AUDIOLOGY JAPAN
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54 巻, 2 号
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総説
  • 小川 郁
    2011 年 54 巻 2 号 p. 113-117
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/19
    ジャーナル フリー
    耳鳴の発生機序がまったく推測の域を出ていないことや耳鳴の他覚的検査法が確立されていないことなどから, 耳鳴診療に関してはいまだ大きな課題が残されている。本稿では最近普及してきた耳鳴に対する新しい治療戦略であるtinnitus retraining therapy (TRT) と, その中心的役割を担っている音響療法について概説した。サウンド・ジェネレータを用いた音響療法を施行した症例では約80%が苦痛度の軽減を自覚している。しかし, TRT単独では満足できる効果が得られない場合も多く, うつや不安傾向が強い場合は精神神経科と協力して適切な抗うつ薬, 抗不安薬を併用し, ストレスに対する否定的評価傾向が強い場合には認知行動療法を, 緊張や疲労感, 不眠が強い場合は自律訓練法などのリラクゼーション法を併用すべきである。今後, 音響療法をより普及させる必要があるとともに, 最終的には耳鳴に対する耳鳴治療薬の開発が期待される。耳鳴診療の高いハードルを越えることは我々のこれからの重要な責務であり, 耳鳴患者のドクターショッピングをなくすためにもこの領域の研究が一層進歩することを期待したい。
第55回日本聴覚医学会主題演題特集号
「補聴器適合検査」 「突発性難聴」
  • 吉田 悠加, 西村 忠己, 福田 芙美, 齋藤 修, 細井 裕司
    2011 年 54 巻 2 号 p. 118-122
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/19
    ジャーナル フリー
    補聴器特性図の周波数レスポンスから簡易的に利得を算出する方法が「補聴器適合検査の指針 (2008)」1) に示されている。この方法がファンクショナルゲインとどの程度一致しているかを比較するため, 難聴者52名 (男23名, 女29名) の補聴外来受診患者を対象に, 指針1) に従い250, 500, 1000, 2000, 4000Hzの5周波数について検討した。各周波数とも利得算出方法間で有意な相関があった。250, 500, 1000Hzでは利得算出方法間で有意差はみられなかったが, 2000, 4000Hzでは有意差がみられた。両利得算出方法の平均値で最も差がみられたのは2000Hzでファンクショナルゲインの方が7.6dB大きかった。純音聴力検査, ファンクショナルゲインからの誤差を考えるとこれらの結果は許容範囲内であり, 補聴器適合を判定する際補聴器特性図から利得を算出する方法を用いても問題はないと考えられた。
  • 富澤 晃文, 坂田 英明
    2011 年 54 巻 2 号 p. 123-129
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/19
    ジャーナル フリー
    インサートイヤホンにより得られた聴力検査値を音圧レベルへ換算する手順について, 補聴器適合の観点から論じた。2cm3 SPL, 外耳道内SPLへのデシベル尺度間の換算に用いるCDD (カプラ-ダイヤル差), RECD (実耳-カプラ差) の和がREDD (実耳-ダイヤル差) と一致するか, 2種のイヤモールド条件下で実測して妥当性を検証した。3A, 5Aのインサートイヤホンの特性差, HA-1, HA-2の2cm3 カプラの特性差, さらにプローブチューブマイクロホンを使用してRECDとREDDが測定された。4000Hz以下の周波数域において, 両インサートイヤホン間, 両カプラ間には5dBほどの差がみられ, CDDに影響すると考えられた。CDD+RECDの和は, 両イヤモールド条件下ともREDDと3dB以内の僅差で一致しており, 適正なCDDと各耳のRECDの測定により, SPLへの閾値変換が可能であることが示された。
  • 田中 良和, 白石 君男
    2011 年 54 巻 2 号 p. 130-137
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/19
    ジャーナル フリー
    補聴器適合検査における環境騒音の音源選定のために, 等価騒音レベル55dB, 65dB, 75dBの強さのレベルをもつ38種類の雑音と環境騒音をSD法 (Semantic Differential Method) による聴覚印象によって分類した。健聴者12名に対する音源の聴覚印象を因子分析した結果, 「迫力因子」, 「美的因子」, 「金属性因子」の音色の3因子が抽出された。ほぼ全ての音源に対して強さのレベルが増加するにつれて, 迫力因子のスコアは増加した。美的因子, 金属性因子のスコアは強さのレベルによって変化しなかった。さらに65dBの強さにおける雑音と環境音のクラスター分析を音源の因子スコアから行った結果, 補聴器フィッティングで一般的に用いられる雑音と環境音を聴覚印象によって分類できた。この分類は, 聴覚障害者が訴える環境音をすべて用いなくても, 同じクラスターのグループにある別の環境音を代用することができるため, 補聴器フィッティングに有用であると考えられる。
  • 白石 君男, 田中 良和
    2011 年 54 巻 2 号 p. 138-146
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/19
    ジャーナル フリー
