日本では, すでに20棟を超えるパッシブ型の制振 (いわゆる免震) 建築物が建設され, また, 大臣認定を得るために日本建築センターに評定依頼のあったものは, 現在までに30数件に及んでいる。また, アクティブ型の制振 (いわゆる制振) 建築物についても, ようやく模型実験の域を出て実物に応用されるようになってきたが, 大地震時の制御を意図する制震までには至っていない。もちろん, 免震・制振いずれの構法も, まだ完成されたものではない。たとえば, 免震建物では入力地震動, ことに大規模地震時の地盤の揺れの特性が必ずしも把握されておらず, ことに軟弱地盤でのゆっくりした地盤の揺れが現在のタイプの免震建物にとって不利であろうと考えられていることや, 上下動方向に対しては, 通常, 減振効果がなく, むしろ増幅傾向にすらある点が問題である。またアクティブな制振建物では, 設計時における入力地震動予測の重要性は緩和されるという利点をもつものの, 建設や維持・管理の費用が莫大となり, 強い地震動を対象とする制震構造は現在のところ経済的に成立せず, また実際の機構の性能も, 制振の完全実現には作動の時間的な遅れなどの重大な不安を残しているのが現状である。しかし, 建物全体ではなく, その一部分のみを対象とするアクティブ制振は, もし大地震時にもエネルギー供給が可能であるならば, 次第に実現されてゆくであろう。免震・制振いずれの構法も, 今後, 改良が重ねられ, また地震工学一般の発展にともない, 震源や波動伝達の機構も今よりも明らかになり, 地震動の推定精度も上がり, また, 確率的な取扱いをする振動理論 (いわゆるランダム振動理論) も実用化され, 構法の設計においても的を絞りやすくなるものと期待されている。石造, コンクリート造のような重い構造物は, 一般的に言って地震に対して不利である。免震・制振構法は, 将来, このように地震に対し不利な構造物を耐震上安全なものとするために利用されてゆくとともに, そこで蓄積された技術は, 安全ではあるが人に地震時中に恐怖感を与えるような建物に対しても, “揺れの質を良くするため” に応用されてゆくものと思われる。すでに, 耐震上は安全な木造建築への応用例も見られる。また, 建物, 鉄塔, 橋のような建築・土木系の構造物以外にも, たとえば重要機器類の制振等, その利用範囲が拡大されてゆくであろう。ただし, 制御が高精度で高価なものになるほど建設系技術者の手を離れ, たとえば兵器産業からの技術の移転というかたちで発展してゆく可能性も強い。このときには, 建築家は, ハード面での技術の開発者ではなく, 開発された性能を熟知してそれを利用するというシステム・エンジニアとして, ソフト面での技術を生かした本来のかたちに戻ることになろう。同じことは, 免震・制振建築についても言える。すなわち, 開発された技術は性能として表示され公開されて, 非開発者でも利用できる一般的な構法となろう。すでに, その準備は建築センター等においてなされつつある。
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