要旨 : 従来原因不明であった難聴が遺伝子解析技術の進歩により原因遺伝子ごとにサブタイプ分類できるようになってきた。また人工内耳の発達によって耳鼻咽喉科医は難聴患者に新しい治療の選択肢を呈示できるようになった。筆者らは「難聴の遺伝学的検査」および「人工内耳医療」の研究を通じて得られた科学的エビデンスに基づいた難聴の個別化医療の実現を目指してきた。本総説では基礎的研究の成果をいかに臨床にフィードバックし, 社会実装してきたかについて紹介する。
要旨 : われわれの病院がある北海道は, 日本国土の約4分の1という広大な面積を有し, 専門医療機関へのアクセスが恒常的な問題となっている。
このような北海道における先天性難聴児に対する人工内耳手術例について, 当院の初診時の年齢, 人工内耳手術時の年齢, 初診から人工内耳手術までの期間について, 地域差を検討した。対象は2014年4月1日から2021年12月31日までに札幌医科大学附属病院耳鼻咽喉科にて人工内耳手術を施行した52例とした。遠方地方では初診のタイミングが有意に遅くなってしまうため, 手術までの準備期間が短くなってしまう結果であった。また保護者のアンケート調査からは身体的・精神的な負担もより強いことが考えられた。
難聴の早期診断・治療介入の必要性の啓発や遠隔相談や遠方地方への診療応援の強化などを行い, 現状は少しずつ改善されつつあるが, 今回の結果を改めて理解し, 北海道の地域差を是正すべく, 保護者の不安や負担の軽減を目指し, さらに努めていかなければならない。
要旨 : 本研究は, 高音急墜型聴覚障害児2事例を対象として音声コミュニケーション指導を行い, 本指導の方法を詳細に示すとともに, 指導によってもたらす有用性について検討した。実験方法は, 指導前後の状況について半構造化面接を行い, 当事者視点で検討した。結果, 指導前では, コミュニケーションに自信を持てず, 対処方法が分からずにいたが, 指導をとおして【聞き返し】,【確認】などコミュニケーションスキルが会話で取り入れるようになった。また, 相手とことばを交わしながらコミュニケーションが可能となることで充足感を持てるようになった。本指導は, 自らの障害を認識し, 自分に何が必要であるかということを考えるきっかけとなった。また, 本指導によってコミュニケーションスキルの活用は,聞こえにくさを補う環境調整にもなりうることを示唆した。
要旨 : 両側先天性外耳道閉鎖症人工中耳・骨導インプラント併用2症例における主観的評価の比較検討を施行した。質問紙評価は Hearing Implant Sound Quality Index (HISQUI19), Judgements of Sound Quality (JSQ) test を使用し, 聴覚評価は, 単音節による雑音下語音弁別検査, および方向感検査を用いた。質問紙評価は2例とも人工中耳 Vibrant Soundbridge (VSB) 装用時, 骨導インプラント装用時の良好であったが, デバイス間の明らかな差は認められなかった。また, 聴覚評価は2症例とも両耳装用にて雑音下語音検査・方向感検査の改善がみられ, 異なるデバイスであっても両耳聴効果が得られることが示唆された。症例2は聴覚評価で使用した方向感検査において人工中耳 VSB が良好な結果が示されたが, 経時的な観察が必要と考えられた。