    「補聴器適合検査の指針 (2008)」では, 必須検査項目に「環境騒音の許容を指標とした適合評価」が盛り込まれた。この検査の基礎的資料を得る目的で, 朗読音を快適レベルで呈示したときに, 8種類の環境騒音の許容できるレベルと許容できないレベルを, 健聴者10名を対象に検討した。その結果, 環境騒音の許容レベルは音源間で有意差が認められ, それらの値は4回繰り返し測定しても有意に変化しなかった。朗読音があるときに環境騒音を許容できないレベルと朗読音がないときの環境騒音の不快レベルを比較した。環境騒音に対する不快レベルは, 朗読音があるときの許容できないレベルより約20dB大きかった。3種類の環境騒音の不快レベルは, 繰り返し測定すると有意に大きくなって慣れの現象が観察された。これは, 朗読音があるときの許容できないレベルと朗読音がないときの不快レベルは, 異なる指標であることを示唆している。
  • 齋藤 修, 西村 忠己, 吉田 悠加, 福田 芙美, 柳井 修一, 細井 裕司
    2011 年 54 巻 2 号 p. 147-152
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/19
    ジャーナル フリー
    雑音負荷時の語音明瞭度検査の測定が, 補聴器適合検査の指針 (2008) で提案されている。今回, 雑音負荷が補聴器非装用・装用時の難聴者の言葉の聞き取りにどの程度影響があり, 指針が妥当であるか検討した。対象は16名の難聴者で, 検査音は57-S語表を用い65dBSPLと最も高い明瞭度が得られる音圧 (dB max) で, 雑音はスピーチノイズを用いS/N比が+10dBとなるように呈示し, 補聴器非装用・装用時の雑音非負荷時と雑音負荷時の語音明瞭度を比較した。結果, 難聴者は補聴器非装用・装用時に関わらず, 雑音負荷によって明瞭度が低下した。低下の程度に個人差が認められ, 補聴器適合状態に問題のないと思われる症例でも65dBSPLで12~22%の低下を認めた。dB maxでは非装用・装用時で明瞭度の低下に差を認めなかった。今後, 雑音負荷時の語音明瞭度の測定にはさらなる検討が必要である。
  • 亀井 昌代, 佐藤 宏昭, 米本 清, 小田島 葉子, 村井 和夫
    2011 年 54 巻 2 号 p. 153-161
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/19
    ジャーナル フリー
    補聴器適合の評価方法には, 客観評価と主観評価がある。今回我々は, 生活環境音が補聴器を介することにより主観評価がどう変化するのかを, 5社の高機能デジタル補聴器と機能が搭載されていない補聴器の計10機種を対象とし検討した。その結果, 雑音下語音明瞭度は, 高機能補聴器の指向性処理機能, 雑音抑制処理機能共にonの設定で最も高値であった。雑音下語音明瞭度と環境音の印象評価項目の評価値との間には相関は見られなかったことから, 補聴器適合検査は語音明瞭度などの客観的評価と自覚的評価は別々に評価することが必要である。4種類の環境音についての評価は, 周波数特性や雑音の特性によりそれぞれ異なる傾向の評価となった。従って, 環境音による評価は, 評価項目の傾向が異なる複数の検査音で行う必要があると考えられた。
  • 松平 登志正, 原 由紀, 鈴木 恵子, 上前 牧, 大沼 幸恵, 井上 理絵, 大橋 健太郎, 渡辺 裕之, 佐野 肇, 岡本 牧人
    2011 年 54 巻 2 号 p. 162-168
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/19
    ジャーナル フリー
    語音明瞭度検査による補聴器の適合判定の目安を得ることを目的として, 補聴器外来で実施した589例の検査結果について, 音場における65dBSPL (会話レベル) の語音明瞭度の補聴による改善と, これに関与する被検者と補聴器の要因について調査した。また, 望ましい補聴器装用状態では語音了解度指数と語音明瞭度の関係が裸耳と補聴時で変わらないと仮定して語音明瞭度改善の目標値を求め, 実際の症例の検査結果と比較した。
    会話レベルの語音明瞭度は, 平均聴力レベルが65dB付近の症例で最も改善量が大きく, 平均聴力レベルが40~90dBであった症例の語音明瞭度は平均31.7%改善した。重回帰分析の結果, 裸耳の語音了解度指数, 裸耳の最高語音明瞭度, 補聴による語音了解度指数の増加量を説明変数としたときに, 語音明瞭度の改善量との重相関係数が最大となった。裸耳に比べて補聴器装用時に最高語音明瞭度の低下が認められなかった症例では, 会話レベルの語音明瞭度の改善の平均は目標値と等しかったのに対して, 補聴時に最高語音明瞭度が低下した症例では, 目標値に届かない場合が多かった。
  • 佐野 肇, 渡辺 裕之, 小野 雄一, 猪 健志, 大橋 健太郎, 岡本 牧人
    2011 年 54 巻 2 号 p. 169-175
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/19
    ジャーナル フリー
    1994年より2009年末までに当科で治療を行った突発性難聴症例で, 初診時聴力のgradeが2, 3, 4であった578例 (男性287例, 女性291例) について, 行われた治療法, 最終治療成績, 治療法の違いによる治療成績への影響, について検討した。
    各群に行われていた治療内容では, 入院治療の割合はgrade2, 3, 4の順に68%, 89%, 95%と高くなり, 高気圧酸素療法 (HBO) 施行の割合は同様に24%, 35%, 63%と高くなっていた。
    各gradeにおける固定時聴力の分布は, grade2と3ではピークは10~20dB台にあって右側にやや広い分布 (grade3でより広い) になっていた。それに対してgrade4では60dB台にピークを持つ正規分布型を呈しており, grade2, 3とは明らかに異なる分布を示した。
    grade2において外来治療と入院治療, grade3, 4群の入院治療例においてHBO併用の有無が治療成績に与える影響を多重ロジスティック回帰分析により検討したが, いずれの群においても二つの治療法の違いは成績に影響していなかった。
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