聴覚障害のリハビリテーションの現状を把握する目的に, 2022年時点での国内外における聴覚障害のリハビリテーションと, リハビリテーションの評価にどのような聴力検査を用いているかについてのレビューを行った。検討項目は人工内耳, 補聴器, 耳鳴のリハビリテーションと聴力検査の現状である。本稿では, これらの結果について報告する。
要旨: 乳幼児の聴力評価は条件詮索反応聴力検査などの心理学的手法と聴性脳幹反応や聴性定常反応 (ASSR) などの電気生理学的手法を組み合わせて総合的に評価するが, 新生児聴覚スクリーニング後の迅速な聴力評価には他覚的聴力検査の役割がさらに大きなものとなっている。理想的な他覚的聴力検査とは, 反応閾値が純音聴力閾値を正確に反映していること, 鎮静睡眠下で短時間に検査を完遂できることが重要であるが, これらを満たすために次世代型 ASSR が開発されている。次世代型 ASSR で用いられる刺激音 chirp は, 蝸牛に音が伝搬する際の高周波数成分と低周波数成分の時間差を補完するために, 低周波数成分を早く, 高周波数成分を遅らせて刺激することでコルチ全体の反応を同期させ,より大きな反応を得ようと工夫された音である。また, 次世代型 ASSR では反応の解析方法にも新たな技術が採用されており, 従来型 ASSR に比較して大幅な検査時間の短縮が期待できる。
要旨: 聴性誘発反応 (evoked response auditory: ERA) を用いた聴力評価は, 小児から成人まで年齢に関係なく検査が可能である。日常臨床においては主に聴性定常反応 (auditory steady-state response: ASSR) と聴性脳幹反応 (auditory brainstem response: ABR) を用いて, 遊戯聴力検査や純音聴力検査といった心理学的検査では評価が困難な乳幼児や機能性難聴の聴力評価に用いられている。ASSR は 500Hz や 1000Hz といったクリック音刺激による聴性脳幹反応では評価困難であった周波数帯域の聴力の推定も可能であることから有用性が高い検査である。近年市販化された周波数掃引音の一つである chirp 音刺激による ASSR は次世代型 ASSR と呼ばれており, その有用性に関する報告が散見されている。本稿では実際に次世代型 ASSR を用いて検査を行っている言語聴覚士の立場から条件設定, 検査の注意点, 聴力レベルの推定などといった日常臨床に関する手技やコツについて概説する。
要旨: 聴覚情報処理障害 (APD) は, 聴力や語音聴取能には異常が認められないため, きこえの困難を訴える者のきこえの臨床像を客観的に裏付けるためには, 聴覚情報処理機能の評価が必要である。そのために, 今回 iPad 用アプリを開発した。聴覚情報処理機能課題を聴力に問題のない成人15名に対して実施した結果からカットオフ値を設定し, 聞こえに困難が生じている成人5名 (男性2名, 女性3名) の聴覚情報処理機能を評価した。本アプリにおいて両耳分離聴課題, 雑音下聴取課題, 時間情報処理課題, 時間長及び音の高低判断課題の全課題において成績低下が確認できたが, 対象者により課題の成績の差が明らかになった。
要旨: 我々はカテゴリー知覚により効率よく語音を聴取している。カテゴリー知覚には有声開始時間 (Voice onset time: VOT) の識別が重要である。本研究では, 純音聴力が正常もしくは年齢相当の後期中年者・高齢者18名 (平均: 73.3歳 年齢範囲: 63~77歳) にカテゴリー知覚課題を実施した。自然音声/pa/の無声閉鎖子音部/p/のVOT長を変化させ, /pa/から/ba/へ聴取が切り替わる識別閾を求めた。若年者15名と範疇化可能例の人数割合および識別閾を比較した。また各要因 (年齢, 良聴耳平均聴力レベル, 最高語音明瞭度, Hearing In Noise Test での文聴取閾値) と範疇化成績の関係を検討した。範疇化成績は若年者に比し不良だが, 可能例の識別閾は若年者と有意差を認めなかった。良聴耳平均聴力レベルと文聴取閾値は範疇化成績により有意差を認めたが, 聴力正常例10名中にも範疇化不良例が存在した。範疇化成績から語音聴取能を捉えることで, 加齢に伴う聞こえにくさを理解するための一助となると考えた。